【完結】俺が聖女⁈いや、ねえわ!全力回避!(ゲイルの話)  ※番外編不定期更新

をち。「もう我慢なんて」書籍発売中

文字の大きさ
110 / 111
追加エピソード

ゲイルのハンカチ

しおりを挟む
結婚直前の話です

ゲイルのお話にお付き合い頂きありがとうございました!
みなさま、良いお年を!

来年もよろしくおねがいいたしまするー!


※※※※※※※※



兄貴んとこに打ち合わせに行きながら、ふと気になった。
そういや、俺の紋章はグリフィス家のとグランディールのとどっちを使えばいいんだ?


「なあ、兄貴。ハンカチってイニシャルだけの方がいいのか?俺のとフィオのをまた注文すっから、兄貴も欲しけりゃ一緒に頼んでやるぜ?」

「は?イニシャルってなんのことだ?」

「いや、ほら、ハンカチの刺繍だよ。これまではご令嬢とかがくれたんだけどな。婚約したら急にくれなくなったから作ろうかと思うんだが」

「……まさか、ハンカチの意味を知らんのか ?」

「は?貴族は平民と違ってネームや家紋いれるんだろ?俺だって分かってるよ。だからわざわざ注文すんだろうが」

言ったとたん兄貴は頭を抱え、義姉さんは呆れたように口を開けた。

「いや、確かにお前に教えた覚えがないが……普通は気付くだろう⁈」

「あなた、ゲイルなのよ?この子、周りからの好意が当たり前すぎて気づかなかったんだわ。まあ、なんてこと!
フィオくんに可哀想なことをしてしまったわ!」

「は?なんでハンカチとフィオが関係あるんだよ?フィオだってハンカチくらいちゃんと持ってるぞ?イニシャルと家紋入りのやつ」

兄貴がため息をつきながら言った。

「そのハンカチはどこから手に入れたんだ?」

「普通にアドルフが注文してたぜ?」

またため息。 

「だから何なんだよ⁈」


姉さんが可哀想な子を見るかのような視線を俺に寄越した。

「あのね、ゲイル。ハンカチはね、婚約者がいる場合は婚約者が、身内がいれば身内の女性が、お相手のイニシャルと家紋やなにかの刺繍を刺繍して贈るものなの。
貴族の男性は持っているハンカチの刺繍によって、婚約者や身内の女性の家政の腕やセンスの良さ、愛情などを周りの人に示すのよ。
ちなみに、まだ婚約者のいないご令嬢は、好意を持つ人にその人のイニシャルなどを刺繍したハンカチを渡すの。婚約者がいる人に渡すのは無礼になるから、みなハンカチをあなたに渡さなくなったのよ」

「…………は?何でわざわざ自分で刺繍するんだ?店に頼めばいいだろ?」

「それが女性の戦い方なのよ。あなた、貴族の女性がわざわざ刺繍を習うのはなんのためだと思っているの?」

「趣味じゃねえの?俺が絵を描くみたいに」

「違うわよ。それも高位貴族女性の仕事のひとつなの。刺繍をしたものをバザーなどに寄付したりもするでしょう?
高位貴族の女性が手ずから刺繍するから価値があるのよ」

兄貴が憐れむように俺を見た。

「お前は男だからわざわざ教える必要はないと思っていたのだ。しかし、女性から渡されていたのならば、普通は気づくだろう⁈なんだと思っていたのだ?」

「いや、差し入れかなと…。クッキーやら酒やら花やら貰うだろ?それと同じかと……」

「「はあ…」」

ため息の二重層だ。

ん?てことは、だ。

「もしかしてフィオのハンカチ、俺が刺繍してやるべきだったりすんのか?」

こくり。

「は?買ったんじゃダメなのか?」

こくり。

「フィオくんもゲイルに刺繍ができるとは思っていないだろうし。自ら要求もしないだろうが」

「健気だわ…フィオくん…。でも欲しくないわけではないと思うわよ?」

「男にとって伴侶のくれたハンカチは特別なものだからな。離れている時も心は共にある、という意味もあるのだし」

いや、兄貴の口からそんな言葉がでるとは!
…そんくらい重要なもんだってことか……。 

「……義姉さん。頼みがある」 

「いいわよ」

「え?何か聞かねえの?」

「刺繍でしょ?フィオくんのためだもの!頑張るわよ!」

「うむ。フィオくんに可哀想なことをしてしまった。
女性の身内もなかったというのに、さぞかし寂しい思いをしてきたに違いない。
うちのことはいいから。ゲイルに刺繍を叩き込んでやってくれ!」

こうして俺は義姉さんのスパルタ刺繍教室に通うことになったたのだった。







「ゲイル、今日もサフィールですか?」

「ああ、すまん。忙しくてな」

「私も行きます」

「い、いや!フィオはいいから!俺だけでいいそうだ!
フィオはフィオでやることがあるだろ?俺のことは心配せず仕事してくれ!」

「……そうですか?…では。
何かあれば言ってくださいね?」

ああ。フィオに垂れた耳と尻尾の幻影が見える。
すまん、フィオ。お前の為なんだ!
俺は挫けそうになる心に鞭をふるってフィオを置いてサフィールに通った。



刺繍はなかなかに難問だ。
絵を描くのと違い、図案通りに刺しているはずが上手いこと形にならない。線の上に針を入れているのに、完成すればガタガタのでこぼこ。
こんなものをフィオに使わせるわけにはいかない!フィオには最高のものを渡してやりたいからな!
俺は手に針を刺しヒールを駆使しながら毎日頑張った。



一方、フィオは徐々に萎れていく。

「……私も行ってはダメなのでしょうか?」

寂しそうに言われればつい抱きしめて「いいよ」と言ってやりたくなる。
しかし、今バレては本末転倒。あと少しの辛抱だ、と俺は涙を飲んで「ノー」を言い続けた。



そして2週間後。
ついに満足のいくものができた!

「フィオ。一緒に兄貴んとこ行こうぜ!」

「!!良いのですか?」





フィオがハンカチを握りしめて大泣きするまであと少し。
そしてフィオにハンカチを見せびらかされたハルトが「私も欲しい!」と叫びメアリーから口をきいてもらえなくなったと泣きが入るまであと数日。




俺がやった最初のハンカチは、新しいものを何枚もやった今でも大切にフィオの宝箱にしまわれている。

しおりを挟む
感想 107

あなたにおすすめの小説

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます

水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。 家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。 絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。 「大丈夫だ。俺がいる」 彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。 これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。 無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

処理中です...