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杖と貴族
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しおりを挟む彼女の話によれば、盗賊のアジトを見つけ中に乗り込んだ時にはもう行商人は死んでいたという。
「隠密スキルには自信があったから忍び込んだんだけど、途中でやたらと索敵スキルの高い敵がいてさ。バレちゃったせいかな」
という説明を聞いて、ユーサはシャインの言葉を思い出していた。
序盤のクエストにしては報酬が良すぎると言ったリサに対してシャインは何かのフラグを立てた可能性を示唆していた。
そのフラグの分岐点がアレンの話では明確になりそうだった。
「クエストはどうなったんだ?」
ユーザが尋ねるとアレンは
「それは無事にクリアしたよ」
と答えた。
盗賊のアジトの中には魔法道具があり、それをレストの元に持っていくとクエストはクリアになったという。
「報酬はただのお金。君が言ったようなアイテムは貰えなかったよ」
とアレンが残念そうに言った。
ユーサたちのように魔法道具が壊れていたなんてことはなく、その後のお使いも発生しなかった。
やはり、盗賊のアジト内で行商人のビスタが死ぬか死なないかがクエストの分かれ道らしい。
アジトを見つけ、わざわざ街に戻って衛兵に報告したシャインの行動が正しかったらしい。
偶然あの場に居合わせてよかったな
とユーサは思った。
シャインと出会わず、リサと二人でクエストを最初から始めていたら、そのままアジトに攻め込む自分たちの姿が簡単に想像できた。
「このクエストにも、そういう正解の道があるかもな」
後ろに座ったレイトには聞こえぬようにユーサはアレンに耳打ちした。
全てのサイドクエストで破格の報酬が得られるルートがある、とは考えていないが分岐の多いクエストには注意が必要そうだ。
たった今進行中の「高貴な見習い魔法使い」にも分岐はありそうだ。
考えられる一番のバッドエンドは「レイトの死」。
護衛対象の死は、そのままクエスト失敗になると思っていたが報酬が変わる可能性もある。
アレンはレイトの言葉に静かに頷く。
三人を乗せた馬車がそのまましばらく進むと森の向こうに大きな遺跡が見えてくる。
廃村、いや人のいなくなった街のようだ。
「アストルで色々聞き込みをしていたら、『モンスターの被害で人が住めなくなった街がある』って聞いてここを見つけたんだ」
街の手前に馬車を停めてアレンが言う。
彼女の調べでは大昔にここにすごい才能を持った魔法使いがいたらしい。
「モンスターの被害もその魔法使いの研究が失敗したことが原因らしいよ。それ以来ここはモンスターの巣窟になっているってさ」
森の木に身を隠しながら街の様子を伺う。
確かに、既に何体かのモンスターが視認できた。
建物の内部や物陰にも潜んでいると考えるとその数はこれまでで一番多そうだ。
「その魔法使いの研究所が怪しいな」
ユーサが言うとアレンが頷く。
目的はレイトが新しい魔法を覚えるための杖か魔導書だ。
すごい魔法使いが住んでいた家や研究所なら物が残っていても不思議ではない。
「朗報か悲報か、モンスターに占領されてからここへ来て生きて帰った人はいないらしいよ」
といかにもなセリフをアレンが言う。
それが「ゲームとしての設定」なのか「本当にクリアした者がいない」のかはわからない。
だが、確かに朗報でもあり悲報でもある。
生きて帰った者がいないのなら、街の中にある金品やアイテムなんかは手付かずだろう。
それだけ強いモンスターが出現する可能性はあるが、期待値は上がる。
「よし、行くぞ」
ユーサはそう言って足を進めようとした。
その肩に手を置いて静止したのはレイトだった。
振り返ると、彼は青白い顔でこちらを見つめていた。
ユーサの肩を掴んだ彼の手が震えている。
先程までの気高い態度はすっかりと消え失せ、彼はすがるような目つきで首を横に振った。
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