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忍び寄る影編
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しおりを挟む見つけた洞窟が謎の人物によって作られた物だったこと。それから、その人物は日記を残していて、そこにあったマークがルイズの持っている本と同じだったこと。
それに加えて、そのルイズの本はこの精神世界にあるレオンが読んでいた本にそっくりであることをレオンはなるべく順序立てて、わかりやすくなるように気をつけながらエレノアに話した。
エレノアは時折興味深そうに頷いたり、不思議に思って怪訝そうな顔をしたりしながらレオンの話を聞いている。
「……ということなんだけど、何か知っていることないかな?」
話の終わりにレオンはそう付け加える。
その言葉を受けて、エレノアは椅子に座りながら足を組み、それから顎に手を当ててやや俯いた姿勢をとる。
それはこの精神世界にレオンが自由に入れるようになって……それから、時折こうしてエレノアを話をするようになってからよく見る光景であった。
エレノアは何か考え事をするときに必ずと言っていいほどこの姿勢になる。
そして、この姿勢になってからは彼が次に言葉を話し始めるまでレオンが何を問いかけてもまるで聞こえていないのである。
いつもと同じように、エレノアが話し始めるのをレオンは部屋の壁に寄りかかりながら待った。
その右手にはいつのまにかハーブティーのカップまで持っている。
精神世界というだけあって、この屋敷の中ではレオンの思う物はなんでも実現可能だった。
それには、「なるべくレオンの身の回りの物で、再現するために十分に知り尽くしている物」という条件が加わるが、ハーブティーを出してみせるくらいはお手のものである。
実際に喉の渇きが潤わされるわけではないが、長い時間を過ごすときに気を紛らわせることくらいはできる。
どれだけ飲んでもお腹が満たされないのをいいことに、レオンが五杯目のハーブティーを飲み終えて六杯目に口をつけようとした頃にエレノアは口を開いた。
「まず、君が子供の頃に読んでいたあの本のことから話そうか」
いつのまにかエレノアの手にもハーブティーが出現していて、二人の姿だけ見ればまるで優雅にお茶会を楽しんでいるようである。
レオンが子供時代に夢の中で読んでいた赤い本。
それは、エレノアが書いた物である。
エレノアがまだ若かった頃。
まだ、魔界が滅ぶなんてことも知らずに親友でありライバルでもあったア・ドルマと共に切磋琢磨していた若い頃に自分の復習のつもりでまとめた物だ。
「その頃の僕は今よりも少しだけ恐れ知らずでね。興味があるのはもっぱら魔法のことだけで、魔法を極められるならどんな危険にも飛び込んでいたんだ」
エレノアのその話にレオンは少し恥ずかしそうに下を向いた。
なんとなく、自分のことを言われたような気がしたからだ。
今よりも恐れ知らずで、レオンと同じく魔法に夢中になっていたエレノアはある日とある発見をする。
それは、自分が使う陰の魔力とは別の陽の魔力の存在だった。
魔力には種類が二つある。
そのことに気づいたエレノアが「陽の魔法を使ってみたい」と考えるのにそう長く時間はかからなかった。
しかし、その夢は叶わなかった。
陰の魔力に満たされた魔界では陽の魔法など使えるはずもなかったのだ。
エレノアは諦めなかった。
陽の魔法を使えないとしても、なんとかその魔法をこの目で見たいと考えるようになった。
かつて、神が溢れ出た魔力を分割し世界を三つに分けたという話をエレノアは知っていた。
問題は陰の魔法を使うには陰の魔力がある魔界。陽の魔法を使うには陽の魔力がある人間界でなければならないという点だった。
唯一、精霊界だけは陰と陽の魔力が両立する世界であったが、どちらにせよ各世界を渡るためには数多くの障害を乗り越える必要があり、それはエレノア一人には到底無理なことであった。
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