黒い青春

樫野 珠代

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本編

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3人の関係は壊れていった。


最初のきっかけを作ったのは大地。


そこに大きな溝を作ったのは私。


そして被害を受けたのは......空。








「ごめん。」
その空の声で頭が覚醒した。
「謝ん・・・ないでよ。じゃあ・・・じゃあ何?大地は、嘘をついてたの?誰もいないって、皆出かけてるって言ってたあの言葉は嘘?しかも何?弟の存在を知ってたのに私を呼んでたわけ?それで・・・それで・・・。」
空はバツが悪そうに顔を歪ませ、そして弱々しく頷いた。
ひどい・・・ひどすぎる。
まさか人に聞かれてたなんて。
しかもよく知ってる人間に。
あまりの衝撃に全身の力が抜け、床にぺたんと座りこんだ。
きっと顔は赤くなっていたと思う。
それは恥かしさと怒りから。
「ごめん。でも僕っ!」
「言い訳なんて聞きたくない!どうせ僕は何も知らなかったとか、どうしていいかわからなかったとか言うんでしょっ?!そんなの、言い訳以外の何物でもないわよ!」
「みー・・・。」
「馬鹿にするにもほどがあるわ、兄弟揃って。最低!」
悔しかった。
でも結局自分が一番情けなくて、悲しくなった。
枯れていたはずの涙がまた溢れてきて、でもそれを空に見られたくなくて立ち上がった。

今すぐこんなところから出ていきたい。

その気持ちが私を動かした。
空の部屋を出ようと身を翻しドアノブを手にして引こうとしたが空の手が再び伸びてきてそれを阻止された。
「待ってよ、みー。僕、こんな事を言う為に、みーをここに連れてきたんじゃないんだよ。僕・・・・・・僕、みーが好きだ。」
背中越しの空の言葉にカーッと血が上った。
バシッ。
気が付いたら、空の頬を叩いていた。
「どこまで馬鹿にすれば気が済むの?私はあんた達のおもちゃじゃないっ!」
「違う!僕は本当にっ!」
「何が望み?本音を言いなさいよ!」
「だから僕はみーのことが・・・。」
「好きだって?大地も最初はそう言ってた。・・・そっか、空もそうなんだ。結局、女を抱いてみたいだけなのよね?」
「違う!僕は兄貴じゃない。」
首を振る空の身体をベッドへと突き飛ばし眼下に見下ろした。
心の中はどす黒い気持ちが膨れ上がる。


これは復讐。
大地への、そしてその弟への。
そうでもしないと私の心が壊れそう・・・


私は服を次々と脱ぎ、空を驚かせた。
「やめろ、みー。」
止めようとする空の言葉を無視して、私は下着姿になって空の身体の上に跨った。
「はっきり言いなさいよ、抱きたいって。」
「違う!僕はそんなんじゃなくて本当に・・・。」
「嘘の気持ちなんていらないの!そんな言葉を聞くくらいならはっきりと抱きたいだけって素直に言ってくれた方がマシよ!」
「や、やめ・・・っ。」
空が何も言えないようにキスで言葉を奪う。
最初は抵抗していた空も次第にその力が抜けていった。



やっぱり・・・
結局はこうなるんだ。
許せない。
大地も、空も。
二人して私を嘲け笑ってたんだ。



私は空の手を取ると自分の胸の膨らみに持ってきた。
「みー・・・。」
戸惑う空に、わざと優しく微笑む。
「空の好きにしていいよ。」
「だめだよ、みー・・・。」
「私、そんなに魅力ない?こんな状態でも抱いてもらえないの?」
「そ、そうじゃない。そうじゃなくて僕は・・・。」
わかってる。
たぶん空はこんなことしたことないんだよね。
でもそれが余計に苛立つのよ。
空のまっさらな身体がなんだか私を汚れたもののように感じさせるから。
大地が私を貶めたのなら、私が空を貶めてあげる。
堕ちてきて、空。
私と同じように。
「無理しないで。ほら、ここはもう我慢できないくらい大きくなってる。」
そう言って空の固く大きくなった欲望を服の上から触った。
「っ・・・みー・・・」
ビクンとそれは反応し、空も喉を鳴らした。
完全に抵抗することを忘れた空から視線をそらさずにズボンのファスナーを下ろし、トランクスの上部からゆっくりと手を差し入れた。
そして視線を下げ、手に触れた彼の熱い膨らみを外気に触れさせた。
それを軽く掴み、上下に動かす。
再び空を見上げると、
「みー・・・だ、だめ・・・。」
空は頼りなげな声で息を荒くしている。
「ごめんね、慣れてなくて。気持ち良くない?」
「そ、そんなことない。そうじゃなくっ・・・。」
空から視線を下げ、手の中で主張するものを見て、それをゆっくりと口に含んだ。
「みー、だめだって。汚いから!」
慌てる空を無視して、口の中で舌を動かし、頭も上下に動かす。
大地にはこんなこと自分からしたことなかった。
だけど悔しさや怒りが今の私を動かしている。


何でもしてやる。
ささやかな復讐のためなら・・・


すると、空は切羽詰まった声を上げた。
「みー・・・僕、もうっ。」
そう言って空は私をベッドに押し倒した。
空は私の唇を奪いながら、手を動かし始め、私も空に合わせて身体を動かした。
「みー!みー!」
うわ言のように何度も私を呼びながら私の身体を味わう空を私の心は冷めた目で見ていた。
それでも気付かれないように空を受け入れた。
私の中に入ってきた空はすでにギリギリの状態らったらしく入れて数分もしない内に欲望を吐き出した。



「想像してた通りだった?」
行為後すぐに、とても冷めた声で私は空を下から見上げた。
声だけじゃない。
表情も冷めていたと思う。
射精後で息を荒くしていた空が、ピタッと動きを止めた。
「みー・・・?」
「この部屋で聞いてたんでしょ?私達が抱き合ってる最中ずっと。そして想像したんでしょ?こういうこと。同じだった?それとも違った?」
私の言葉に空は顔を強張らせた。
「それに・・・想像だけじゃないわよね?聞きながら一人でシテたんでしょ?違う?」
「やめろ・・・。」
「生の声を聞きながらってどういう気持ち?やっぱり他のものよりも感じちゃうわけ?」
「やめろって。」
「今さら隠さなくていいじゃない。空の年齢なら普通のことでしょ?大地だってそういう事に無我夢中って感じだったし。」
「やめろって言ってるだろ!」
そう言って空はベッドから上半身を起こした。
それでも私は攻撃の手を休めない。
私も起き上がり、脱ぎ捨てた服を着ながら
「黙って聞いてたくらいだもの。よほど気に入ってたのね、私達の声。でも私達がしなくなって溜まってきたのよね。だから今日、こうして私を誘ったんだわ。」
「違う!そんなんじゃない!僕はこんなことよりみーの気持ちが・・・」
必死に訴える空の言葉を私は容赦なく遮った。
「空にはがっかりだわ。大地とセックスしてたって知ってて私を誘うくらいだからそれなりにセックスに自信があるんだと思ってたのに。はっきり言って大地の方が空よりマシ。だって大地はこんなに早くイったりしなかったもの。」
私の後ろでベッドがぎしりと少し軋んだ。
「それに、大地は気持ちがなくてもそれなりに私を感じさせてくれた。でも空、あんたは私を気持ち良くはしてくれなかった。男としてそれってどうなの?」
「っ・・・ご、ごめ・・・。」
言葉に詰まる空に一切視線を向けることなく服を着終わると、そのまま買い物した袋を掴み、ドアノブをまわした。
そして目の前のドアを見ながら、
「最後までなんにも1番になれなかったね、空。最後に幼馴染として言っとくわ。私を好きだって言ってたけど・・・・・・嘘はもっと上手につくものよ。」
「みー!」
「気安く呼ばないで。もう二度とあんたの顔も大地の顔も見たくないし、見るつもりもない。もう幼馴染なんていらない・・・・・さよなら、幼馴染の空くん。」
「待って、みー!」
空の呼ぶ声を閉じ込めるように部屋のドアを閉めて私はその場を立ち去った。
ドアが閉まる瞬間の空の苦しそうな表情を焼きつけて。





あれから10年。





私は大学を卒業して、社会に出た。
その間、実家にはほとんど帰らなかった。
怖かったから。
帰ったら二人に会いそうで。


大地はまだいい。
たぶん気にもしてないだろうから。
でも空は・・・・・・


今なら嫌でもわかる。
どれだけ大きな傷を空に負わせたか。

まだ15歳の男の子だった空。
“好き”という言葉を信じてもらえず。
本人の意思を無視して身体を重ねて。
そしてそれを大地と比べられて。
ひどく貶されて。


空は何も悪くなかった。
ただ私を心配してくれただけ。
そして弾みで自分の気持ちを伝えてしまっただけ。
ただそれだけ。


ごめん、って空はずっとそう言ってた。
でも本当に謝らないといけないのは私。
空、ごめんね。
謝って済む事じゃないけれど・・・

 




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