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1.たけのこと鶏肉の煮物
外見のイメージとはちがう
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ポテトサラダの材料はとてもシンプルで、じゃがいもと玉ねぎ、それからかつお節とじゃこ。じゃがいもはしっかりとつぶされてペースト状に近い。
新鮮でしゃっきりした水菜の上に、まるく形を整えられた和風ポテトサラダがこんもりと盛られていた。なめらかな舌触りと、さっぱりした玉ねぎの風味。
かつお節とじゃこのおかげで、立派な和食の副菜として成り立っている。
「こういうレシピってスタッフさんが考えてるんですか?」
ポテトサラダを豪快にもぐもぐしながら、イケメンスタッフに問う。
「……まぁ」
「へぇ~~! すごいですね。これ、すっごくおいしいですよ! 全部おいしいけど、この和風ポテトサラダは初めて食べました。よく思いつきますねーー!」
笑わないせいで表情筋はガチガチに固まってそうだけど、頭はやわらかいのかもしれない。若さゆえの柔軟さというか。
「……っす」
今度の「す」は、「ありがとうございま『す』」の「す」だろうな、と豚汁をすすりながら思った。
「んっ、この豚汁もおいしいーー!」
献立のメモに「具だくさん」と書いてあったけど、本当に盛りだくさんな豚汁だ。
薄切りの豚バラ肉、大根、にんじん、油揚げ、こんにゃく、ごぼう、ねぎ、しいたけ……。
贅沢すぎる。もうこれだけでおかずになりそうな勢いだ。それぞれの具材から旨味がしみだしている。それなのに雑多な味になっていない。出汁と味噌がじょうずに具材たちをくるんで、一杯の汁ものとして成立している。
「具材がたくさんなのもうれしいけど、汁そのものがおいしい! ごくごく永遠に飲める! ラーメン鉢でもらいたいくらいだな~~」
雪平鍋に入った豚汁のおかわりをしていると、ふと隣に立つ郡司の視線に気づいた。
「なに? ちゃんと自分でおかわりしてますよ。あ、それとも気が変わった? 西依さんみたいについでくれる感じ?」
「いや、そういうのはやらない。……すげぇ食うなって思って」
洗い物を終えたらしい郡司は、タオルで手を拭きながらこちらを凝視している。相変わらず無表情だけど、よく見るとほんのわずかだけ感情をうかがい知ることが出来た。
どうやら驚いているらしい。きっと私の食べっぷりに敗北感を感じているのだろう。ふふん。
「いつもこれくらい食べるのよ。ごはんは少なくても二回はおかわりするし、そうすると汁物も同じくらい必要になるし」
「……ふうん」
郡司が、私のほうをちらりと見る。彼の言いたいことは分かる。私の体型と食べっぷりがちぐはぐなのだろう。
私は女性にしては身長が高く、体重は平均値をかなり下回っている。つまりかなり痩せている。
華奢だし、儚げな外見(黙っていればの話)と言われることもあるけど、実際のところはずぼらで大食いな女子なのだ。
そして今さら気づいたのだけど、私の部屋は散らかっている。
今朝勢いよく脱いで放り投げたパジャマが視界の端に映った。リビングのソファに、だらん、とだらしなく引っ掛かっている。色気のないキャラクター柄のパジャマの存在が気になって仕方がない。
西依さんにはとっくにずぼらな面がバレていたので気を抜いていた。
まさか男子が部屋に来るなんて事態になるとは思っていなかった。意識すると、急に恥ずかしくなってくる。とにかくパジャマを片付けたくて仕方がない。
いてもたってもいられない感じだったけど、隣の郡司が落ち着き払っているので、影響されて徐々に私も冷静になってきた。
記念すべき部屋に訪れた男子第一号は、世にも美しい青年だった。
お料理代行サービスのスタッフだけど……。
「見た目と違うっていうなら、郡司くんもでしょう。和食というよりは、イタリアンとか得意そうだし」
「よく言われる」
否定しないんかい。生意気だな。隣に立つと郡司が長身であることを再確認した。私も背が高いので、がっつり見下ろされることに慣れていない。
変に落ち着かない気持ちになりながら、私は少しだけ遠慮がちに豚汁のおかわりをしたのだった。
新鮮でしゃっきりした水菜の上に、まるく形を整えられた和風ポテトサラダがこんもりと盛られていた。なめらかな舌触りと、さっぱりした玉ねぎの風味。
かつお節とじゃこのおかげで、立派な和食の副菜として成り立っている。
「こういうレシピってスタッフさんが考えてるんですか?」
ポテトサラダを豪快にもぐもぐしながら、イケメンスタッフに問う。
「……まぁ」
「へぇ~~! すごいですね。これ、すっごくおいしいですよ! 全部おいしいけど、この和風ポテトサラダは初めて食べました。よく思いつきますねーー!」
笑わないせいで表情筋はガチガチに固まってそうだけど、頭はやわらかいのかもしれない。若さゆえの柔軟さというか。
「……っす」
今度の「す」は、「ありがとうございま『す』」の「す」だろうな、と豚汁をすすりながら思った。
「んっ、この豚汁もおいしいーー!」
献立のメモに「具だくさん」と書いてあったけど、本当に盛りだくさんな豚汁だ。
薄切りの豚バラ肉、大根、にんじん、油揚げ、こんにゃく、ごぼう、ねぎ、しいたけ……。
贅沢すぎる。もうこれだけでおかずになりそうな勢いだ。それぞれの具材から旨味がしみだしている。それなのに雑多な味になっていない。出汁と味噌がじょうずに具材たちをくるんで、一杯の汁ものとして成立している。
「具材がたくさんなのもうれしいけど、汁そのものがおいしい! ごくごく永遠に飲める! ラーメン鉢でもらいたいくらいだな~~」
雪平鍋に入った豚汁のおかわりをしていると、ふと隣に立つ郡司の視線に気づいた。
「なに? ちゃんと自分でおかわりしてますよ。あ、それとも気が変わった? 西依さんみたいについでくれる感じ?」
「いや、そういうのはやらない。……すげぇ食うなって思って」
洗い物を終えたらしい郡司は、タオルで手を拭きながらこちらを凝視している。相変わらず無表情だけど、よく見るとほんのわずかだけ感情をうかがい知ることが出来た。
どうやら驚いているらしい。きっと私の食べっぷりに敗北感を感じているのだろう。ふふん。
「いつもこれくらい食べるのよ。ごはんは少なくても二回はおかわりするし、そうすると汁物も同じくらい必要になるし」
「……ふうん」
郡司が、私のほうをちらりと見る。彼の言いたいことは分かる。私の体型と食べっぷりがちぐはぐなのだろう。
私は女性にしては身長が高く、体重は平均値をかなり下回っている。つまりかなり痩せている。
華奢だし、儚げな外見(黙っていればの話)と言われることもあるけど、実際のところはずぼらで大食いな女子なのだ。
そして今さら気づいたのだけど、私の部屋は散らかっている。
今朝勢いよく脱いで放り投げたパジャマが視界の端に映った。リビングのソファに、だらん、とだらしなく引っ掛かっている。色気のないキャラクター柄のパジャマの存在が気になって仕方がない。
西依さんにはとっくにずぼらな面がバレていたので気を抜いていた。
まさか男子が部屋に来るなんて事態になるとは思っていなかった。意識すると、急に恥ずかしくなってくる。とにかくパジャマを片付けたくて仕方がない。
いてもたってもいられない感じだったけど、隣の郡司が落ち着き払っているので、影響されて徐々に私も冷静になってきた。
記念すべき部屋に訪れた男子第一号は、世にも美しい青年だった。
お料理代行サービスのスタッフだけど……。
「見た目と違うっていうなら、郡司くんもでしょう。和食というよりは、イタリアンとか得意そうだし」
「よく言われる」
否定しないんかい。生意気だな。隣に立つと郡司が長身であることを再確認した。私も背が高いので、がっつり見下ろされることに慣れていない。
変に落ち着かない気持ちになりながら、私は少しだけ遠慮がちに豚汁のおかわりをしたのだった。
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