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4.うなぎのちらし寿司
退職代行!?
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「それなのに、面談の翌々日に退職代行を使って退社したのよ」
「た、退職代行ですか……」
その存在は、なんとなく知っていた。けれど、実際に身近で利用した話を聞くのは初めてだった。
「退職代行って、やめたくてもやめられないブラック会社の社員が使うイメージでしたけど」
あ、でも、繁忙期になるとかなりの残業を強いられるからブラックといえなくもないのかな……と、ぼんやりと考える。
私の顔を見ながら、実久がふき出す。こちらの考えていたことが分かったのだろう。
「まぁ、繁忙期はグレーな感じだね」
「ホワイトではないですよね」
それでも繁忙期に向けてアルバイトを採用したり、足りない場合は短期の派遣スタッフにお願いをしたりしている。そういう会社の姿勢を見ると、そこまで悪くはないと思うのだけど。
もちろん残業代は支給されるし、繁忙期終わりのボーナスは毎年なかなかの額を頂戴している。
「教える側としたらさ、そういう辞め方されるとキツイよね。私の同期が指導係だったんだけど、さすがに落ち込んでる」
実久が深く吸って、すーーっと煙を吐く。
「だから杏もさ、あんまり入れ込まないようにしたほうがいいよ。仕事を教えた労力が無駄になった挙句にメンタル削られたんじゃさ、やってられないもん」
たしかに、嶺衣奈と史哉が理由も告げずに辞めてしまったらショックだ。自分の至らなさが原因かもと考えて、しばらくは立ち直れないかもしれない。
「実際のところ、何が嫌だったんでしょう……? 退職代行を使うということは、すぐにでも辞めたくて、それを自分では伝えられないということですよね?」
今の時期、残業はほとんどない。というかむしろ、早上がりになる日もあると思う。
余裕をもって仕事を教えてもらえるはずなのになと、今さらどうしようもないけれど、退職理由を想像してみる。
「それは私も考えたけど、ぜんっぜん分からない。指導係だった同期は、すごく良い子だし。それに在庫管理部にいるスタッフもみんな優しいしね」
「在庫管理部……?」
心臓が、どきんとした。
最近採用された、アルバイト、二十歳そこそこの……。
「もしかして退職代行を使って辞めたのは、佐々木藍里さんですか?」
「そうだけど、杏って関わりあったっけ?」
肯定しながら、実久が驚いた顔をする。
「つい最近、彼女と帰りが一緒になったんです。それで……」
駅までふたりで歩いた。本当に、つい最近のことだ。めずらしく定時退社した日。一緒に駅までの道を歩いて、話をした。
いや、違う。話はしていない。大人しそうな子だという印象もあったし、お節介が過ぎてもいけないと思って何も言わなかった。話を聞かなかった。
「あの日、何か言葉を掛けていたら違っていたんでしょうか……?」
実久の「指導係だった同期が落ち込んでいる」という話が、やっと自分のこととして感じられた。
私が抱く後悔なんて、到底及ばないことは分かっているけれど。
「なーんにも、結果なんて変わらないわよ!」
そう言って、実久が私の肩を小突く。
「指導係にも言わない、上司との面談でも口にしない、それなのに、ちょっと帰りが一緒になった杏に言うことなんて、何もないでしょ」
「そうかもしれないですけど」
「もう終わったことなのよ。冷たいかもしれないけど、会社としてはまた新しい人間を採用して、繁忙期に備えるだけ」
「はい……」
実久のいう通り、終わったこと。そう頭では分かっていても後悔が残った。
「た、退職代行ですか……」
その存在は、なんとなく知っていた。けれど、実際に身近で利用した話を聞くのは初めてだった。
「退職代行って、やめたくてもやめられないブラック会社の社員が使うイメージでしたけど」
あ、でも、繁忙期になるとかなりの残業を強いられるからブラックといえなくもないのかな……と、ぼんやりと考える。
私の顔を見ながら、実久がふき出す。こちらの考えていたことが分かったのだろう。
「まぁ、繁忙期はグレーな感じだね」
「ホワイトではないですよね」
それでも繁忙期に向けてアルバイトを採用したり、足りない場合は短期の派遣スタッフにお願いをしたりしている。そういう会社の姿勢を見ると、そこまで悪くはないと思うのだけど。
もちろん残業代は支給されるし、繁忙期終わりのボーナスは毎年なかなかの額を頂戴している。
「教える側としたらさ、そういう辞め方されるとキツイよね。私の同期が指導係だったんだけど、さすがに落ち込んでる」
実久が深く吸って、すーーっと煙を吐く。
「だから杏もさ、あんまり入れ込まないようにしたほうがいいよ。仕事を教えた労力が無駄になった挙句にメンタル削られたんじゃさ、やってられないもん」
たしかに、嶺衣奈と史哉が理由も告げずに辞めてしまったらショックだ。自分の至らなさが原因かもと考えて、しばらくは立ち直れないかもしれない。
「実際のところ、何が嫌だったんでしょう……? 退職代行を使うということは、すぐにでも辞めたくて、それを自分では伝えられないということですよね?」
今の時期、残業はほとんどない。というかむしろ、早上がりになる日もあると思う。
余裕をもって仕事を教えてもらえるはずなのになと、今さらどうしようもないけれど、退職理由を想像してみる。
「それは私も考えたけど、ぜんっぜん分からない。指導係だった同期は、すごく良い子だし。それに在庫管理部にいるスタッフもみんな優しいしね」
「在庫管理部……?」
心臓が、どきんとした。
最近採用された、アルバイト、二十歳そこそこの……。
「もしかして退職代行を使って辞めたのは、佐々木藍里さんですか?」
「そうだけど、杏って関わりあったっけ?」
肯定しながら、実久が驚いた顔をする。
「つい最近、彼女と帰りが一緒になったんです。それで……」
駅までふたりで歩いた。本当に、つい最近のことだ。めずらしく定時退社した日。一緒に駅までの道を歩いて、話をした。
いや、違う。話はしていない。大人しそうな子だという印象もあったし、お節介が過ぎてもいけないと思って何も言わなかった。話を聞かなかった。
「あの日、何か言葉を掛けていたら違っていたんでしょうか……?」
実久の「指導係だった同期が落ち込んでいる」という話が、やっと自分のこととして感じられた。
私が抱く後悔なんて、到底及ばないことは分かっているけれど。
「なーんにも、結果なんて変わらないわよ!」
そう言って、実久が私の肩を小突く。
「指導係にも言わない、上司との面談でも口にしない、それなのに、ちょっと帰りが一緒になった杏に言うことなんて、何もないでしょ」
「そうかもしれないですけど」
「もう終わったことなのよ。冷たいかもしれないけど、会社としてはまた新しい人間を採用して、繁忙期に備えるだけ」
「はい……」
実久のいう通り、終わったこと。そう頭では分かっていても後悔が残った。
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