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第三章
16 見たいものは、この先。
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こうして、二人はようやく想いを通じ合わせた。
ジョンズワート15歳。カレン12歳。その頃には既に、両想いだったというのに。
ここに辿り着くまで、10年以上かかってしまった。
ずっとすれ違っていたことを理解し、夫婦としてやり直すことを決めた二人であったが――
「あー大変だった。お嬢に何年付き合わされたんだか」
「わかるぜチェストリー。俺もワートには好き放題使われてたからな」
「どうするべきかずっと悩んでたよ」
「どこまでもすれ違い続けてたんだな」
はあー、と盛大に溜息をつき、ああ疲れた大変だったと言い合う従者コンビを前に、すっかり縮こまっていた。哀愁すら漂っている。
二人はずっと前から両想いだったのにも関わらず、勘違いすれ違いを重ね、従者たちをずいぶん苦労させていた。
どこまでもすれ違っていた。まさにそれである。
カレンもジョンズワートも返す言葉もなく、しょんぼりするのみだ。
現在地は、カレンとチェストリーが夫婦として暮らしていた家。
四人掛けのテーブルで、カレンとジョンズワートが隣に。正面にはそれぞれの従者が座っている。
落ち着いて話せる場所はどこかと考えたとき、ここが1番だったのだ。
ちなみに、ショーンは実の父であるジョンズワートの膝に座っている。
ショーンに聞かせるのはどうかと思い、一度、村の者に預けるつもりだったのだが……。
なにか感じるものがあるのだろうか。本人がジョンズワートの膝に乗ると言ってきかなかったのである。
……呼び方は、ワートおじさんのままだが。
「あの、チェストリー?」
「なんでしょう、奥様」
「いえ、なんでも……」
カレンのことを「奥様」と呼ぶチェストリーは、大変いい笑顔であった。
30近くなった今も、チェストリーは近所でも有名な、超がつくほどの美形である。
そんな男の様々な感情がこもった笑顔を受けて、カレンは再びしおしおとしてしまった。
夫婦として暮らしていた頃は、周囲の人に怪しまれないよう、口調も呼び方も変えていた二人だが。
主人と従者に戻った二人は、アーネスト家やデュライト家にいた頃のような接し方に切り替わっていた。
「あ、あー……。チェストリー。カレンのことを守り続けてくれてありがとう。今回も、きみが僕たちを引き合わせてくれたんだよね。きみには本当に感謝してもしきれな……」
「俺のことも労わってほしいなあ!?」
「もちろん、アーティにだって感謝して」
「旦那さまー、俺、ホーネージュに戻ったら長めの休暇が欲しいです」
「あっ、俺も俺も」
なんとかこの場を収めようとするジョンズワート。従者二人に玉砕。
主人に振り回され続けた従者たちは、休暇もだけど休暇を楽しむための予算も欲しい、せっかくならいい宿に泊まりたいなあ、公爵様の財力でなんとかしてくれないかなーなどと盛り上がっている。
「ああもう……わかった。チェストリー、アーティ。ホーネージュに戻ったらまとまった休暇を用意する。これまでの働きに対する報酬も。宿も見繕う。満喫してくるといい!」
「あ、ほんとですか? 言ってみるもんですね」
「な」
チェストリーとアーティは、二人揃ってあははと笑う。それはそれは、愉快そうに。
従者たちは、帰国後の休暇をもぎとった。
ある程度の準備期間を経て、カレンとジョンズワートは、ホーネージュ王国へ戻ることとなった。もちろん、二人の息子のショーンも一緒だ。
ラントシャフトで世話になった者たちへの挨拶も済ませた。
全てを話しはしなかったものの、村人たちは本当の父親の存在と、帰国の話を意外とすんなり受け入れてくれて。
訳ありっぽかったものね、ショーンは父親そっくりだったんだなあ、たまには顔を見せてね、と故郷に帰るカレンたちを見送ってくれた。
寂しそうにしている者も多かったが、あるべき場所に戻るのだ、それがカレンの幸せなのだと理解して、笑顔で手を振ってくれたのだ。
「……いい人たちだね」
「はい」
村人たちに手を振り返しながら、カレンは微笑んだ。
ジョンズワートは、カレンの瞳にうっすらと滲む涙に気が付いていたが、あえて指摘はしなかった。
4年も世話になった場所、人から離れるのだ。泣きたくもなるだろう。
それでも涙をこらえ、ジョンズワートと共に帰ることを選んでくれた彼女の気持ちをくんだのだ。
行きは馬で急いだが、まだ幼いショーンもいる帰路は、馬車を選んだ。
馬車の中や、途中で立ち寄った町や宿で。カレンとジョンズワートは、色々なことを話した。
離ればなれだった時間を埋めるかのように。
幼い頃の思い出話から、離れていた4年間に起きたことまで。
自分の勘違いからこんな騒動に発展してしまったことをカレンが謝罪し、ジョンズワートも「僕もきみを傷つけた」「伝えるべきことを伝えていなかった」と返すやり取りも幾度となく繰り返されたが……。
何度目かもわからなくなった頃、ごめんなさいと言うカレンの唇を、ジョンズワートが塞いだ。
確かに、謝罪は必要だ。お互いに。
しかし、ジョンズワートが求めているのは、謝罪の応酬ではない。
カレンとの……いや、ショーンも含めた三人での、家族としてのやり直しだ。
謝罪をしたら、その場でキスして口をふさぐ。
そんなことをしているうちに、カレンがごめんなさいと口にする回数は減っていった。
ジョンズワートの勝ちである。
サラがカレンを見つけるまで結婚しないと言っていることを知り、カレンが慌てたりもした。
旅のあいだに、ショーンもジョンズワートに懐いた。
呼び方は、ワートおじさんからワートさんへ。ショーン風に言うと「わとしゃ」である。
お父さんや父上とまでは、いかなかった。
ショーンにとっては最近知り合ったばかりの男だから、仕方がないだろう。これから、家族になっていけばいい。
互いの気持ちを確認し合った二人には、これから先、たっぷりと時間があるのだから。
ジョンズワート15歳。カレン12歳。その頃には既に、両想いだったというのに。
ここに辿り着くまで、10年以上かかってしまった。
ずっとすれ違っていたことを理解し、夫婦としてやり直すことを決めた二人であったが――
「あー大変だった。お嬢に何年付き合わされたんだか」
「わかるぜチェストリー。俺もワートには好き放題使われてたからな」
「どうするべきかずっと悩んでたよ」
「どこまでもすれ違い続けてたんだな」
はあー、と盛大に溜息をつき、ああ疲れた大変だったと言い合う従者コンビを前に、すっかり縮こまっていた。哀愁すら漂っている。
二人はずっと前から両想いだったのにも関わらず、勘違いすれ違いを重ね、従者たちをずいぶん苦労させていた。
どこまでもすれ違っていた。まさにそれである。
カレンもジョンズワートも返す言葉もなく、しょんぼりするのみだ。
現在地は、カレンとチェストリーが夫婦として暮らしていた家。
四人掛けのテーブルで、カレンとジョンズワートが隣に。正面にはそれぞれの従者が座っている。
落ち着いて話せる場所はどこかと考えたとき、ここが1番だったのだ。
ちなみに、ショーンは実の父であるジョンズワートの膝に座っている。
ショーンに聞かせるのはどうかと思い、一度、村の者に預けるつもりだったのだが……。
なにか感じるものがあるのだろうか。本人がジョンズワートの膝に乗ると言ってきかなかったのである。
……呼び方は、ワートおじさんのままだが。
「あの、チェストリー?」
「なんでしょう、奥様」
「いえ、なんでも……」
カレンのことを「奥様」と呼ぶチェストリーは、大変いい笑顔であった。
30近くなった今も、チェストリーは近所でも有名な、超がつくほどの美形である。
そんな男の様々な感情がこもった笑顔を受けて、カレンは再びしおしおとしてしまった。
夫婦として暮らしていた頃は、周囲の人に怪しまれないよう、口調も呼び方も変えていた二人だが。
主人と従者に戻った二人は、アーネスト家やデュライト家にいた頃のような接し方に切り替わっていた。
「あ、あー……。チェストリー。カレンのことを守り続けてくれてありがとう。今回も、きみが僕たちを引き合わせてくれたんだよね。きみには本当に感謝してもしきれな……」
「俺のことも労わってほしいなあ!?」
「もちろん、アーティにだって感謝して」
「旦那さまー、俺、ホーネージュに戻ったら長めの休暇が欲しいです」
「あっ、俺も俺も」
なんとかこの場を収めようとするジョンズワート。従者二人に玉砕。
主人に振り回され続けた従者たちは、休暇もだけど休暇を楽しむための予算も欲しい、せっかくならいい宿に泊まりたいなあ、公爵様の財力でなんとかしてくれないかなーなどと盛り上がっている。
「ああもう……わかった。チェストリー、アーティ。ホーネージュに戻ったらまとまった休暇を用意する。これまでの働きに対する報酬も。宿も見繕う。満喫してくるといい!」
「あ、ほんとですか? 言ってみるもんですね」
「な」
チェストリーとアーティは、二人揃ってあははと笑う。それはそれは、愉快そうに。
従者たちは、帰国後の休暇をもぎとった。
ある程度の準備期間を経て、カレンとジョンズワートは、ホーネージュ王国へ戻ることとなった。もちろん、二人の息子のショーンも一緒だ。
ラントシャフトで世話になった者たちへの挨拶も済ませた。
全てを話しはしなかったものの、村人たちは本当の父親の存在と、帰国の話を意外とすんなり受け入れてくれて。
訳ありっぽかったものね、ショーンは父親そっくりだったんだなあ、たまには顔を見せてね、と故郷に帰るカレンたちを見送ってくれた。
寂しそうにしている者も多かったが、あるべき場所に戻るのだ、それがカレンの幸せなのだと理解して、笑顔で手を振ってくれたのだ。
「……いい人たちだね」
「はい」
村人たちに手を振り返しながら、カレンは微笑んだ。
ジョンズワートは、カレンの瞳にうっすらと滲む涙に気が付いていたが、あえて指摘はしなかった。
4年も世話になった場所、人から離れるのだ。泣きたくもなるだろう。
それでも涙をこらえ、ジョンズワートと共に帰ることを選んでくれた彼女の気持ちをくんだのだ。
行きは馬で急いだが、まだ幼いショーンもいる帰路は、馬車を選んだ。
馬車の中や、途中で立ち寄った町や宿で。カレンとジョンズワートは、色々なことを話した。
離ればなれだった時間を埋めるかのように。
幼い頃の思い出話から、離れていた4年間に起きたことまで。
自分の勘違いからこんな騒動に発展してしまったことをカレンが謝罪し、ジョンズワートも「僕もきみを傷つけた」「伝えるべきことを伝えていなかった」と返すやり取りも幾度となく繰り返されたが……。
何度目かもわからなくなった頃、ごめんなさいと言うカレンの唇を、ジョンズワートが塞いだ。
確かに、謝罪は必要だ。お互いに。
しかし、ジョンズワートが求めているのは、謝罪の応酬ではない。
カレンとの……いや、ショーンも含めた三人での、家族としてのやり直しだ。
謝罪をしたら、その場でキスして口をふさぐ。
そんなことをしているうちに、カレンがごめんなさいと口にする回数は減っていった。
ジョンズワートの勝ちである。
サラがカレンを見つけるまで結婚しないと言っていることを知り、カレンが慌てたりもした。
旅のあいだに、ショーンもジョンズワートに懐いた。
呼び方は、ワートおじさんからワートさんへ。ショーン風に言うと「わとしゃ」である。
お父さんや父上とまでは、いかなかった。
ショーンにとっては最近知り合ったばかりの男だから、仕方がないだろう。これから、家族になっていけばいい。
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