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1章 突然のプロポーズまでの道のり

4 出会い アーロン視点

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 アーロンとマリアベルが知り合ったきっかけは、アークライト家がマニフィカ領に兵を派遣したことだった。
 その際、迎撃態勢が整うまでのごく短い期間だったが、アークライト家でマリアベルを保護していた。
 まだ幼いマリアベルは、魔物に襲われたらひとたまりもないからだ。
 皮肉にも、マニフィカ家が危機に陥ったからこそ、アーロンは幼いころにマリアベルに出会うことができたのだ。

「マリアベル・マニフィカです。よろしくお願いします」

 アークライト家にやってきた日のマリアベルは、緊張しているのか、おどおどした様子でアーロンに頭を下げた。
 親から離れ、知らない土地、知らない家に連れてこられた女の子。
 心細いようで、最初は泣きそうになりながら俯いていた。

 初対面の印象は、妖精さんみたいな女の子。
 青みがかった銀の髪は美しく輝き、ふわふわと柔らかそうで。
 空みたいに澄んだ瞳は、涙で潤んでいる。
 まだ破産前だったため、衣服もお嬢さんのそれで。
 白を基調に、水色を取り入れたふわふわのワンピースは、彼女によく似合っていた。
 
――可愛い。

 愛らしく、儚げで。今にも消えてしまいそうな美しい少女に、アーロンは恋をした。
 初恋だった。

 領地は荒れ、親元からも引き離された彼女を元気づけるため、アーロンは必死になった。
 一緒に遊ぼう、とマリアベルを誘って庭に連れ出し、一緒に花を見た。
 がらにもなく、花冠なんてものを作ったりもした。
 武の家に生まれたアーロンは、男が花なんて、自分は男らしくいなければ、と思っている部分もちょっぴりあったのだが、そんなものは初恋を前にぶち壊された。
 男らしく? そんなことより、好きな子の笑顔のほうが大事である。

 アーロンの頑張りの甲斐もあってか、マリアベルは徐々に笑顔を見せるようになっていく。
 初めてマリアベルの笑顔を見たときには、もうドキドキが止まらなかったものだ。
 元気になって欲しい、というアーロンの想いが届いたのか、マリアベルもすっかりアーロンに懐き。
 アークライト邸でアーロンの姿を見つけたマリアベルは、「アーロンさま!」と笑顔で駆け寄ってくるようになった。
 最高に可愛くて、なんかもう本当に最高だった。
 まだ6歳ほどのアーロン。1つ下の妖精みたいな女の子に、デレデレであった。
 
 名家の嫡男であるアーロンは、貴族のご令嬢にアピールされることはあれど、自分が女の子に対して一生懸命になることはなかった。
 この年にして、貴族の男女の関係に悟りを開きかけていたレベルである。
 年上のお姉さんが優しくしてくれたと思ったら、嫡男の嫁の座を手にするために親切にしてくれただけだと判明したりもしており。
 アーロン、女性不信一歩手前であった。
 そんな少年が、年相応に女の子に恋をして、笑いあっているものだから、アークライト家の使用人もほっこりとした気持ちで二人を見守っていた。


 しかし、そんな生活も、長くは続かなかった。
 マリアベルのことは、あくまで一時的に保護しているだけ。
 マニフィカ領の戦闘準備が整い、屋敷は安全であると判断されれば、彼女は領地に戻ってしまう。
 すぐに終わりが来るとわかっているからこそ、アーロンは彼女との時間を大切にした。
 自分のことを覚えていてもらえるよう、色々な話をした。
 別れのときには、お互いに泣いて、抱きしめ合った。
 また会おう、会いに行く。そう言い合い……アーロンは、まだ幼い彼女の額に、そっと唇を落とした。

 このときからずっと、アーロンは彼女に恋をしている。
 儚く可憐な妖精さんは、いつの間にか血に染まっていたけれど、そんなことは気にならない。
 だってあの血は、彼女が大切な人たちを守るために浴びたものなのだから。
 加えて、武の家に生まれたアーロンは、強い者に敬意をはらうところがある。
 ゆえに、マリアベルの魔法使いとしての強さも大好きである。

 血に染まった頑張り屋さん。美しく優しくたくましい人。
 好きな子に危ない目に遭って欲しいとは思わないが、アーロンは今の彼女のことも大好きだ。
 魔物討伐に明け暮れる彼女に引くどころか、どんどん好みになっているふしすらある。

 まあなんというか、アーロンはもう手遅れレベルにマリアベルのことが好きで。
 好きで好きでたまらなくて。
 マリアベルから逃げ出す令息たちのことなんて、心の底から理解できなかった。
 あんなに可愛い頑張り屋さんから逃げる? 暴力女だのと悪口を言う? 意味がわからない。
 しかし、心のどこかで安心もしていた。
 マリアベルのよさを理解している男は、自分だけだと。
 彼女が、他の男にとられることはないと。
 アーロンは、慢心してしまっていた。
 後に、マリアベルは破談続きだからとのんびり構えていたことを、彼は後悔することとなる。
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