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第一章
第二話 召喚
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「……きて」
何か声が聞こえる。
「ん……なん、だ?」
「……ぉきてってば! 睡蓮!」
目を開けると、目の前には黒髪が揺れていた。
視線を少しずらすと長い睫毛を生やした、顔の大きさに対して大きめの瞳とぶつかった。
目の前の人物は心配そうな顔で眉毛を下げてこっちを覗き込んでいる。
「んん、おはよ。光」
「もう。マイペースなんだから。昔から睡蓮はそうだよね、あの時もさ――」
光は安心したのか、表情を崩して頬を膨らましている。
俺は光のクドクドと続く昔語りを聞き流しながら、無意識に自分の手が置かれた胸元を見る。
(穴は……空いてないな……ただの夢だったのか?)
「ねぇ! 聞いてる!? それで、ここはどこだと思う?」
「どこってお前。そんな当たり前なこと――」
光の発言で意識を戻し、顔を上げて周りの様子を改めて確認する。
「……あ? どこだ、ここ」
「睡蓮もわからないの?」
俺たちがいたのは、教会の中のような場所だった。
ただ普通の教会とは違って、パイプオルガンも十字架もない。当然キリストの像なんて見当たらない。
それに造りはかなり古い石造りになってるようで、ところどころ崩れているところが見える。
今度は不安そうな顔になる光の頭を撫でてやって、考えを巡らせる。
その時、一つの音が聞こえてきた。閉鎖された空間だからか音が響き、反響する。
これは……足音か?
コツコツとした定期的に響く足音が、止まった。
「初めまして、異界の者よ」
足音の正体は、ローブを着た人物だった。
ローブで全身が隠されていて、性別や年齢は見た目からはわからない。
だが、声の感じから若くはない男性のようだ。
「突然の召喚申し訳なく思う。理解できないことも多いと思うが、まずは私についてきていただきたい」
目の前の謎の人物は、頭を軽く下げている。
「え? どういうこと?」
「アンタが俺たちを呼んだってことか?」
理解できていない光は置いておいて、本題を聞く。
「ワタクシが、というと正確ではないですが。概ねその認識でも結構です。その話も含め、まずはついてきていただければご理解いただけるかと」
ローブの人物は頭を上げ、踵を返す。
この状況だと、有無を言わさず従えって言ってるようにしか聞こえねぇっての。
「仕方ない。行くぞ、光」
「え? ちょっと待ってよ睡蓮!」
軽く体についた砂埃を払い、ローブを揺らす後ろ姿を追う。
光は俺の服の裾を摘んでついてきた。
ローブの人物はいくつかの扉を開き、階段を登り通路を歩く。
どうやらあの場所は地下にあったらしい。
通路の窓から見える景色は地上になっている。
時折、人の姿を見かけるが近寄ってくることはない。
遠巻きにこちらを見て、なにやらキラキラした視線を向けて話をしている。
「ねぇ。なんか見られてない?」
光は視線が気になってしょうがないようだ。
とりあえず光を無視しつつ、ローブの人物の後をついていくと一つの扉の前で止まった。
大きく、煌びやかな装飾の施された立派な扉だ。
見たことはないが、物語に出てくる謁見の間に繋がる扉のように見える。
扉の前にいる衛兵のような格好をした人物のせいで余計にそう感じてしまう。
ローブの人物が衛兵と何かを話すと、衛兵が扉をゆっくりと開いた。
「ふわぁ。お城みたいだねー」
光が口を開けながらキョロキョロと周りを見回す。
気持ちはわからなくはない。
お城みたいではない――これは城だ。
そして、目の前には玉座がある。
となれば、あそこにいる人物が王様ということだろう。
その人物はあまり派手な装飾はつけておらず、バチカンの教皇のような格好をしている。
「司祭よ、ご苦労だったな。この者たちがそうか?」
王様と思われる人物はローブの人物に向けて口を開いた。
その言葉を受けて、司祭と呼ばれた人物は跪き右手を胸に当て答える。
「労いの言葉光栄しかり。仰せの通り、伝承に従い召喚の儀。滞りなく成功いたしました」
「うむ。改めてご苦労だった。して、勇者はどちらだ」
勇者? 今勇者と言ったか?
「それはまだ。これから王の前にて鑑定の儀を行おうと思い、こちらに連れてきた次第でございます」
「なるほどの」
王様は目を細め、俺と光に視線を移す。
「お初にお目にかかる異界の者たちよ。ワシは神聖皇国ラークの56代国王ロブ・ロイ・ラークだ」
「え、あ、初めまして! 私は救世光です!」
光が慌てて自己紹介して、お辞儀をする。
「黒神睡蓮だ。それで国王様? 俺たちは何故こんなところにいる?」
「あ! こら睡蓮! 失礼だよ!」
頭も下げずに聞く俺をキッと光が睨んでくる。
知らん。勝手に呼び出された上、何も知らされずにこんなところまで連れてこられて頭まで下げる義務が見当たらない。
「よい。こちらの都合で呼んだのだからな、光殿も畏まらず楽にしてくれ」
俺の態度に動こうとした兵士を手の動きで制しながら王様は続ける。
中々話のわかる人物らしい。
「そなたらを呼んだのは他でもない。この世界ジタンは現在危機に瀕している。長きに渡り魔族との戦争が続き、人界魔界共に消耗しきってしまっているのだ」
国王は瞳を伏せ、眉間に皺を寄せている。
「そこで、古の伝承に従い、勇者召喚の儀を執り行ったところ、そなたらが召喚されたというわけじゃ」
なるほどな。
しかし、気になるのはこの世界の名前がジタン?
夢の中でエリニュスとかいう奴から聞いたのと同じ名前なのは偶然か……?
俺が思考を進める前に国王の話が続く。
ひとまず夢の内容は隅に置いておき、国王の話を聞くことにする。
「これからそなたらには鑑定の儀を行なってもらい、勇者には世界を救うため動いてもらいたい」
国王の言葉に従うように、数人のローブを着た人間が謁見の間に入ってきた。
何か声が聞こえる。
「ん……なん、だ?」
「……ぉきてってば! 睡蓮!」
目を開けると、目の前には黒髪が揺れていた。
視線を少しずらすと長い睫毛を生やした、顔の大きさに対して大きめの瞳とぶつかった。
目の前の人物は心配そうな顔で眉毛を下げてこっちを覗き込んでいる。
「んん、おはよ。光」
「もう。マイペースなんだから。昔から睡蓮はそうだよね、あの時もさ――」
光は安心したのか、表情を崩して頬を膨らましている。
俺は光のクドクドと続く昔語りを聞き流しながら、無意識に自分の手が置かれた胸元を見る。
(穴は……空いてないな……ただの夢だったのか?)
「ねぇ! 聞いてる!? それで、ここはどこだと思う?」
「どこってお前。そんな当たり前なこと――」
光の発言で意識を戻し、顔を上げて周りの様子を改めて確認する。
「……あ? どこだ、ここ」
「睡蓮もわからないの?」
俺たちがいたのは、教会の中のような場所だった。
ただ普通の教会とは違って、パイプオルガンも十字架もない。当然キリストの像なんて見当たらない。
それに造りはかなり古い石造りになってるようで、ところどころ崩れているところが見える。
今度は不安そうな顔になる光の頭を撫でてやって、考えを巡らせる。
その時、一つの音が聞こえてきた。閉鎖された空間だからか音が響き、反響する。
これは……足音か?
コツコツとした定期的に響く足音が、止まった。
「初めまして、異界の者よ」
足音の正体は、ローブを着た人物だった。
ローブで全身が隠されていて、性別や年齢は見た目からはわからない。
だが、声の感じから若くはない男性のようだ。
「突然の召喚申し訳なく思う。理解できないことも多いと思うが、まずは私についてきていただきたい」
目の前の謎の人物は、頭を軽く下げている。
「え? どういうこと?」
「アンタが俺たちを呼んだってことか?」
理解できていない光は置いておいて、本題を聞く。
「ワタクシが、というと正確ではないですが。概ねその認識でも結構です。その話も含め、まずはついてきていただければご理解いただけるかと」
ローブの人物は頭を上げ、踵を返す。
この状況だと、有無を言わさず従えって言ってるようにしか聞こえねぇっての。
「仕方ない。行くぞ、光」
「え? ちょっと待ってよ睡蓮!」
軽く体についた砂埃を払い、ローブを揺らす後ろ姿を追う。
光は俺の服の裾を摘んでついてきた。
ローブの人物はいくつかの扉を開き、階段を登り通路を歩く。
どうやらあの場所は地下にあったらしい。
通路の窓から見える景色は地上になっている。
時折、人の姿を見かけるが近寄ってくることはない。
遠巻きにこちらを見て、なにやらキラキラした視線を向けて話をしている。
「ねぇ。なんか見られてない?」
光は視線が気になってしょうがないようだ。
とりあえず光を無視しつつ、ローブの人物の後をついていくと一つの扉の前で止まった。
大きく、煌びやかな装飾の施された立派な扉だ。
見たことはないが、物語に出てくる謁見の間に繋がる扉のように見える。
扉の前にいる衛兵のような格好をした人物のせいで余計にそう感じてしまう。
ローブの人物が衛兵と何かを話すと、衛兵が扉をゆっくりと開いた。
「ふわぁ。お城みたいだねー」
光が口を開けながらキョロキョロと周りを見回す。
気持ちはわからなくはない。
お城みたいではない――これは城だ。
そして、目の前には玉座がある。
となれば、あそこにいる人物が王様ということだろう。
その人物はあまり派手な装飾はつけておらず、バチカンの教皇のような格好をしている。
「司祭よ、ご苦労だったな。この者たちがそうか?」
王様と思われる人物はローブの人物に向けて口を開いた。
その言葉を受けて、司祭と呼ばれた人物は跪き右手を胸に当て答える。
「労いの言葉光栄しかり。仰せの通り、伝承に従い召喚の儀。滞りなく成功いたしました」
「うむ。改めてご苦労だった。して、勇者はどちらだ」
勇者? 今勇者と言ったか?
「それはまだ。これから王の前にて鑑定の儀を行おうと思い、こちらに連れてきた次第でございます」
「なるほどの」
王様は目を細め、俺と光に視線を移す。
「お初にお目にかかる異界の者たちよ。ワシは神聖皇国ラークの56代国王ロブ・ロイ・ラークだ」
「え、あ、初めまして! 私は救世光です!」
光が慌てて自己紹介して、お辞儀をする。
「黒神睡蓮だ。それで国王様? 俺たちは何故こんなところにいる?」
「あ! こら睡蓮! 失礼だよ!」
頭も下げずに聞く俺をキッと光が睨んでくる。
知らん。勝手に呼び出された上、何も知らされずにこんなところまで連れてこられて頭まで下げる義務が見当たらない。
「よい。こちらの都合で呼んだのだからな、光殿も畏まらず楽にしてくれ」
俺の態度に動こうとした兵士を手の動きで制しながら王様は続ける。
中々話のわかる人物らしい。
「そなたらを呼んだのは他でもない。この世界ジタンは現在危機に瀕している。長きに渡り魔族との戦争が続き、人界魔界共に消耗しきってしまっているのだ」
国王は瞳を伏せ、眉間に皺を寄せている。
「そこで、古の伝承に従い、勇者召喚の儀を執り行ったところ、そなたらが召喚されたというわけじゃ」
なるほどな。
しかし、気になるのはこの世界の名前がジタン?
夢の中でエリニュスとかいう奴から聞いたのと同じ名前なのは偶然か……?
俺が思考を進める前に国王の話が続く。
ひとまず夢の内容は隅に置いておき、国王の話を聞くことにする。
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