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第一章
第三話 勇者
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ローブの集団が俺と光を取り囲む。
睨み付けると、戸惑ったように一歩後ろに下がった。
「驚かせてすまぬ、安心してほしい。危害を加えたりはせんよ。これから鑑定魔法を使い、そなたらの素質や現在の情報を調べるだけじゃ」
国王が状況を説明してくれた。
その言葉を聞いて、力を抜いた俺と光を見てローブの集団は何かの呪文を詠唱する。
地面に青白い魔法陣が現れ、光を強くしていく。
身体の中を探られているような感覚を感じる。
そのまま少しすると、俺の目の前にRPGのウィンドウのようなものがゆっくりと出現した。
【黒神睡蓮 天啓:勇者】
まず俺の目に入ったものはソレだった。
それ以外にも細かくステータスやスキル、加護などが表示されているようだ。
辺りから『おぉ!』という小さな歓声が漏れる。
まぁ、俺が勇者なのは当然だろう。
そう思い、視線を周りに移した。
当然、周囲の視線は俺に集まっている。
――そう思った。
しかし、実際は違った。
視線は俺の少し後ろ。
左後ろにいる人物に注がれている。
今もなお、不安そうに俺の服の裾を掴んでいる少女に。
「光殿。貴女が勇者じゃ。この世界の命運をしかと頼むぞ」
王様の声が響いた。その言葉に次いで大きな歓声が響く。
「ちょっと待て! 勇者は俺だろう! よく見ろ! ここにちゃんと書いてあるだろ――」
俺は歓声に負けないよう叫び、再度小さな窓に視線を移す。
しかし――
【黒神睡蓮 天啓:災厄】
あ? なんだこれ?
視線を戻した時、そこに書かれていたものは全く違うものになっていた。
俺が困惑の表情を浮かべている間に、周りもざわつき始めた。
先ほどの歓喜の表情とは違う。
不安げな表情、困惑の表情、嫌悪の表情、そして――殺意の表情。
「黒神睡蓮……そなたは――処分する」
国王はさっきまでの柔和な表情ではなかった。
周りの表情と同じ。
忌まわしいものを見るような、冷たい視線を俺に向けている。
「は? 処分?」
王様の言葉に従うように、周囲のローブの集団は別の詠唱を唱え始めた。
兵士も集まってきて剣を抜き、槍を構えている。
「待って! 話にイマイチついていけていないけど、睡蓮を殺すのは私が許さない!」
光が俺を庇うように腕を広げて立つ。
「勇者様。それはなりませぬ。そのものは『災厄』。必ずやこの世界に災いを起こす者。処分しなければなりませぬ」
国王が困った顔で光を諭す。
「そんなの私は知らないわ! 睡蓮を殺すっていうなら、私はこんな世界救わない! 目の前の人を救えないのなら、そんなもの私は否定する!」
光は震えながらそう言った。
周りの奴らもどうすればいいかわからず、国王に視線を集中させる。
「……わかりました。それでは、その者を処分することはいたしませぬ。その代わり、勇者様。その者を連れ、災いを起こす前にお止めくださるようお願い致します」
国王はため息に諦めを織り交ぜてそう告げる。
そのまま、国王が手を横に一度振ると武器を持った兵士は元の場所に下がった。
それを見て、光は力が抜けたのかその場にへたり込んだ。
国王と司祭はなにがしか囁きあっている。
「黒神殿、申し訳ありませんな。先ほどの無礼はお許しください。勇者殿のお供として、そなたも世界を救うことに力をお貸し願うぞ」
国王はそんなことを思ってもいない顔でそう言ったあと――
「部屋を用意しますので、本日はお休みいただき、明日出発いただきたい」
――そう続けて、謁見は終了した。
その後、俺と光は別々の部屋を充てがわれた。
*
「なんだか、大変なことになっちゃったね」
「そうだな。さっきは光に助けられた、サンキューな」
今、光は俺の部屋に来ている。
「いいんだよ。昔はよく助けてあげたし、最近はボクの方が助けられてたしね」
えへへと光は照れ臭そうに笑う。
こいつは俺と二人になると、クセなのか一人称が『ボク』になる。
中学生の頃だったか、一時期から『ボク』と言い始めた。
本人は気に入っていたらしいが、周りの反応があまり良くなかった。
それからだ。
人前では『私』、俺の前だと『ボク』というようになった。
「それにしてもボクが勇者だって! つとまるのかなー?」
光は照れを隠すようにはしゃぎながら、手をバタバタさせている。
こいつは子供か。
「うーん。それにしても、勇者かぁ……じゃあアレは夢じゃなかったのかなぁ?」
「夢?」
俺は光が出した夢という単語に反応した。
隅に追いやっていたエリニュスのことが嫌でも頭に浮かぶ。
同時に胸を貫かれた感覚が蘇ってきて、無意識に胸元に手を当てた。
「うん。こっちで目を覚ます前にね、なんか変な夢を見たの。神様だって人が出てきて、色々お話をして、勇者として力や加護をくれるって」
つまり、光もエリニュスに会ったってことか?
でも俺の時には、アイツはそんなに話をしなかった。勇者とそうじゃない奴で対応が違うってことか?
「その神様ってのはエリニュスって名前だったか?」
「エ、エリ? んと、そんな名前じゃなかったと思うよ?」
違う? 光の夢に出てきたのはエリニュスじゃないってことか?
じゃあアイツは神じゃなかったってことか?
どういうことだ?
思案にふけっていると、光があくびをした。
「ふぁ。眠くなってきちゃった……そろそろボクは寝るね? 睡蓮も早く寝なよ? おやすみ。また明日ね」
そう言って、光は目を擦りながら扉の方にフラフラ歩いていく。
俺は光が扉を閉めながら手を振るのを適当に返し、見送った。
「俺もそろそろ寝るか……」
そうひとりごちてベッドに横になり、今日のところは眠りに落ちることにした。
睨み付けると、戸惑ったように一歩後ろに下がった。
「驚かせてすまぬ、安心してほしい。危害を加えたりはせんよ。これから鑑定魔法を使い、そなたらの素質や現在の情報を調べるだけじゃ」
国王が状況を説明してくれた。
その言葉を聞いて、力を抜いた俺と光を見てローブの集団は何かの呪文を詠唱する。
地面に青白い魔法陣が現れ、光を強くしていく。
身体の中を探られているような感覚を感じる。
そのまま少しすると、俺の目の前にRPGのウィンドウのようなものがゆっくりと出現した。
【黒神睡蓮 天啓:勇者】
まず俺の目に入ったものはソレだった。
それ以外にも細かくステータスやスキル、加護などが表示されているようだ。
辺りから『おぉ!』という小さな歓声が漏れる。
まぁ、俺が勇者なのは当然だろう。
そう思い、視線を周りに移した。
当然、周囲の視線は俺に集まっている。
――そう思った。
しかし、実際は違った。
視線は俺の少し後ろ。
左後ろにいる人物に注がれている。
今もなお、不安そうに俺の服の裾を掴んでいる少女に。
「光殿。貴女が勇者じゃ。この世界の命運をしかと頼むぞ」
王様の声が響いた。その言葉に次いで大きな歓声が響く。
「ちょっと待て! 勇者は俺だろう! よく見ろ! ここにちゃんと書いてあるだろ――」
俺は歓声に負けないよう叫び、再度小さな窓に視線を移す。
しかし――
【黒神睡蓮 天啓:災厄】
あ? なんだこれ?
視線を戻した時、そこに書かれていたものは全く違うものになっていた。
俺が困惑の表情を浮かべている間に、周りもざわつき始めた。
先ほどの歓喜の表情とは違う。
不安げな表情、困惑の表情、嫌悪の表情、そして――殺意の表情。
「黒神睡蓮……そなたは――処分する」
国王はさっきまでの柔和な表情ではなかった。
周りの表情と同じ。
忌まわしいものを見るような、冷たい視線を俺に向けている。
「は? 処分?」
王様の言葉に従うように、周囲のローブの集団は別の詠唱を唱え始めた。
兵士も集まってきて剣を抜き、槍を構えている。
「待って! 話にイマイチついていけていないけど、睡蓮を殺すのは私が許さない!」
光が俺を庇うように腕を広げて立つ。
「勇者様。それはなりませぬ。そのものは『災厄』。必ずやこの世界に災いを起こす者。処分しなければなりませぬ」
国王が困った顔で光を諭す。
「そんなの私は知らないわ! 睡蓮を殺すっていうなら、私はこんな世界救わない! 目の前の人を救えないのなら、そんなもの私は否定する!」
光は震えながらそう言った。
周りの奴らもどうすればいいかわからず、国王に視線を集中させる。
「……わかりました。それでは、その者を処分することはいたしませぬ。その代わり、勇者様。その者を連れ、災いを起こす前にお止めくださるようお願い致します」
国王はため息に諦めを織り交ぜてそう告げる。
そのまま、国王が手を横に一度振ると武器を持った兵士は元の場所に下がった。
それを見て、光は力が抜けたのかその場にへたり込んだ。
国王と司祭はなにがしか囁きあっている。
「黒神殿、申し訳ありませんな。先ほどの無礼はお許しください。勇者殿のお供として、そなたも世界を救うことに力をお貸し願うぞ」
国王はそんなことを思ってもいない顔でそう言ったあと――
「部屋を用意しますので、本日はお休みいただき、明日出発いただきたい」
――そう続けて、謁見は終了した。
その後、俺と光は別々の部屋を充てがわれた。
*
「なんだか、大変なことになっちゃったね」
「そうだな。さっきは光に助けられた、サンキューな」
今、光は俺の部屋に来ている。
「いいんだよ。昔はよく助けてあげたし、最近はボクの方が助けられてたしね」
えへへと光は照れ臭そうに笑う。
こいつは俺と二人になると、クセなのか一人称が『ボク』になる。
中学生の頃だったか、一時期から『ボク』と言い始めた。
本人は気に入っていたらしいが、周りの反応があまり良くなかった。
それからだ。
人前では『私』、俺の前だと『ボク』というようになった。
「それにしてもボクが勇者だって! つとまるのかなー?」
光は照れを隠すようにはしゃぎながら、手をバタバタさせている。
こいつは子供か。
「うーん。それにしても、勇者かぁ……じゃあアレは夢じゃなかったのかなぁ?」
「夢?」
俺は光が出した夢という単語に反応した。
隅に追いやっていたエリニュスのことが嫌でも頭に浮かぶ。
同時に胸を貫かれた感覚が蘇ってきて、無意識に胸元に手を当てた。
「うん。こっちで目を覚ます前にね、なんか変な夢を見たの。神様だって人が出てきて、色々お話をして、勇者として力や加護をくれるって」
つまり、光もエリニュスに会ったってことか?
でも俺の時には、アイツはそんなに話をしなかった。勇者とそうじゃない奴で対応が違うってことか?
「その神様ってのはエリニュスって名前だったか?」
「エ、エリ? んと、そんな名前じゃなかったと思うよ?」
違う? 光の夢に出てきたのはエリニュスじゃないってことか?
じゃあアイツは神じゃなかったってことか?
どういうことだ?
思案にふけっていると、光があくびをした。
「ふぁ。眠くなってきちゃった……そろそろボクは寝るね? 睡蓮も早く寝なよ? おやすみ。また明日ね」
そう言って、光は目を擦りながら扉の方にフラフラ歩いていく。
俺は光が扉を閉めながら手を振るのを適当に返し、見送った。
「俺もそろそろ寝るか……」
そうひとりごちてベッドに横になり、今日のところは眠りに落ちることにした。
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