幼馴染に勇者の座を奪われたので俺はこの異世界に叛逆する

ReCall

文字の大きさ
4 / 10
第一章

第三話 勇者

しおりを挟む
 ローブの集団が俺と光を取り囲む。
 睨み付けると、戸惑ったように一歩後ろに下がった。

「驚かせてすまぬ、安心してほしい。危害を加えたりはせんよ。これから鑑定魔法を使い、そなたらの素質や現在の情報を調べるだけじゃ」

 国王が状況を説明してくれた。
 その言葉を聞いて、力を抜いた俺と光を見てローブの集団は何かの呪文を詠唱する。

 地面に青白い魔法陣が現れ、光を強くしていく。
 身体の中を探られているような感覚を感じる。
 そのまま少しすると、俺の目の前にRPGのウィンドウのようなものがゆっくりと出現した。

【黒神睡蓮 天啓:勇者】

 まず俺の目に入ったものはソレだった。
 それ以外にも細かくステータスやスキル、加護などが表示されているようだ。
 辺りから『おぉ!』という小さな歓声が漏れる。
 まぁ、俺が勇者なのは当然だろう。
 そう思い、視線を周りに移した。
 当然、周囲の視線は俺に集まっている。


 ――そう思った。


 しかし、実際は違った。
 視線は俺の少し後ろ。
 左後ろにいる人物に注がれている。
 今もなお、不安そうに俺の服の裾を掴んでいる少女に。

「光殿。貴女が勇者じゃ。この世界の命運をしかと頼むぞ」

 王様の声が響いた。その言葉に次いで大きな歓声が響く。

「ちょっと待て! 勇者は俺だろう! よく見ろ! ここにちゃんと書いてあるだろ――」

 俺は歓声に負けないよう叫び、再度小さな窓に視線を移す。
 しかし――

【黒神睡蓮 天啓:災厄】

 あ? なんだこれ?

 視線を戻した時、そこに書かれていたものは全く違うものになっていた。
 俺が困惑の表情を浮かべている間に、周りもざわつき始めた。
 先ほどの歓喜の表情とは違う。
 不安げな表情、困惑の表情、嫌悪の表情、そして――殺意の表情。

「黒神睡蓮……そなたは――処分する」

 国王はさっきまでの柔和な表情ではなかった。
 周りの表情と同じ。
 忌まわしいものを見るような、冷たい視線を俺に向けている。

「は? 処分?」

 王様の言葉に従うように、周囲のローブの集団は別の詠唱を唱え始めた。
 兵士も集まってきて剣を抜き、槍を構えている。

「待って! 話にイマイチついていけていないけど、睡蓮を殺すのは私が許さない!」

 光が俺を庇うように腕を広げて立つ。

「勇者様。それはなりませぬ。そのものは『災厄』。必ずやこの世界に災いを起こす者。処分しなければなりませぬ」

 国王が困った顔で光を諭す。

「そんなの私は知らないわ! 睡蓮を殺すっていうなら、私はこんな世界救わない! 目の前の人を救えないのなら、そんなもの私は否定する!」

 光は震えながらそう言った。
 周りの奴らもどうすればいいかわからず、国王に視線を集中させる。

「……わかりました。それでは、その者を処分することはいたしませぬ。その代わり、勇者様。その者を連れ、災いを起こす前にお止めくださるようお願い致します」

 国王はため息に諦めを織り交ぜてそう告げる。
 そのまま、国王が手を横に一度振ると武器を持った兵士は元の場所に下がった。
 それを見て、光は力が抜けたのかその場にへたり込んだ。
 国王と司祭はなにがしか囁きあっている。

「黒神殿、申し訳ありませんな。先ほどの無礼はお許しください。勇者殿のお供として、そなたも世界を救うことに力をお貸し願うぞ」

 国王はそんなことを申し訳ないと思ってもいない顔でそう言ったあと――

「部屋を用意しますので、本日はお休みいただき、明日出発いただきたい」

 ――そう続けて、謁見は終了した。

 その後、俺と光は別々の部屋を充てがわれた。

 *

「なんだか、大変なことになっちゃったね」

「そうだな。さっきは光に助けられた、サンキューな」

 今、光は俺の部屋に来ている。

「いいんだよ。昔はよく助けてあげたし、最近はボクの方が助けられてたしね」

 えへへと光は照れ臭そうに笑う。
 こいつは俺と二人になると、クセなのか一人称が『ボク』になる。
 中学生の頃だったか、一時期から『ボク』と言い始めた。
 本人は気に入っていたらしいが、周りの反応があまり良くなかった。
 それからだ。
 人前では『私』、俺の前だと『ボク』というようになった。

「それにしてもボクが勇者だって! つとまるのかなー?」

 光は照れを隠すようにはしゃぎながら、手をバタバタさせている。
 こいつは子供か。

「うーん。それにしても、勇者かぁ……じゃあアレは夢じゃなかったのかなぁ?」

「夢?」

 俺は光が出した夢という単語に反応した。
 隅に追いやっていたエリニュスのことが嫌でも頭に浮かぶ。
 同時に胸を貫かれた感覚が蘇ってきて、無意識に胸元に手を当てた。

「うん。こっちで目を覚ます前にね、なんか変な夢を見たの。神様だって人が出てきて、色々お話をして、勇者として力や加護をくれるって」

 つまり、光もエリニュスに会ったってことか?
 でも俺の時には、アイツはそんなに話をしなかった。勇者とそうじゃない奴で対応が違うってことか?

「その神様ってのはエリニュスって名前だったか?」

「エ、エリ? んと、そんな名前じゃなかったと思うよ?」

 違う? 光の夢に出てきたのはエリニュスじゃないってことか?
 じゃあアイツは神じゃなかったってことか?
 どういうことだ?
 思案にふけっていると、光があくびをした。

「ふぁ。眠くなってきちゃった……そろそろボクは寝るね? 睡蓮も早く寝なよ? おやすみ。また明日ね」

 そう言って、光は目を擦りながら扉の方にフラフラ歩いていく。
 俺は光が扉を閉めながら手を振るのを適当に返し、見送った。

「俺もそろそろ寝るか……」

 そうひとりごちてベッドに横になり、今日のところは眠りに落ちることにした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

処理中です...