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最終章 数多の未来への選択編

※※※

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「じゃあ、行ってくるからー」
「……いってらっしゃーい」
じとー…。
大地お兄ちゃんを見送りつつ、「ずるい」「心配」「不安」と様々な感情を込めて見つめてると、大地お兄ちゃんに苦笑されて頭を撫でられた。
うぅ…。情けない。
何でだろう。鴇お兄ちゃんや御三家のお兄ちゃん達といると、自分が滅茶苦茶子供に思えて情けなくなるのは…。
精神的にはずっと年上なのになぁ…。
家を出て行った大地お兄ちゃんのトラックが敷地を出て行くのを見送って、私はとぼとぼと別荘の中に戻った。
リビングに戻ると、そこには透馬お兄ちゃんがコルクボードに貼られた地図を真剣な眼差しで考察している姿があった。
奏輔お兄ちゃんと近江くん、愛奈は大地お兄ちゃんより先に情報収集に出掛けて、華菜ちゃんは寝室で何やら別ルートで情報を集めている。
…何か、私だけ何もしてないんじゃ…?
確かに守られる立場にいるけどさ。何もしないのは違うじゃん?
かと言って不用意に外に出たら、迷惑になる。…ふみぃ~…役立たずじゃ~ん…。
自分の足手まといっぷりに、落ち込みながら透馬お兄ちゃんの横を通り過ぎようとすると。
「ん?姫?、どうした?しょんぼりして」
「透馬お兄ちゃん…だって、私があまりにも足手まといの役立たずだから~…」
「は?いや、そんなことないだろ。俺達のモチベは姫の存在にあるんだぞ?」
「そんなの気休めだー」
「いやいや。んなことねーって」
「ふみぃ~…」
透馬お兄ちゃんは私の拗ねっぷりに、大地お兄ちゃんと同じような苦笑いを浮かべて私の頭をわしわしと撫でた。
「姫。俺の気分転換に付き合ってくれよ。少しお喋りしようぜ。茶と菓子用意してくれよ。今なら俺達が小さい頃の話をしてやろう」
「ふみっ!?ま、待っててっ!!直ぐ用意するからっ!!」
お兄ちゃん達の小さい頃のお話っ!これは聞かない訳にはいかないっ!
秒で準備を済ませて、ソファで座る透馬お兄ちゃんのテーブルに紅茶と特製パウンドケーキを置いて、反対側のソファに座った。
「恐ろしく速いな…」
「透馬お兄ちゃんっ、早くっ、早くっ」
わくわく。
正座で待機している私を見て、小さく笑って、透馬お兄ちゃんは話し出した。
「あー、どっから話していいもんか。そうだな、まずは出会いからか?」
どんな子供時代だったのかな?
期待に胸を膨らませて、私は透馬お兄ちゃんの昔語りにのめり込んだ。


◇ 御三家~小学二年生~ ◇(透馬視点)


(毎日毎日うざってぇ。貴族派の連中め。少し金があるからって威張りちらしやがって)
俺達の通う小学校は名門の癖に、いやだからこそか?解らねぇけど、下らねぇ制度がある。
金持ち連中を総称した『貴族派』と一般よりも秀でている才能を持った連中が主な『庶民派』だ。
俺の家は商店街の肉屋。金持ちとは無縁だが、人よりは賢い所為でこの小学校に入学出来た。
とは言え、貴族派の連中が俺が思った以上に馬鹿過ぎて、正直参っていた。
(お前らは親の金でホイホイ買えるかもしれねぇけど、俺達は教科書をそうそう買い替えらんねぇんだっつーのっ!あー…どうすっかなぁ、国語の教科書)
貴族派の連中に、教科書を奪われバケツの水に突っ込まれてしまった、ふにゃふにゃになった教科書を思い出し、げんなりする。
(どうせ狙うなら算数とかにしてくれりゃあいいのに。算数だったらほぼ理解してるってのによー)
下校中。鞄を鳴らしながら歩く。
「あーもうっ!むしゃくしゃするっ!!」
コンッ!
自棄になって足下の石を蹴飛ばすと、それは綺麗な弧を描いて。
ゴン。
「いでっ!?」
「あ?」
やべ、誰かに当たっちまったか?
と視線を前方へ向けると、頭を抱えてしゃがみこんでいる、大地がいた。
「悪ぃ、大地。大丈夫か?」
「透馬。てめぇ…」
「悪かったって。ちょっとむしゃくしゃしてたんだよ」
足を止めてぶつかった頭を撫でている大地に駆け寄り、念の為にぶつかった所をみるとこぶになっていた。
「一応、医者に行くか?」
「…いい。この程度、いつも兄貴達と遊んでて出来るから」
「あー。お前んとこの兄弟だとそうなるよなー。うちは妹だから兄貴ってのは羨ましいけど」
「ふん」
鼻で笑うだけ、とか。ほんっとこいついい性格してるよな。
ほぼ生まれた時からの付き合いだから、俺は気になんねぇけど。こいつのクラスの連中はビビって近寄りもしねぇし。
「そういや、大地知ってっか?」
「知らねぇ」
「だよなぁ。俺も今日聞いたばっかだし」
「……で?」
「転校生、来るらしいぜ?何でも白鳥財閥の関係者とか何とか」
「また、貴族派かよ。うぜぇ」
「全くだぜ。いっそ先手必勝で喧嘩ふっかけてみっか?」
「……勝手にやれ。オレはやらねぇ」
「お前さぁ。もうちょっと協調性って奴を学べよなぁ」
「うぜぇ」
大地らしい反応っちゃ反応だけどな。
俺も実際喧嘩とか売るつもりもねぇし。
この話はここまで。あっさりと話を切り上げ、俺達は下校しながらどちらの家で遊ぶかを話し合った。

翌日。
朝のHRで、例の転校生が来た。
赤い髪。整った顔。そして、綺麗な服。
……やっぱりこいつも貴族派みたいだな。
「白鳥鴇くんです。皆さん、仲良くしてあげて下さいね」
「白鳥鴇です」
よろしくも何もなしかよ。偉そうに。
あいつもどうせ馬鹿なんだろ。この学校の金持ち連中は皆脳味噌スカスカの馬鹿ばっかだからな。
あんなの相手にしてる位なら、勉強してた方が断然マシだ。
教科書を開いて手元に集中していると、机の上に何か置かれた。これは、三年の教科書、か?
誰が置いたんだ?
顔を上げるとそこには例の転校生がいた。
「おい、これ」
「やる。その書き込み見る限り、二年の内容はとっくに脳に吸収済みだろ」
言いながら隣の席に着くそいつの手元には五年の教科書があった。
しかも席に着くなり、その五年生の教科書をすらすらと解いて行くじゃないか。
自分の目を疑った。まさか貴族派の中に賢い奴がくるとは想定していなかったからだ。
――悔しい。貴族派なんかに知識で負けるなんて。俺は受け取った三年の教科書を開いてそいつに追い付くべく一心不乱にその教科書を読み解いた。
そんな出会いの瞬間を境に、俺は転校生を観察するようになった。
不思議な事にその転校生は貴族派にも庶民派にも所属する事はなかった。
言うなれば一匹狼と言う奴だ。貴族派が何やかんやで近寄り話かけるも、あまりにも馬鹿過ぎて相手にされず、かと思えばこのクラス唯一の庶民派である俺は俺で、俺よりも賢いと言う悔しさに話かけなかった。
だから、そいつはクラスで一人浮いていた。
けど、転校して来たそいつがある日。

「なんだとっ!?てめぇっ、もう一度言ってみろっ!!」
「……もう一度言わなきゃ解らないような脳味噌なら、もう一度言った所で頭に入らないだろう。時間の無駄だ」

唐突に勃発した喧嘩。
このクラスの貴族派筆頭が、転校生に自分達に従えと、貴族派の中へ入れと言ったのが事の発端らしい。
そして転校生は一言『下らない』と跳ね除けたようだ。
その言葉を聞いた瞬間、俺の中の転校生の株が少し上がった。
実際その通りなんだ。この貴族派庶民派の争いは昔からあり、教師も貴族派連中に媚を売るのに忙しく『生徒』ではなく『金蔓』としか接しない。学校包みの虐め集団と言っても良い。
そんな学校、ほんっとうに『下らない』のだ。
だが権力者が多く、何よりそんな学校を卒業したとなると庶民派も貴族派の親達から一目置かれるようになる。賢い庶民派は、卒業するという、その事実だけで知識量の証明になるからだ。
中学受験に大いに有利になる。そんな大きな権利。庶民派には捨てがたい。
下らないが、その下らない中にいるだけの利益もある。
だからこうやって俺は我慢していたんだが…。
まぁ、いい。貴族派の争いに首を突っ込んでられるか。
どうせこの調子だと授業にならないだろ。教室を出ると、隣のクラスから同時に大地が外に出て来た。
「よぉ、大地。何してんだ?」
「透馬こそ」
「こっちは中で貴族派の連中が喧嘩してっから避難だ避難」
「こっちはそっちの争いに加勢するとかで教室に庶民派しかいねぇから、図書館に辞書でも借りに行くとこだ」
「図書館?いいな。俺も行こうかな」
教師を呼ぶ?
意味がない事はしねぇ。
俺と大地は並んで図書館へと向かった。
ここの図書館は本が多くて良い。そして何より貴族派の連中は、借りずに買えば良いの精神で図書館には寄りつかないから静かってのが最高に良い。
「じゃあ、オレは寝る。何かあったら起こせ」
「おう」
…確か、奥の方に庶民派の先輩達秘蔵のラノベがあったはず。
何処だったか。
本棚の奥の方へ進みラノベを探し出し、発見したと同時にその場でパラ見していると、突然図書室のドアが荒く開けられた。
「天川ぁっ!ここにいるのは解ってるぞっ。出て来いっ」
あぁ?担任?
「なんすかー?先生」
本をしまい顔を出すと、そこには頭から湯気を出している通称鬼瓦先生が腕を組んで立っていた。
「なんすか、ではないっ!話は聞いたぞっ!教室の喧嘩はお前が発端らしいなっ!」
「…………は?」
「なんだ、その教師をバカにしたような顔はっ!?全くこれだから庶民派はっ!礼儀という物を知らんっ!!ほらっ、とっとと来いっ!!教室の貴族派の方達に土下座でも何でもして許しを請えっ!!」
「はぁ~っ!?何だよ、それっ!!俺は何もしてねぇぞっ!!」
「嘘を言うなっ!!」
「嘘じゃねぇよっ!!こんなくだらない嘘誰が言うかっ!!誰が、俺の所為にしたんだっ!?名前言えよっ!!」
正直滅茶苦茶腹が立った。
誰だ、俺に責任なすりつけたのっ!!
「白鳥が、言ったぞっ!天川の所為だってなっ!!」
「あ、あいつっ!!ふざけんなよっ!!」
怒りのあまりこっちも頭から湯気が出そうだ。
一発殴ってやらなきゃ気が済まないっ!!
殴りこみに行こうと走りだしたが、
「何処へ行くっ!?」
担任に襟首掴まれて止められた。
「くそっ!離せよっ!!このまま俺の所為にされてたまるかっ!!」
「お前がやったことをお前の所為にするのは当たり前だっ!!」
「ちゃんと調べもしない屑教師が当り前を口にしてんじゃねぇよっ!!」
抵抗をしてみるが、悲しいかな体格差がありただ暴れてるだけで終わる。
このまま連れて行かれて、俺の所為にさせられて土下座すんのかよっ!くっそぉーっ!!
「…透馬を離せ。この屑教師」
バシッ。
何かがぶつかる音が聞こえて、俺が落とされる。
慌てて着地して、躊躇いなく駆け出す。
助けてくれたのは誰か、声で解っているから。
すると直ぐ横に大地が並走した。
「助かったぜ、大地っ」
「このまま馬鹿にされてたまるかっ」
「だよなっ!」
二人で全速力で駆けだし、教室へ駆け込む。
すると、そこには床に座りこみ泣き喚く貴族派の男連中と遠巻きに泣き喚く貴族派の女連中がいた。そして、中心には白鳥鴇が無傷な上に冷たい目でこちらを見ていた。阿鼻叫喚って言葉はこんな時に使うんだろうか。
いや、今はそんな事どうでも良い。
「白鳥鴇っ!良くも俺を犯人に仕立て上げてくれたなっ!」
「……何の事だ?」
「何の事だ?だってっ!?鬼瓦から聞いたぞっ!!全部俺の所為にしたってなっ!!」
「………はぁ。…お前達庶民派は賢いと聞いていたが、それも間違いだったか。…転校する場所を間違えたか…?」
「聞いてんのかよっ!!」
無実な罪を押し付けられて、しかも、押し付けた犯人には馬鹿にされ、俺の怒りはMAXだった。
「白鳥鴇っ!外に来いっ!タイマンだっ!」
俺が叫ぶと、白鳥鴇は目を丸くして、けれどそれは一瞬で。直ぐに目を細め口元に笑みを浮かべた。
その表情は何処か楽し気で。でも俺はその表情に気付く事なく、白鳥鴇を殴る。ただその事で頭が一杯だった。

白鳥鴇を連れて、俺と大地は中庭へ出た。
「いいかっ、大地っ!絶対手出すなよっ!」
「骨は拾ってやるから安心して喧嘩しろ」
「お前っ、俺の味方じゃねぇのかよっ!いや、それは後で問い質すとしてっ!白鳥鴇っ!覚悟しろっ!!」
俺が指さして言うと、そいつはふっと鼻で笑い、腕を組んでこちらを見た。
なんだ、この梳かした態度っ!
ムカッ腹のまま俺は白鳥鴇に拳を繰り出した。
しかしあっさり避けられて、逆に殴られる。
やられた事に腹が立って、蹴りを繰り出す。それもあっさりかわされて足を掴まれて放り投げられた。
地面に体をしこたま打ちつけて、痛みにのたうち回る。
嘘だろっ。こんなはずじゃ…いや、待て待て。
そうだ、冷静になれ。冷静になればいけるっ!
隙を狙って…風が吹いた瞬間に…いまだっ!
パンチを喰らえーっ!
「…残念だったな」
三度目の正直もあっさり避けられて、手を取られてまた投げ飛ばされた。
「強ぇー…なんだ、こいつ…」
「次はオレだ」
ヨボヨボと立ち上がってる間に大地が攻撃を仕掛ける。
しかし俺と同様あっさりと返り討ちにあった。
くっそー…。
土と草まみれになって、目の前の白鳥鴇を睨みつけると、白鳥鴇は嬉しそうに、楽しそうに笑った。
「いるじゃないか。真っ当な奴が。二人も。また転校してやろうと思ったが気が変わった。天川、あとそっちは丑而摩、だったな。俺と手を組まないか?」
「は?」
いきなり何の話だ?
俺と大地の目が点になった。
「…あの貴族派とか言う馬鹿共。揃いも揃って俺に罪を押し付けやがった。…言っている意味わかるか?」
白鳥鴇が真剣な眼差しを俺に寄越した。
罪を押し付けた…って事はこいつもはめられたって事かっ。
「うああー…。やられたっ!あいつらぁっ!」
「このままやられっ放し何て冗談じゃない。…庶民派として反乱と行こうじゃないか」
白鳥鴇が怪しく笑みを浮かべた。

白鳥鴇を連れて、俺と大地は中庭へ出た。
「いいかっ、大地っ!絶対手出すなよっ!」
「骨は拾ってやるから安心して喧嘩しろ」
「お前っ、俺の味方じゃねぇのかよっ!いや、それは後で問い質すとしてっ!白鳥鴇っ!覚悟しろっ!!」
俺が指さして言うと、そいつはふっと鼻で笑い、腕を組んでこちらを見た。
なんだ、この梳かした態度っ!
ムカッ腹のまま俺は白鳥鴇に拳を繰り出した。
しかしあっさり避けられて、逆に殴られる。
やられた事に腹が立って、蹴りを繰り出す。それもあっさりかわされて足を掴まれて放り投げられた。
地面に体をしこたま打ちつけて、痛みにのたうち回る。
嘘だろっ。こんなはずじゃ…いや、待て待て。
そうだ、冷静になれ。冷静になればいけるっ!
隙を狙って…風が吹いた瞬間に…いまだっ!
パンチを喰らえーっ!
「…残念だったな」
三度目の正直もあっさり避けられて、手を取られてまた投げ飛ばされた。
「強ぇー…なんだ、こいつ…」
「次はオレだ」
ヨボヨボと立ち上がってる間に大地が攻撃を仕掛ける。
しかし俺と同様あっさりと返り討ちにあった。
くっそー…。
土と草まみれになって、目の前の白鳥鴇を睨みつけると、白鳥鴇は嬉しそうに、楽しそうに笑った。
「いるじゃないか。真っ当な奴が。二人も。また転校してやろうと思ったが気が変わった。天川、あとそっちは丑而摩、だったな。俺と手を組まないか?」
「は?」
いきなり何の話だ?
俺と大地の目が点になった。
「…あの貴族派とか言う馬鹿共。揃いも揃って俺に罪を押し付けやがった。…言っている意味わかるか?」
白鳥鴇が真剣な眼差しを俺に寄越した。
罪を押し付けた…って事はこいつもはめられたって事かっ。
「うああー…。やられたっ!あいつらぁっ!」
「このままやられっ放し何て冗談じゃない。…庶民派として反乱と行こうじゃないか」
白鳥鴇が怪しく笑みを浮かべた。

教室に戻ると、貴族派の言葉を鵜呑みにして俺の反論なんて一切聞き入れもしなかった担任が、貴族派の連中を慰めていた。
俺達が戻って来た事に気付くと、デレっていた目が即座に吊り上がる。
「お前達っ。何処に行っていたっ!?クラスの皆を苛めて恥ずかしくないのかっ!?」
「……だってよ、白鳥」
「鴇で良い。…さて、先生。一つ質問があります」
「質問だぁ?」
横柄な態度でどかどかと足を鳴らして俺達の側に来る。体格差も相俟って俺はちょっと退いたんだが、白鳥鴇…いや鴇は何故か一歩前に出た。
「先生は、庶民派、貴族派にクラスが二分されている事をどう思いますか?」
「……庶民派だの貴族派だのお前は一体何の話をしているんだ。そんな事より、クラスの皆に謝りなさい」
……今の間が、全てを物語ってるよなー。
ほんっと狡い教師だぜ。自分は知らぬ存ぜぬを通して、責任を子供に押し付ける。だけど貴族派の両親には良い印象をつけたいから貴族派の連中にすり寄ってる。大人ってずりーよなー。
「クラスの皆に謝れ、か。なら、俺もクラスの皆の一人だよな?先生。当然、そっちも俺達に謝るんだよな?」
「あぁ、確かに。透馬の言う通りだな。先生の言葉通りならそうなるな」
「おれたちは、あやまるようなことはしてないっ!」
貴族派の筆頭が声を上げた。べそべそ泣きながらもそう言う所だけは譲らねぇんだ?うっざ。
「…自分の下になれ、教師へ嘘の報告、透馬への責任転嫁、他にも多々出てくるが、謝罪の必要はない、と?」
「白鳥。いい加減にしないと先生も怒るぞっ!」
「もう、怒ってんじゃん。っつーか、さっきからオレ達に当たり散らしてんじゃん。それで怒ってないとか言うつもりかよ」
鴇を中心に俺と大地が教師に対峙する。
だが、こっちは子供だ。相手が子供だと大人は自分が負ける事を想定しない。そして俺達だって体格差や経験値の差で大人は勝てないと思いこんでた。
けど、鴇がそれをあっさりと覆した。
「下らない。透馬、大地。行くぞ」
「え?何処に?」
「先生様は貴族派以外の言葉は耳に入らないらしいんでな。俺達は各クラスから庶民派の人間と貴族派でもまともな奴と一緒に一クラス作る」
「は?そんなこと」
「出来ないと思うか?」
出来ないと言葉を続ける事が出来ない程の勝気に笑う鴇。
その顔を見て、俺は完全に負けたと思った。
叫ぶ教師を無視して颯爽と教室を出た鴇に俺と大地は慌ててついて行く。
そして、そこからが怒涛の日々だった。
鴇が空き教室を占拠し、各クラスから庶民派と真っ当な貴族派だけを一クラスに集め、更に庶民派の人間に優しい、生徒を平等に扱うと人気だった教師をクラスの担任に引き入れ、授業をガンガンと進ませて行った。


◇ 現在 ◇


「……鴇お兄ちゃん。昔からめっちゃ鴇お兄ちゃん…」
「まぁ、そうだな。あいつの性格はそうそう変わらないだろうな。血は繋がってねぇけど、姫とそっくりだよな」
「ふみっ!?ど、どこがっ!?私あんなに超人じゃないよっ!?人間だよっ!?」
「自分の事って解らないもんだよねぇ。美鈴ちゃん。私もお茶欲しいなぁ」
いつの間にか隣に座っていた華菜ちゃんに驚きつつも、お茶を淹れる為に立つ。
新しいお茶をポットに淹れて戻ってくると、華菜ちゃんは何事もなく用意したおやつを頬張りつつ透馬お兄ちゃんと話していた。
「美鈴ちゃんだって、私を守ってくれた時凄かったんだから。私はあの時の美鈴ちゃんに惚れたのっ!」
「あー。解る。憧れっつーのを通り越して、別格だって認める瞬間ってあるよな」
意気投合して、自分の親友を語りだす二人に置いてかれた私哉…。
でも、そっかぁ。そんな方法もあったんだよねぇ…。
いっそ華菜ちゃん連れてクラスから出るのもありだったんだよねぇ。勉強だったら私が教える事も出来たし…。あの時は乙女ゲームの事を頭が一杯だったし、前世記憶持ちって事がバレても厄介だったしーって色々あったから、冷静には考えられなかったよね、うん。
でもそう考えると、高校の時の女子クラスって鴇お兄ちゃんが一度自分で経験してたから出来た事だったのかな?
……鴇お兄ちゃんらしいね、うん。
透馬お兄ちゃんは今とあんまり変わらないなぁ。けど、大地お兄ちゃんってちょっと印象違うかも。
「大地お兄ちゃんって昔は硬派だったの?話聞いてるとあんまり今の大地お兄ちゃんと結びつかないんだけど」
「うん?あぁ、まぁそうだな。大地があの性格になったのは、奏輔に会ってからだな」
「奏輔お兄ちゃん?」
「昔は、奏輔と大地はほんっと馬が合わなくてなー」
透馬お兄ちゃんだけに馬が合わない…いや、何でもないです。ただ言いたかっただけなんです。
「奏輔が引っ越してきたのは何時だったっけな…確か、小4の夏休み明けだったか」


◇ 御三家~小学四年生~ ◇(透馬視点)


「おーい、鴇ー。大地ー。次の授業、体育だぞ。移動しようぜー」
「あぁ、解ってる」
「……めんどくせぇ」
鴇と大地が渋々と立ち上がるのを教室の入り口で待ちつつ、ぼんやりと教室の上にあるクラス標示を見ていた。
毎度思うんだけど、学校の大人連中自ら、こうやってはみ出しクラスって書くのは如何なものかと思うぞ。
学年上がってもクラスも教室も教師も変わってないし、誰も気にしてないから良いんだけどよ。
むしろこのクラスになって授業も有意義な物になって、体育のレベルも上がって、何より学校が楽しくなったし。
登下校も、鴇と大地と一緒で誰に絡まれてもなんてことないしな。
にまーっと笑みが浮かぶ。
「おい。何気色悪い顔してんだ」
「安心しろ、鴇。透馬は元々だ」
「それもそうか」
「って、どう言う意味だそれっ!」
ノリ突っ込みして、互いに互いを笑いながら体育館へ向かう。
更衣室で着替えて体育館に辿り着くと、何か雰囲気が違う。
一体何があった?
と考えるまでもなく、そこでは貴族派と俺等のクラスの奴らが一色触発状態だった。
…ん?なんか知らない奴が一人混ざってるぞ?
なんだ?あの眼鏡の子。
しかも少し目が据わってねぇ?
鴇と大地。二人の様子を横目で窺うと、二人共あの眼鏡の子に目が釘付けになっていた。
(わーお…。鴇の視線は面倒起こすなって奴で、大地の視線は完全に見惚れてる。確かにあの子可愛いもんな)
眼鏡で隠れてるけど、かなり可愛い顔をしてる。
大地以外にもあの子に釘付けにされてる男子は結構いる。
(そういや、大地って昔っから惚れやすかったよなぁ。兄弟しかいない男の弊害かもしれねぇな。家は七海がいるからそこまで女に憧れってものを持った事はねぇんだけど)
まぁ、そんな事はどうでも良い。
今は一先ず争いを止めるのが先か。
鴇が歩きだすのと同時に俺も足を進める。
庶民派と貴族派の抗争間に入り、鴇が「何をしている」と威圧した。いつも思うんだが鴇、それ小学生の出す威圧感じゃねぇから。
鴇が一睨みすると、貴族派の連中は抗議を止めて、一歩二歩と後ろへ下がる。
怯える位なら喧嘩売って来なきゃいいのによ。俺達の方が圧倒的に頭が良いからってやっかみやがって。
さて。鴇がそっちの相手してる間に俺はあの子をどうにかすっかな。
近寄ると、そいつは俺を睨んできた。
……うん?こいつもしかして男か?
「どいつもこいつも。ここはアホの集団か?」
そして口が悪い。
俺も人の事言えないけどな。
「まぁ、間違いじゃないな。実際ここは本当アホが多い」
頷くとそいつは目を丸くした。
「で?お前がこれの発端だろ。まずお前誰?俺ははみ出し組の天川透馬だ」
「……嵯峨子奏輔。今日転校して来た。んでクラスに行ったら、庶民派だ貴族派だ何だって訳解らない事言って絡んできたのを適当にあしらってたんだ。んでたまたま体育館を通って落ちてたバスケボール拾ったら、そっちのはみ出し組?とか言うクラスの奴が話かけて来て。普通に会話してたら、クラスの連中がはみ出し組と話した奴は裏切り者だとか言って」
「あーあー、おう。大体読めたわ。んで最終的にお前はどっちに入るんだ、みたいな争いになったって事だろ?」
眉間に皺を寄せて頷くそいつに同情しつつため息が出た。
小4になってまで何してんだよ、こいつらマジで。
そうだな。一応説明しとくか。こいつが俺等のクラスに来るにしても状況を知っておいた方がいいだろ。
「嵯峨子。ちょっと聞け。実はな」
ざっくりと大事な要点だけをまとめて嵯峨子に伝えると、そいつは一層嫌悪を深めた顔をした。
うんうん。解る解る。
「来る学校間違えたかな」
「それは俺達も良く思うとこだが、こっちのクラスの授業が面白くてな」
「?」
「今俺達のクラスの授業内容は中学二年の内容をやってる」
「は?」
「個人授業の時間が一日に二時間あって、後から担任がざっくりとした授業をする。その後自由に質問時間があって自分の進みたいだけ、勉強して良い事になってる。ただし、学力は各教科平均的に上げる必要があるけどな」
言うと嵯峨子の瞳が輝いた。お、これは食い付いたか?
「それはいいな。正直、小学校レベルの授業は飽きてたんだ。面白そうだ。俺ははみだし組に入れて貰おう」
決まったな。
視線を鴇に向けると、鴇もこっちをみており視線が合った。頷くと頷き返されて、
「どうやら転校生はうちのクラスに来るらしいな。いいか、これから転校生に手を出した奴は何もかも失うと思えっ」
声高に宣言した。
すると、一度鴇とやりあった連中は恐怖を知っているからか、蜘蛛の子のように散り散りに去っていった。
怖いなら最初から喧嘩売らなきゃいいのによ。
今更そんな事を言っても無駄だから、一先ず集まってきたはみ出し組の連中に嵯峨子を紹介する。
すると、やっと遅れて、大地が俺達の側に来た。
今もまだ顔を真っ赤にしたままだ。…これ、やらかすんじゃないか?
「お、お前。名前、なんだ?」
「……嵯峨子」
おおーいっ!名前、名前言ってやってくれっ。夢を持たせないでやってくれっ!
「嵯峨子、か。そのっ」
ガシッと両手を両手で包む。…男同士で一体何してんだ。
「嵯峨子はオレみたいなタイプ嫌いかっ!?」
「……嫌いっつーか苦手。手ぇ、離してくんない?」
「どんなタイプが好きなんだ?」
「聞けよ。タイプー?可愛くて賢い二面性のある子、かな?」
「可愛くて…二面性…」
手を離して大地はブツブツと何か考えてこんでしまった。
「遅くなったー。授業始めるぞー」
担任が来て、授業が開始され、嵯峨子が加わった事を知ると親睦会よろしく体育の授業と称した鬼ごっこが開始された。
そしてその数時間後。
大地の話し方がすっかり変わっていた。
その話し方が板についてしまった頃。
大地はもう一度、奏輔に告白をして。
「はぁっ!?俺は男やっ!!こんだけ一緒にいて気付かんかったんかっ!?」
と今までずっと隠していた関西弁を出してまでブチ切れた奏輔と
「男っ!?てめぇ、ふざけんなよっ!!オレがどんだけ苦労したと思ってやがんだっ!?」
普段温和だけど、ブチ切れるとマジでやばい大地が産まれた。
毎日の様に喧嘩を繰り広げていたけれど、気付けば互いに互いが認め合う関係になっていたのだった。

◇ 現在 ◇


「大地お兄ちゃん…。名札、確認しようよ…」
まさかの大地お兄ちゃんエピソードに私はうっかり遠い目をしてしまう。
「ははっ。あいつ色んな意味でぬけてっからな。毎日喧嘩してた所為で勉強しなくなって、一度ビックリする程脳がすっからかんになったんだよなぁ」
「あぁ、そう言えば、大地お兄ちゃんと出会った時の理由。補習だったっけ?」
「そうそう。それは名残だな。一応高校受験の時真面目に勉強して、成績は戻ったんだけど高校入ってまた遊び出した所為で中学の時程じゃないけどアホになって。姫との出会ってからガチで勉強し直して今に至る、と」
「元々頭良かったんだねぇ。って言うかそもそもお兄ちゃん達って頭の出来違うもんねぇ」
「……姫に言われたくはねぇなぁ」
むむっ!?
私の頭は前世の知識があるからであって、元々そんなに出来は良くないよっ!?
お兄ちゃん達とは違う違う。
「自分の事は解らないもんだよねぇ」
華菜ちゃんが私と同じ口調で、むふんと呟いた。私はどう反応したら良いのかな?一先ず同じくむふんと呟いておこうかな。
「む」
「姫ちゃんっ!!」
バァンッ!!
むふんが消えたわ、ドアが壊れそうだわ、大地お兄ちゃんが帰って来て驚くわで何か私の中が大忙し。
そんな私の混乱を知らない大地お兄ちゃんは、私に駆け寄ってそして、私の顔をそっとまるで壊れものに触れるかの様に両手で包むと―――顔を歪めた。
私は言葉を失った。
こんな大地お兄ちゃん初めて見た。一体何がどうしたんだろう…?
さっきまでの和やかムードは一気に霧散して、皆大地お兄ちゃんの行動を見守る。
「姫、ちゃん…ごめん、ごめんっ…」
謝られた?
私何か謝られるような事されたっけ?記憶を探ってみても何も思い付かない。あれー?
大地お兄ちゃんの震える手が頬から離れ、額をそっとなぞった。
「………47…。時間が、ねぇ…」
大地お兄ちゃんの顔が真っ青。
え?え?大丈夫?
思わず私は大地お兄ちゃんの顔に手を伸ばしていた。
その手を大地お兄ちゃんはガシッと力強くつかむと、
―――チュッ。
キスを落として、私が驚いてびっくりしている間に、今度は私の頬にキスを落として。
「絶対に、助ける。だから信じて待っててくれ」
ただそれだけを耳元に囁くように告げて、また慌ただしく外へと駆けて行った。
………はい?
え?えーっとちょっと待って。
い、今一体何があったの?
「……ふみ?」
手と額に……ふみみっ!?
ぶわっと全身が熱せられる。
恥ずかしくて、頭が沸騰しそう。絶対今私の顔からは湯気が出てる。
顔を隠したくても、その手ですら大地お兄ちゃんにキ、スされたから、更に熱が増しちゃう。
もう、もうっ、いきなり何なのっ!?
私達和やかに昔話してたのに、いきなりシリアスな空気に変えられても、戸惑うんだけどーっ!
キスなんてされたら増々戸惑うんだけどぉーっ!?
うぅぅ…大地お兄ちゃんの馬鹿…。
なんて、私が大地お兄ちゃんに翻弄されている間、一部始終を見ていた透馬お兄ちゃんの視線は大地お兄ちゃんの出て行ったドアにみの注がれていた。
その表情があり得ないくらい険しいものだったと私が気付くのはそれから暫くしての事だった。

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