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最終章 数多の未来への選択編

※※※(大地視点)

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―――数時間前。

姫ちゃんに見送られ、オレは今日も姫ちゃん特製のお弁当を持って、洞窟の探索へと向かった。
姫ちゃんのあの不服そうな?不満そうな?顔を思い出すとついつい笑ってしまう。何でかって?可愛いからに決まってる。
そんなにオレが心配なのかなー?とか思うとマジやばい。テンション上がる。アクセル踏み込んでいいか?駄目だよなー。
順調に車を走らせて、洞窟前に辿り着く。前回と同じく車を止めて、早速中へと潜る。
一層も前回二層もクリアした。
今日は三層に進む。
これまで通りなら恐らく問題と思う。
敵も遭遇し次第倒して来てるしな。
真っ暗だった二層も前回ボスキャラを倒した時に明るくなった時のままであっさりと三層への入り口である梯子を見つけた。
って言うか、ここ。三層の入り口の穴。前回の戦闘中ここにあるって知らなかったから、下手してたら落ちてたかもねー。まぁ、落ちても怪我はしないだろうけどー。
カンカンと音を立てて梯子を降りる。
お?明るい?
二層と同じく石が光ってるっぽいけど…それだけじゃない?奥の方で何かがビカビカ光ってる。
警戒してはいるけど、スピードを緩めることなく足を進めると、その光っている物が何か素直に納得した。
「おー…ここが金銀財宝の山って事かー」
思いの外、近かったなー。財宝置き場。
本物かどうか、確かめるか?
あー…でもなぁ。罠って可能性が高いっつーか、多分罠だよなー。
一歩近付く毎に首筋の辺りがチリチリしてくる。絶対に何かある。
下手に近づかない方がいいな。
敢えて懐中電灯で周りを照らす。金銀財宝を避けて周囲を確認する。すると何もない真っ暗闇の方に下へ行く梯子を見つけた。あっちに行けば四層か。
オレは財宝に特に興味はないし。まずオレが確かめるべきは姫ちゃんが安全に進めるかどうかだし。三層が財宝エリアって事は、恐らく呪いはここでかけられたと考えても良い。
となると解呪方法はあるとしたら更に最深部だな。何でそう思うかって?RPGの鉄則っしょー。ボスと秘宝は最深部って。
四層に行く梯子に足をかけた所で、
「………だっ?」
話し声が聞こえた。
一体誰だ?
相手の姿を確かめる為に、梯子をもう少し降りて姿を隠して待機する。
オレはあちらの気配に気付いたけど、むこうは全くオレの存在に気付いていないらしい。
梯子をカンカンと靴を鳴らして降りてくる音がする。
姿を覗くのはもう少し後だな。今覗くとバレる可能性がある。スッと自分の気配を消す。
相手の行動にのみ意識を集中する。
「いや、誰だとか言われても、あの入り口を発見したら誰でも入れるっスよー?ここ」
「何を言うっ!お前だって気付いていただろうっ!入口が私達以上に巧妙に隠されていたっ!更に、あのトラックっ!誰かしらいるに違いないっ!」
「はぁ。確かに入口は巧妙に隠されてましたけど、本当に隠したかどうかも定かじゃないっスし。トラックに関しては山菜取りの祖父さんかもしれないっスよー?」
「むむっ?」
「けどまぁ、誰かしらいてもおかしくはないっスねー。前回来た時、一層と二層にモンスターがいた筈なのに、一体もいなかった。あんな化け物を倒せる人って中々いないと思うっス」
「うむ」
「前回先輩は逃げるだけでしたし。今だって俺っちを盾にしてますよねー?先輩本当に忍びっスかー?」
「何を言うっ!見るからに忍びだろうっ!忍び以外に何に見えるっ!?」
「……形から入るタイプっスよねー」
こっちに全然気付いてなさそうだな。
姿を確認してみるか?
そっと穴から顔を出して見ると、そこには如何にも忍者な姿の男と、作業服を着崩して袖を腰で巻いているピンクのTシャツ着ている男がいた。
「……ねー、パイセーン。正直に裏門の姐さん達に話をして、助けて貰うってどうっスかねー?」
「そんなこと出来るかっ!裏門の人間は我々を見捨てたんだぞっ!」
「やー。それ勘違いっスよー?俺が調べた所、表門がついていけなくなって裏門と袂を別ったらしいっスよー?」
「………そんなことはないっ!」
「聞いちゃいねーやー」
……苦労性?
先輩の方は別として、後輩は嫌々ついてきたって所かー?
何か、仲良くなれそうな予感がある。
ただ、それ以上にこいつ…。
俺はばれないように慎重に頭を穴の中へ戻す。
「とにかくだっ!この中にきっと呪いに関する情報があるに決まっているっ!探すぞっ!」
「えー?多分無いと思うっスー。ねー、そこにいる兄さんもそう思うでしょー?」
やっぱりなー。
後輩の方の能力が先輩と違って馬鹿高い。
これ以上隠れてても無駄だな。
穴から戻り、二人の前に立つ。
「でかっ!?」
「ちっさっ!?」
思わず出た言葉に互いに驚いて笑う。
「やー。あんたでっかいねー」
「おたくはちっさいねー」
『わははははは』
「仲良くなってんじゃなぁーいっ!!」
やばい。こいつとは本当に仲良くなれそうだ。
会話を交わしただけで同類と知る。
一先ずその先輩とやらを無視して、オレは目の前の後輩と話す事にした。
「まぁまぁ、座って話そうやー」
「お、いっスねー。丁度そっちに座れそうな岩があるっスよー」
「おいいいぃーっ!!」
何か叫びが聞こえるが無視無視。
後輩と岩の方へ行き座る。
「お茶でもいかがっスかー?」
「おおー。いいねー。じゃあ、オレも出すわー。弁当は如何ー?」
「おおーっ!最高っスーっ!」
ちょっと早いけど、姫ちゃんの特性弁当を取り出し二人の間に広げる。箸を渡すと代わりに紙コップに入れられたあったかいお茶が返って来た。念の為に割り箸を入れといて良かったー。
『いただきまーす』
「うぉーいっ!!何を仲良くもぐもぐしてやがるぅっ!!」
先輩が何やら騒いでるが無視無視。
「所で」
「小次郎っスー」
「小次郎は何でここにいるのー?もぐもぐ」
「あれの付き添いっスー。あんた」
「大地ー」
「大地さんは何でここにいるんスかー?もぐもぐ」
「オレの大事な大事な女の子が、表門の子供を助けたいって言ってるからかなー」
「えぇーっ!?マジっスかーっ!?あんなの表門の馬鹿達が自分でやらかした事なのにっ!?神っスかー?」
「そうなんだよねー。ほらオレの姫ちゃんって心も見た目も心も優しくて綺麗だからー。もぐもぐ」
「ひぇー。超優しいっスねー。もぐもぐ」
「それでいて料理上手。美味いっしょー。これ。オレの姫ちゃんの手作り」
「マジっ!?やー、凄いっスねー」
「でっしょー。仕方ない。オレの秘蔵の写真を見せてやろう」
「おっ!?言っとくけど、俺っちの目は厳しいっスよー。何せ、美人な彼女がいますからーっ」
「なにをぅ?じゃあ、見せあいっこだー」
「望む所っスよっ!……準備は良いっスか?せーのっ!」
バッ。
互いにスマホの画面に映った女性の姿を見て、納得した。
「あー。これ勝負出来ない奴だー」
「っスねー。どっちも違う方向で可愛いやつっスー」
姫ちゃんはどちらかと言えば、幼い可愛いから進化の綺麗系。ほんわか癒し系タイプ。
小次郎が見せて来た彼女は、大人の色気を醸し出してたまに可愛さが飛び出てそれが堪らなく可愛い麗し系。しゃっきりお色気系タイプ。
「やー、可愛いっスねー」
「そっちも可愛いねー」
でも自分の所のが一番可愛い。
互いにそう思ったのか、改めて自分のスマホの画面を見て気付けば頷いていた。
…そういやすっかり本題忘れてたけど、こいつらは一体何しに来たんだ?
小次郎もそう思ったのか、オレ達は同時のタイミングでスマホから顔を上げて隣を見た。
あまりにもピッタリだったから、つい笑ってしまいつつ、口を開いたその時―――。

―――ビービーッ!!

「な、何っスかっ!?」
「警告音っ!?一体何処からっ!?」
立ち上がったオレと小次郎が周囲を警戒する。
すると白く光っていた筈の石が端から切り替わり赤い光を放つ。
そして、目の前に広がる金銀財宝の山が瞬時に姿を消した。そして現れたのは、忍び服の先輩が一人。
「い、一体何事だっ!?」
突然地面に叩き付けられて、顔を擦りながらキョロキョロと頭を動かす。どうやら顔面から落ちたらしい。
だが、今はそんな事はどうでも良い。
やばい気配がする。
一層、二層では一切感じなかった気配だ。
そう言えば三層に入った時、感じたチリチリとした感じ。それが爆発的に広がったようだ。
「…やべぇっスね…」
「…マジでやばそうだな」
無意識に戦闘態勢に入るオレ達。
ヤバい気配を放つ奴が奥にいる。金銀財宝があった場所の奥に。
「な、何だっ!一体なんなんだっ!」
「先輩っ!良いからこっちに来いっ!!奥に何かいるっ!!」
「な、何ぃっ!?」
シュバンッ!
音が聞こえそうな程の速さで小次郎の後ろに隠れた忍び服先輩はガタガタと解りやすく震えている。
「先輩、一体何しやがったんだっ?」
「何って、何もしていないっ!!ただ怪しいスイッチがあって三つあったから三つとも押してみただけだっ!」
「やってんじゃないっスかっ!この薄ら馬鹿っ!!」
スイッチを三つ押した?
どれの事だっ!?
視線を巡らせてみるもボタンらしきものは何処にも…くそっ、近寄って見るしかねぇかっ!
走ってさっきまで忍び先輩がいた所へ行き、周囲を見渡す。
横、無い。前、無い。天井、無い。なら後は地面だけだっ。
地面を見ると、確かに三つボタンが並んでいた。これかっ。
しゃがみこみ、そのボタンを覗き込む。そこには『触るべからず』と書いてある。…書いてあるっ!何で触ったしっ!?
これ絶対封印だろっ!!奥に居る何かがヤバ過ぎるから、裏門の連中は封じたんだっ!!
ヤバい気配がするのに、生物らしき音は何もしない。
ただ、体が震えるほどの恐怖がある。
もう一度、封印しなければっ!
「おいっ、小次郎っ。お前封印の術は使えるかっ!?」
「出来るっ!」
「奥から来るのは、恐らく実体を持っていないっ!恐らく倒せないっ!」
「だから封印するんスねっ!了解っス!!」
小次郎が恐らく封印する為に必要な何かをポケットから取り出す。
オレは何か時間稼ぎはないかと辺りを注視する。
足下のボタンは赤だ。他に赤いボタンはないか?
こんなヤバい気配の奴が一つの封印で済む訳がない。絶対何重にも重ね掛けをしているはずだ。
地面に巧妙に隠されているボタンをまた発見する。必ず三つあるようだ。…これは、青いボタンか?
更に周りを見ると、赤が2、青が1の三つのボタンがあった。これはもしかすると、押したボタンが赤になるのか?

―――アアアアアァァァ。

「―――ッ!?」

掠れる微かな雄叫びが一つ。一つが二つに増えて、三つ、四つ…どんどん増えて行く。
「おぎゃあああああっ!!」
思わずオレも叫びたくなった。忍服先輩は叫びまくってるが内心はオレも小次郎も一緒だ。
が、落ち着け。オレが叫んだ所で状況は変わらん。
一層はリザードマン、二層はスケルトン。三層は、…どうやらゴーストの層らしい。
攻撃を当てる事が出来ない。何故なら透けてしまうからだっ。
「ちっ。厄介な事になったっ」
RPGのゴーストの鉄板って言ったらなんだ?
魔法、火属性、光属性、聖属性、後は実体化させる事、それから聖水、回復薬、治癒魔法とか効くのもあったりするよな。
どうする?オレはアイテムなんぞ持ってないし。
恐らくヒロイン…姫ちゃんが一緒ならここは楽勝なんだろうが。ヒロインは光や聖属性と相場は決まってる。まぁ稀に戦うヒロインもいたりするが、それはそれで一緒に戦う事が出来るから突破口も一緒に考えれる。
その点今はその大事なヒロインを守る為の一歩の最中だ。
ゴースト…所謂幽霊って奴が次から次へと湧いて来ている。スケルトンより余程厄介だ。
何より、恐らくそのゴーストの親玉、封印されている何かが奥の壁からじわじわと近づいて来ているのが解る。水が地面に沁み込むみたいに浸透しながら近づいている。
光…光と言えば?
ふと辺りを見渡す。
そうだ。今は赤い光を放ってるが、本来は白い光を放っていた。
赤い光になった途端に、ゴーストは現れた。と言う事は、だ。
いざとなったら二層に逃げれば良い訳だ。
逃走経路が確立したなら次は倒し方を考える。光魔法、もしくは治癒魔法系、火魔法でも良い。何かオレのスキルに無かったか?
前に見た時は何もなかったが…。
もう一度確認の為にスキルを開く。
そこに見覚えのないスキルが一つあった。『鈴の音』と言うスキルだ。なんだこれ?詳細を見てみると、『主人公の祈りが鈴の音となって響き渡り、辺り一面を浄化する聖属性範囲魔法。使用回数は一回のみ。ただし闇属性の強い敵、ボス敵には無効』と書かれていた。
「これ、今使うしかない奴じゃーん?」
けど使用出来るのは一回のみ。
辺りを見渡す。まだまだ湧いて出てくる。
なら出来る限り巻き込んで倒した後に、再度奥のボスを封印して、警戒態勢を解いて赤い光を白い光に戻す。
これしかないな。
オレは小次郎の下へ戻る。
「封印にはこの護符を使うっスっ!あの奥の壁に貼るっス!」
取り出した護符にはオレには今一理解出来ない文字が綴られている。
けど今は疑うより信じる。
「解ったっ!オレが隙を作る。その間に行くぞっ!」
「うっスっ!!」
「ガタガタガタガタガタ」
ガタガタって震えてる音、声に出す奴始めて見たわー。
おっと、今は忍先輩に構ってる場合じゃねぇ。
ゴーストはオレ達に向かって増え続けている。
まだだ…まだ…もっと引き寄せる。それこそオレ達に襲い掛かってくる寸前まで…。
ゴーストが周囲を取り囲み始める。
…距離残り十歩。…九、…………三、二、一…ゼロッ!
「スキル発動っ!『鈴の音』ッ!!」
叫ぶと同時に。

―――リィィンッ!!

澄んだ…けれども、どんな音も凌駕する鈴の音が辺りに響き、次いで現れた衝撃波がオレ達を中心として波紋の様に広がりゴーストを消滅させていく。
「行くぞっ!!」
「おうっ!!」
同時に駆け出す。オレがついて行く必要もないかも知れないが、何がどうなるか解らない。
何か起きた時直ぐに対処出来る様にしておきたい。
奥の壁に辿り着くと、体中に悪寒が駆け抜ける。気持ち悪ぃ。
それをぐっと堪えて、小次郎が壁に護符を抑え付け素早く宙で何か文字を綴って、
「『封』ッ!」
叫ぶと、護符が光を放ち、白かった護符が青くなり壁へと貼り付いた。
途端、悪寒が完全に消えて、石も赤い光から白い光に戻る。
「成功したっスねー」
「助かったー」
封印した壁を背にずるずると二人で座りこむ。
すると向うからさっきまでガタガタしてた奴がこっちにずんずんと怒りながら向かって来ていた。
「おいっ!小次郎っ!置いて行くんじゃないっ!」
「先輩、少し反省して欲しいっスー。アンタの所為でこうなったんだからー」
全くだ。横で深く頷く。
が、忍先はこれっぽっちも気にしていなく。
なんならずかずかとこっちに歩いてくる。
あぁ、でもスイッチはちゃんと避けて通ってるな。その位は解るって事か。

…と、油断してたのがオレのミスだ。

「大体、貴様は何で敵と仲良く」

―――カチッ。

何かのスイッチの音がした。
音も何もしない。
ただ、封印したはずの気配が背後でぶわっと膨れ上がる。
さっきの比ではない程の側に。
慌てて小次郎と距離を取るものの、壁から突き抜けて来た黒い靄のようなものに首を巻きとられる。靄の触手みたいだ。
「ぐっ!」
「うがっ!」
「ひょえええええっ!!」
ひ、一人だけ緊張感のない声だし、やが、って…っ、くそっ!
靄の触手がじわじわと首を締めあげて行く。
息が出来ないっ!
でも、待て、よっ。
締められてるって事は、物質があるって事だっ!
そうだ、ならっ!
締められている靄の触手に手を伸ばし、握りしめる。
触れたっ!
いけるっ!!
ぐっと力を込めて払い退けると、同じく判断した小次郎がついで払い退けた。
小次郎が急ぎ、護符を四枚取り出し、素早く文字を綴って『封』と叫んだ。
四枚の護符が最初に貼り付けた護符の四方に飛び、貼り付き青くなった。

『……呪イ…。宝、命吸収、……苦シムガ良イ…』

声が聞こえて、気配は完全に消え失せた。
完璧に封印されたようだ。
恐らくこれでスイッチに触れても出て来ないだろう。
変わりに護符をとったら出てくる仕組みになってそうだが…。
しかし、最後のセリフは一体…?
何はともあれ一段落だ。
また何かやらかされても迷惑だ。
オレと小次郎は忍を連れて二層へと戻った。

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