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第二章 火焔の国バルダタ
20.パイロの策略
しおりを挟む火焔の国バルダタの象徴とも言える不死の鳥エンドルフィン
普段は温厚で一番に国の為を想う心優しい鳥なのだが、魔王の力によって洗脳を受け、今は活火山の頂上で荒れ狂い民に危害を加えていた
不死の鳥は体長約五十メートルにも及ぶ超巨大鳥で、その大きな翼をひと度羽ばたかせれば、里への落石が絶えなかった
突然の不死鳥の異変に里の長が自ら立ち上がり様子を見に行くが、頂上に向かったきり彼らが里に戻る事はなかった
ーー彼奴らを解放してほしければ、勇者を連れてこいーー
里長の息子であるパイロは、不死の鳥エンドルフィンにそう命を受け、勇者の出現を待っていたーーー
.
「オマエ達があの荒れた不死鳥を鎮めると?」
俺とラシエルは里に入り、里長の家に取り残されたパイロと出会った
両親を失い悲しみに暮れ、荒れた家に一人残されたパイロは、絶望の淵に立たされつつも、齢十にして次なる里長としての威厳を見せた
「今この里がどういう状況なのか知っているのか?オマエ達如きがどうこう出来るモノじゃないんだぞ。現にエンドルフィンの神助を授かったオレの両親ですら、アイツに殺されたんだ」
「安心してください!必ずやこの勇者ラシエルが民を救ってみせますから!」
「そんな勝手に…」
俺達はパイロの前に突然現れては、自信満々に言ってのけた
なんたってストーリー、もとい攻略を知っているから!
この後パイロの信頼を得た勇者は御近付きの証に夕餉をご馳走になる
そこで勇者に与えられた杯に眠り薬を仕込まれ、意識を失くした勇者はパイロとその仲間によって不死の鳥エンドルフィンの贄として捧げられる
エンドルフィンの無数の火山弾の攻撃によって勇者を葬ろうとするが、危機一髪そこで目覚めた勇者ラシエルがその火山弾の雨を避ける
そしてその攻撃回避がまたべらぼうに難しい
一撃でも当たれば今のステータスのラシエルでは即ゲームオーバーになってしまうだろう
「へへ、だーいじょうぶだって、俺に任せとけ!」
「…?…何だか凄く得意げですね」
だからラシエルにはその杯さえ飲まないように伝えれば、気を失う事もないし、本来なら不死鳥討伐クリア後に貰える里長の家の蔵に眠る退魔の鎧を今のうちにこっそり拝借して、防御力底上げした状態でエンドルフィンに挑めばいい
それでなくても俺は何度もやり込んでいるので、火山弾が被弾する軌道も全て把握済みだ。何かあればラシエルに指示してやることもできる
「勇者…お前があの伝説の…疑って悪かった。今日はもう日も遅い。明日に備えて、今夜は夕餉をご馳走させて欲しい」
きましたきました。パイロが何やら意味深な表情を浮かべて、側に立つ部下たちに何か耳打ちをしている
「えぇ~!いいんですか?じゃあお言葉に甘えて!」
俺はニコニコとラシエルに笑顔を送る
当の勇者本人はトントン拍子に話が進んで行くことが不思議なのか少し困った表情で俺を見てくる
「安心しろって!飯は絶対美味いから!」
「…は…はぁ」
何よりこの火焔の国の郷土料理もジ◯リとかに出てきそうなほどとにかく美味しそうなモノばかりで、俺はそれを心底楽しみにしていた
ラシエルに酒さえ飲ませなければ、ここのメインストーリーはクリアしたも同然だ
パイロが夕餉の時間まで準備をするから少し時間を潰してきて欲しいというので、俺はラシエルの手を引いて里で手に入る宝箱の探索に勤しむことにした
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「リュドリカさんは本当にお宝を見つけるのが得意ですね」
「へへ、後で換金しに行こう。そういえばこの里の名物に溶岩石で作った焼き芋が有名みたいだから後でそれも食べにいこうな!」
「ふふ、はい、楽しみです」
パイロに言われた通り俺達は適当に時間を潰して、再び里長の家に戻った
客間のような部屋に案内されついていくと、そこにはアニメやドラマでしか見たことないような豪華なご馳走がズラリと並んでいた
「うわぁ!!すっげぇ料理の数だな!?これ全部食べて良いのか!?」
「もちろんだ。この国の守護神だった不死の鳥に挑むんだ。これでも少ないくらいだよ」
パイロは幼いながらに取ってつけたような笑顔を見せて、どうぞ召し上がれと俺達を席に着かせる
「ほんとに凄いご馳走だ……どれも美味しそう」
普段は穏やかな笑顔からあまり表情を崩さないラシエルも、眼の前のご馳走に少年のように目を輝かせている
「へっへ、じゃあ乾杯しようぜ!あ、でもお前は酒呑んじゃダメだからな!未成年だし!」
「未成年……俺もう十八ですし、成人してますよ。ダメというのならリュドリカさんだって……」
「俺はいーの!だって確か二十二だもん!多分!」
「何だか曖昧ですね」
BSB内において成人年齢は十八となっており、義務教育なんてものも無ければ酒もタバコも結婚も全く持って問題ないらしい
そして俺が転生したリュドリカ・ユニソンはキャラクター設定では二十二歳だったはず
俺自体は酒もタバコも許されない十八だが、死んでしまったから全く以って問題ないのだ!…………うん!
「はい!お前にはこれ!」
懐からウォーターボトルを取り出し、ラシエルにグイッと差し出す
ラシエルはすぐ諦めたように、苦笑した
「うーん、分かりました。貴方がそこまで言うなら……」
ボトルを手にして、乾杯する
そして目の前のご馳走を見渡してどれから先に手をつけようか迷う
隣をふと見ると、ラシエルは緊張しているのか、まだ両手を膝についていた
「……明日はかなり苦戦するかもしれないけど、俺がついているからな。ラシエル、一緒に頑張ろうな」
ニコニコとラシエルを見て楽しそうに微笑む
まるで遠足でも行くのかというほどの浮かれ具合に、ラシエルもつられて口角を上げた
「ふふ、リュドリカさんにそう言われると、俺も何だか頑張れそうです」
やっと緊張の糸がほぐれたのか、強張る肩が下がった気がする
その陰でパイロが不敵に微笑むのも知らずに、この時の俺は本当に迂闊だったと後々に後悔することとなる
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