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第三章 迅雷の国カンナル

27.宿屋のひととき1

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「泊まり二名ね~、じゃあここに名前を……」

「これ、お願いします」

受付の紙の上にポン、とプラチナトラベラーのカードを差し出す
ふと店主がラシエル達を見るなり目を見開き挙動不審になる

「あっあなたは!?ま、まさか勇者様では!?あっ部屋!一番良いところ!用意してますんで!今確認取りますね!」

店主は慌てたように焦りそそくさと裏の従業員室に入って行ってしまう
俺はその動揺っぷりに驚いて反応が遅れてしまった

「はっ!?いや、いいって!おい!普通の部屋で!!」

すぐに店主が戻り、キラキラに光るプラチナのカギを手渡される
ラシエルが、良いじゃないですか、折角なんだし。とかなんとか横で言っているが、俺にとっては全然良くない!

「ごゆっくりどぞ~」

ラシエルに手を引かれ店主が見送る
すぐに店主は通信器具のようなものでどこかに連絡を取っている様子だった
ラシエルの問題行動が旅人の宿屋全体に周知されちゃってる。もう宿すら使えないな、今後は…。


あれよあれよと再び最上級グレードの部屋に連れられて、俺達は一息ついた

「あとここからどれぐらいあるんでしょうか」

「そうだなぁ…ここはまだ国境の境目辺りをうろついているから…目的の場所にはあと何日かは歩きが続きそうだな」

「そんなに…移動が大変ですね」

「あぁ、それなんだけど……」

俺はニヤリとしたり顔をする
そう、次の目的地ではパワーグローブがメインなのだが、これから長い旅をしていく時に重要なスキルの一つに、ペガサス飛行が手に入るのだ

「次の国に行けば、今より移動がもっと楽になるから」

「どういうことですか?」

「迅雷の国カンナルには神獣ペガサスがいて、俺達の旅をきっと手助けしてくれる」

まあ、一度の移動に20ルータを取るなんてタクシーみたいな商売しているけどな

「え、それは凄いですね」

「だから今回で歩きでの移動が最後になるかもな!てことはこの宿にも泊まる事もなくなる!」

ていうかもう目付けられてて気まずいし、毎回この部屋に案内されるのも困る
回数制限は五回なのだ。いざという時に残しておかなければならない
しかしラシエルは考え込むように黙り込んだ

「……。」

「ラシエル?」

「……聞いた話なんで受け売りでしかないんですか、魔法を使える人はワープ移動も出来る、なんてことを聞きました」

「へっ……」

そ、そうなの?やっぱリュドリカもワープ魔法を使えるのか!?
じゃなきゃこんな貧弱な身体で五十キロもかけてナナギ村に移動するなんて無理な話だしな

ラシエルは俺をジッと見てくる
お前は魔法でワープ使えないのか、なんてことをきっと思っているのだろう

「俺は…」

「あと魔術師は一人につき一人、自分と相手に印を使って契約し、その相手の元にワープ出来る。というのも知ってます」

「……へぇ?」

そんな高等技術のような魔法、俺には絶対出来っこないけど…
そんなこと言うってことは、ラシエルは俺と契約したがっているってことなんだろうか

「ま、まあ…俺達常に一緒にいるし?そんな契約無くても大丈夫かな…」

「………。それもそうですね。何かあったら俺はすぐリュドリカさんの所に駆けつけます」

「あ、はは…頼もしいな」

「…はい、なので、何かあったら俺の事を強く呼んで下さい、光の速さで飛んでいきます」

「えへへ、ありがと」

そんな雑談を終え、ラシエルがじゃあ常に一緒にいるので一緒にお風呂に入りましょうなんて言うから適当に交わした

「うーん、移動魔法か…そんなの使えたら便利だけどな。他の宿の客達に聞いてみようかな?」

俺はシャワーを浴びるラシエルを一人置いて、部屋を出た
宿の中には世界各国から人が集まる休憩所もあるので、そこに向かう

「魔法の使い方とか、知ってるヤツいないかなぁ」

休憩所に着き、キョロキョロと周りを見渡す
黒髪にローブを身に纏い丸い眼鏡を掛けているいかにもって感じで魔法を使いそうなヤツを発見したので、ソイツに話を聞くことにした

「あの、ちょっとすいません」

「どうしました?」

「魔法についてお尋ねしたいんですが…」

「魔法ですか?どんな魔法ですか?」

「移動…というか、ワープ出来る魔法ってどうやるんですかね?」

「ワープ……」

その男は数秒と考え込んだ後、うーんと頭を捻らせる

「ワープを使うには、誰か一人と契約して、その人の場所に飛ぶか、その人を自分の場所に呼び出すか、或いはその人と居場所を交換するか、というものは出来ますけど……」

「ほう……」

呼び出すだけじゃないのか。結構便利な魔法なんだな

「ただ一定の場所にワープすることは、難しいと思います。強い魔力を施されたワープポータルで移動するとかしか……」

「あ、そうなの?」

なんだ、やっぱりワープ魔法ってないんだな。やっぱり神獣ペガサスライダンを仲間にするしか無いか

「じゃあさ、その契約してワープする方法ってどうやんの?」

「なんかタメ口になってる……お互いの家紋をお互いの身体の何処かに印を刻んで、そこにそれぞれ生気を少し取り込む。そしたら出来る筈ですよ」

「なるほど…」

できる気がしねえ。ラシエルはともかくリュドリカの家紋なんて知らないしなぁ

「分かった!ありがとな!」

「はい、良い旅を」

ローブを着た眼鏡の青年に手を振ってお礼を言う
いいヤツだったな、額に傷は無かったけど。あ、そうだ、もう一つの目的を忘れるところだった

「露天商…まだやってるかな…」

俺は閉店間際の露天商のおじちゃんに声を掛け、とある商品を手に入れた

「フフ、やっと手に入れたぞ…これさえあれば……」

少々値は張ったが、旅で貴重アイテムを手に入れていた為へそくりは十分あった
俺はそのアイテムを大事に懐に仕舞い、自室へ戻った


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