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第二章 火焔の国バルダタ

26.心の広さと疚しさと

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「ありがとな。信じてくれて」

「当然です、寧ろ俺の為に気を遣って頂いてありがとうございます」

ニコリとラシエルが微笑む
一時は芋焼きのNPCに勇者の運命を変えられかけて、どうなることかと思ったが安心して俺もつられて笑顔になる

「お前ってほんとに物分かり良いよな。パイロだって、最初は俺達を生贄にしようとしてたんだぞ?」

「…そう、ですね…。確かにあの時は少し憤りましたが…貴方に大事は起こりませんでしたし」

ラシエルは俺を見て、フッと目を細める

「それにパイロの盛った薬は、本当に強力でした」

「薬?」

あ、そっか。本来なら本物の勇者に盛られる筈の睡眠薬が俺が飲んでしまったことにより、ストーリーがちょっと拗れかけたんだよな
俺は改めて自身の身が物凄く危険な場面にいたんだと思い返す
あの時ラシエルが来てくれなかったらと思うと、その後の展開は想像もしたくもない

「ホントにごめん…俺…めちゃくちゃ迷惑かけたよな…」

「大丈夫ですよ、貴方は何をしても目覚めなかったので……とても楽しめました」

「………。」

「またお酒呑んでください。俺がしっかり介抱しますので」

屈託の無い笑顔を見せるラシエル。俺の顔から笑顔は消えた
俺はラシエルの事が大好きだけど、そろそろ殴っても良いかなぁ?

そういえばコイツがあの場面で遅れてやってきたのも、夜通し俺に変な事をしてただけのただの寝坊だったってことだよな!?

今更ながらに怒りと羞恥が募る

「なのでパイロは許します」

「………あ……そう」

俺は許さねえよ!?
何サラッととんでも発言してんだよコイツは!

「パイロに、あの薬が余ってないか聞こうかな」

もう夕餉の時間ですし、戻りましょうとニコニコと手を引いてくるラシエル
俺は絶句した状態のまま、されるがままについていく

決めた。もし今夜寝て、起きた時に妙にスッキリしていて、尚且コイツがもう既に動けていたらその時は一発お見舞いしてやる

貞操帯って、道具屋に売ってるかなぁ……。

俺は悶々と頭を抱えながら、勇者ラシエルの問題行動に悩まされる日々が続いていく




.





「気をつけて行けよ~!達者でな~!」

「じゃーなー!パイロも頑張れよ~!」

俺は手を振るパイロに返事をし、両手を振り返す

里のみんなに別れを告げて、火焔の国バルダタを後にした
パイロから貰った鎧を手にしたラシエルは、早速その鎧を身に纏う
すると体格に不釣り合いだった大きな鎧は、みるみる内にラシエルの身体にフィットして、シュウウ、と音を出し消えていく
伝説の武具は、勇者が身に纏うと透明化をし身体に溶け込んでいく仕組みになっている

「わぁ、すごい」

「ほんとに消えた…」

そういえば聖剣も、仕舞っている時は透明化してるしなぁと、俺は改めて感心する

あれだけの重さがあった鎧も、身に纏っていることすら分からない
厚みも重さもなく、ただ莫大な防御力を手に入れた
見た目には分かり辛いからこそ、その力がどれほどのものなのかを計れない

「こんなので本当に強くなっているのでしょうか…」

「……まぁ、階段から落ちても死ぬことはないんじゃないかな」

「アハハ、面白い冗談ですね」

「………。」


俺達は次に向かう場所を目指した

迅雷の国カンナル

そこで魔術の掛かっている…かもしれない聖剣を、無事に勇者が引き抜ける為のパワーグローブを手に入れに行く

カンナルはちょうどここから西に向かい、大樹の森に神獣ペガサスと共存するナルマ族というドワーフのような小人達が棲みついている場所だ

しかし、魔王の洗脳と魔術によってペガサスは個のシンボルである翼をもがれ、あろうことか額に一角を生やされてしまう
それに憤り洗脳に掛かった神獣ペガサス、ライダンは大樹の森に落雷をもたらす

元々雷が多い大樹の森は、その大きな樹木を避雷針代わりにしていたが、今ではその頻度に耐えられず、このままではやがて森は焼き尽くされてしまう

勇者はそのパワーグローブを手にして、絶縁体である綿を伐採し、それを巨大樹に巻き付け、落雷のタイミングに振り上げて雷を受け止める…という戦闘があった
やがて力を使い尽くしたは疲れ果て、勇者の聖剣での必殺技、目醒の一太刀を浴びせることで神獣ペガサスライダンの洗脳が解けゲームクリアとなる



西に向かって歩き始めて数時間。日も暮れ始め段々と疲労も出てきた

「……づ…づかれだ……」

迅雷の国カンナルはまだこの先長いですし、どこか宿を探しますか?」

「うーん、そうだなぁ…良いけど…。でもあの最上級の部屋には泊まらないからな」

「どうしてですか?あの部屋に泊まると、凄く元気が出るのに」

「どうしてもだ……」

元気が出すぎて夜が怖いんだよ
俺は明後日の方角を見据えて己の身を案じる

「そうですか?あ、すぐそこに見えてきましたよ」

ラシエルが指を差した先に旅人の宿が構えていた
そういえば宿クエももうしなくて済んでるのか。あれ地味に楽しかったのにな、と考えながら俺達は宿に向かった

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