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第四章 海中帝国サファリア

41.願いは届かず

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〈いやぁ、ほんとに出来るだなんて驚いたよ~!よし、人間の潮吹きも見れたことだし、ボクもキミたちの願いを叶えてあげるよ!〉

帝王レインガルロはこんな人間の恥ずべき行為を見て満足気に喜んでいる
俺の隣に居座るラシエルもまた、満足そうに微笑んでいるのが何だかとても腹立たしかった

「リュドリカさん、俺はお願いごとなんて興味ないので、貴方の願いを叶えて下さい」

にこにこと笑いかけるラシエルは、寧ろもうお願いは叶いましたしねと付け足す
俺はげっそりとしながら大きな溜息を漏らす

「あ……そう……じゃあ遠慮なく」

ここまで身体を張って頑張ったんだ。漸くこの物騒なネックレスともお別れ出来ると、先程の醜態はその大きな代償だとこの海の如く寛容な心で割り切って、レインガルロに向き合い口を開く

「この首のネックレスを外して欲しいんです」

パールのネックレスを握り、リュドリカはレインガルロに頭を下げた
それを見た水龍はパッと笑顔を向ける

〈そんなのお安い御用だよ~!じゃあいくね~!〉

水龍レインガルロの額にある雨の造形を模した水晶がピカッと光る
その光はリュドリカのネックレスに反射して、段々と光度を増していく

俺はやっと魔王の呪いから解放されると、安堵の声が漏れた

「はぁ……これで……」

安心したのも束の間、バチィッッと鋭い音が王の間に響き渡る
鼓膜をつんざくようなあまりの五月蠅さに、思わず耳を塞ぐ

「ッッ!?……なん…ッ」

〈あれぇ?おかしいなぁ、ボクの龍術が効かないなんて。ごめんねぇ?それを外すのはムリっぽい〉

帝王レインガルロは、他のお願いがあれば聞くよ~だなんて呑気な事を言う
俺は呆然としながら、その言葉を呑み込むのに時間を要した

「は……それじゃあ……」

これ、取れないのか!?
未だにリュドリカの首に鎮座する呪いのパールのネックレス
今の今までのあの醜態はなんだったのか。俺は声が震えて言葉が出ない

〈うーん、だってボクよりずっと強い魔力が掛かってるもん。もしかしてそれ……〉

レインガルロは何かを察したようにネックレスを見つめ、怪訝な顔をした
俺は焦り大声でその言葉の続きを制した

「あぁっ!!分かった!!出来ないんだな!?じゃあ諦めるよ!他のお願いにする!」

危ない!もしここで魔王の名でも出てしまったらそれこそラシエルに疑われてしまう
考えてみればそうだ、洗脳にかかってしまうほど魔王の呪力は強大なのに、それに劣るレインガルロのスキルが敵うはずが無い
なんでそんなことに頭が回らなかったんだろうか、自分が浅はかすぎて情けない

「リュドリカさん、そのネックレス……何かあるんですか?」

そのやり取りを聞いて、ラシエルは不思議そうにやはり痛いところを突いてきた
俺は適当に話を誤魔化し、話題を変える

「いやっ!別にっ何でも!えーと、じゃあそうだな……何にしようかな……」

この願い以外に何も考えていなかっただけにいざお願い事を叶えるとなると何も思い浮かばない

「えーと……うーん……」

レインガルロが早く早くと再び急かしてくるので、余計に頭が回らなくなってしまう
先程の行為もあって段々と腹の音も鳴いてくる。俺は思考回路を止めて口を開く

「美味しいもの……いっぱい食べたい…です」

口から出たのは、自分の欲求に従った言葉だった
俺は浦島太郎か!あんなに自分を犠牲にして、その結果が美味しいものって!言った瞬間から後悔しかけている時に、レインガルロはまたパッと笑顔を作り、こちらを見下ろした

〈それだったら簡単だよ~!たくさん食べていってね!〉

水龍の額の水晶が再び光り、瞬く間に眼の前に大量のご馳走が並んだ
その息を呑むほどの豪華な食事に、俺はもうどうでもいいやと口から唾液が溢れる
俺の横で「リュドリカさんはほんとに食べることが好きなんですね」とラシエルがニコリと笑い掛けてくる。俺はそれを見て沸々と怒りが湧いてくるのを必死に堪えて、眼の前のご馳走に集中する事にした




.

 




腹いっぱいにご馳走をかき込んで、俺達は一息ついた
そろそろ戻らないと、地上に残されたライダンが痺れを切らしてまた雷の雨を海に降らせてきそうなので、俺は重い腰をあげる

「ごちそうさま!俺たちそろそろ行くよ!」

帝王レインガルロは疲れて眠っていたのか、ふああと欠伸をし薄目を開けて尻尾を振った

〈はーい、また遊びにおいでよ。キミたちなら歓迎するよ、その時はまた潮吹き見せてね!〉

「分かりました」

「絶対やだよ!?」

ラシエルが淡々と返事をするのに俺は瞬時に突っ込む
あんな小っ恥ずかしい想い二度とするか!
忘れかけていたのに、再び羞恥が募る。俺はどうにか忘れようと、気持ちを次の目的地に向けることにした


ーー次に目指すべき場所は、光風の国ブリサルトだ


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