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本編
2.地下室に来る人達
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ところで。マインが閉じ込められている地下室を訪れるのは、何もあの男やジュスティーヌだけではなかった。様々な人物が、様々なものを手に地下室へとやってくる。
まず最初は、あの男の妻だ。
彼女はあの男と同じように、鞭を片手にやってくる。やってくる理由は夫婦揃って同じようでいて、どこか違っていた。
「あの男ッ……! 私が何も気付いていないと、本当に思っているのかしら!?」
マインに鞭打つ時に吐き捨てるのは、あの男への不平や不満だった。
あの男が自分より若い女と浮気をしているだの、最近そちらに夢中で自分はほったらかしで贅沢品を与えてもらえないだの。どうやら最近夫妻の仲はよろしくないようで。マインに鞭を打つのは、ストレス発散も兼ねているらしいのだ。
「もっと泣きなさいよ! これっぽっちじゃ、次のお茶会のドレスすら買えないじゃない!」
もう夫から愛されていないことを、周りの貴族夫人達に悟られてはいけない。ようするに見栄なのだろう。もしかしたら彼女は、あの男の愛よりもそれに付いてくる贅沢品や贅沢な暮らしに目がくらんで結婚を決めたのかもしれないけれど。
「まあ、こんなものね。まったく……あんたが出来損ないじゃなくて豪華な宝石を生み出せてたら、もうちょっといい使い道だってあったのに」
使えないったらありゃしない。
そう嘲笑い吐き捨てながらも、マインが流した宝石達はしっかりと拾い集めて去っていく。
次は、この屋敷のメイドや使用人達。
彼らはマインの食事の他に、箒や木の棒を持ってくる。
「ほら、食べなさい」
養子ではあるけれど、マインは一応貴族の子なのだ。そんな彼女を相手にしているとは思えない態度で接してくるメイドや召使いがほとんどだった。
その日やってきたメイドが持ってきたのは、いつもの薄いスープと干からびたパンで。
このスープは、美味しいとは言い難い味をしているのだ。ひどく苦くて、ひどく渋い。
あまり食べたくない。そう意味を込めて首を振るけれど、途端彼女は怒りに顔を歪めた。
「いいから食べなさい! あんたが死ぬと、私達が旦那様や奥様に叱られるのよ!」
「ん、ぅ……」
強い力で顎を掴まれて、無理矢理口を開かされる。そこに強引にスープを流し込まれて。
「んぅ、んッ……けほっ……ぅ……」
吐き出しそうになるくらい不味いそのスープの味にむせ返り、流れた涙が宝石になって落ちる。抵抗出来る力や体力は、今のマインにはない。
なされるがまま、無理矢理スープを飲まされたマインは彼女によって突き飛ばされて床に転がる。その顔に、干からびたパンが叩き付けられた。
「早く食べなさい」
そう吐き捨てたメイドは、カンテラを片手に石の床に這いつくばる。
「あった……!」
嬉しそうに何かを見付けては、そのポケットの中に入れていった。
がめつい夫妻と言えど、暗い部屋の中カンテラひとつで全ての宝石を拾えるわけがない。ここに来るメイドや召使い達は、そんなおこぼれの宝石を目ざとく見付け出して自分の懐へとおさめていくのだ。
「ちっ……これっぽっちか」
今日は、思わしくない結果に終わったらしい。彼らの機嫌がいい時はそれだけで済むのだけれど、どうやら今日は腹の虫の居所が悪かったようで。
メイドは持ってきた箒を手に取ると、床に転がるマインへと振りかぶる。反射的に目を瞑れば、案の定箒の柄が体に打ち付けられた。
「ぃッ……」
何度も打ち付けられているうちに、自然と涙は出てくるわけで。
「そうよそうよ、その調子……!」
宝石が零れ落ちる度、メイドは嬉しそうに笑った。
「これだけあれば、またしばらくは贅沢に暮らせるわ!」
欠落品の宝石とは言えど、平民出身の彼女達にとっては大金に変わる。それが目的なのだ、彼女は。
そういえば前に別の召使い達が言っていたけれど、あの男から貰う給料が最近減ってきているらしい。そういうのが原因でもあるのだろう。
宝石を全て拾い上げて箒を手にした彼女は、マインを見下して。
「早く食べなさいよ。あんたが死ぬと、私達にだって迷惑がかかるんだから」
それだけ言い残して、メイドは地下室を出ていった。
そして最後は、マインの婚約者を名乗る男。
彼はこの地下室を訪れる人間達の中で、唯一この屋敷とは関係のない人間だった。
「ああ、マイン。元気そうでなによりだよ」
部屋の隅で力なくうずくまるマインに、彼はそう笑いかけた。どこをどう見たら〝元気そう〟と受け取れるかはわからないけれど、少なくとも彼にはマインが元気そうに見えるらしい。
「ところでマイン。また君の宝石が必要になったんだ。いいかな?」
嫌だと首を振ったところで、マインに拒否権なんてないのだ。
「大丈夫、僕は他のヤツらのように君の体に傷を付けたりはしないよ。君だって、痛いのは嫌だろう?」
優しげな声とは裏腹に、強くマインの体を押して床の上に倒す。上に乗られてしまえばもう、抵抗する術はなくなってしまった。
「大丈夫だよ、マイン。少し苦しいだけだから」
「ぁ……ぅ、くぁッ……」
伸びてきた彼の両手が、マインの首を強く締め付ける。ギリギリ呼吸が出来るか出来ないか、そんな力加減で彼女の細い首を締め付け続けて。
呼吸が出来ない苦しさで、マインの目から涙が溢れ出す。
「そうそう、その調子。いい子だねマイン」
首を絞め続ける彼は、優しい声音で彼女に声をかけた。
「君のお父さん達も馬鹿だよね。こんなに綺麗な顔や体をしてるっていうのに、鞭や棒切れで何度も叩いたりなんかして」
「ッ、げほっ……は、っ……」
意識が飛ぶ寸前で、彼の手が首から離れる。むせ返りながら肩や胸を大きく上下させて呼吸を整えるマインを、彼は楽しげに笑いながら見下ろしていた。
「ああ、本当に……綺麗だ」
いや。彼が見ているのは、彼女から流れ続ける宝石だろうか。
「もう少し頑張ってね」
そう言って、呼吸が整ってきたマインの首を再び手で締め上げ始めた。
「君から産まれてくる子供も、君と同じような特異体質者かもしれない。それなのに体を痛めつけるなんて、どうかしているよ。君だってそう思うだろう?」
抜け目がないのかもしれない。彼はそういう性格の人間だった。
それと同時に、どうしたって殺してはくれないのだろうと悟る。そして、彼が自分との間に出来る子供ですら利用しようとしていることも。
「僕と君の間に出来る子だ。きっと美しいに決まっているよ、その顔も、作り出す宝石も」
「ぁ……っ、ぅ……」
いや、違うか。利用されるのは子供だけ。子供が生まれ、その子が自分と同じ特異体質だったら……自分はどうなるのだろう。マインは、苦しさの中でそう思う。
首を絞め上げ、意識を手放す寸前で手を離し……そんなことを繰り返していれば、やがて彼の目的としていた量の宝石が溜まったのだろう。
「ありがとう、マイン。愛しているよ」
優しげに笑い、力なく呼吸をするマインの唇に自分の唇を重ねた。そんな彼の目にはやっぱり、目の前の宝石しか映っていない。
まず最初は、あの男の妻だ。
彼女はあの男と同じように、鞭を片手にやってくる。やってくる理由は夫婦揃って同じようでいて、どこか違っていた。
「あの男ッ……! 私が何も気付いていないと、本当に思っているのかしら!?」
マインに鞭打つ時に吐き捨てるのは、あの男への不平や不満だった。
あの男が自分より若い女と浮気をしているだの、最近そちらに夢中で自分はほったらかしで贅沢品を与えてもらえないだの。どうやら最近夫妻の仲はよろしくないようで。マインに鞭を打つのは、ストレス発散も兼ねているらしいのだ。
「もっと泣きなさいよ! これっぽっちじゃ、次のお茶会のドレスすら買えないじゃない!」
もう夫から愛されていないことを、周りの貴族夫人達に悟られてはいけない。ようするに見栄なのだろう。もしかしたら彼女は、あの男の愛よりもそれに付いてくる贅沢品や贅沢な暮らしに目がくらんで結婚を決めたのかもしれないけれど。
「まあ、こんなものね。まったく……あんたが出来損ないじゃなくて豪華な宝石を生み出せてたら、もうちょっといい使い道だってあったのに」
使えないったらありゃしない。
そう嘲笑い吐き捨てながらも、マインが流した宝石達はしっかりと拾い集めて去っていく。
次は、この屋敷のメイドや使用人達。
彼らはマインの食事の他に、箒や木の棒を持ってくる。
「ほら、食べなさい」
養子ではあるけれど、マインは一応貴族の子なのだ。そんな彼女を相手にしているとは思えない態度で接してくるメイドや召使いがほとんどだった。
その日やってきたメイドが持ってきたのは、いつもの薄いスープと干からびたパンで。
このスープは、美味しいとは言い難い味をしているのだ。ひどく苦くて、ひどく渋い。
あまり食べたくない。そう意味を込めて首を振るけれど、途端彼女は怒りに顔を歪めた。
「いいから食べなさい! あんたが死ぬと、私達が旦那様や奥様に叱られるのよ!」
「ん、ぅ……」
強い力で顎を掴まれて、無理矢理口を開かされる。そこに強引にスープを流し込まれて。
「んぅ、んッ……けほっ……ぅ……」
吐き出しそうになるくらい不味いそのスープの味にむせ返り、流れた涙が宝石になって落ちる。抵抗出来る力や体力は、今のマインにはない。
なされるがまま、無理矢理スープを飲まされたマインは彼女によって突き飛ばされて床に転がる。その顔に、干からびたパンが叩き付けられた。
「早く食べなさい」
そう吐き捨てたメイドは、カンテラを片手に石の床に這いつくばる。
「あった……!」
嬉しそうに何かを見付けては、そのポケットの中に入れていった。
がめつい夫妻と言えど、暗い部屋の中カンテラひとつで全ての宝石を拾えるわけがない。ここに来るメイドや召使い達は、そんなおこぼれの宝石を目ざとく見付け出して自分の懐へとおさめていくのだ。
「ちっ……これっぽっちか」
今日は、思わしくない結果に終わったらしい。彼らの機嫌がいい時はそれだけで済むのだけれど、どうやら今日は腹の虫の居所が悪かったようで。
メイドは持ってきた箒を手に取ると、床に転がるマインへと振りかぶる。反射的に目を瞑れば、案の定箒の柄が体に打ち付けられた。
「ぃッ……」
何度も打ち付けられているうちに、自然と涙は出てくるわけで。
「そうよそうよ、その調子……!」
宝石が零れ落ちる度、メイドは嬉しそうに笑った。
「これだけあれば、またしばらくは贅沢に暮らせるわ!」
欠落品の宝石とは言えど、平民出身の彼女達にとっては大金に変わる。それが目的なのだ、彼女は。
そういえば前に別の召使い達が言っていたけれど、あの男から貰う給料が最近減ってきているらしい。そういうのが原因でもあるのだろう。
宝石を全て拾い上げて箒を手にした彼女は、マインを見下して。
「早く食べなさいよ。あんたが死ぬと、私達にだって迷惑がかかるんだから」
それだけ言い残して、メイドは地下室を出ていった。
そして最後は、マインの婚約者を名乗る男。
彼はこの地下室を訪れる人間達の中で、唯一この屋敷とは関係のない人間だった。
「ああ、マイン。元気そうでなによりだよ」
部屋の隅で力なくうずくまるマインに、彼はそう笑いかけた。どこをどう見たら〝元気そう〟と受け取れるかはわからないけれど、少なくとも彼にはマインが元気そうに見えるらしい。
「ところでマイン。また君の宝石が必要になったんだ。いいかな?」
嫌だと首を振ったところで、マインに拒否権なんてないのだ。
「大丈夫、僕は他のヤツらのように君の体に傷を付けたりはしないよ。君だって、痛いのは嫌だろう?」
優しげな声とは裏腹に、強くマインの体を押して床の上に倒す。上に乗られてしまえばもう、抵抗する術はなくなってしまった。
「大丈夫だよ、マイン。少し苦しいだけだから」
「ぁ……ぅ、くぁッ……」
伸びてきた彼の両手が、マインの首を強く締め付ける。ギリギリ呼吸が出来るか出来ないか、そんな力加減で彼女の細い首を締め付け続けて。
呼吸が出来ない苦しさで、マインの目から涙が溢れ出す。
「そうそう、その調子。いい子だねマイン」
首を絞め続ける彼は、優しい声音で彼女に声をかけた。
「君のお父さん達も馬鹿だよね。こんなに綺麗な顔や体をしてるっていうのに、鞭や棒切れで何度も叩いたりなんかして」
「ッ、げほっ……は、っ……」
意識が飛ぶ寸前で、彼の手が首から離れる。むせ返りながら肩や胸を大きく上下させて呼吸を整えるマインを、彼は楽しげに笑いながら見下ろしていた。
「ああ、本当に……綺麗だ」
いや。彼が見ているのは、彼女から流れ続ける宝石だろうか。
「もう少し頑張ってね」
そう言って、呼吸が整ってきたマインの首を再び手で締め上げ始めた。
「君から産まれてくる子供も、君と同じような特異体質者かもしれない。それなのに体を痛めつけるなんて、どうかしているよ。君だってそう思うだろう?」
抜け目がないのかもしれない。彼はそういう性格の人間だった。
それと同時に、どうしたって殺してはくれないのだろうと悟る。そして、彼が自分との間に出来る子供ですら利用しようとしていることも。
「僕と君の間に出来る子だ。きっと美しいに決まっているよ、その顔も、作り出す宝石も」
「ぁ……っ、ぅ……」
いや、違うか。利用されるのは子供だけ。子供が生まれ、その子が自分と同じ特異体質だったら……自分はどうなるのだろう。マインは、苦しさの中でそう思う。
首を絞め上げ、意識を手放す寸前で手を離し……そんなことを繰り返していれば、やがて彼の目的としていた量の宝石が溜まったのだろう。
「ありがとう、マイン。愛しているよ」
優しげに笑い、力なく呼吸をするマインの唇に自分の唇を重ねた。そんな彼の目にはやっぱり、目の前の宝石しか映っていない。
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