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本編
23.勘違いをする白百合
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〝好き〟という気持ちを抱いたらどうすればいいのだろう。
まだそれ程記憶が戻っていないリリィは、自分がどうすればいいのかわからなかった。もしかしたら昔の自分は知っていたのかもしれないけれど、今の自分は思い出すことすら出来ない。
だというのに、〝貴族は自由に恋愛が出来ない〟なんていうのは覚えているから厄介だ。
(好きになっちゃいけない人なんじゃ……)
思えば、ジュード本人にその爵位を聞いたことはなかったけれど。王宮で働けているということは、彼もそれなりの爵位についている貴族なのだろう。貴族同士ともなれば、更に恋愛なんて難しくなる。
また最近動けるようになったから書斎で童話や恋愛小説を読んでいるけれど、そういうのは所詮夢物語でしかないのだ。
今手に持っている本も、そんなハッピーエンドで終わる恋愛物語だ。
(……羨ましいな)
物語の中で結ばれる主人公達が、どうしても羨ましくなってしまう。色々な困難を乗り越え、身分も何も関係なく結ばれるのだから。
「いっその事、お父様にお願いしたら……」
一番確実で、尚且つ簡単な解決策を口にしてみたものの、リリィはそれを否定するように首を横に振る。
(……ううん。そんなの、ジュード様に申し訳ないよ)
本人の意思を無視して、更には親の権力を笠に……なんてあまりにも自分勝手が過ぎるじゃないか。
そう考えてしまえば、気持ちを伝えることさえも彼にとって迷惑になってしまうのではないかという気がして。
ばっさりと捨て去って、きっぱりと諦める他にないのだろう。頭ではそうわかっているけれど、現実はそう上手くはいかない。
……というよりも、上手くいかせてくれないのだ。なによりも、ジュード自身が。
───リリィ
つい先程、昼頃のことだ。いつものようにリハビリのために下りてきた中庭で、差し出されたジュード手にリリィは一瞬戸惑ってしまった。
手を差し伸べられることも、中庭をエスコートされるのもいつもの事なのだ。今までだって意識はしていたけれど、彼への好意を自覚してしまった今は更に緊張してしまう。
戸惑いがちにその手を取れば、思っていたよりもしっかりと握られてしまった。それだけじゃない。肩まで抱き寄せられ、必要以上に二人の体が密着してしまって。
それから先、リハビリどころではなくなってしまったのは言うまでもない。
ジュードは、何かにつけて距離が近い。それはこの屋敷に帰ってきてからずっと思っていたことではあったけれど、ここ最近はそう思うことが多くなってきた。
手を繋いだり、頭を撫でられたり、抱き締められたり。
意識するなと言われる方が無理なのだ、彼への好意を自覚してしまった後なら尚更。
ジュードのその行動達が、どんな意味を持っているのかわからない。もしかしたら自分以外の女性にも同じ扱いをしているのかもしれないけれど、しかしそんな不誠実な人間だったら両親も兄もシンシアも、彼にいい顔はしないだろう。
では、ジュードの生まれ持っている優しさとか? 自分に向けてくれる優しさが、彼の中では本当になんてことない当然の行いだという認識だったら。
(どうすればいいんだろう、私は……)
答えが欲しい、なんて。何もわからないからそんなことを思ってしまう。
この感情は抱えたままでいていいものなのか、それともきっぱりと諦めて捨て去った方がいいものなのか。それは、リリィにとっては重要なことだった。
「……もう部屋に戻ろうかな」
今はどう頑張っても、読書に集中出来そうにない。本を閉じ、書斎を出た。
あの男爵の屋敷から助け出され、約半年が経つ。夏が終わり、秋の足音が遠くから聞こえてくる時期だ。
窓から見える庭の植物も植え替えられていて、秋の花が蕾をつけている。もう少しで咲き始めるだろう。
(また、ジュード様と一緒に見られるかな)
……なんて、そう思うだけ重症なのかもしれない。
楽しみだなあ、なんて思うだけ浮かれてしまっているのかもしれない。
どうせその時になったら、花には集中出来ずに、ジュードのことで頭がいっぱいになってしまうだろうに。
(ダメだなぁ……)
何をしていても、自然とジュードのことを考えてしまう。
ドキドキして、ソワソワして、落ち着かないのにどうしてだか不快感はまるでない。むしろ、心地良ささえ感じてしまうのだから不思議だ。
ずっとこのままでいたいけれど、でもいつまでもこのままではダメだろう。
浮かれる心を落ち着かせ、頭を冷やすためにと庭へとおりた。このまま部屋に戻っては、余計に悶々と考え込んでしまいそうだったからだ。
外に出て、涼しくなり始めた空気を胸いっぱいに吸い込む。邪念を消し去るように目を閉じ、風のそよぐ音やさえずる小鳥達の声に集中して。
しかし、そう上手くはいかないようだ。
「ほら、見ろ。あれ、リリィ様だ」
「ああ、初めて見た……本当に帰ってきてたんだな……」
こそこそと話す声が聞こえ、集中力は途切れてしまう。
目を開け、横目で声の方へと視線を向けた。知らない召使い達だ。
そういえば、召使いやメイドを数人入れ替えたという話をデイビッドやアンドリューが話していたような気もする。なんてことない、学業や家庭の事情でのやむを得ない理由での退職らしい。
見慣れない彼らは、新しく入った召使い達だろう。彼ら含め数人以外は紹介はされていないけれど。
「あの噂、本当なのかな? 涙が宝石に変わるっていう」
「さぁ、どうなんだろ……でも本当だとしたら、すげぇ金持ちになれそうだよな」
聞こえてきたその会話に、どうしてデイビッド達から自分が彼らのことを紹介されていないか何となく察してしまった。
(……聞こえてるんだけど)
彼らは聞こえないくらいの声量で話しているつもりなのだろうけれど、静かな庭園では案外聞こえてしまうもので。
お陰で、ここにもいづらくなってしまったじゃないか。
気分転換は諦めて屋敷の中へ戻ろうと踵を返して。丁度、その瞬間だった。
「でも、ジュード・クラーク様も可哀想だよな。折角婚約者と平穏に過ごせるようになったってのに、あの人のせいで逆戻りだなんて」
聞こえてきたそんな言葉に、リリィは思わず足を止めてしまった。
(ジュード様、の……婚約者……)
この世に何人のジュード・クラークが存在するだろうか。仮に何百人も存在していたとして、このルヴェール家と関わりのあるジュード・クラークは彼一人だけだろう。
つまりあの召使い達が話題にあげた人名は、ジュードのことを指しているのであって。
(そっか……婚約者、いたんだ……)
知ってしまった事実は、リリィの胸を鋭く刺す。
(邪魔になっちゃってたんだ、私)
そっか、そっか。
これ以上会話を聞いていたくなくて、屋敷に戻ろうと踏み出した足にはあまり力が入らない。
「ほら、あの人……あの男爵令嬢だよ。なんて言ったっけ?」
「ジュスティーヌ、だろ?」
「そうそう、それそれ。三日後に決まったんだってな、処刑日」
「ああ……それでリリィ様もジュード様も、落ち着いて過ごせるようになればいいんだけどな」
なんて会話は、ふらふらとした足取りで屋敷の中へ戻るリリィの耳には届かなかった。
~*~*~*~
───リリィの流した宝石が、少しばかり盗まれたんだ。
昨晩デイビッドに呼び出されたシンシアが聞かされたのは、そんなあってはならない報告だった。
───新しい使用人やメイド達を雇った時期からだ。どうやら、不届き者が紛れ込んでいるらしい。
───執事長やメイド長を中心に、信頼出来る者達に探らせているよ。
───シンシア。君はリリィに近しい使用人の中で、私達が最も信頼している人だ。
───リリィの傍から離れないで、何かあれば早急に知らせてほしい。
(不届き者……)
宝石が目当ての盗人だったら、問題はそれ程大きくならずに済むだろう。しかし、万が一宝石の盗難がリリィを狙う者の仕業だったとしたら。
(三日後に、男爵令嬢の処刑が決まったというのに……)
もしかしたら、それを狙っているのかもしれない。
デイビッドもそれに勘づいていて、自分に上記のことを伝えてきたのだろう。アンドリューも、クリスティーも、長年ここに仕えている使用人達も、もしかしたら。
(当日は、ジュード様がいてくださる予定だけど……)
その他に、予定よりも護衛が増えるだろう。
同じく屋敷に残る自分には何が出来るのだろうか。考えながら、シンシアはリリィの部屋に向かう。
「お嬢様、お待たせしました~。湯浴みの準備が出来ましたので、お迎えに上がりましたよ~」
今までの考え事は頭の片隅に常に置きながらも、それを表には出さないように穏やかな口調で声をかけて扉をノックした。
「……お嬢様?」
しかし、いつもならすぐ聞こえてくる返事が聞こえてこない。
「入りますね……?」
もしかしたら書斎の方だったかもしれない。そう思いながらも扉を開ければ、しかし彼女はベッドの上にいて。
「お嬢様? どうなさったのですか?」
異変に気付き、慌ててベッドへと駆け寄る。
「…………シンシア」
顔を上げたリリィは、酷く悲しそうな顔をしていて。
「何かあったのですか……?」
昼頃、ジュードが帰った後までは普通にしていたはずだ。となれば、何かあったとすればその後から今までの間だろう。
「……ううん」
しかしリリィは首を横に振るだけで何も答えず、体を起こしてシンシアへと身を寄せてくる。背中へと回ってきた手は、酷く弱々しかった。
「ねえ、シンシア……ジュード様、明日も来るのかな」
「え? ええ、来てくださると思いますよ」
明日どころか、今からでも使いを出して呼び戻せば彼はすぐにでも来るだろう。と言うよりは、戻ってきてもらった方がいいのかもしれない。
そう思いながらリリィの背中を撫でるけれど、しかし彼女は首を横に振った。
「会いたくない……しばらく、ジュード様には会いたくない」
なんて。予想だにしていなかった言葉に、シンシアは愕然とする他なかった。
「ええ……?」
ああ本当に、何があったというのだろう。
まだそれ程記憶が戻っていないリリィは、自分がどうすればいいのかわからなかった。もしかしたら昔の自分は知っていたのかもしれないけれど、今の自分は思い出すことすら出来ない。
だというのに、〝貴族は自由に恋愛が出来ない〟なんていうのは覚えているから厄介だ。
(好きになっちゃいけない人なんじゃ……)
思えば、ジュード本人にその爵位を聞いたことはなかったけれど。王宮で働けているということは、彼もそれなりの爵位についている貴族なのだろう。貴族同士ともなれば、更に恋愛なんて難しくなる。
また最近動けるようになったから書斎で童話や恋愛小説を読んでいるけれど、そういうのは所詮夢物語でしかないのだ。
今手に持っている本も、そんなハッピーエンドで終わる恋愛物語だ。
(……羨ましいな)
物語の中で結ばれる主人公達が、どうしても羨ましくなってしまう。色々な困難を乗り越え、身分も何も関係なく結ばれるのだから。
「いっその事、お父様にお願いしたら……」
一番確実で、尚且つ簡単な解決策を口にしてみたものの、リリィはそれを否定するように首を横に振る。
(……ううん。そんなの、ジュード様に申し訳ないよ)
本人の意思を無視して、更には親の権力を笠に……なんてあまりにも自分勝手が過ぎるじゃないか。
そう考えてしまえば、気持ちを伝えることさえも彼にとって迷惑になってしまうのではないかという気がして。
ばっさりと捨て去って、きっぱりと諦める他にないのだろう。頭ではそうわかっているけれど、現実はそう上手くはいかない。
……というよりも、上手くいかせてくれないのだ。なによりも、ジュード自身が。
───リリィ
つい先程、昼頃のことだ。いつものようにリハビリのために下りてきた中庭で、差し出されたジュード手にリリィは一瞬戸惑ってしまった。
手を差し伸べられることも、中庭をエスコートされるのもいつもの事なのだ。今までだって意識はしていたけれど、彼への好意を自覚してしまった今は更に緊張してしまう。
戸惑いがちにその手を取れば、思っていたよりもしっかりと握られてしまった。それだけじゃない。肩まで抱き寄せられ、必要以上に二人の体が密着してしまって。
それから先、リハビリどころではなくなってしまったのは言うまでもない。
ジュードは、何かにつけて距離が近い。それはこの屋敷に帰ってきてからずっと思っていたことではあったけれど、ここ最近はそう思うことが多くなってきた。
手を繋いだり、頭を撫でられたり、抱き締められたり。
意識するなと言われる方が無理なのだ、彼への好意を自覚してしまった後なら尚更。
ジュードのその行動達が、どんな意味を持っているのかわからない。もしかしたら自分以外の女性にも同じ扱いをしているのかもしれないけれど、しかしそんな不誠実な人間だったら両親も兄もシンシアも、彼にいい顔はしないだろう。
では、ジュードの生まれ持っている優しさとか? 自分に向けてくれる優しさが、彼の中では本当になんてことない当然の行いだという認識だったら。
(どうすればいいんだろう、私は……)
答えが欲しい、なんて。何もわからないからそんなことを思ってしまう。
この感情は抱えたままでいていいものなのか、それともきっぱりと諦めて捨て去った方がいいものなのか。それは、リリィにとっては重要なことだった。
「……もう部屋に戻ろうかな」
今はどう頑張っても、読書に集中出来そうにない。本を閉じ、書斎を出た。
あの男爵の屋敷から助け出され、約半年が経つ。夏が終わり、秋の足音が遠くから聞こえてくる時期だ。
窓から見える庭の植物も植え替えられていて、秋の花が蕾をつけている。もう少しで咲き始めるだろう。
(また、ジュード様と一緒に見られるかな)
……なんて、そう思うだけ重症なのかもしれない。
楽しみだなあ、なんて思うだけ浮かれてしまっているのかもしれない。
どうせその時になったら、花には集中出来ずに、ジュードのことで頭がいっぱいになってしまうだろうに。
(ダメだなぁ……)
何をしていても、自然とジュードのことを考えてしまう。
ドキドキして、ソワソワして、落ち着かないのにどうしてだか不快感はまるでない。むしろ、心地良ささえ感じてしまうのだから不思議だ。
ずっとこのままでいたいけれど、でもいつまでもこのままではダメだろう。
浮かれる心を落ち着かせ、頭を冷やすためにと庭へとおりた。このまま部屋に戻っては、余計に悶々と考え込んでしまいそうだったからだ。
外に出て、涼しくなり始めた空気を胸いっぱいに吸い込む。邪念を消し去るように目を閉じ、風のそよぐ音やさえずる小鳥達の声に集中して。
しかし、そう上手くはいかないようだ。
「ほら、見ろ。あれ、リリィ様だ」
「ああ、初めて見た……本当に帰ってきてたんだな……」
こそこそと話す声が聞こえ、集中力は途切れてしまう。
目を開け、横目で声の方へと視線を向けた。知らない召使い達だ。
そういえば、召使いやメイドを数人入れ替えたという話をデイビッドやアンドリューが話していたような気もする。なんてことない、学業や家庭の事情でのやむを得ない理由での退職らしい。
見慣れない彼らは、新しく入った召使い達だろう。彼ら含め数人以外は紹介はされていないけれど。
「あの噂、本当なのかな? 涙が宝石に変わるっていう」
「さぁ、どうなんだろ……でも本当だとしたら、すげぇ金持ちになれそうだよな」
聞こえてきたその会話に、どうしてデイビッド達から自分が彼らのことを紹介されていないか何となく察してしまった。
(……聞こえてるんだけど)
彼らは聞こえないくらいの声量で話しているつもりなのだろうけれど、静かな庭園では案外聞こえてしまうもので。
お陰で、ここにもいづらくなってしまったじゃないか。
気分転換は諦めて屋敷の中へ戻ろうと踵を返して。丁度、その瞬間だった。
「でも、ジュード・クラーク様も可哀想だよな。折角婚約者と平穏に過ごせるようになったってのに、あの人のせいで逆戻りだなんて」
聞こえてきたそんな言葉に、リリィは思わず足を止めてしまった。
(ジュード様、の……婚約者……)
この世に何人のジュード・クラークが存在するだろうか。仮に何百人も存在していたとして、このルヴェール家と関わりのあるジュード・クラークは彼一人だけだろう。
つまりあの召使い達が話題にあげた人名は、ジュードのことを指しているのであって。
(そっか……婚約者、いたんだ……)
知ってしまった事実は、リリィの胸を鋭く刺す。
(邪魔になっちゃってたんだ、私)
そっか、そっか。
これ以上会話を聞いていたくなくて、屋敷に戻ろうと踏み出した足にはあまり力が入らない。
「ほら、あの人……あの男爵令嬢だよ。なんて言ったっけ?」
「ジュスティーヌ、だろ?」
「そうそう、それそれ。三日後に決まったんだってな、処刑日」
「ああ……それでリリィ様もジュード様も、落ち着いて過ごせるようになればいいんだけどな」
なんて会話は、ふらふらとした足取りで屋敷の中へ戻るリリィの耳には届かなかった。
~*~*~*~
───リリィの流した宝石が、少しばかり盗まれたんだ。
昨晩デイビッドに呼び出されたシンシアが聞かされたのは、そんなあってはならない報告だった。
───新しい使用人やメイド達を雇った時期からだ。どうやら、不届き者が紛れ込んでいるらしい。
───執事長やメイド長を中心に、信頼出来る者達に探らせているよ。
───シンシア。君はリリィに近しい使用人の中で、私達が最も信頼している人だ。
───リリィの傍から離れないで、何かあれば早急に知らせてほしい。
(不届き者……)
宝石が目当ての盗人だったら、問題はそれ程大きくならずに済むだろう。しかし、万が一宝石の盗難がリリィを狙う者の仕業だったとしたら。
(三日後に、男爵令嬢の処刑が決まったというのに……)
もしかしたら、それを狙っているのかもしれない。
デイビッドもそれに勘づいていて、自分に上記のことを伝えてきたのだろう。アンドリューも、クリスティーも、長年ここに仕えている使用人達も、もしかしたら。
(当日は、ジュード様がいてくださる予定だけど……)
その他に、予定よりも護衛が増えるだろう。
同じく屋敷に残る自分には何が出来るのだろうか。考えながら、シンシアはリリィの部屋に向かう。
「お嬢様、お待たせしました~。湯浴みの準備が出来ましたので、お迎えに上がりましたよ~」
今までの考え事は頭の片隅に常に置きながらも、それを表には出さないように穏やかな口調で声をかけて扉をノックした。
「……お嬢様?」
しかし、いつもならすぐ聞こえてくる返事が聞こえてこない。
「入りますね……?」
もしかしたら書斎の方だったかもしれない。そう思いながらも扉を開ければ、しかし彼女はベッドの上にいて。
「お嬢様? どうなさったのですか?」
異変に気付き、慌ててベッドへと駆け寄る。
「…………シンシア」
顔を上げたリリィは、酷く悲しそうな顔をしていて。
「何かあったのですか……?」
昼頃、ジュードが帰った後までは普通にしていたはずだ。となれば、何かあったとすればその後から今までの間だろう。
「……ううん」
しかしリリィは首を横に振るだけで何も答えず、体を起こしてシンシアへと身を寄せてくる。背中へと回ってきた手は、酷く弱々しかった。
「ねえ、シンシア……ジュード様、明日も来るのかな」
「え? ええ、来てくださると思いますよ」
明日どころか、今からでも使いを出して呼び戻せば彼はすぐにでも来るだろう。と言うよりは、戻ってきてもらった方がいいのかもしれない。
そう思いながらリリィの背中を撫でるけれど、しかし彼女は首を横に振った。
「会いたくない……しばらく、ジュード様には会いたくない」
なんて。予想だにしていなかった言葉に、シンシアは愕然とする他なかった。
「ええ……?」
ああ本当に、何があったというのだろう。
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