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余談1.ほんわか専属メイドから見た、二人の顛末と行く末
2.ほんわかした少女から見る、想い合う二人
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その日は、貴族達の集まる狩猟大会だったか。
ルヴェール公爵家とクラーク伯爵家の一族も参加しなければならなかったから、ジュードとリリィも出てきていたのだ。でもきっと、貴族の子供達がリリィに危害を加えてしまうだろうと、二人は狩猟には巻き込まれない少し離れた森の中で大会が終わるのを待っていた。
シンシアがそこについてきていたのは、リリィの付き人の役目を彼女の父であるデイビッドから貰っていたからで。
リリィと一緒に入った森の奥。畔に綺麗な花々が咲いている池を見付け、二人で花を摘んでいたのだ。そうしているうちに、シンシアは花冠を作り始めた。この花はリリィ様に似合うだろうな、なんて思いながら花を選んでいるうちにまた少しだけ森の奥へと入ってしまい、彼女から目を離してしまって。シンシアは、ずっとこのことを悔いている。
───バシャン
と。池に大きなものが落ちる音が聞こえ、シンシアは我に返った。
「……お嬢様?」
石や岩が落ちたにしては大き過ぎる水音に嫌な予感がして、作りかけの花冠を落とし池へと走って。
シンシアがそこで見たのは、池の中で藻掻くリリィの姿だった。
「お嬢様ッ!! 」
シンシアは慌て池へと駆け寄る。
「シン、シ、ア……っ……!」
ああ、どうしようどうしよう。そう思いながらも、リリィへと短い手を伸ばした。
「お嬢様、掴まってください!」
早く助けなければ。そんな気持ちとは裏腹に、その手はリリィへと届かない。
「お嬢様ッ……!」
目いっぱい手を伸ばして。でも、あと少しのところで届かない。
「あ、う……ぁ……」
やがて、リリィの頭が完全に池の中へと沈んでしまって。
「あ……いや……そんな、お嬢様ッ……!!」
水の中に手を入れるも、自分の手じゃどうしたって届かない。
泳げないのだ、シンシアは。だから自分では、沈んでしまったリリィを引き上げることは出来なくて。
シンシアは、助けを求めに走った。自分が出せる全速力で、今一番信頼出来る人物目掛けて。
「ジュード様!」
少しばかり走ったところに、彼はいた。
「シンシア? どうした……?」
彼女のただならない様子にジュードは、読んでいた本からすぐに顔を上げて。そんな彼に、シンシアは泣きついた。
「お嬢様が、池に落ちてしまって……! 私、泳げなくて、助けることが出来なくて……どうしましょう、どうしましょう……!!」
「ッ……」
シンシアの言葉に、その場の空気がざわりと動いた気がして。
状況を察したジュードは、すぐに声を張り上げた。
「ッ、父上を呼んでこい! 早く!」
すぐ近くにいた使用人にそう命じて走らせ、シンシアへと視線を戻す。
「どこだ!」
「あ、こっち……こっちです……!!」
ジュードの気迫に一瞬怯んでしまったものの、シンシアはまたすぐ弾かれたように走り出した。普段そんなに走らないから、その時にはもうとっくに体力は尽きていたけれど。しかしそんなことも気にしている暇はなくて。
見えてきた池は何事もなかったかのようにシンと静かで、血の気が引いた。そんな池が、ジュードにも見えはじめたのだろう。
「リリィッ……!!」
彼はシンシアを追い越していき、躊躇なく池へと飛び込んでいった。
少し遅れて畔へと辿り着いたシンシアは、その場にへたりこんで必死に祈る。
(ああ、お願い……お願い……お嬢様……!)
ジュードが、息継ぎのために一回二回と浮かんでくるのが見えた。でもそこにリリィの姿はなくて。時間が経つにつれシンシアの震えは強くなり、ジュードの顔が険しくなっていく。
そんな彼が、四回目に浮かび上がってきた時だ。その腕の中には、くたりとしたリリィが抱かれていて。
「ぁ……お嬢様……」
その姿に、心臓が冷えていくような感覚がする。
「シンシア! 手を貸せ!」
「は……はい……!」
ジュードに呼ばれ池へと駆け寄って。ジュードの手を借りながら、リリィを抱き締めて池の外へと引っ張りあげる。
その体の冷たさに、恐怖で息が震えた。
「お嬢様、もう大丈夫ですよ」
冷たい体を温めてあげるように、ぎゅうと抱き締めてそう声をかける。
嗚呼、でも。
「……お嬢様?」
彼女はただ苦しそうに目を閉じているばかりで、シンシアの言葉に反応する様子がない。その様子に、言い知れない恐怖心が湧き上がる。
「お嬢様、起きて……起きてください……! お嬢様……!!」
いくら声をかけても、いくら体を揺すっても、リリィが目を開けることはない。
「ジュード様……お嬢様、起きてくださらないんです……! 様子がおかしいんです、どうしましょう、ジュード様……!」
「ッ、退け!」
池から上がったジュードに助けを求めれば、彼は半ばひったくるようにリリィをシンシアから受け取って、その体を草の上に横たえさせる。
「リリィッ……! 頼む、目を開けてくれ……!!」
そんなジュードの声にも、リリィは反応を見せなかった。焦った様子でリリィに触れたジュードは、どこか絶望したように息を震わせる。
「息、が……」
それはシンシアに言ったわけではなく、自分の中で状況を飲み込むために発したものだったのだろう。しかしそれを聞いたシンシアは、絶望の中に突き落とされた。
「そん、な……」
息をしていない。それは即ち、死を意味するというのは学のないシンシアでも知っている。
「ッ、死なせてたまるか……!」
シンシアが取り乱してしまう前に、ジュードの方が先に動いた。
リリィの胸を何度も押して、鼻を摘んで口付けをして。ジュードはそれを、何度も何度も繰り返す。
医学に明るくないシンシアには、彼が何をしているのかわからない。でもそれが、リリィを助けようとしているのだけはわかって。
何も出来ないシンシアは、ただその様子を見守るしかなかった。
「リリィ……リリィ……! ダメだ、死ぬな……!」
ジュードの悲痛な叫びが、森の中に響く。ルヴェール家へ見習いとして行くようになって季節が二周していたこの時ですら、彼のそんな姿は今まで見たことがない。
声を震わせながら、ジュードは何度もリリィの名前を呼んで。幾度も幾度も胸を押して、何度も何度も口付けて。
「なあ、頼む、起きてくれ……! 息を、してくれ……!!」
なかなか目を開けないリリィの様子に、そう叫ぶジュードの声が涙で濡れていたのはシンシアだけが知っている。
(ああ、神様、どうか……!)
何も出来ないまま、シンシアはリリィの手を握り、祈って。
そして。
「けほっ……ぅ、あ……」
唐突に、リリィは水を吐きながら咳き込んだ。
「リリィ……!!」
「お嬢様ッ……!」
二人の声が重なって。それに反応するように、リリィの瞼が薄らと開く。
「ぁ……ジュー、ド……」
彼女の瞳がジュードの姿を映した瞬間、その顔が歪み、彼へと手が伸ばされた。
「ジュード……ッ! こわ、っ……こわかった……ッ……!」
「ッ……よく頑張ったな、もう大丈夫だ」
恐怖心からすがり付いて泣くリリィを、ジュードは強く抱き締めて慰める。二人は、野次馬を引き連れてやってきたルヴェール家一族とクラーク伯爵が到着するまで、離れることはなかった。
その後も、ジュードはずっとリリィに寄り添い続けて。シンシアは少し離れたところから、そんな二人の様子を見守っていた。
きっかけは最悪だ。しかしそんな状況の中で、二人がお互いに向けている想いの大きさに、傍で見ていて気が付いて。
(どうか御二人が、笑い合える未来が続きますように……)
シンシアは、そう願う。
そんな出来事があった数日後だ。ジュードとリリィの婚約が決まったのは。
ルヴェール公爵家とクラーク伯爵家の一族も参加しなければならなかったから、ジュードとリリィも出てきていたのだ。でもきっと、貴族の子供達がリリィに危害を加えてしまうだろうと、二人は狩猟には巻き込まれない少し離れた森の中で大会が終わるのを待っていた。
シンシアがそこについてきていたのは、リリィの付き人の役目を彼女の父であるデイビッドから貰っていたからで。
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───バシャン
と。池に大きなものが落ちる音が聞こえ、シンシアは我に返った。
「……お嬢様?」
石や岩が落ちたにしては大き過ぎる水音に嫌な予感がして、作りかけの花冠を落とし池へと走って。
シンシアがそこで見たのは、池の中で藻掻くリリィの姿だった。
「お嬢様ッ!! 」
シンシアは慌て池へと駆け寄る。
「シン、シ、ア……っ……!」
ああ、どうしようどうしよう。そう思いながらも、リリィへと短い手を伸ばした。
「お嬢様、掴まってください!」
早く助けなければ。そんな気持ちとは裏腹に、その手はリリィへと届かない。
「お嬢様ッ……!」
目いっぱい手を伸ばして。でも、あと少しのところで届かない。
「あ、う……ぁ……」
やがて、リリィの頭が完全に池の中へと沈んでしまって。
「あ……いや……そんな、お嬢様ッ……!!」
水の中に手を入れるも、自分の手じゃどうしたって届かない。
泳げないのだ、シンシアは。だから自分では、沈んでしまったリリィを引き上げることは出来なくて。
シンシアは、助けを求めに走った。自分が出せる全速力で、今一番信頼出来る人物目掛けて。
「ジュード様!」
少しばかり走ったところに、彼はいた。
「シンシア? どうした……?」
彼女のただならない様子にジュードは、読んでいた本からすぐに顔を上げて。そんな彼に、シンシアは泣きついた。
「お嬢様が、池に落ちてしまって……! 私、泳げなくて、助けることが出来なくて……どうしましょう、どうしましょう……!!」
「ッ……」
シンシアの言葉に、その場の空気がざわりと動いた気がして。
状況を察したジュードは、すぐに声を張り上げた。
「ッ、父上を呼んでこい! 早く!」
すぐ近くにいた使用人にそう命じて走らせ、シンシアへと視線を戻す。
「どこだ!」
「あ、こっち……こっちです……!!」
ジュードの気迫に一瞬怯んでしまったものの、シンシアはまたすぐ弾かれたように走り出した。普段そんなに走らないから、その時にはもうとっくに体力は尽きていたけれど。しかしそんなことも気にしている暇はなくて。
見えてきた池は何事もなかったかのようにシンと静かで、血の気が引いた。そんな池が、ジュードにも見えはじめたのだろう。
「リリィッ……!!」
彼はシンシアを追い越していき、躊躇なく池へと飛び込んでいった。
少し遅れて畔へと辿り着いたシンシアは、その場にへたりこんで必死に祈る。
(ああ、お願い……お願い……お嬢様……!)
ジュードが、息継ぎのために一回二回と浮かんでくるのが見えた。でもそこにリリィの姿はなくて。時間が経つにつれシンシアの震えは強くなり、ジュードの顔が険しくなっていく。
そんな彼が、四回目に浮かび上がってきた時だ。その腕の中には、くたりとしたリリィが抱かれていて。
「ぁ……お嬢様……」
その姿に、心臓が冷えていくような感覚がする。
「シンシア! 手を貸せ!」
「は……はい……!」
ジュードに呼ばれ池へと駆け寄って。ジュードの手を借りながら、リリィを抱き締めて池の外へと引っ張りあげる。
その体の冷たさに、恐怖で息が震えた。
「お嬢様、もう大丈夫ですよ」
冷たい体を温めてあげるように、ぎゅうと抱き締めてそう声をかける。
嗚呼、でも。
「……お嬢様?」
彼女はただ苦しそうに目を閉じているばかりで、シンシアの言葉に反応する様子がない。その様子に、言い知れない恐怖心が湧き上がる。
「お嬢様、起きて……起きてください……! お嬢様……!!」
いくら声をかけても、いくら体を揺すっても、リリィが目を開けることはない。
「ジュード様……お嬢様、起きてくださらないんです……! 様子がおかしいんです、どうしましょう、ジュード様……!」
「ッ、退け!」
池から上がったジュードに助けを求めれば、彼は半ばひったくるようにリリィをシンシアから受け取って、その体を草の上に横たえさせる。
「リリィッ……! 頼む、目を開けてくれ……!!」
そんなジュードの声にも、リリィは反応を見せなかった。焦った様子でリリィに触れたジュードは、どこか絶望したように息を震わせる。
「息、が……」
それはシンシアに言ったわけではなく、自分の中で状況を飲み込むために発したものだったのだろう。しかしそれを聞いたシンシアは、絶望の中に突き落とされた。
「そん、な……」
息をしていない。それは即ち、死を意味するというのは学のないシンシアでも知っている。
「ッ、死なせてたまるか……!」
シンシアが取り乱してしまう前に、ジュードの方が先に動いた。
リリィの胸を何度も押して、鼻を摘んで口付けをして。ジュードはそれを、何度も何度も繰り返す。
医学に明るくないシンシアには、彼が何をしているのかわからない。でもそれが、リリィを助けようとしているのだけはわかって。
何も出来ないシンシアは、ただその様子を見守るしかなかった。
「リリィ……リリィ……! ダメだ、死ぬな……!」
ジュードの悲痛な叫びが、森の中に響く。ルヴェール家へ見習いとして行くようになって季節が二周していたこの時ですら、彼のそんな姿は今まで見たことがない。
声を震わせながら、ジュードは何度もリリィの名前を呼んで。幾度も幾度も胸を押して、何度も何度も口付けて。
「なあ、頼む、起きてくれ……! 息を、してくれ……!!」
なかなか目を開けないリリィの様子に、そう叫ぶジュードの声が涙で濡れていたのはシンシアだけが知っている。
(ああ、神様、どうか……!)
何も出来ないまま、シンシアはリリィの手を握り、祈って。
そして。
「けほっ……ぅ、あ……」
唐突に、リリィは水を吐きながら咳き込んだ。
「リリィ……!!」
「お嬢様ッ……!」
二人の声が重なって。それに反応するように、リリィの瞼が薄らと開く。
「ぁ……ジュー、ド……」
彼女の瞳がジュードの姿を映した瞬間、その顔が歪み、彼へと手が伸ばされた。
「ジュード……ッ! こわ、っ……こわかった……ッ……!」
「ッ……よく頑張ったな、もう大丈夫だ」
恐怖心からすがり付いて泣くリリィを、ジュードは強く抱き締めて慰める。二人は、野次馬を引き連れてやってきたルヴェール家一族とクラーク伯爵が到着するまで、離れることはなかった。
その後も、ジュードはずっとリリィに寄り添い続けて。シンシアは少し離れたところから、そんな二人の様子を見守っていた。
きっかけは最悪だ。しかしそんな状況の中で、二人がお互いに向けている想いの大きさに、傍で見ていて気が付いて。
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