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第1章 焔の精霊
◆8 『朱雀』を巡る世界
しおりを挟む自分は、精霊「朱雀」の庇護者(仮)――らしい。
教授の見立てでそう明らかになってから、イリヤを取り巻く世界は少しずつ変わり始めている。
先ずは、四神を主祭神と崇める『陰陽神教』が保管している「精霊石」が、この学院に運び込まれることになったと伝えられた。
『四神は、受諾者が現れるまで石の中で眠る。目覚めさせることが出来なければ、「精霊石」はただの石。見た目は大きな美しい鉱石というだけで、特別なものには見えない』とも。
受諾者が現れて、初めて四神は機能するという。
そこが他の精霊と大きく違う。
殆どの精霊は、人間と関わらずとも普通に、自由に、自然界でその生命エネルギーを輝かせているというのに。
イリヤにはその特異性も謎で、不思議だった。
教授に尋ねてみたけれど、それについても明確な解明はされていないそうだ。
相変わらず、「四神」については分からないことだらけで――
(そういうのがまた、受諾者になることへの不安材料だったりもするんだけど)
結局、イリヤの意思はあって無いようなもの。
いくら「辞退します!」と頑張ってみた所で、無駄な抵抗のようだった。
とにかく、いまはっきりと分かっているのは。
精霊石とご対面を果たし、石から精霊が目覚めれば自分は正式な受諾者と認められてしまう、ということ。
それだけは決定事項なのだ。
本当に困ったことになってしまった。
精霊は、世界共通の宝。
受諾者が所属する国が、その所有権を得る。
だが何処の国で、誰に降りようとも、皆、その存在を尊重し、協力し合って敬うべし――と。
それが全世界共通の決まり事なんだと、イリヤもそう習った。
世界史の授業でも、神学の授業でも、魔術学の授業でも。
だけど、現実はそう綺麗事では済まないらしく……事態は、きな臭い方向へと進んでいる気がしてならない。
「――そりゃあ、面白くないに決まってる。『陰陽神教』としてはさ」
今は寮の中の自分たちの部屋で2人きり。
イリヤは今日から授業に復帰する。
まだ時間に余裕があるので、ゆっくりと授業に向かうための支度をしていた。
制服のリボンタイを結んだり教科書を揃えたりしながら、フィルが身も蓋もなくそんな事を口にする。
薄々そうかなと思ってはいたが――彼は現実を知るべきだぞと言わんばかりに、イリヤに忠告をしてきた。
「……やっぱり、そう思う?」
「『朱雀』だぞ?彼らの崇める最高神のうちの一柱……それを、自分たちの教徒でもない他教徒、聖セラフィムの人間に奪われて、なおかつ、国立学院の中に囲い込まれてしまうとなれば」
「胸中、穏やかじゃない――かな」
「そう、そういう事だ。十中八九、いや絶っつ対に、お前に改教を迫るだろうな」
その意外な言葉に、イリヤは目を見開いた。
「改教?聖セラフィム教が治める国立学院の生徒の僕に?爵位は最下位の男爵でそのうえ貧乏だけど、一応、貴族の息子の僕に?」
「ちょっと自虐が過ぎるけど……そうだ。まず間違いないな」
ビシッとイリヤの顔を指差し、芝居がかった仕草で言う。いつもはクールな優等生という雰囲気を崩さないフィルが、急に舞台役者みたいになったのでイリヤは噴き出してしまった。
「随分と自信たっぷりだね。いっそ賭けようか?」
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