紅の宝玉と二人の守護者

凍星

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第1章 焔の精霊

◆11 姉の死と、ラグナとの距離

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お互いの家の領地が隣り合っていて、どちらも古い家門ということもあり付き合いは古く、親同士も友人だった。
10歳にも満たない幼い頃から12歳までは、ラグナがイリヤの家によく遊びに来ていたものだ。その頃は「ラグナ、ラグナ」と一日中まとわりついていた。男兄弟がいないイリヤは、彼が兄のように思えて大好きだったから。

それも、随分と遠い昔の思い出になってしまったなと、目の前の立派な体躯の彼を見て改めて実感する。
シルヴィアと一緒に3人ではしゃいでいた時が、まるで夢の様な気さえして……
イリヤは過去に想いを馳せる。


姉のシルヴィアの死――そのことには、とある皇族が絡んでいる。
アスファルド・ル・カペラ・フォートハルトという男。
彼は現皇帝の従兄弟で、王宮では内務大臣という重要な役職に就いていた。
本人にそこまでの能力はないというのに、皇室の威光を余すところなく享受している存在。そうして、そういった周囲の評価に悪びれもせず、くつがえそうともせず、自分のやりたい事しかやらない子供のような男だった。

そのアスファルドが、あるパーティーで出逢った12歳のシルヴィアを見初めて、王宮に自分の侍女として行儀見習いに入らないかと打診してきたこと。それが事件の発端だった。

女癖の悪さで有名だった彼のその申し出が、まだ幼いシルヴィアに「愛人」という立場を望んでいることは明らかで――本人は勿論、ディアスレイ家としても、それは到底受け入れられないものだった。
アスファルドはその時32歳で姉とは20もの年の差があったし、その上、正妻以外にすでに何人もの女性を囲っていると噂されていた。

「まだ幼く、躾も行き届いていない子供ですのでご容赦を」と、父であるディアスレイ男爵から丁重に断りを入れたのだが……あの男は「自分の思い通りにならない存在など許さぬ」とばかりに。

ある日、強引に姉を拉致し、自分の屋敷へと連れ去った。

そのことに気付いた父が烈火のごとく怒り、単身騎馬で後を追い、アスファルドの屋敷に乗り込んだ。大勢の護衛を切り伏せ、力尽くでシルヴィアを奪い返したのだが――

あともう一歩、遅かった。

姉の身体は、すでに冷たくなっていた。
あの男に凌辱される前に、自ら命を絶ったのだ……


この一件は、表向きには全く違う内容が事実として、世間に公表された。
侍女としてアスファルドに仕えることは、シルヴィア本人の恋心から生まれた望みだったと。彼の屋敷に自ら赴き、その願いを叶えようとしたのだが、娘の心に理解のない傲慢な父親が拉致されたとのだと。
そして、皇族相手に大それた行動を取った娘を責め立て、自害に追い込んだ――と。

皇室と、政治的な力が――真実を闇に葬り去った。

これにより、ディアスレイ男爵家は貴族にあるまじき行動を取り娘を死なせ、皇族の護衛に怪我をさせたとして皇室の怒りを買い、重い処罰を受ける。先祖伝来の領地を失い、僻地へきちに追いやられてしまった。新しい男爵領は、伯父が治めることになる。
そうしてイリヤの父は囚われ、さらに遠い土地へと独り流された。犯してもいない娘殺しの汚名と、貴族社会からの追放という過酷な処分をその身に受けて。

残された母とイリヤは、勿論、父の無念を晴らすために真実を訴えようとした。
だが、父から届いた手紙には……それだけは止めろと、書かれていた。
それをすれば今度こそ、男爵家そのものが取り潰される。お前たちと領民の暮らしを思えば、それだけは避けなければならないと……

「お父様は、貴方の未来を一番に考えていらっしゃるのよ……それを分かって頂戴、イリヤ」

母に、涙を堪えながらそう言われたら。
イリヤはただ、黙って頷くことしか出来なかった。

2人はひっそりと辺境の地で暮らすことになり、罪は……無実の罪は父一人が背負う形となった。
そうして3年が経ち、イリヤが奨学生としてこの国立学院に入学の申請を出した時には、何故か拒絶はされなかった。まるで、それがせめてもの温情だとでも言うかのように――


……ラグナとの思い出の場所は、今や他人の領地で足を踏み入れることも叶わない。
彼の実家、ロックフォード家とはその時から疎遠になり、イリヤとラグナの交流も断たれてからかなり経っていた。

そして、学院に入って久しぶりに顔を合わせた時、ラグナは眉間に皺を寄せて困ったような表情を見せた。
その様子を見て「ああ、僕は彼にそんな顔をさせる存在なんだな」……と。
哀しくなり近付けなくなってしまい、それっきり――入学してから3ヶ月、こんな風にまともに話すのは初めてだった。


「――どうして僕の部屋に?」
「……とりあえず、ブラウスを脱げ」
「は!?」

話の脈絡も何もない、余りにも唐突な言葉過ぎる。イリヤは飛び上がるほど驚いた。
ラグナがイリヤにずいっと近付き、問答無用という感じでブラウスの紐に手をかけてくる。

(いやいやいや!!何の真似!?)

一気に頭に血が上る。

「ま、待って!いきなり何!?」
「お前……『朱雀』の紋章が胸にあるって本当なのか?」

慌ててその手を押し止めようとしたら、真顔で返ってきたのはそんな言葉だ。
教授とフィル以外、まだ誰も知らない筈のことを、何故ラグナが……!?


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