紅の宝玉と二人の守護者

凍星

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第2章 受諾者と守護者

◆4 食堂でのハプニング!②

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この食堂は、ステンドグラスの美しい大天使に見守られながら食事ができる場所だ。
奥行きの広いフロアの、3分の2ほどを占めるとてつもなく大きくて長いテーブルが八台。
そして窓際に並べられた、2人掛けと4人掛け用がある小さめのテーブル。
長テーブルよりこの個別のテーブルが生徒には人気だった。
周りに気兼ねなく友達だけで話ができるし、窓から外の緑も見えてゆっくり食事を楽しめる。

イリヤがフィルとの賭けで要求したのはこの窓際席の場所取り。
さて結果はどうなるだろう?
2、3日後には特使がやって来て、結果が明らかになる筈だ。

そんなことを考えつつ奥へと足を運びながら、ふと、イリヤは高い場所に描かれた大天使を見上げた。

(大天使、かぁ……)

その美しい姿を見詰めながら思った。
アストライアでは天使が最高の精霊、神と同等の存在とされていて、とても尊いものと考えられている。
もしも――もしも、その大天使が人に降りるようなことがあれば。

(その人は、一体どんな人生を送ることになるのかな)

いま現在は確認されていないが、過去には大天使憑きのスピリット・ガイドも何人か存在した記録がある。そういう人たちは皆、精霊学の教科書に名前が載っていた。
――つまりはそういう、歴史でその名を学ぶような人物になる、という事。

生きた神として崇め奉られるのはどんな生活だろう?
個人の自由など、全く無くなってしまいそうだ。
そういうことが身近な現実として考えられるようになった今は、そんな状況を正直怖いと思う。

精霊――

これまでは、どこか他人事で遠い存在だったのに。
今、自分に朱雀が降りていると言われ、精霊に対する意識が大きく変化し始めているのを感じていた。ステンドグラスの天使にさえ、今までと違う思いを抱くようになるなんて。

(僕に降りたのは大天使じゃない……朱雀なら、そこまで騒がれずに何とかやっていけるのかな)

朱雀が聞いたら気を悪くしそうなことを、つい考えてしまったけど……ただ悲観的になりがちな自分の運命を少しだけ、前向きに捉えてみたかった。

そして、いつも通りに料理を受け取るためのカウンターへと向かっていた時。

(え?)

チラチラと、舞い落ちる雪の結晶のようなものがイリヤの視界に入った。
上を見上げてその正体を確かめようとしたら、それは頬に当たるとほんのりとした冷気を残して儚く消えた。
本物の雪とは違い、水も何も残らない。
これは魔術によるものだと分かった。

そう言えば、7月に入ってから少し食堂が涼しくなったなと感じていたけれど。
教授陣による温度調整がすでに行われているということなのか。

(……でも今まで、こういうものは目にしなかったよね?)

不思議に思い天井を見上げ、辺りを見回す。どこかに魔術の根源があるのだろうか、と思って視線を彷徨わせると――

左手の壁。大きな支柱の高い位置に大天使の大理石彫刻が設置されているが、その白い翼の陰に……何かがいることに気が付いた。

「!?」

氷のように透き通る薄翅うすばねが――天使像からはみ出していたのだ。
呆然と立ち竦むイリヤに、すれ違う生徒が怪訝な視線を向けてくる。だがそれすら気にならない程、驚いていた。

それは――人間の女性のような容姿をしていた。淡いブルーの長い髪。柔らかそうな薄衣を纏ったしなやかな身体。そこから伸びる細い腕も長い脚も。その背に輝く、蜉蝣かげろうのように透明なはねさえなければ。

自分が見ているものが信じられず、目を凝らしてその姿をじっと見詰めていたら。
目と目が合った。
ビクリと身体を震わせたイリヤをどう思ったのか、彼女はその彫像のような顔に微笑みを浮かべたかと思うと――翅を広げてふわりと、此方こちらに向かって降りて来るではないか……!

「!!?」


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