紅の宝玉と二人の守護者

凍星

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第2章 受諾者と守護者

◆5 食堂でのハプニング!③

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イリヤは驚いて、全く動けなくなってしまった。
食事を乗せたトレイを手にしたまま、棒立ちである。

『紺色のローブ……一年生なのに私が視えるなんて珍しいこと!』

質量を感じない動きで、イリヤの周りをクルリと回り、包み込むようにゆったりと飛んでいる。長い髪が水平に、水の中にいるみたいに漂う。白い肌に纏った薄い水色の衣も、水中に咲く華のようにふわりと広がっていた。

『あら嫌だわ――貴方「焔の欠片」を宿しているの?そんなに涼しい顔をして、まぁ怖い!見かけに依らないわね』

「え、ええ…っ?」

不思議な存在が、もの凄く親しげに話しかけてきたので――益々驚いてしまう。
まるで人間のように流暢な言葉遣いだ。

(これは――精霊なのか……!?)

近くで見ると人間よりは一回り、いや二回りは小さい。
本物の精霊をこんなに間近に見るのは初めてだし、こんな風に会話をするのも初めてだった。
彼女の動きに合わせて一層強い冷気がイリヤを包み込む。彼女は氷の精霊だろうか?
アイスブルーの瞳を縁取る睫毛は白く輝いている。
唇から溢れる吐息も白い。その薄霧のような息の中に、氷の結晶がキラキラと輝く。

(……なんて綺麗なんだろう!)

心の中でイリヤは感嘆の声を上げる。
その姿全体がほんのりと透き通っていて、まるで滑らかな氷の彫刻が動いているかのようだ。

此の世のものとは思えない『美』だった。
迂闊に近付けばどこか別の世界へと引き込まれてしまいそうな、そんな美しさがある。
それなのに、周囲の誰も騒いだりしていない。こちらに注目する生徒が誰もいないなんておかしい……そこまで考えて、ハッと気付いた。

(皆には見えていないんだ……!)

……今の自分に精霊の姿が見えているのは、もしかして朱雀のせい?
言葉が分かるのも?

此方こちらを窺いながら周りを旋回するその魔性の微笑みに、思わず魅了されそうになって――イリヤの手は冷気と緊張で冷たくなっていく。

『近付きたくても、これ以上近付けやしないわ……ああ、そうだった。朱雀憑きが来るんだと”彼”が話していたわね。とても……とても驚いたわ。こんなに可愛らしい坊やだなんて!』

彼女は悪戯をするように此方に指を伸ばしたり引き戻したりして、そしてクスクスと冷たく響く笑い声を残して……再び高く舞い上がっていく。
その姿が、また天使像の隣に戻っていくのを見届けて、ようやくイリヤは自分の思考を取り戻した。


(びっ……くりした)


あれが、ここの温度をコントロールしている精霊……!?

はぁ、と小さく溜息を吐く。息をするのも忘れるくらい驚いてしまって……まだ、動悸が治らない。

初めて、生の精霊をこの目で見た。
図鑑なんかで見るのとはまるで違う!
本物は、あんなに煌めいていて、美しい生き物なんだ……!

イリヤがこれまで見てきた精霊関連の学術書から想像すると、今のは氷の精霊「フロスト」の一種のようだった。

(うちの教授陣の中の、誰かの精霊ってこと? “彼”って言ってたけど……一体誰の精霊なんだろう)

あれくらい会話が可能な精霊なら、依頼した通りの温度調整もお手のものだろう。
そういう精霊と契約出来ることが凄いし、多分最初はこんなにコミュニケーションが取れる相手ではなかったのではないだろうか。
使役しているうちに、精霊は受諾者の思考や言葉を学習していくのだと聞いている。
つまり精霊の知能が高いということは受諾者の知性と、使役能力が高いということに他ならない。

精霊が降りる人間には、見えなかったものが見えるようになり、出来なかったことが出来るようになる……

今までとは違う世界に一歩足を踏み入れている、という実感が急に押し寄せてきて……ぞくりと鳥肌が立った。
凄いことなんだな、と今さらながら興奮を抑えられず、精霊の姿をいつまでも視線で追いかけていたら――

「おい、赤毛!何やってんだ、通路の真ん中に立つな!邪魔だぞ!」

ドン、という肩を押される衝撃が身体に走る。
バランスを崩して、危うく手にしたトレイを落としそうになった。

「あっ!?」


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