紅の宝玉と二人の守護者

凍星

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第2章 受諾者と守護者

◆6 食堂でのハプニング!④

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「あっ、ごめんなさい……!」
「ごめんなさい?随分暢気な挨拶だな。生徒会もずっと休んでいたくせに、先輩に対してもっと何か謝罪の言葉があるべきだろ?」
「あ……ライアス先輩――でしたか」
「何だ、その微妙な反応は?」

嫌な人に見つかってしまった……
イリヤは率直にそう思い、困り顔で笑みを浮かべる。

イリヤの肩を掴み、苛々した様子で話しているのは生徒会役員の1人である、2年生のライアス・ノイエンバッハ。
書記を務めるイリヤとは、顔見知りという程度の仲だ。決して親しくはない。
伯爵家の生まれで、貴族至上主義の権化みたいな所がある。曰く付きの男爵家の息子であるイリヤを、事あるごとに目の敵にしてくる困った人だった。

「体調不良でお休みしたことはお詫びします。その間、友人が代わりに出席して議事録はまとめてくれていたので……問題は無かったと思いますけど、何かありましたか?」
「それだよ!その代理。あのクソ生意気な一年、お前の友人だそうだな?」
「はい、それが何か?」
「何か、じゃない!俺の申請書類に文句を付けて来たんだぞ。どういう事だ、代理の分際で!?」
「…………」

その件ならフィルからも聞いている。
彼の所属するクラブの申請書類で、誰が見ても分かる綴りのミスがあったから指摘したそうだ。
普段は、僕がそっと修正したりしていたんだけど……(それが良くなかった)
フィルはただ、普通に指摘しただけで、何も悪くない。
だけど彼は、自分より下の(自分でそう判断している)人間から、そういう指摘を受けることが耐えられないのだ。

「えっと……彼は言葉遣いが率直過ぎるんですよね。注意しておきます」
「そういう問題じゃない!先輩に対する礼儀のことを俺は言っているんだ。アイツの代わりに、お前が謝れ!今ここで手をついて謝罪しろ」
「ええっ……?」

無茶苦茶言ってる……!
何でそんな発想に?
一体、何を考えているんだろう?

周りの騒めきが、少しずつ静かになっていく。このやり取りに注目が集まっていた。
イリヤに対してこうした嫌がらせをしてくる人間は、この人だけという訳でもない。今もまた「あの赤毛が絡まれているぞ」という雰囲気があった。小さな忍び笑いも聞こえてくる。
皆、この展開を面白がっているんだろうか。

「出来ません」と言うのは簡単だ。
だけど、この大勢の人間が見ている前で逆らえば……後でもっと厄介な事になるのは目に見えている。それにライアスの性格を考えると、絶対に引かない気がした。

これはもう、言うことを聞いて謝ってしまった方が早いのかも、と。
ついそんな風に思ってしまう自分を、情けなく思う。自力でこの人を黙らせる術が――自分にはない。

……この人はいつもだ。
何かと文句をつけ、最終的には「すみません」と、ただ謝らせたいだけの行動を繰り返す。
この周りの空気も辛い。ただ黙って見ていられるのは針のむしろと同じだった。好奇の視線が絡みついて、イリヤは呼吸をする自由さえ奪われていく気がした。

今日は独りだったし、運が悪かったのだ。

「仕方ない。さっさと終わらせよう」

そんな思いと、理不尽さに納得がいかない思いとが交錯する。
無論、悔しい。だけど、ここに来る前も来てからも、こんな事は何度もあった。

世界は正しさだけで、構成されてはいない。
それが受け入れられない程、イリヤはもう無垢ではなかった。
片割れを喪った三年前のあの日から。

そう――此の世は理不尽で。
そして自分はいつも、だ。
それを受け入れるしかない……



……ドクン。

胸の奥が熱くなる。

秘めた感情が、隠した扉を叩く音。

……ドクン。

だめだ。

考えるな。

その音に耳を傾けてはいけない……



溜息を堪えて、曖昧に微笑み「分かりました」と答える。
近くの空いたテーブルにトレイを置いた。
相手の顔を見れば、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべている。
イリヤはぎゅっと掌を握り締めた。
大勢の人間が見詰める中、膝をつこうとしたその時――


「……その時のことなら、僕も見ていたけれど。書類に書かれた文章に不備があったのは確かだった。何故、イリヤを責めているんだ?ライアス」
「!?」

蒼いケープが揺れ、プラチナの髪が目の前でフワリと靡く。

「か、会長……っ!」

イリヤの目が大きく見開かれた。
氷の精霊の次は、本物の大天使が……地上に舞い降りたのかと思った。
背の高いすらりとした姿。皆と同じ黒い制服を着ているのに、普通の人と違って輝いて見えるのはどうしてだろう?
白銀の髪が光を弾いていて、さっきの精霊フロストみたいに美しくまばゆい。

突然現れ、ライアスを咎めたのは――生徒会長でありこの国の第四皇子でもあるエルドリック・ル・カイン・フォートハルトだった。


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