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第2章 受諾者と守護者
◆7 もう一人の…守護者!?①
しおりを挟む凛とした空気を纏う背筋の伸びた黒の制服姿が、イリヤを庇う様に立っている。濃紺の短いケープを左肩に纏っているのは水の精霊の加護を受けている証。
(会長……どうしてここに?)
その心の声に応じるように、白銀の髪に縁取られた完璧な美貌の持ち主がイリヤの方を振り返って微笑んだので――ドキリとした。
紫水晶の瞳が瞬き、食堂に溢れる陽の光に輝くと、本当に天使が目の前に降臨したみたいで、まるで夢を見ている心地になる。
いつも、今日も。変わらずに美しい人だ……と。
こんな場面なのに、イリヤは見惚れてしまっていた。
「イリヤに謝罪を求めているのはどうしてなのか……僕にも分かるように説明してくれるかい?」
微笑んだ美しい顔をもう一度ライアスに向け、そんな言葉を投げかける。
とても優しい柔らかな口調だけれど、声には厳しさが宿っていた。
「えっ!?あっ、それはその、あの時の一年生がですね、余りにも礼儀を知らなかったというか、何というか――」
「ただミスを指摘してくれただけだった気がしているが……僕の記憶が間違っているのかな?」
「い、いえっ!そんなことは……っ、すみません、私の勘違いだったようです……失礼しました!会長っ」
ライアスは顔色を青くして、大汗をかきながら言葉を詰まらせた。そして身体を90度に折り曲げて勢いよく頭を下げたと思ったら、もの凄いスピードでドタバタとこの場から走り去ってしまった。
「全く……困った奴だね」
やれやれという具合に、エルドリックは肩を竦めた。
いきなりの生徒会長の登場に、シンとしていた周囲から今度は別種の騒めきが起きている。
意図的なのかどうか分からないが、あの厄介な先輩を追い払ってくれた救世主――という形になって、イリヤは戸惑いながらも頭を下げた。
「あのっ、ありがとうございました、会長。助かりました……」
「――いや、僕は事実を言ったまでだよ、気にしないで。とりあえず座ろうか?僕は君に話があって来たんだ。場所を移そう」
そう言うと、テーブルに置いてあったイリヤのトレイを右手に持ち、左手で実に自然に手を握ってきた。
(ええ!?)
何事!?と驚くイリヤを気にもせず、そのまま手を引いて窓際の方へと移動していく。
今まで、エルドリックとは生徒会の仕事のやり取りか、些細な世間話くらいしかしたことがない。いきなり手を繋がれたことにどぎまぎしてしまう。
2人が移動すると、海が割れるように人混みが両脇に引いていった。周囲の驚きの声が小波のように広がっていく。
エルドリックが歩けば、それだけで大勢の生徒から羨望の眼差しが向けられる。そしてそれは、手を引かれているあいつは何なんだ?ということでもあって――皆の視線が熱くて痛い。
(会長……目立ちすぎてるって気付いてますか……!?)
イリヤはただただ焦りながら、ついて行くことしか出来ない。
「そこの君たち」
「は、はいっ!」
エルドリックが4人掛けの窓際席でのんびりしていた生徒2人に声をかける。
「もう食事は終わっているよね? 僕たちは少しばかり込み入った話をしたいから、出来ればこの場所を空けてもらえると助かるんだが」
「はい!畏まりました」
「済まないな。でも頼むから、そんなに畏まらないでくれ」
「はい!申し訳ございません」
とても生徒同士の会話とは思えないやり取りに、エルドリックは苦笑している。彼に対しては誰もがこんな風になってしまうのが日常だ。
赤い長衣を手にした三年生2人が、ガタン!と大きな音をたてながら慌てて立ち上がり、席を空けてくれた。
「座ろうか」
ニッコリと微笑みで促される。
何を言われても「はい」と言ってしまいたくなるその笑みは、まるで「魅了」の魔術のようだ。
精霊の底の知れない魔的な微笑みとは真逆の神聖さがあって、自然と人を平伏させてしまう力がある気がした。
これは、生まれつきの血筋からくる気品や優雅さによるものだろうか。
(眩しい人だな……)
その身体から滲む輝きに、ラグナとは違う胸の高鳴りを覚えながら――イリヤは、誘われるままに彼と向かい合って椅子に座った。
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