【完結】独占欲の花束

空条かの

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1章『恋着編』

31「友達じゃダメか?」 

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緩く腕を引かれて案内されたのは、久しぶりに訪れる特別生徒室だった。
室内に案内され、部屋の中心辺りまで連れてこられ、ようやく手を離してもらえた。

「強引に手を引いてしまったが、怪我はしておらぬか?」

優しく掴んでいたくせに、痛くなかったかと天王寺が問う。

「……大丈夫」
「それならばよいが……」

互いに視線を反らして、どう切り出そうか戸惑う。天王寺は謝罪の言葉を探し、俺は失恋させるための言葉を探す。
向き合ってはいたが、俺は下を向き、天王寺も上の方を見ていた。

「私の犯した罪は、決して許されるものではない」

最初に切り出したのは天王寺だった。

「……」
「私は、誰ぞにそそのかされたとはいえ、愚かなことをした」

酷い後悔を含ませて、天王寺は苦し気に言葉を繋ぐ。

「こうして姫に会うことさえ、許される身ではないことは、よく存じておる。だが……」

そこまで言って、天王寺は奥歯を噛み締めるように声を殺す。どんな謝罪をしても取り返しなどつかず、許されるはずがないと分かっているからだ。
どれほど無意味だったとしても、謝らなければならない、天王寺は膝をつくべきか、それとも頭を下げるべきか悩んだ。

「すまない。犯した罪は一生償って……っ……」

それが覚悟だと伝えるはずが、天王寺はこみ上げる嗚咽を抑えることができなくなり、口元を手で覆ってしまった。
溢れ出る涙がどうにも止まらない。ポタリポタリと落ちる涙が足元を濡らし、姫木が驚いて顔をあげた。

「んで、泣いてんだよ」

嗚咽が漏れないように必死に口元を覆って、天王寺は恥も捨てて泣いていた。慌てた俺はポケットからハンカチを取り出すと、天王寺に押しつける。

「その手で、罪人に触れてはならぬ」

差し出したハンカチから逃げるように、一歩下がった天王寺だったが、俺も一歩踏み出して歩み寄る。

「いいから、使え」

見っともないだろうと、強引にハンカチを押しつけた。
無理やり預けられたハンカチに、戸惑いながらも天王寺は涙を拭う。それでも涙が止まることはなく、おまけに嗚咽まで酷くなった。

「姫に優しくされる身ではない……」

人のハンカチをビショビショにしながら、自分を責め続ける天王寺に、俺の怒りは頭角を潜める。こんな超イケメン泣かせて、まるで俺が悪者みたいじゃないかって、罪悪感まで生まれる。

「カッコいい男が、台無しだぞ」

笑みさえ浮かべてそう言ってやれば、天王寺の体がガクッと崩れ、膝立ちになった。

「すまぬ、……されども、止まらぬのだ」
「反省、してるんだよな」
「後悔と、詫びることしか考えられぬ」

嗚咽とともに吐き出された天王寺の気持ちに、嘘や偽りはなかった。本当に罪を感じて、ずっとずっと後悔を背負っているのだと、全身が語っていた。
眩しかったオーラは失われ、陰った顔が寝ていないことを語り、食事もほとんど摂っていないことも、体型でわかる。それに何より、声がやせ過ぎていた。
こいつも桜井の被害者なんだよな、と、なんとなく納得できた。

「姫ッ!」

泣き止まない天王寺を両腕に抱きしめた。
とたん、驚いた天王寺が離れようとしたが、俺は頭をしっかりと抱えて離さない。

「お前のしたことは許さない」

罪は罪だと強く言えば、天王寺の動きが制止した。

「そのようなこと、言わずとも心得ておる」
「けどさ、俺もお前も被害者なんだよ」

立場は同じなんだと、俺は言ってやる。許すわけじゃないけど、やり直せるんじゃないかって、俺は自分を責め続ける天王寺を救う道を選ぶ。
元のキラキラオーラ全開の天王寺に戻ってほしくて。

「友達じゃダメか?」

恋人というのは初めからおかしかった。だから、友達にならないかと誘う。

「友に?」
「お前がいいならだけどな」
「姫の友にしてもらえるのか?」

顔をあげた天王寺の瞳は、疑心暗鬼に揺れる。罪は許さないといったのに、友達にしてもらえるのかと。

「別に、嫌なら……」
「嫌ではない。これほど光栄なことはない」

揺れる瞳に強い光が射す。一目で喜んでいるのが分かり、こいつは犬なのか? なんて、くだらない事まで思いつく。
だが、天王寺の思考回路がズレていることを忘れていた。

「友から、恋人へとなれるように努力いたす」

満足そうに笑った天王寺から発せられた台詞に、俺は「なんで恋人を諦めてないんだ」と、盛大に心で突っ込んだ。
自分で言うのも恥ずかしいけど、どんだけ俺のこと好きなのこいつ。

「恋人にはならない」

ここではっきり言わないとダメな気がして、俺はきっぱりと断る。

「なにゆえ、そのようなことを申すのだ」
「俺は、お前を好きにならないからだ」
「それは私の愛が足りぬがゆえ、もっと精進いたす」

意味が分からないことを言い出して、天王寺はギュウギュウと俺の腰に抱きついてくる。おまけにとんでもなく嬉しそうな顔をしながら、今度はうれし泣きまでして。
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