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2章『狂恋編』
39「僕が貰っちゃおうかな」
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さすがに全部は答えられなかったが、俺は俺の知ってる範囲で答えた。
食事も終わり、食器が下げられるとコーヒーとワインが運ばれてきた。
もちろん俺がコーヒーだ。
「姫木君は尚ちゃんのことどう思ってるの?」
唐突にされた質問に、俺は言葉を詰まらせた。どう思ってる? 確かに俺は天王寺のことをどう捉えているのか、一瞬返答に困ったが無難な回答を選ぶ。
「友達です」
「それは普通の?」
「へ?」
友達に普通もそうじゃないのもあるのだろうか? 俺は妙な顔をして尚希を見た。
「尚ちゃんがね、今年の夏休みは姫木君と市民プールに行くなんて言い出したんだ」
「それって……」
「毎年海外の別荘で過ごすのが我が家の夏休みなんだけど、まさか市民プールに行くなんて言い出すから、みんな目が点になっちゃったよ」
生まれてこの方、そんなプールに行ったことなどない、まして行くこともない場所。そこへ何のためらいもなく行くと言い出し、夏休みはバカンスしないと断ったと聞かされた。
「俺、一緒に行くなんて言ってませんよ」
俺は火月と水月とは一緒に行くとは言ったが、天王寺と行くなど一言も言っていないと言い切った。
「僕も説得したんだけど、姫木君と一時も離れたくないって駄々こねるから、てっきり二人は友達以上なのかと思ってね」
「友達以上って、そんなわけないです」
「そうなの?」
「そうです! 天王寺には勉強を教えてもらったりする仲ですけど、いい友達です」
そもそも友達以上ってなんなんだよ。少なくとも俺はいい友達だと思っている、そう、そうだよな。なぜか俺は自問してしまった。
確かにあんなこともあったし、言い寄られてる気もするが、俺は友達として天王寺が好きなんだと納得する。至って健全男子だと主張しておきたい。
「ふ~ん、姫木君はそう思ってるんだ」
何か腑に落ちない声を出した尚希は、ワイングラスを空ける。そんな中、急に俺の視界が霞んだ。
あれ?
なんだかすごく眠い。
確かにお腹いっぱい食べたけど、こんなに眠くなるなんて。俺はついガクッとテーブルに肘をついた。
「……大丈夫?」
遠くで尚希の声が聞こえたような気がしたけど、俺はそのまま深い睡魔の眠りへと誘われていった。
テーブルに倒れこんで眠ってしまった俺を見ながら、尚希は口角を少しだけ上げると席を立つ。
「さて、尚ちゃんの本気を試そうか」
意味深に言葉を吐いた尚希は、部屋の時計に視線を走らせると、眠ってしまった俺の背に腕を回し、両足を抱えるとそのまま抱き上げた。軽々と持ち上げた俺をそのまま寝室に運ぶとそっとベッドに横たえる。
そしてそのベッドに腰かけた尚希は、時計がよく見えるようにサイドテーブルに置くと、眠る俺の前髪をそっと払う。
「タイムリミットまであと30分かな。……早く見つけないと悪戯しちゃうよ」
どこか楽し気に言いながら、尚希は不敵な笑みを浮かべながら俺と時計を交互に見た。
デジタル時計が音もなく時を刻む部屋で、ベッドに静かに腰かけた尚希は、眠る姫木の様子をただじっと見つめた。
「尚ちゃんを恋に落とした、……子」
確かに男の子にしては、目も大きくて、小柄で可愛いとは思うけど、尚人が本気になるような素質があるのか?
尚希は眠らせた姫木の頬に手を当て、どんな手で可愛い弟を恋に落としたのだろうかと、顔を顰めた。尚人の反応は確かに恋だった。友達という関係ではなく、明らかに恋しいという想いが溢れていた。
家族よりも他人を取るなんて、今まで一度もなかった。わがままなんてほとんど口にしないのに、一時も離れたくないなんて、これが恋じゃなくて何だというのか。
淡い黄色のようなオレンジのような光の中で、尚希は難しい表情を浮かべて、ただじっと姫木を眺めながら、愛する弟を想う。
「誰かに好意なんか持ったことないよね」
今まで一度だって、異性に対してそういう気持ちを露にしたことなんかない。
「……尚ちゃん」
姫木の頬を軽く撫でると、尚希はさっき姫木が口にした『友達』という言葉に、切なさを覚える。いくら尚人が好意を寄せていたとしても、姫木は友達だと考えている。
それでもいいのかと、ここに居ない尚人にそう問う。
しかし、もしも尚人がこの場所を見つけられなければ、想いはそこまで。尚希は本気で尚人の想いを測ろうとしていた。天王寺家の人間ならば、本気を出せばここは割り出せる。そう睨んでの企み。
尚希が決めたタイムリミットまでに辿りつけなければ、所詮尚人の想いはそこまでのもの。姫木が口にした通り『友達』どまり。
「ふふ……、時間切れになったら、僕が貰っちゃおうかな」
割と好みだし。そう笑みを溢して、尚希は浅い呼吸を繰り返して眠っている姫木のシャツのボタンを外し始める。
「この状況を見た、尚ちゃんの反応も面白そうだしね」
昔からほとんど感情を表に出さない尚人。怒ったところなんか見たことないなぁ~、なんて考えながら、尚希は、尚人は怒ったりするのだろうかと、好奇心を持って姫木のシャツを左右に見開いた。
食事も終わり、食器が下げられるとコーヒーとワインが運ばれてきた。
もちろん俺がコーヒーだ。
「姫木君は尚ちゃんのことどう思ってるの?」
唐突にされた質問に、俺は言葉を詰まらせた。どう思ってる? 確かに俺は天王寺のことをどう捉えているのか、一瞬返答に困ったが無難な回答を選ぶ。
「友達です」
「それは普通の?」
「へ?」
友達に普通もそうじゃないのもあるのだろうか? 俺は妙な顔をして尚希を見た。
「尚ちゃんがね、今年の夏休みは姫木君と市民プールに行くなんて言い出したんだ」
「それって……」
「毎年海外の別荘で過ごすのが我が家の夏休みなんだけど、まさか市民プールに行くなんて言い出すから、みんな目が点になっちゃったよ」
生まれてこの方、そんなプールに行ったことなどない、まして行くこともない場所。そこへ何のためらいもなく行くと言い出し、夏休みはバカンスしないと断ったと聞かされた。
「俺、一緒に行くなんて言ってませんよ」
俺は火月と水月とは一緒に行くとは言ったが、天王寺と行くなど一言も言っていないと言い切った。
「僕も説得したんだけど、姫木君と一時も離れたくないって駄々こねるから、てっきり二人は友達以上なのかと思ってね」
「友達以上って、そんなわけないです」
「そうなの?」
「そうです! 天王寺には勉強を教えてもらったりする仲ですけど、いい友達です」
そもそも友達以上ってなんなんだよ。少なくとも俺はいい友達だと思っている、そう、そうだよな。なぜか俺は自問してしまった。
確かにあんなこともあったし、言い寄られてる気もするが、俺は友達として天王寺が好きなんだと納得する。至って健全男子だと主張しておきたい。
「ふ~ん、姫木君はそう思ってるんだ」
何か腑に落ちない声を出した尚希は、ワイングラスを空ける。そんな中、急に俺の視界が霞んだ。
あれ?
なんだかすごく眠い。
確かにお腹いっぱい食べたけど、こんなに眠くなるなんて。俺はついガクッとテーブルに肘をついた。
「……大丈夫?」
遠くで尚希の声が聞こえたような気がしたけど、俺はそのまま深い睡魔の眠りへと誘われていった。
テーブルに倒れこんで眠ってしまった俺を見ながら、尚希は口角を少しだけ上げると席を立つ。
「さて、尚ちゃんの本気を試そうか」
意味深に言葉を吐いた尚希は、部屋の時計に視線を走らせると、眠ってしまった俺の背に腕を回し、両足を抱えるとそのまま抱き上げた。軽々と持ち上げた俺をそのまま寝室に運ぶとそっとベッドに横たえる。
そしてそのベッドに腰かけた尚希は、時計がよく見えるようにサイドテーブルに置くと、眠る俺の前髪をそっと払う。
「タイムリミットまであと30分かな。……早く見つけないと悪戯しちゃうよ」
どこか楽し気に言いながら、尚希は不敵な笑みを浮かべながら俺と時計を交互に見た。
デジタル時計が音もなく時を刻む部屋で、ベッドに静かに腰かけた尚希は、眠る姫木の様子をただじっと見つめた。
「尚ちゃんを恋に落とした、……子」
確かに男の子にしては、目も大きくて、小柄で可愛いとは思うけど、尚人が本気になるような素質があるのか?
尚希は眠らせた姫木の頬に手を当て、どんな手で可愛い弟を恋に落としたのだろうかと、顔を顰めた。尚人の反応は確かに恋だった。友達という関係ではなく、明らかに恋しいという想いが溢れていた。
家族よりも他人を取るなんて、今まで一度もなかった。わがままなんてほとんど口にしないのに、一時も離れたくないなんて、これが恋じゃなくて何だというのか。
淡い黄色のようなオレンジのような光の中で、尚希は難しい表情を浮かべて、ただじっと姫木を眺めながら、愛する弟を想う。
「誰かに好意なんか持ったことないよね」
今まで一度だって、異性に対してそういう気持ちを露にしたことなんかない。
「……尚ちゃん」
姫木の頬を軽く撫でると、尚希はさっき姫木が口にした『友達』という言葉に、切なさを覚える。いくら尚人が好意を寄せていたとしても、姫木は友達だと考えている。
それでもいいのかと、ここに居ない尚人にそう問う。
しかし、もしも尚人がこの場所を見つけられなければ、想いはそこまで。尚希は本気で尚人の想いを測ろうとしていた。天王寺家の人間ならば、本気を出せばここは割り出せる。そう睨んでの企み。
尚希が決めたタイムリミットまでに辿りつけなければ、所詮尚人の想いはそこまでのもの。姫木が口にした通り『友達』どまり。
「ふふ……、時間切れになったら、僕が貰っちゃおうかな」
割と好みだし。そう笑みを溢して、尚希は浅い呼吸を繰り返して眠っている姫木のシャツのボタンを外し始める。
「この状況を見た、尚ちゃんの反応も面白そうだしね」
昔からほとんど感情を表に出さない尚人。怒ったところなんか見たことないなぁ~、なんて考えながら、尚希は、尚人は怒ったりするのだろうかと、好奇心を持って姫木のシャツを左右に見開いた。
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