【完結】独占欲の花束

空条かの

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4章『恋路編』

74「今は一緒にいてはならない」

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あれ以来、天王寺は必ず一緒に帰ると言って、人の話も予定も聞く耳持たず、自分の事など放ってまでも俺に付きまとうという結果を招いていた。
つまり、俺は過保護にされ周りからどんどん浮いた存在となってしまっていた。

『1年の姫木に近づけば、天王寺さんの怒りを買う』
『誘ったりしたら、打ち首になる』
『触れたら、抹殺される』

などなど、根も葉もない噂が構内を飛び交っていた。
嘘だらけの噂が、俺の周りから人を遠ざける。おかげで講義は静かに広々と机を使えるのだが、孤独感は免れない。

(はぁ、なんでこんなことになったんだろう……。俺の楽しい学生生活ぅぅ)

小学一年生じゃないが、友達作ったり、サークル活動を通じて仲間と友情を深めたり、そんな淡い生活を夢見ていた俺は、見事に打ち砕かれた現実に本気で泣きたくなる。
ちなみにこれでも各所のサークルを巡ったりもしたが、どこもかしこも俺の背後に見える天王寺の存在に怯え、向いてないよとか言われて撃沈している。
結局、俺は青春を諦め、勉学に励むことにした。
初めは怒りもあったけど、今はもう諦めモードだ。どうあっても天王寺には敵わないと思い知らされたからであり、別に天王寺といるのだって悪くないと思えたからだ。
それは、恋なのか友情なのかはわからないけど。
それと、あの事件は警察が総力をあげて解決へと事なきを終えている。犯人たちはやはり天王寺尚人の誘拐が目的で、抵抗され予定が狂ってしまい、無我夢中で俺を誘拐してしまったとのこと。で、全然関係ない俺ではどうにもならないと判断して、顔も見られていないから捨てたと全て吐いたと説明を受けた。





金曜日、その日も天王寺は無事姫木を家に送り届けてから帰宅した。
家に帰れば、尚政と尚希が出迎えてくれた。この二人、なぜか今だにお爺様の家に居座っていた。
お爺様は現在長期不在中。1年ほど放浪してくるとかなんとか言って、出かけてしまっているのだ。
現代は通信機器の設備も充実しており、二人はここでも十分仕事ができると、もうしばらく滞在することに決めてしまっていた。可愛い弟と久しぶりに再会したら、わがままで感情豊かになっていたのがよほど嬉しく、少し見守ってみたいと考えてのこともある。
ちなみに尚希は海外でモデルの仕事も引き受けていたのだが、現在はこちらで契約を結んで時々雑誌の表紙などを飾っていた。
夕食とお風呂を済ませた3人は、リビングで思い思いの時を過ごしていたのだが、ふいに尚政が天王寺の元へ歩み寄る。

「少し話がしたい、いいか」

どこか改まった感じで、尚政は天王寺の隣に腰かける。その様子を尚希は横目で眺める。

「構わないが」
「そうか、ありがとう」

天王寺から許可がおり、尚政はなぜかそっと肩を抱いた。驚きもせず天王寺は尚政を見るが、どこか困った表情を浮かべていた。

「お前にとって残酷なことを言うが、姫木君とは少し距離を置きなさい」

尚政から言われた言葉に、天王寺の目が見開く。

「なぜそのようなことを」
「お前はまだ学生だ。またあのような事が起こらないとは限らない」

例え送り迎えをしたとしても、家に押し入られでもしたら、休日に天王寺の知らないところでまた事件に巻き込まれるかもしれないと、尚政は静かに言葉を紡ぐ。
しかも、現在姫木を送り迎えしていること自体が危ないと話した。
天王寺家と関りがあると、アピールしているようなものだと話す。このままでは姫木の身の保証ができない。ゆえに距離を置き、天王寺家とは何も関りがないと知らしめておかなければならないと、天王寺に現実を突きつける。

「そのようなこと……」

分からないわけではない。尚政が言っていることは正論だった。天王寺家と深い関りがあるなど知られれば、姫木に危険が及ぶかもしれない、けれどそんなこと納得など出来るはずもなく、天王寺はグッと奥歯を噛む。
声を飲み込んでしまった天王寺を優しく抱き寄せた尚政は、分かって欲しいと髪を柔らかく撫でる。

「尚人、本当に守りたいと思うならば、今は一緒にいてはならない」
「尚政兄さん……」

天王寺とともにあれば、またいずれ事件に巻き込まれると示唆した尚政は、天王寺に姫木と別れるように告げた。
それは、天王寺にとって耐え難いことであり、承諾などできるはずもない。けれど、姫木をまたこのような危険な目に合わせるわけにも、天王寺家のことに巻き込むわけにもいかず、天王寺は頑なに口を閉じた。

「尚ちゃん」

表情を暗くし、黙りこんでしまった天王寺に尚希が心配になり声をかけたが反応はなし。

「姫木君が大切であるなら、尚人、お前がすべきことはわかるな」

尚政は天王寺をそっと抱き寄せながら、再度優しく声をかけた。髪を撫で、本当に愛しいものを守るためには、それを選ぶしかないと言った。
天王寺は抱き締められながら、唇を噛み締めて姫木を想う。離れたくなどない、しかし、傷つけたくも、失いたくもない、尚政の言っていることは間違ってない。
ゆえに天王寺は何も言い返せず、それを選ぶしか道はなかった。
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