【完結】独占欲の花束

空条かの

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10章『恋慕編』

187「姫はどこにおるのだ」

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「……尚政さん」
「陸さんにはいつも弟が大変お世話になっていますので、日頃の恩返しをさせてください」
「陸が……?」
「ええ、陸さんにはいつもご迷惑をかけてしまっていて」

出来の悪い弟ですみませんと付け加えて、尚政ははにかんでみせた。姫木の母はそんなことはなく、お世話になっているのは家の方だと言ったが、尚政は、こんな時くらい頼ってくださいと説いた。
姫木の母は自分ではどうすることもできず、尚政に甘えることにして、姫木のことを深く頼んだ。
大金はひとまず天王寺家で預かって欲しいと言われ、尚政はそれを回収すると、天王寺と火月を連れて車に乗り込み、運転手に行き先を告げる。

「尚政兄さん! 姫はどこにおるのだ」
「何か知ってるなら……」
「尚人、携帯を貸せ」

二人から声をかけられた尚政だったが、真剣な表情を崩さぬまま天王寺に携帯を貸してほしいと、手を出す。
その要求に天王寺が大人しく携帯を手渡せば、尚政はその携帯を使ってどこかへ電話をかけ始めた。状況が全く分からない天王寺と火月は、ただじっと尚政を見つめるが、尚政は何かを急いているようにも見え、声をかけられなかった。
電話の相手は2コールを待たずして応答する。

『何かあったのか、尚人』

その声は浅見だった。

「久しぶりだな浅見、尚政だ」
『尚政さん?! まさか尚人に何か……』
「お前に至急頼みたいことがある」
『俺にですか?』
「現在リンディア国の王子が来日しているな」
『はい、そのように聞いております』
「無茶をいうようだが、空港に戻った王子の防犯カメラの映像を大至急送ってもらいたい」
『王子の映像ですか……。一体何が?』
「まだ確証は得られていないが、確かめなければならないんだ」

切羽詰まった尚政の声に、一瞬声を詰まらせた浅見はこれ以上聞き出すのを止め、静かに声を返した。

『時間をください。準備ができ次第、尚人の携帯に連絡を入れます』
「頼んだぞ浅見」

二人の会話はそこで切れ、尚政は険しい顔をしたまま窓の外に視線を向けた。

「もしや姫は空港に向かったというのかっ」

会話の内容から、先ほどの姫木の母の話の流れを把握した天王寺が声を荒げた。王子の友人として、リンディア国に連れていかれると考えた天王寺の顔色が青くなる。
天王寺家であっても、さすがに一国の王子にはそうそう手は出せない。
口を閉じてしまった二人を交互に見る火月だけが、内容を理解できない。
だから火月の怒りはどんどん膨れ上がって、

「何が起こってんだよ。俺にも説明しろっ」

車のシートを叩いて二人の気を引いた。

「秋元火月だったな、現在姫木はリンディア国の王子に関わっていると思われる」
「王子だって」
「下手をすれば自国に連れていかれるかもしれない」

尚政が冷静に説明すれば、火月は冷たい汗を浮かべた。どっかの国の王子に誘拐されるなんて、一体陸は何をしたんだと、真っ青になった。

「それって、犯罪だろう……」
「王子のすることに口出しも手出しもできない。それが現状だ」
「なんだよそれ。じゃあ、陸はどうなるんだよッ」
「落ち着け秋元火月」

怒りを露にした火月は、思いっきり座席を叩く。陸が何をしたかわからないけど、自国に連れていくなんて、奴隷みたいじゃないかと、火月は唇を噛み締める。

「……なんで陸が」

連れていかれたらどうなるんだと、火月は尚政を睨みつけていた。

「まだ誘拐されたと決まった訳じゃない。それを確かめるために浅見へ連絡をしたんだ」
「どうして浅見先輩へ……」
「あの空港のセキュリティーは、浅見家が握っている」

浅見家はセキュリティーのプロ集団。だからこそ代々天王寺家が秘書に選んでいる。推察力、観察力、判断力に勝る人材は浅見家の右に出るものはいないとさえ言われている。
空港の防犯カメラに姫木の姿がなければ、それでいいと尚政は冷たい汗を感じながら、浅見からの連絡を待つが、天王寺は口元に手を当てたまま、不安に飲み込まれそうな自分と戦っていた。

「車を停めろ!」

空港エリアに到着してすぐに、尚政がそう声をあげた。運転手が慌てて安全な場所に車を停めると、尚政が飛び出す勢いで車を降りる。
それにつられて天王寺と火月も降り、尚政が見つめる視線の先を追いかけた。

「……チッ、遅かったか」

空を見上げる尚政は、苦虫を噛みつぶしたような表情で飛び立つ一機の飛行機を見つめる。そして天王寺が一歩踏み出すと「姫ッ!」と叫んだ。

「どうしたんだよ」

一人状況が飲めず、火月も叫ぶ。
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