【完結】独占欲の花束

空条かの

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10章『恋慕編』

189「恋人なんですよ、あの二人」

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数時間後、天王寺家には姫木に関わる人物が集まっていた。

「なぜ来たんだ」

開口一番に声を荒げたのは、意外にも浅見だった。

「僕だって陸くんの親友ですよ」
「それはわかっているが、これは危険な作戦だ」

火月が連絡をとってしまった水月が、浅見に食いつく。出来れば危険なことに巻き込むのは最小限にしたかったのだが、水月は天王寺家の乗り込んでくると、自分も姫木の救出にいくと言い出したのだ。

「火月ちゃんが行くのに、どうして僕は駄目なんですか」
「火月を連れていくとは言ってない」
「火月ちゃんは絶対行きますよ」

水月は強く断言して浅見にどんどん迫る。その表情は鬼のように怖い。

「水月に危険なことはさせられない」

命を落とすかもしれないと脅しをかけて浅見が説得するが、水月は一歩も引き下がらず、ついに浅見の服を掴み上げた。

「僕だけ除け者にするんですかッ。陸くんが心配なのは、僕も同じなのに」
「……水月」
「冬至くんが何と言おうと、僕も行くからねっ」

絶対ついていくと、水月は浅見を睨みつけて服を締め上げた。その迫力に押されて、浅見は眼鏡を押し上げながら、変な汗を掻きつつ深い息を吐く。

「あれはお前の弟か?」

浅見をタジタジにさせる人物は誰だと、尚政はつい火月に声をかけていた。

「ははは……、双子の弟です」
「浅見が狼狽えてる姿を見るのは初めてだ」
「恋人なんですよ、あの二人」

何気なく告白された事実に、尚政はさらに驚き、声を失った。あの浅見に恋人?! しかも尚人と同じ男性の。
最近の若者は恋愛が自由過ぎると、尚政はまったくついていけないとため息を吐いた。
天王寺家に集まったのは、尚政、尚人、浅見、火月、水月の5名。
危険だとわかっているが、5人はリンディア国に姫木を救出に向かうことを決めていた。
正当な手続きをとったとしても、相当な時間が必要になり、あちらから姫木などという人物はいないと言い切られればそこまで。
尚政と天王寺、浅見は、強行手段で姫木を取り戻すことを決断した。
防犯カメラの映像からして、姫木が王子に無礼を働いて連行された訳ではないと推測されたからだ。大事そうに王子本人に抱きかかえられていたことを踏まえると、気に入られた筋が濃厚であり、宮殿にでも囲うつもりではないかと考えたから。
とにかく姫木を見つけ出し、日本に連れ帰れば問題はないと判断した結果、リンディア国に乗り込んで、姫木を取り戻すと話し合った。
王子といえども、再度日本に渡り姫木を連れ去ることはできないと踏んでの作戦だ。
姫木には悪いが、逆誘拐を実行させてもらうと決めた。
相手は第5王子、アデル・ビン・ライムート・ビン・ダリウス・アル・リンディア。
末っ子であるアデルは、まだ十代、年も若く権力もそれほど与えられていない、おそらく宮殿の警備もそれほど厳重ではないのではないかと、姫木を探し出し連れ出すことは可能かもしれないと。

「尚政兄さん、尚希兄さんへ応援を」

天王寺はこの作戦を実行するにあたり、尚希の協力が必要だと口にし、尚政は強力な助っ人の存在を忘れていたと、苦笑してみせた。
現在イタリアに戻っている次男の尚希は、とにかく交友範囲が広い。世界中に何かしらの繋がりがあるといっても過言ではないほど、手回しをしているのだ。
普段の姿からは想像もできないが、尚希の行動力、人を惹きつける魅力は学生の頃からその能力を開花させていった。
決して敵に回したくない人物だと、尚政は常に尚希を高く評価していた。



イタリアから自家用ジェットですぐに駆け付けてくれた尚希は、到着するとすぐに天王寺をギュっと抱きしめた。

「尚ちゃん、大丈夫?」

姫木に何かあり、酷く落ち込んでいるのではないかと、尚希は優しく強く抱きしめる。
何においても弟の尚人が一番の尚希は、大切な弟を悲しませたくないと、心を痛めて胸に抱く。

「……尚希兄さん」
「心配ないよ。僕がちゃんと姫ちゃん助けてあげるからね」

だから悲しまないで、そう言いながら柔らかな天王寺の金髪を撫でる。

「私のせいなのだ」

そっと髪を撫でられる天王寺は、絞り出すように声を出す。こんな事態を招いたのは全部自分のせいだと。傍に置けばよかったと、あの日からずっと後悔していると、唇を噛み締めた。

「それは違うよ」
「なぜ?」
「これは運命だったんだよ。だから誰にも止められなかった」

天王寺のせいじゃないと、尚希は全て決められた運命だと、天王寺がこれ以上自分を責めないようにと言い聞かせる。

「……運命」
「尚ちゃんと姫ちゃんが結ばれるのも運命だから、大丈夫」

二人は必ず結ばれる、だから心配しないでお兄ちゃんに任せてと、尚希は包み込むように天王寺を腕に抱きながら、尚政に視線を向けると瞳を微かに細めた。

「尚希……」
「尚ちゃんを悲しませるなんて、許さないから」

それは尚政に対してではなく、リンディア国のアデルに対しての敵意だった。
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