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第三章 水の都の双子姉妹

25話 マオーク再び

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 追い打ちを掛けようと無影脚で接近しようと思ったら、

「お待ち下さい、アヤト様」

 クロナが一歩前に出て、制した。
 ウィンディーネの前に立ち、再び祈祷を捧げる。

 すると、ポワ、とウィンディーネの身体が淡く輝き――

『グ、ガ……、……ん』

 憑き物が取れたかのように、ウィンディーネは水晶の剣を消失させ、しっかりと立ち上がってクロナに向き直った。

『――巫女よ、私を蝕んでいた呪いから解放してくれたこと、感謝致します』

 やはり呪いだったのか。
 しかし、精霊が自我を失うほどの呪いか……俺はともかく、他のみんなにそんな呪いをかけられなくて良かった。

「ウィンディーネ様、一体何があったのですか?それに、呪いとは……」

 クロナはウィンディーネと普通に話してるな……海巫女の祈祷が召喚に必要なだけで、一度召喚すれば一般人……いや、俺は"逸"般人かもしれないが、普通の人間と話すことも出来るんだろうか。

『何者かの邪悪な意志がこの霊殿に満ち、私はその邪悪な意志に呪われていましたが、巫女のおかげで助かりました』

 邪悪な意志ねぇ。
 ひょっとするとあのブタさん、アリスAちゃんから邪悪なパワーを貰って強化されているのかもしれないな。

 よし、挙手。

「精霊ウィンディーネよ、質問をよろしいか」

『どうぞ』

 ウィンディーネから発言の許可を得たので、早速質問だ。

「あなたの言う邪悪な意志とは、どのような存在だったか?」

『どのような存在……醜く肥え太った、豚のような姿をした魔物でした』

 やっぱりか。ぁんのブタさん、今度会ったらミンチよりひでぇやにしたらぁ。

「精霊ウィンディーネ、恐らくその豚は、別の世界では魔王だった存在だろう。一度はその世界の勇者によって討たれ、息の根を絶たれたはずだが、また別の何者かの手によって蘇生されたのだと思われる」

『別の世界から現れた存在であると?』

「その可能性が高い、ということだ。全く無関係という線も否めない」

『ふむ……』

 俺の意見に、ウィンディーネは考え込むように視線を泳がせる。

「ウィンディーネ様、此度はこちらのアヤト様達が解決してくださりましたが、もしまた同じことがあれば……」

 クロナが懸念を挙げる。
 恐らくウィンディーネは全く抵抗する間もなく呪いに侵されたのだろう、そうだとすれば次を未然に防ぐことが出来ない。

『さすがに同じ呪いならば遅れを取りはしません。ですが、此度のものよりも強い呪いを仕掛けられては……難しいかもしれません』

 どうにもならんか。

『アヤト、と申しましたか。あなたは、先にも述べた魔王を討ち滅ぼした勇者なのでしょうか?』

「いいや、魔王を討ったのはこちらの少女だ。俺は一介の冒険者に過ぎない」

 俺の目配せを受け、エリンがぺこりと会釈する。

『冒険者?単なる人間であると?しかし、呪いを受けていたとは言え、精霊たる私を圧倒していたなど……』

 まぁ、ただの人間が精霊様を正面からどつき回して倒した、なんて普通は有り得ないだろうな。俺が"ただの人間"なのかどうかは多分に怪しいところがあるけども。

「まぁ俺のことはいいだろう。それと、俺からもう一つ懸念がある」

 その懸念とは、あのブタさんがこの霊殿に呪いをかけた、そもそもの理由だ。

「魔王はおそらく、あなたの持つ力を奪うために呪いをかけたのだろう。精霊ウィンディーネ、あなたは今、ご自分の力を失ってはいまいか?」

『………いえ、問題ありません。この霊殿の外で起きていることも、今理解しました。すぐにこの海の安定を取り戻してみせましょう』

 ふむ、ウィンディーネは自分の力をブタさんに奪われていないと。
 正気を失っていてもなお、ブタさんに力を奪われない程度には抵抗出来ていたわけか。

「よし、ならばこれで問題は終息したとしよう」

『巫女、冒険者アヤト、そしてそれに連なる者達よ。本当にありがとうございました。それと、こちらを』

 ウィンディーネは両手のひらを俺に向けると、光が集まり――ひとつのアクアマリンに似た宝石を生み出した。

「これは……あなたの持つ力の一部だろうか?」

 なんか少し前に似たようなもの貰ったし。

『厳密には力ではないのですが、私の加護を込めた精霊石――『蒼海の護石』です』

 ふむ、精霊の加護ってやつか。一定確率で受けるダメージを減らしてくれそうだな。

「授けてくださるというのなら、ありがたくいただこう」

 ふわりと飛んで来たそれを手に取る。

 蒼海の護石 を手に入れた!

 最後にウィンディーネは一礼してから、祭壇から姿を消した。
 これから海水温を元に戻したり、霧を晴らしたりして大変だろうな。

「これで一件落着かな?」

 エリンはショートソードを鞘に納める。

「はい、ウィンディーネ様にかけられた呪いも消失したそうですし、ひとまずは」

 クロナが「ひとまずは」と言ったのは、やはり根本的な解決には至っていないことだろう。
 とりあえずはウィンディーネに後始末を丸投げするとして。

「では、速やかに帰還しましょう」

 レジーナも鎖鎌のチェーンを巻き取り、懐に納める。

「これで、海が元に戻ってくれるといいですね」

 ふぅ、と安堵に一息つくリザ。
 元に戻ってくれなかったら別の原因を探さないといけないから、これで終息してほしい。

 なんて思ったのがフリだったか。

「ん……なんだ?気配が近づいて来る」

 気配察知の感度を高める。

 これは……マオークか?

 いや、前と比べてもやけに強い周波だ。
 それにマオークだけじゃない、もっと複数の反応もある。
 1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11……マオークを除いて全部で十二か。

「ぐははははは!また会ったのぉ、勇者よ!」

 鼻声のような野太い笑い声、その方向は、この祭壇の間の出入口から。

 そこに侵入して来たのは、やはりブタさん――マオークだった。
 その奴の周りには、槍や鎧で武装した十二頭のオーク。

「あ、ブタさん」

 リザやクロナ、レジーナは驚いているのに、エリンだけは平然としている。一度自らの手で降しているからだろうな。

「誰がブタさんじゃ!……勇者よ、貴様の命もここで終わりにしてくれるわ!」

 エリンに「ブタさん」呼ばわりされて怒るマオーク。
 さて、どうやら連戦になるようだが、奴に訊きたいことがあるので、一歩前に出る。

「ハローこんにちはマオーク。何故お前が生きているのかは知らないが、一体何が目的だ?」

「決まっておる!貴様ら勇者どもへの、復讐じゃ!よくもよくもよくもよくもよくも、ワシを殺してくれたな!」

「復讐するのは構わないんだが。マオーク、お前はアリスと手を組んでいるのか?」

「ふん!あんなアリスアリスと言うばかりの阿呆などと、手を組んだ覚えは無いわ!」

 なるほどよくわかった。
 やはりマオークは、アリスAちゃんによって蘇ったらしい。
 そして、マオークの「エリンへの復讐」と、アリスAちゃんの「アリスBを殺すための力」という利害が一致したということもな。
 アリスAちゃんがウィンディーネに呪いをかけて弱らせて力を奪おうとして、その弱ったウィンディーネをエサにマオークは俺達をハメようとしたってわけだ。
 まぁ、それが分かったところで「だからナニ?」ってなるんだが。

「お喋りはここまでじゃ、行けぇ!!」

 マオークがハンマーの鎚先を向けると、奴の配下らしいオーク一個中隊が、ブモーブモーと突撃してくる。

「エリンに復讐したいというのは分かった。だが……」

 俺という存在を甘く見過ぎたようだな。
 風属性のルーンを顕現、詠唱。
 
「――『トルネード』」

 放つは風属性の上級魔法。
 自然災害の台風そのもののような竜巻を発生させ、突撃してきたオークの群れを纏めて斬り刻んで吹き飛ばしていく。
 祭壇の間でこんなことして申し訳ないが、非常事態だからごめんねテヘペロン。
 ドサドサドサドサと、トルネードに斬り裂かれたオークの群れが死屍累々と重なる。

「な、なんじゃと!?貴様、魔法も使えるというのか!?」

 自慢の部下が纏めて吹っ飛ばされてか、マオークは小さい目をかっ開く。
 え?知らなかったっけ?
 ……そう言えばブラックドラゴンの時は剣術だけで倒したんだっけな。

「あぁ、使えるけど?」

 ご覧の通りです。

「ねぇアヤト、私思ったんだけど……このブタさん、普通に倒してもまた蘇るだけだよね?」

 ふと、エリンがそう問いかけて来た。
 そうなんだよなぁ、アリスAちゃんがマオークを蘇らせる力を持っている以上、

「何らかのプロセスの元でマオークを蘇るなら、倒してもまたいずれ復活するから、キリがないな。復活する"元"を絶てればいいんだが……」

 しかしどうするかね。

「えぇぃ勇者どもめ!忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい!こうなれば奥の手じゃぁ!」

 マオークはハンマーを床に叩きつけて、詠唱を始め――っておいおい、なんか明らかにヤバそうな魔法を唱えてるな?

「ヴガアァァァァァァァァァァ!!」

 なんだなんだ、古に封印された大魔王でも召喚するつもりか?それはそれで面白……ゲフンゲフン面倒だな。

 すると、マオークの体躯が邪悪な輝きに包まれ、シルエットが見る内に高く大きくなる。
 それだけでなく、頭から二本の角が生えたり、翼が生えたり、手足の爪は大きく鋭くなり、体表には鱗のようなものがびっしりと並ぶ。

「これは……!?」

 レジーナは一度納めた鎖鎌を再び抜き放つ。

 その外観は、ドラゴンの遺伝子を組み込んだ結果、中途半端に発達してより醜悪になったオーク、という様が正しいだろう。

「なるほど、ドラゴン化って奴だな」

 一時的にドラゴンに変身して戦闘能力を高めるって呪文だってあるんだ、そこまで珍しいものでもないが、これが奴の"第二形態"だったのか。
 いや、アリスAちゃんに復活させられた時に、新たに与えられた力なのかもしれないな。

 にしてもでかいなー、全高だけで10m以上はありそうだ。

「ガーハハハハハ!サァー、キサマラゼンイン、チマツリニアゲテクレルワ!」

 ブゴガァァァァァッ、と、豚なのか龍なのか、なんかもうイントネーションが酷い咆哮を上げて、『ドラゴンマオーク(仮)』が襲い掛かってきた。

 大きく息を吸い込み、ドラゴンらしく朱々とした火炎ブレスを吐き出してきた。

「させません――フリーズハンマー!」

 これに対してリザが即座に対応、火炎ブレスを相殺させんと、セプターの魔石を水色に輝かせてフリーズハンマーを放つ。

 氷塊が壁となって火炎放射と正面衝突し、凄まじい水蒸気が発される。
 しかし、

「押されて……!?」

 ドラゴンマオークの火炎ブレスの熱量はかなり高いらしく、リザのフリーズハンマーが押され始めている。

「リザ、こういう時は風と合わせて対応するんだ」

 俺もすぐにルーンを形成、水色と緑色の二色の絡ませたそれを顕現させる。

「――『スノーウィンド』」

 極低温の吹雪が竜巻となって、フリーズハンマーの氷塊を後押しする。

 これは、二つの属性を組み合わせた、双属性の攻撃魔法だ。
 リザが持っていた書物から双属性の魔法についての記述があったのを読んだので、この世界の魔法理論には反することはないだろう。

 水だけでは炎に掻き消される恐れもあるから氷属性の魔法を選んだリザは間違ってないが、相手が格上だった時の力量差をちょっと見誤ったのかもしれない。
 俺のスノーウィンドの雪風による後押しを受けたフリーズハンマーはドラゴンマオークの火炎ブレスを押し返し、そのまま叩き込む。

「グヴァァァァァ!?」

 フリーズハンマーとスノーウィンドを同時に受けたドラゴンマオーク。
 だが、鱗や甲殻、翼が傷付いて凍結しただけで、(俺が霊殿への被害も考慮して出力をセーブしたとはいえ)さほど大きなダメージにはなってないようだ。
 ふむ、魔法耐性も上がっていると見てもいいか。

「アヤトさん、双属性の魔法まで……いえ、アヤトさんですし、驚かなくてもいいですね」

 リザが微妙に失礼なことを言ってきた。
 そこはさぁ、「双属性!?アヤトさん、そんなものまで!」って驚いてくれてもえぇんやで?

「こんなところで暴れられたら、精霊さんも困るだろうし……とりあえず倒す!」

 ショートソードを抜き放つのと最初の踏み込み足を蹴り出すのがほぼ同時、エリンはドラゴンマオークへ一息に接近する。
 間合いに踏み込み、跳躍、傷付いた鱗に向かってショートソードを叩き込み、斬り上げ、斬り上げた部位を踏み台にして再跳躍、空中でぐるんと一回転しつつ、

「はあぁぁぁッ!!」

 回転落下の勢いも乗せた渾身の一閃。
 並の大型の魔物ならこれだけで倒れるだろう一撃だ。

 ドラゴンマオークの脇腹辺りを深く斬り裂いたエリンの一撃はしかし、奴を僅かに怯ませるだけだった。

「ヴアァ!」

 即座にドラゴンマオークはエリンを踏み潰そうと脚を振り上げるが、エリンも気を抜いてはおらず、すぐにその場から飛び退いて踏みつけを躱す。

「姉上、私達も!」

「えぇ、レジーナも気をつけるのよ!」

 エリンに続いてレジーナも接近を試み、クロナは鉄扇を広げて補助魔法の詠唱を開始する。
 よし、俺も続こうじゃないか。

 魔力跳躍で霊殿の天井スレスレまで飛び上がり、その天井を壁キックして勢いを付けて、抱え込むようにロングソードごと突撃!

「――パワーエクステンド!」

 ちょうど、クロナからの補助魔法も合わさってくれた。
 狙いは奴の右翼だ、俺自身が弾丸となった一撃は、ドラゴンマオークの右翼をぶち抜く。

 突撃ざまに奴の背後まで突き抜けて、着地、すぐに軸足を入れ換えて、

「乱れ咲け鮮血――『紅桜烈斬こうおうれつざん)』!」

 ロングソードの剣先に気功を練り上げ纏わせ、大きく踏み込んで回転しつつ、奴の右脚に一閃、二閃、桜の花弁が舞う。

 そのまま斬り抜けて、斬り抜けた勢いを殺すために軸足を入れ替えつつ、ロングソードを鞘に納め――

 キンッと、金具が固定されると同時に、俺が直前に斬り抜いた部位二箇所が一拍遅れて傷口を斬り開き、鮮血をぶちまける。

「ブギァァァァァ!?」

 決まった!第三章、完ッ!

 ……とはいかなかったが、奴にそれなりのダメージは入っただろう。

 剣客浪漫の世界に異世界転生した時に編み出した秘技だ、なんで桜の花弁が舞い散るのかは俺も知らない。
 
 蹈鞴を踏むドラゴンマオーク、そこへレジーナが鎖鎌を両手に飛び掛かり、



「お覚悟!」

 俺が斬り付けた右脚に鎖鎌を投げ付けて、絡み付かせる。

「――『ポイズンファング』!」

 毒牙――という名称からして、致死毒を打ち込む呪術だろうか。
 レジーナの鎖鎌越しに毒々しい紫色の光が、ドラゴンマオークの傷口に注ぎ込まれ、内側より体内を破壊する……えげつねーな。

「ブガァッ!」

 しかしドラゴンマオークは右脚からの不快感に、巨躯を暴れさせ、

「キャッ!?」

 鎖鎌に繋がれたままのレジーナは、そのままドラゴンマオークに引き込まれてしまう。
 引き込まれたレジーナは転んでしまい、そこへドラゴンマオークは右腕――というか右前脚を叩き込もうと振り上げる。

「っ、させない!」

 ドラゴンマオークの注意を引くべくエリンは再度突撃し、飛び掛かりながら、ドラゴンマオークのブヨブヨした腹部にショートソードを斬り込ませる。
 が、肥満極まる腹は柔らかい反面、痛覚も鈍いのだろう、ドラゴンマオークはエリンの斬撃など意にも介さずに、レジーナへ右前脚を振り降ろそうとする。

「レジーナッ!!」

 クロナがその場から駆け出してレジーナを助けようとしているが……ダメだ、あれでは二人とも潰されてしまう!

「下がれクロナ!」

 縮地でレジーナのすぐ側に駆け込み、ロングソードを抜き放ち様に寝かせて構える。

 ギイィンッ!! と、ロングソードの刀身とドラゴンマオークの右手の鉤爪が衝突し、不快音を撒き散らす。

「ぐっ……」

 クロナのパワーエクステンドのおかげで、どうにか潰されずに持ちこたえることが出来たが……ちょっと受ける姿勢が悪かったか、この重圧はさすがにキツイな、背筋とか背骨がメキメキ言ってて折れそう。

「ア、アヤト、様……!?」

「無事かレジーナッ、早く離れろ……!」

「で、ですがっ……!」

「構うなっ、どうせ俺は死なん!」

 我ながら無茶苦茶なこと言ってるなぁ、俺。
 普通に殺される程度では死なないという点では嘘じゃないが、徹底的に殺し尽くされたらさすがの俺も死ぬ。

 ……まぁ、その時は死の寸前に女神様が俺の魂と記憶だけをサッと拾ってくれるから、"俺"が死ぬことはないんだが、残されたエリン達が悲しむのは嫌だな。

「ッ……!」

 レジーナはドラゴンマオークの右脚に絡み付かせていた鎖鎌を引き戻し、俺の下から飛び退く。
 しかし俺はこの状況から逃れることも出来ないな、下手に避けようとしたら、そのままペシャンコだ。

「――『エアブレイド』!」

 そのまま堪えていると、リザから風属性の中級魔法――エアブレイドが放たれ、俺を巻き込まないようにドラゴンマオークの右翼だけを烈風の刃で斬り刻んでいく。

「アヤトをっ、は な せえぇぇぇぇぇッ!!」

 そこへエリンが、ドラゴンマオークの左脚を踏み台にして跳躍し、勢いよくショートソードを振り下ろし――その時、エリンの右手が輝いているように見えたのは気のせいか?――俺の斬撃とリザのエアブレイドによって重ねられた損傷が功を奏し、翼の付け根辺りが真っ二つに斬り裂いてみせた。

「グゥ!?ガヴァァァァァ!!」

 胴体から右翼が斬り離され、ドラゴンマオークは悲鳴のような咆哮を上げて後退る。
 ふぅ、おかげで助かったぜ、俺の粘り勝ちだ。

「アヤトッ、大丈夫!?」

 攻撃の如何よりも俺のことを心配してくれるエリン。

「大丈夫だ、問題は……ちょっとはあるが問題ない」

 今のでちょっと背骨が軋んだけど、大したことない。寝れば治る。

「ヴグゥゥゥゥゥッ、オノレッ、ユウシャドモメガァ……!」

 右翼を失い、右脚の傷口から毒に侵されて弱っているドラゴンマオーク。

 そろそろケリをつけないとな。
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