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第三章 水の都の双子姉妹

24話 目を覚ませ!呪いを砕くアヤトの拳

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 今度こそとエリンに反撃しようとするトロールの正面に堂々と踏み込むと、シャキシャキシャキンッと、トロールの脂ギッシュな腹肉をなます斬り。

 トロールの血と脂がロングソードに飛び散る。きったねーな。

 自分の出っ腹を膾斬りにされ、慌てて蹈鞴を踏むトロール。

 そこへ、鎖鎌を両手にレジーナも挑みかかり、

「――『ブーストドライブ』!」

 同時にクロナから補助魔法が放たれ、魔力光がレジーナに纏われると、レジーナの動きが途端に速まる。
 なるほど、速力強化だな。

「はっ!」

 そのまま足元に飛び込み、鎖鎌を一閃、二閃、トロールの短足を斬り裂いていく。
 誰から排除すべきか――すぐ足元にいるレジーナに狙いをつけたトロールは、蹴り飛ばそうと脚を振り上げて――

「――『ウインドエッジ』!」

 その寸前にリザの風の初級魔法のウインドエッジが放たれ、俺が膾斬りにしたトロールの出っ腹の傷口を押し広げる。
 裂傷を受けたところを思い切り左右に引っ張られるようなものだ、あれは痛いだろう。
 悲鳴を上げるトロールは、片足立ちになっていたところに体勢を崩され、転倒。

 そこへエリンが飛び掛かり、トロールの顔をどかっと踏み付けると、

「これ、でっ!」

 喉元にショートソードを突き込み、抉り裂いた。
 急所を狙える時は確実に狙い潰す……俺の教えを実践しているようで何よりだ。

 ――だが、喉元を潰されたはずのトロールは、まだ息の根が止まっていなかった。
 エリンのショートソードの刃渡りでは即死させられなかったのか、それともこいつの生命力がバカなのか。
 どちらにせよ最後のあがきか、顔を踏み付けているエリンを左手で掴み上げ、振り回す。

「えっ、うあっ、あぁぁぁぁぁ!?」

 まずい、エリンを握り潰すつもりか。そうはさせん!

「エリン!」

 縮地、跳躍、ロングソードでトロールの左手首を斬り飛ばす。
 一旦着地。

「エリンの尻に触れていいのは俺だけだ、

 く た ば り や が れ !!」

 気功を乗せて、トロールの鼻っ面にハンマーブロウをぶち込む。
 殴打の質量と気功による内部破壊によって、トロールの首から上が破裂した。……怒りもあってのことだけど、ちょっとやり過ぎた。

 トロール、撃破。

「エリン、無事か!」

 ロングソードを鞘に納めて、トロールの手首を斬り飛ばした方向に目を向ければ、クロナがトロールの手指を解いて、エリンを助け起こしていた。

「エリンさん、大丈夫ですか?」

「う~……タンコブ出来たかも」

 エリンは壁に頭をぶつけたらしく、後頭部を擦っている。
 ……トロールのバ怪力に握り締められていたのに、案外平気そうだな?
 むしろ、俺が斬り飛ばしたせいで壁に頭をぶつけたのか。

「今、手当てしますね――キュア」

 クロナが回復魔法をエリンの後頭部に当てる。

「すまんエリン、俺のせいだ」

「アヤトのせいじゃないでしょ。……ん、まだちょっと頭フラフラするぅ……」

 脳震盪を受けて、少なからずダメージも入ってるだろうしなぁ。

「よし、近くに魔物の気配もないし、ここで一旦休憩だな」

 俺がそう提案し、反対意見が上がらなかったので、小休止。
 一応、俺達が入って来た出入口には結界を張っておく。
 石畳に座り込んで、一息つく。

「皆様、エリンさんの他に怪我はしておりませんか?」

 クロナがそう声をかける。
 逐一怪我が無いかを案じてくれるのか。ありがたいな。

「わたしは大丈夫です。レジーナさんも大丈夫ですよね?」

 リザが問題なしを自己申告し、レジーナにも目を向ける。

「はい。私も問題ありません。……本当ですよ?」

 さっきは怪我したことを黙っていたらクロナに「めっ」ってされたレジーナは、本当に怪我などしていないと主張している。

「俺も問題無しだな」

 あ、ちなみに昨日の矢傷は昨夜の内に自分で完治させました。

 すると、エリンが俺に擦り寄ってきて、俺の膝に頭を乗せてきた。

「エリン?」

「まだ頭痛いから、なでなでして」

 顔は俺の方に向けた上で、上目遣い。
 そんなかわいい顔で「ナデナデシテー」なんてお願いされて断る男はいません。

「エリンのお願いじゃぁしょうがないな」

 そっと彼女の髪に手を添えて、なでなでする。なでなで。

「えへへ……癒やされるぅ……」

 幸せそうにエリンの顔がほころぶ。
 本当は痛みも腫れも引いているんだろうけど、今はこうして誰かに甘えたいんだろうなぁ。なでなで。

「むぅ……」

 その隣で、リザが羨ましそうに見ている。なでなで。
 しかし次の瞬間には、エリンの反対側からリザも擦り寄ってくる。なでなで。

「アヤトさん、わたしは魔法をたくさん使って頭が疲れましたから、なでなでしてください」

「はいはい、こっちに来なさい」

 右手はエリンの頭をなでなでしつつ、左手はリザの頭をなでなでする。なでなで。

「はふぅ……至福の時ですぅ……」

 にへら、とリザの顔が緩む。なでなで。

「あらあら、お二人ともアヤト様のなでなでがお好きなのですね」

 そんな俺達三人の様子に、クロナがお上品に微笑んでいる。なでなで。

「アヤト様。後で良いので、ぜひこのクロナにもなでなでをお願いしますね?」

「あ、姉上!?」

 クロナが俺になでなでしてほしいと言うと、何故かレジーナが驚いた。なでなで。

「だって、アヤト様になでなでされているお二人が、本当に気持ち良さそうで……そうだわレジーナ、あなたもアヤト様になでなでしてもらいなさい」

「わ、私もですか!?そんな、なりません!婚約者のいる方に……っ」

 慌てるレジーナかわいい。なでなで。
 よし、さらに慌てさせてやろう。なでなで。

「よし、エリンとリザの気が済んだら、次はクロナとレジーナだな」

「ほらレジーナ、アヤト様は私達を受け入れてくださるそうよ?」

「アヤト様っ!?」

 クロナはほんとに大らかだなぁ。自分にも相手にも、遠慮しなくていい時は遠慮しないというか。なでなで。

「い、いいですっ、私は結構ですので!!」

 するとレジーナは慌てて後退って距離を取ってから座り直した。なでなで。

「ごめんなさいね、アヤト様。レジーナが恥ずかしがりやなもので」

 ごめんなさいねと言いながらも、クロナはニコニコしている。なでなで。

 もう少しだけエリンとリザをなでなでしてから、リクエスト通りクロナの黒髪ロングも優しく撫でてやると、「アヤト様ったらお上手♪」と喜んでくれた。なでなで。



 さて、微笑ましいなでなでタイムもそろそろ終わりの時間が近付いて来たので、霊殿の攻略再開だ。

 南東のスイッチを押し込んで、次は北西、北西の次は東、東の次は西、西の次はもう一度南西に戻り、隠されたもう一つのスイッチを押し込む。
 なるほど、ぐるりと一周してきて、最後に最初の部屋に隠されたもう一つのスイッチを押す必要がある、と。

「これで全ての仕掛けが解かれ、祭壇への道が開かれました」

 レジーナがそう告げてくれる。
 あちらこちらと歩き回って、何度も魔物との戦闘になったが、消耗らしい消耗はしていない。
 でも一応訊いておこう。

「ヨルムガンド湿地帯の神殿と同じなら、この先に待っているのは強力な大型の魔物のはずだ。小休止が必要なら、今の内に言ってくれ」

「私は大丈夫だよ」とエリン。

「わたしも問題ありません」とリザ。

「ご心配に及ばずです」とクロナ。

「姉上に同じく」とレジーナ。

 見た感じ無理を隠しているような様子も無いし、大丈夫そうだな。

「よし、なら行くか」

 それでは大部屋に戻り、北部に当たる祭壇の間へレッツゴーだ。



 北部の扉を抜けたその先にさらにもう一つ、扉。あれが、仕掛けを解いたことによって封印も解かれた扉だな。
 クロナが最後の扉に近付き、祈祷を捧げると、重々しい音を立てながら扉が開いていく。

 さて、鬼が出るか蛇が出るか、それとも悪魔が出てくるか。
 鬼なら殴り飛ばして、蛇なら踏み潰し、悪魔なら斬り刻むだけだがな。

 しかし予想とは反して、祭壇の間は至って静かなものだった。

 アラクネの時のように天井に巣を張って待ち構えているわけでもなく、気配を察しても魔物のそれらしい気配は見られない。

 ――ただ、祭壇から何やら渾沌とした邪気が漏れ出しているが。

「これは……」

 クロナはその場から駆け出して祭壇に近付くと、祈祷を捧げる。

「ウィンディーネ様、どうか巫女の声をお聞きください」

 すると彼女の声に応えるように、祭壇から灰色の光が溢れ出す。

 顕現するは、世にも美しい美女――に見えるが、肌の色は水色で、神秘的な蒼色の長髪、下半身は人魚のような尾鰭と魚鱗に覆われている。
 しかし――瞳に光は無い。
 まるで何かに取り憑かれたような"虚"が、その美女――ウィンディーネから感じられた。

「お聞かせください、ウィンディーネ様。あなた様に一体何が……」

『――ギィ"ェ"ア"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ッ"!!』

 女性が発する声のそれとは思えない、チェーンソーで鉄塊を切断するような甲高く耳障りな声がビリビリと祭壇の間を殴り付け、反響する。

「うっ!?」

 離れた位置にいる俺達はともかく、間近にいたクロナはその金切り声に、咄嗟に耳を塞いで蹲ってしまう。

 ……なるほど、"そっち"のパターンか。

 蹲って動けないクロナに、ウィンディーネは水晶で作られたようなソードを生み出し、振り翳そうとしている。

「クロナッ!」

 縮地でクロナの背後から羽交い締めにして、すぐに飛び下がる。
 その0.5秒後に、ウィンディーネの水晶の剣が振り下ろされ、祭壇の床に叩き込まれた。
 結構な破壊力だ、クロナの踊り娘衣装が破れて"ポロリ"するだけでは済まんな。
 ……じゃなくて。

「アヤト様っ、ウィンディーネ様の様子が……」

「どう見ても正常では無いな、交信可能なクロナの声が届いてないのなら、言語不要の『OHANASHIどつきあい』をしなくちゃならないな」

 こういう、"洗脳"系のイベントな。
 とりあえず戦って弱らせて、洗脳を解くしか手が無いんだよ。
 尤も、洗脳されていなくとも、その場合は「我が主に相応しいか、その力を見せてみよ」とか言うから、結局戦闘は避けられないのだが。

 羽交い締めしていたクロナを降ろせば、エリンとレジーナも武器を抜いて駆け寄ってくる。

「姉上っ、ご無事ですね!?」

「私は大丈夫よ、レジーナ」

 クロナを守るようにレジーナが鎖鎌を構え、エリンも低く構えて戦闘態勢を取り、その後方ではリザがセプターを手にいつでも詠唱出来るように身構えている。
 ここまでの戦闘で、クロナもレジーナもすっかり戦い慣れしているな。

『ガア"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!』

 半狂乱状態とは言え、やはり戦闘は避けられないか、ウィンディーネは水晶の剣を床から引き抜いて、俺達に襲い掛かってくる。
 俺がクロナを羽交い締めから離している内に、真っ先にエリンが飛び掛かる。そろそろ俺の(四割くらいの)無影脚にも追いつけそうな速度だ。

「やあぁッ!」

 目視するのも難しくなりそうな、音速の一閃。
 ウィンディーネは水晶の剣でこれを受けるものの、

「ふっ!はぁっ!えぇいっ!」

 一撃、二撃、三撃と太刀筋を変えて果敢にウィンディーネに斬り掛かっていく。

『ギッ"……!』

 エリンの素早い、しかし急所を確実に狙い潰す、殺意の塊のような連斬撃に、ウィンディーネは歯 (があるかは分からないが)軋りしつつも弾き返していく。

「――『ガードハーデン』!」

 ウィンディーネに肉迫するエリンに、クロナの補助魔法が重ねられる。
 皮膚の硬質化――つまりは防御力の強化だな。

 ウィンディーネの反撃に、エリンはすぐさま盾を構えて、シールドバッシュのように殴り返す。
 クロナのガードハーデンの効果もあって、盾越しとは言え強い衝撃を受けたはずのエリンは平然としている。
 シールドバッシュで水晶の剣を殴り返し、間髪入れずに反撃の連続突き、ウィンディーネの肌やヒレ、髪を斬り裂いていく。

 勇者としての才覚もあってのことだろうが、エリンが日に日に強くなっていくなぁ。
 
 ウィンディーネの注意がエリンに向けられるところで、リザが詠唱を開始、火属性のルーンを顕現する。

「エリンさん下がって!――ヘルファイア!」

 リザはエリンに後退を呼び掛け、その一拍の後にヘルファイアを発動、セプター先端の魔石が朱く輝き、激しい火炎放射を吐き出す。
 初めて会った日に見せてくれた時と比べても、火力がさらに増しているな。

 リザの呼び掛けにエリンは素早く身を翻してウィンディーネから距離を取り、その一秒後にヘルファイアがウィンディーネに襲い掛かる。

『グガア"ァ"ァ"ァ"ッ"!?』 

 エリンの斬撃によって傷付けられた上から、さらに火傷を負わされるようなものだ。
 水の精霊なのに火属性魔法が通るのか?と一瞬疑問に思ったものの、よく考えたら水は温度上昇に伴って蒸発するのだから、一定以上の強い火属性魔法なら弱点になる。
 加えて、力の源である水を蒸発させてしまうなら、一時的な弱体化も引き起こせるはずだ。

 ただダメージを与えるだけではなく、ダメージを与え、その上で"弱らせる"。だからこそ、水に通りやすい雷属性ではなく、逆に水を殺す火属性を選んだのだ。
 
 俺がそう考えずとも、リザは自分の思考の中でそれを認識していたのだろう。

 ヘルファイアの火炎放射に曝され、ウィンディーネの髪は焼け焦げ
、みずみずしい肢体は火傷を起こしたかのように変色している。

『ガッ"ギ"ェ"……ッ"!』

 ウィンディーネは今度はリザに矛先を向けると、水属性のルーンを顕現し――普通の魔法使いよりも早い詠唱で、なおかつ強力なアクアブラストを放ってきた。

 超高圧縮された鉄砲水だ、この霊殿の壁すらもぶち抜くだろう、そんなものを人間が受けたりすればひとたまりもない。
 が、それに対するリザは避けることもなく、セプターを寝かせるように構えると、

「――『フォースフィールド』!」

 自身を中心にドーム状のバリアを展開すると、ウィンディーネの放つアクアブラストを正面から受けてみせる。

 俺の防御光波帯とは異なる形態の防御魔法だな。

 アクアブラストとフォースフィールドの力比べが数秒ほど続き――やがて後者に軍配が上がった。

 しかし、精霊が放つ攻撃魔法すらこうも容易く受け切ってみせるか。
 リザの中に流れる高名な魔法使いとしての血筋と、恐らく強力なマジックアイテムだろう自我を持つセプターの力もあるが、やはり一番の要因は本人の日々の研鑽の賜物だろう。

 彼女は休日の時でも、暇があれば魔法書や、それとは別の学術書も読んでいる。
 知を読み抜き、識を己の中に取り込み、やがてそれが"力"と為すのだから、

「――ヘルファイア!」

 フォースフィールドを消失させ、すぐさま再度ヘルファイアを唱え、さらなる火炎放射を叩き込む。

 二度に渡る火炎放射を浴びせられ、ヨロヨロと動きを鈍らせるウィンディーネに、

「ウィンディーネ様……お許しをっ」

 機を窺っていたレジーナは両手の鎖鎌を、右、左と投げ付け、ウィンディーネの右腕と腰に絡み付かせ、ギチギチと締め上げる。
 ウィンディーネも抵抗しようとするものの、やはりヘルファイアの直撃が効いているらしい、鎖鎌のチェーンを揺らすだけだ。
 そして、

「――『チェインド・ドレイン』!」

 レジーナの呪術が鎖鎌のチェーンを這うように流し込まれると、次の瞬間には魔力光らしき輝きがウィンディーネから逆流していく。

『ガッ、ガッ、ア"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!?』

 なるほど、あれは魔力か、あるいは体力を奪い取る技だな。

 根こそぎ全部は奪い取れないのか、ある程度の量を奪い取ったところで、レジーナの鎖鎌のチェーンが巻き取られる。

 クロナの援護を受けたエリンの斬撃に押され、リザとレジーナの魔法・呪術によって弱りつつあるウィンディーネ。
 
 味方を回復したり身体能力を上げるクロナと、敵を弱体化させたり力を奪い取るレジーナか。
 この姉妹、見た目はそっくりなのに、使う術はまるで対極だ。

 よし、そろそろ終わらせよう。

 縮地、無影脚で一息に距離を詰め、敢えてウィンディーネの正面に躍り出る。
 ウィンディーネは即座に水晶の剣で俺を斬り裂こうと振り翳してくるが、これはロングソードの腹でそっと撫でるように受け流す。
 受け流し、そのまま鞘に納めて両手を空け、両拳を握り、

 ここからはずっと俺のターンです。

「――オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!」

 ――ウィンディーネの顔面にラッシュ!ラッシュ!!ラッシュ!!!ラッシュ!!!!ラッシュ!!!!!

 過去の異世界転生で、ボクシング系のコミックの世界で鍛えた技のキレだ、ヘビー級全米チャンピオンの名は伊達じゃないぜ。

 あ、ちなみにこれでも手加減はしてる方だぞ?気功波も使ってないし。
 人外とは言え美女のお顔に傷を付けるような真似はしたくないが、やむを得ない事態として許してほしい。あとでオールリジェネレイションで元通りにしてあげるから。

 十発ほど拳を叩き込み、叩き込み、叩き込み、左ボディブロウを腹部にねじ込んで動きが止まったところを、

「バアァァァニングッ、バァンカァッ!!」

 高濃度の火属性を纏わせた必殺の右ストレート――バーニングバンカーをウィンディーネの鼻っ面にぶちこむ。
 吹っ飛ばされるウィンディーネの背後に縮地へ回り込み、

「ラァイトニングゥッ、スマッシャァッ!!」

 振り向いたところに目視困難な雷属性の左のストレート――ライトニングスマッシャーを頬にねじ込ませ、もう一回ぶっ飛ばした先に縮地で回り込んで、



「スゥゥゥパァ!アヤトナッコォォォォォーーーーーッ!!」

 踏み込みながら、極限進化・スーパーアヤトナックル!!
 腰の捻り、腕の伸縮、踏み込みの重心移動、その三点を一纏めにしたアッパーカットだ、本気でやったらコーナーポストが縦に真っ二つになるよ。

 で、思いっきりウィンディーネの下顎をカッ飛ばしたわけだが。

 祭壇の壁までぶっ飛び、石壁にめり込んだウィンディーネは、ゲボゲボと体液を吐き出しながらも、どうにか起き上がってきた。『YOU WIN!!』とはいかなかったか。

「あれだけボコボコに殴られて、なんでまだ生きてるんだろうね……」

 エリンが思いっきり顔を顰めている。

「そりゃ殺しちゃまずいからな、『死なない程度に』はやってるつもりだ。……まだ立てるってことは、ちょっと手加減し過ぎたかもしれんな」

「……あれで、手加減し過ぎたんですか?」

 リザはリザで信じられないものを見たような顔をしている。

「うーん、何なら一回完全に殺してから、オールリジェネレイションで蘇らせても良かったかもなぁ。まぁいいや……」 

 どちらにせよまだ正気に戻らないなら、正気に戻るまでどつき回すだけだ。
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