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新たな覚悟
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学園から帰ってきた私が顔見知りでない公爵家子息を突然連れて帰ってきた事に屋敷内は少しざわついたが、お父様に用事があって来た事を伝えると騒ぎは落ち着き、安心した様子で皆仕事へと戻っていった。
「これが本来の反応よね」
婚約者のいる令嬢が男を連れていたら誰もが妙な関係を疑う。
事情があろうがなかろうが、見た側がどう受け取ってしまうかが問題なのだ。
誰がどう受け取ったか、どう言葉にするかで噂の顔は変わってくる。良くも悪くも噂とは恐ろしいもの。真実かどうかは関係ないのだ。
聞いた人の中に残った物こそが真実となる。
貴族にとって悪い噂は命取りになる。
それは子供の頃から誰もが言い聞かせられている筈。
知らなかったでは済まないのだ。
「私はもう貴方の愚かな行動の責任を一緒に背負いたくない。人の忠告を無視して堕ちていくのなら一人で勝手に堕ちていって……私をもう巻き込まないでちょうだい」
自室に戻った私は学園に入学する前に貰ったアルバート様からの手紙を全て破り捨てた。
互いの好きな物、趣味について話した思い出。
多くの時を一緒に過ごしてきた。
沢山の約束をした。
二人で夫婦となり、家族となる未来を思い描いてきた。
それはアルバート様がユリア様を優先するようになっても変わらなかった。
二人の思い出や過ごしてきた時間、約束が私の支えとなっていた。どんな事があってもアルバート様を信じようと……あの方が信じてほしいと言うのなら信じてみようと頑張ってみた。
でもその先にあったのは残酷な裏切りだった。
きっと私とトルタンド様がすれ違った令嬢達がユリア様に何かしたのだろう。ユリア様は傷つき泣いていてアルバート様をそれを慰めていただけ。
……だけど私は?
傷ついて泣いているユリア様をアルバート様が慰めてるのなら、それを見て心が砕け散った私はどうしたらいいの?
誰が私の涙を拭ってくれるの?
トルタンド様は紳士だった。
私の涙を見ようとはせずハンカチを差し出し、その場からそっと立ち去らせてくれた。
アルバート様のように情熱的ではなかったけど、あれが本来貴方が取るべき行動だったのよ。
貴族として、紳士として、未婚の令嬢である私の立場を思い行動してくれたトルタンド様には感謝してもしきれない。
彼処でアルバート様やユリア様と会っていたら、私は感情が抑えきれず何をしたかわからなかった。
まぁトルタンド様の友人だからという理由でアルバート様を庇おうとするのには少し腹が立ったけど、あれもきっと何かあるのだろう。
私がアルバート様を切り捨てられず、ずるずると此処まできてしまったようにトルタンド様もアルバート様を切り捨てられないだけの理由や情があるのだろう。
「……とはいってもこれ以上は無理よ」
トルタンド様には感謝してるけど、だからといって私の行動はもう変えられない。
最終的な決断はお父様が下すけど、私の中ではもうアルバート様は他人も同然。
婚約破棄が決まったらもう二度と話したくない。
そういう存在にまで堕ちてしまった。
ここまでくればもう私達が夢見た未来は絶対にやってこない。
もし仮に私達がこのまま婚姻したとしても私がアルバート様を愛することはないだろう。
淑女としての仮面を張りつけたまま、義務として妻になる。彼を自分の家族とは決して認めない。
窓に映る、何かを憎悪するように冷たい表情をしている自分の姿に自嘲した。
「誰かを憎んでいる人間って本当に醜くくなるのね。みっともない顔……なんて情けないのかしら……」
今の自分が大嫌い。
アルバート様とユリア様を恨み、憎み、見捨てようとしている。
冷たい女だと言われるかもしれない。
伯爵家から侯爵家へ婚約解消を申し入れれば、二度と私の嫁入り先は見つからないかもしれない。
でも、それでももうあの方を許すことは出来ない。
アルバート様とはもう終わりよ。
私の心には氷のように冷たく硬い決意が出来ていた。
「これが本来の反応よね」
婚約者のいる令嬢が男を連れていたら誰もが妙な関係を疑う。
事情があろうがなかろうが、見た側がどう受け取ってしまうかが問題なのだ。
誰がどう受け取ったか、どう言葉にするかで噂の顔は変わってくる。良くも悪くも噂とは恐ろしいもの。真実かどうかは関係ないのだ。
聞いた人の中に残った物こそが真実となる。
貴族にとって悪い噂は命取りになる。
それは子供の頃から誰もが言い聞かせられている筈。
知らなかったでは済まないのだ。
「私はもう貴方の愚かな行動の責任を一緒に背負いたくない。人の忠告を無視して堕ちていくのなら一人で勝手に堕ちていって……私をもう巻き込まないでちょうだい」
自室に戻った私は学園に入学する前に貰ったアルバート様からの手紙を全て破り捨てた。
互いの好きな物、趣味について話した思い出。
多くの時を一緒に過ごしてきた。
沢山の約束をした。
二人で夫婦となり、家族となる未来を思い描いてきた。
それはアルバート様がユリア様を優先するようになっても変わらなかった。
二人の思い出や過ごしてきた時間、約束が私の支えとなっていた。どんな事があってもアルバート様を信じようと……あの方が信じてほしいと言うのなら信じてみようと頑張ってみた。
でもその先にあったのは残酷な裏切りだった。
きっと私とトルタンド様がすれ違った令嬢達がユリア様に何かしたのだろう。ユリア様は傷つき泣いていてアルバート様をそれを慰めていただけ。
……だけど私は?
傷ついて泣いているユリア様をアルバート様が慰めてるのなら、それを見て心が砕け散った私はどうしたらいいの?
誰が私の涙を拭ってくれるの?
トルタンド様は紳士だった。
私の涙を見ようとはせずハンカチを差し出し、その場からそっと立ち去らせてくれた。
アルバート様のように情熱的ではなかったけど、あれが本来貴方が取るべき行動だったのよ。
貴族として、紳士として、未婚の令嬢である私の立場を思い行動してくれたトルタンド様には感謝してもしきれない。
彼処でアルバート様やユリア様と会っていたら、私は感情が抑えきれず何をしたかわからなかった。
まぁトルタンド様の友人だからという理由でアルバート様を庇おうとするのには少し腹が立ったけど、あれもきっと何かあるのだろう。
私がアルバート様を切り捨てられず、ずるずると此処まできてしまったようにトルタンド様もアルバート様を切り捨てられないだけの理由や情があるのだろう。
「……とはいってもこれ以上は無理よ」
トルタンド様には感謝してるけど、だからといって私の行動はもう変えられない。
最終的な決断はお父様が下すけど、私の中ではもうアルバート様は他人も同然。
婚約破棄が決まったらもう二度と話したくない。
そういう存在にまで堕ちてしまった。
ここまでくればもう私達が夢見た未来は絶対にやってこない。
もし仮に私達がこのまま婚姻したとしても私がアルバート様を愛することはないだろう。
淑女としての仮面を張りつけたまま、義務として妻になる。彼を自分の家族とは決して認めない。
窓に映る、何かを憎悪するように冷たい表情をしている自分の姿に自嘲した。
「誰かを憎んでいる人間って本当に醜くくなるのね。みっともない顔……なんて情けないのかしら……」
今の自分が大嫌い。
アルバート様とユリア様を恨み、憎み、見捨てようとしている。
冷たい女だと言われるかもしれない。
伯爵家から侯爵家へ婚約解消を申し入れれば、二度と私の嫁入り先は見つからないかもしれない。
でも、それでももうあの方を許すことは出来ない。
アルバート様とはもう終わりよ。
私の心には氷のように冷たく硬い決意が出来ていた。
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