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進むべき道
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あれから私が六年間どんな暮らしをしていたのか問われる度に説明を繰り返して、銀髪騎士こと──近衛騎士隊長ガルロ・ヘルロッドと一緒に馬に乗って移動した。どうやら彼等は王太子であるライナスの命令で私を捕らえに来たようで、罪悪感が滲む表情で私を連行すると言った。
彼等は王族を守護する近衛騎士。
それもガルロが率いる隊は王太子の専属。
つまりはライナスを守る為に存在する。
そして近衛騎士は王族の命令は絶対遵守なんだとか。
忠誠心が~とか、騎士の誓いがどうとか言ってたが私には興味ない。勝手にすればって感じだ。
「君には悪いが殿下は君の存在がこの国に害をもたらすことを懸念してる。子供にはわからないだろうが、それだけの秘密が君にはあるんだ」
「見たことないかもしれないがこの国には大勢の人達が暮らしていて、私達騎士には彼等を守る義務がある。だから──」
騎士達はそれぞれ自分達の行動に対する言い訳をグダグダと言ってるが、つまりは私が邪魔ってことなんでしょ? レティシアも死んだことだし、この国に残しておくメリットはないもんね。ほんと勝手な奴ら。
「で、結局なんなの? 言い訳が長すぎて何が言いたいのかわかんないよ。……死刑? 国外追放? 私どうなるの?」
怒りも悲しみもない、あっけらかんとした口調で自分の行く末を問う六歳児にガルロ以外の騎士達が息を飲む。
「なんでそんな……」
「お、お前怖くねぇのかよ」
「怖がったら誰か助けてくれるの? 状況がよくなるの?」
可愛げないのも、普通じゃないのも理解してる。
でもさ仕方ないじゃん。
もう私は知っちゃってるんだから。
泣いて駄々こねてもどうせ誰も助けてなんてくれない。
幽閉されてた王太子妃の不義の子、世界樹を破壊した犯罪者の娘にはもう人権なんて無いのだと気がついてる。
私の六年間は侍女さんとあの女達しかいない。
あの女達は本当に酷かったけど、それを寄越したのは別の人間。更に言えば私を幽閉するよう命じたのはもっと上の人間。王太子だ。私が……罪のない赤ん坊が塔に閉じ込められてることを知ってる人間はその非道な命令に従った。私を見捨てた。あの女達だけが悪いわけじゃない。この件に関わった全員が私をこの状況に追いやったんだ。
今回だってライナスが殺せと命じれば、罪悪感を感じたとしても彼等は剣を振るう事に躊躇はしないだろう。だって善でも悪でも王族の命令には絶対遵守だもんね。
しっかりと状況を把握しすぎている六歳児に騎士達は絶句していた。若干顔色が青くなっているようにも見える。
その姿に私は内心呆れていた。
私が子供だからって何も知らないと思ってた?
罪悪感煽って丸め込んじゃえばどうにでもなるって思ってた?
世間知らずの無知な子供なんて簡単に唆せると?
……ほんとふざけんなよ。
嫌がらせの意味もあってわざと侮蔑の視線を彼等に向けると、色々と耐え切れなさそうに勢いよく視線を逸らされた。
森を抜けて広い草原を並行して馬を走らせていたのだが、彼等はあっという間に後方に下がっていった。……チッ、逃げられたか。
追求を諦めきれずに視線を後方に向けると、又もおでこをペチリッと叩かれた。
「あまり虐めてやるな。彼奴等も仕事だ」
塔から離れてからずっと黙っていたガルロが淡々とそう言う。
「へぇ~騎士様の仕事ってすっごく立派なんだね?」
「……まぁな」
嫌味を含んだ私の台詞にも全く動じない。
はぁ~。やっぱりこの男やりにくい。
「それであの人達逃げ出しちゃったけど、ガルロが説明してくれるの? これから私がどうなるのか」
なるべく早く情報を得て対策を練りたかった私は急かすように説明を求める。
逃げるのなら城に入る前になんとかしなきゃ。
街の位置とか確認して、どっかで地図買おう。あっ、お金持ってない。どうする? 今、前世含めて人生初の乗馬を経験してるけど、このちっこい身体じゃ乗りこなすのは無理だ。落馬や暴走しちゃう。
あ~せめて国外追放なら私このままついていっても構わないんだけど……。
そんなことを思っていたら、ガルロから衝撃的な説明がされた。
「お前はこの国の王太子殿下の命令で流刑島に送られることになった」
「は、はい? 流刑島!?」
「一度足を踏み入れると二度と帰って来れない監獄島だ。世界各国から送られてくる極悪非道な罪人達の墓場だ。噂では人を殺すのが生き甲斐の殺人鬼達が毎日殺しあいを繰り返してるって話しだ。弱肉強食。悪の無法地帯。血が滴り染まる島……なんてのもあるらしい」
「っ……」
「まぁ所詮誰も知らない島の噂だからな。実際どうなってるかは誰も知らん。……が国を追われた者達が送られる島なのは確かだ」
ガルロの説明によると、流刑島には世界中、何処の国からも流れている一方通行の特別な海流があり、その海流に一度乗ってしまうと船は強制的に進路を変えて島へと辿り着き、二度と帰ってこられないらしい。
島の名は "ヴァンデラス" 。
この世界における罪人達の墓場──流刑島であるという。
王太子ライナスはとても忙しく、大変な立場に置かれているとかで少しでも自分の足を引っ張る要素は減らしておきたいんだってさ。一応小難しい話を要約してみたけど、きっとこんな意味だろう。
まぁ大変だろうね。
自分の愛妾や息子が原因で夫婦喧嘩して妻が世界樹破壊しちゃったんだから。
あの黒いモヤを見た目撃者は大勢いるし、肝心のレティシアは天罰で死んじゃったから、ライナスはもう逃げ出すわけにはいかないよね。
各国から責められるだろうし。
もはや王太子でいるのは無理じゃない?
……私には関係ないし、助ける気もないけど。
「今から極秘で刑を執行する事になっていて、その場所に向かってる。一応必要最低限の食料や水は船に積んであるから船旅途中で命を落とすことはないだろう」
今から!? 早っ!
ちょっ、逃げ出すのもう無理じゃない!?
……どうする……ああもうっ……逃げるって何処に……どうやって……お金もない……知り合いもいない……塔と森以外知らない私が何処に行けるの……どうしよう……もう、どうしたら……
「私の見た目って目立つ? 外じゃ生きにくい?」
「どういう意味だ」
「この眼って隠し続けた方が良さそう? あんた達が隠したがってる秘密って誰が見てもバレちゃう感じ? それとも偉い人が見なきゃバレないの? 私が街で生きていくのって無謀? やったら誰かに迷惑かかんの?」
知らなきゃ。私がどの程度危険な存在なのか。
王族やその周辺から逃げれば問題ない?
それとも一般人でもこの紫瞳の意味を知ってるの?
どこまで? どこまで逃げたら私は安全に生きられる?
不安と焦りから自分が何を言ってるかもわからず、ガルロに掴みかかる勢いで必死に問いかけた。
「落ち着け」
「っ……落ち着けってどうやって!? 何で私ばっかこんな……どうしろっていうの……どうしたら……」
思考がぐるぐると回り続けて、遂に不安が限界を越えてしまった私の瞳からは涙が溢れた。押し出されるようにポタポタを零れ出た涙は私の腹にくくりつけてあったせーちゃんに落ちていく。
もう無理だよ。
どうしたらいいかわかんない。
突然泣き出した私にガルロが困っているのがなんとなくわかったが、一度溢れた涙はそう簡単には止まらなかった。
泣いたって流刑島送りがなくなることはない。
私がレティシアと他国の王族の血を引く人間なのは変わらない。
どうせ誰も助けてくれない。
わかってる。今が踏ん張り時だってことは。
でも進むべき道がわかんなきゃ頑張りようがないよ。
無理だよ……お願い……誰か助けて……
たった数時間で状況がどんどん変化して追い込まれていった私の心は限界を迎え壊れかけていた。もう自力で立ち上がる気力もなくて全部捨てて自分の殻に閉じ籠もってしまいたかった。
そんな崖っぷちにいた私にそっと手を差し伸べてくれたのは小さくて優しい葉っぱでした。
いつの間にか伸びていたせーちゃんが心配するように私の涙を拭ってくれる。
「……ありがと、せーちゃん」
泣かないで。と私を慰めるようにそっと側に寄り添ってくれた。
そうだね。私まだ死ねない。頑張らなきゃ。
せーちゃんを育てる使命があるもん。
自分のやるべきことを思い出した私は、不安要素が残る道よりも、危険が多いけど出生など最早なんの意味もなさそうな流刑島で生きていくことを決めた。
どんな危険が待ってるかわからないけど、でも其処でなら私は自由に生きられる。だって罪人達が自由に殺しあいしてるってことは私が何してようが関係ないもんね。
強くなればいい。
誰にも負けないくらい強くなってやる。
自分の命とせーちゃんを守ってこの世界を生き抜いてやる!
私がそう決意した側でガルロの困惑した声が風に流されていった。
「は…? 何だそのヘンテコな植物は……魔植物の一種か!?」
彼等は王族を守護する近衛騎士。
それもガルロが率いる隊は王太子の専属。
つまりはライナスを守る為に存在する。
そして近衛騎士は王族の命令は絶対遵守なんだとか。
忠誠心が~とか、騎士の誓いがどうとか言ってたが私には興味ない。勝手にすればって感じだ。
「君には悪いが殿下は君の存在がこの国に害をもたらすことを懸念してる。子供にはわからないだろうが、それだけの秘密が君にはあるんだ」
「見たことないかもしれないがこの国には大勢の人達が暮らしていて、私達騎士には彼等を守る義務がある。だから──」
騎士達はそれぞれ自分達の行動に対する言い訳をグダグダと言ってるが、つまりは私が邪魔ってことなんでしょ? レティシアも死んだことだし、この国に残しておくメリットはないもんね。ほんと勝手な奴ら。
「で、結局なんなの? 言い訳が長すぎて何が言いたいのかわかんないよ。……死刑? 国外追放? 私どうなるの?」
怒りも悲しみもない、あっけらかんとした口調で自分の行く末を問う六歳児にガルロ以外の騎士達が息を飲む。
「なんでそんな……」
「お、お前怖くねぇのかよ」
「怖がったら誰か助けてくれるの? 状況がよくなるの?」
可愛げないのも、普通じゃないのも理解してる。
でもさ仕方ないじゃん。
もう私は知っちゃってるんだから。
泣いて駄々こねてもどうせ誰も助けてなんてくれない。
幽閉されてた王太子妃の不義の子、世界樹を破壊した犯罪者の娘にはもう人権なんて無いのだと気がついてる。
私の六年間は侍女さんとあの女達しかいない。
あの女達は本当に酷かったけど、それを寄越したのは別の人間。更に言えば私を幽閉するよう命じたのはもっと上の人間。王太子だ。私が……罪のない赤ん坊が塔に閉じ込められてることを知ってる人間はその非道な命令に従った。私を見捨てた。あの女達だけが悪いわけじゃない。この件に関わった全員が私をこの状況に追いやったんだ。
今回だってライナスが殺せと命じれば、罪悪感を感じたとしても彼等は剣を振るう事に躊躇はしないだろう。だって善でも悪でも王族の命令には絶対遵守だもんね。
しっかりと状況を把握しすぎている六歳児に騎士達は絶句していた。若干顔色が青くなっているようにも見える。
その姿に私は内心呆れていた。
私が子供だからって何も知らないと思ってた?
罪悪感煽って丸め込んじゃえばどうにでもなるって思ってた?
世間知らずの無知な子供なんて簡単に唆せると?
……ほんとふざけんなよ。
嫌がらせの意味もあってわざと侮蔑の視線を彼等に向けると、色々と耐え切れなさそうに勢いよく視線を逸らされた。
森を抜けて広い草原を並行して馬を走らせていたのだが、彼等はあっという間に後方に下がっていった。……チッ、逃げられたか。
追求を諦めきれずに視線を後方に向けると、又もおでこをペチリッと叩かれた。
「あまり虐めてやるな。彼奴等も仕事だ」
塔から離れてからずっと黙っていたガルロが淡々とそう言う。
「へぇ~騎士様の仕事ってすっごく立派なんだね?」
「……まぁな」
嫌味を含んだ私の台詞にも全く動じない。
はぁ~。やっぱりこの男やりにくい。
「それであの人達逃げ出しちゃったけど、ガルロが説明してくれるの? これから私がどうなるのか」
なるべく早く情報を得て対策を練りたかった私は急かすように説明を求める。
逃げるのなら城に入る前になんとかしなきゃ。
街の位置とか確認して、どっかで地図買おう。あっ、お金持ってない。どうする? 今、前世含めて人生初の乗馬を経験してるけど、このちっこい身体じゃ乗りこなすのは無理だ。落馬や暴走しちゃう。
あ~せめて国外追放なら私このままついていっても構わないんだけど……。
そんなことを思っていたら、ガルロから衝撃的な説明がされた。
「お前はこの国の王太子殿下の命令で流刑島に送られることになった」
「は、はい? 流刑島!?」
「一度足を踏み入れると二度と帰って来れない監獄島だ。世界各国から送られてくる極悪非道な罪人達の墓場だ。噂では人を殺すのが生き甲斐の殺人鬼達が毎日殺しあいを繰り返してるって話しだ。弱肉強食。悪の無法地帯。血が滴り染まる島……なんてのもあるらしい」
「っ……」
「まぁ所詮誰も知らない島の噂だからな。実際どうなってるかは誰も知らん。……が国を追われた者達が送られる島なのは確かだ」
ガルロの説明によると、流刑島には世界中、何処の国からも流れている一方通行の特別な海流があり、その海流に一度乗ってしまうと船は強制的に進路を変えて島へと辿り着き、二度と帰ってこられないらしい。
島の名は "ヴァンデラス" 。
この世界における罪人達の墓場──流刑島であるという。
王太子ライナスはとても忙しく、大変な立場に置かれているとかで少しでも自分の足を引っ張る要素は減らしておきたいんだってさ。一応小難しい話を要約してみたけど、きっとこんな意味だろう。
まぁ大変だろうね。
自分の愛妾や息子が原因で夫婦喧嘩して妻が世界樹破壊しちゃったんだから。
あの黒いモヤを見た目撃者は大勢いるし、肝心のレティシアは天罰で死んじゃったから、ライナスはもう逃げ出すわけにはいかないよね。
各国から責められるだろうし。
もはや王太子でいるのは無理じゃない?
……私には関係ないし、助ける気もないけど。
「今から極秘で刑を執行する事になっていて、その場所に向かってる。一応必要最低限の食料や水は船に積んであるから船旅途中で命を落とすことはないだろう」
今から!? 早っ!
ちょっ、逃げ出すのもう無理じゃない!?
……どうする……ああもうっ……逃げるって何処に……どうやって……お金もない……知り合いもいない……塔と森以外知らない私が何処に行けるの……どうしよう……もう、どうしたら……
「私の見た目って目立つ? 外じゃ生きにくい?」
「どういう意味だ」
「この眼って隠し続けた方が良さそう? あんた達が隠したがってる秘密って誰が見てもバレちゃう感じ? それとも偉い人が見なきゃバレないの? 私が街で生きていくのって無謀? やったら誰かに迷惑かかんの?」
知らなきゃ。私がどの程度危険な存在なのか。
王族やその周辺から逃げれば問題ない?
それとも一般人でもこの紫瞳の意味を知ってるの?
どこまで? どこまで逃げたら私は安全に生きられる?
不安と焦りから自分が何を言ってるかもわからず、ガルロに掴みかかる勢いで必死に問いかけた。
「落ち着け」
「っ……落ち着けってどうやって!? 何で私ばっかこんな……どうしろっていうの……どうしたら……」
思考がぐるぐると回り続けて、遂に不安が限界を越えてしまった私の瞳からは涙が溢れた。押し出されるようにポタポタを零れ出た涙は私の腹にくくりつけてあったせーちゃんに落ちていく。
もう無理だよ。
どうしたらいいかわかんない。
突然泣き出した私にガルロが困っているのがなんとなくわかったが、一度溢れた涙はそう簡単には止まらなかった。
泣いたって流刑島送りがなくなることはない。
私がレティシアと他国の王族の血を引く人間なのは変わらない。
どうせ誰も助けてくれない。
わかってる。今が踏ん張り時だってことは。
でも進むべき道がわかんなきゃ頑張りようがないよ。
無理だよ……お願い……誰か助けて……
たった数時間で状況がどんどん変化して追い込まれていった私の心は限界を迎え壊れかけていた。もう自力で立ち上がる気力もなくて全部捨てて自分の殻に閉じ籠もってしまいたかった。
そんな崖っぷちにいた私にそっと手を差し伸べてくれたのは小さくて優しい葉っぱでした。
いつの間にか伸びていたせーちゃんが心配するように私の涙を拭ってくれる。
「……ありがと、せーちゃん」
泣かないで。と私を慰めるようにそっと側に寄り添ってくれた。
そうだね。私まだ死ねない。頑張らなきゃ。
せーちゃんを育てる使命があるもん。
自分のやるべきことを思い出した私は、不安要素が残る道よりも、危険が多いけど出生など最早なんの意味もなさそうな流刑島で生きていくことを決めた。
どんな危険が待ってるかわからないけど、でも其処でなら私は自由に生きられる。だって罪人達が自由に殺しあいしてるってことは私が何してようが関係ないもんね。
強くなればいい。
誰にも負けないくらい強くなってやる。
自分の命とせーちゃんを守ってこの世界を生き抜いてやる!
私がそう決意した側でガルロの困惑した声が風に流されていった。
「は…? 何だそのヘンテコな植物は……魔植物の一種か!?」
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