(元)独りぼっち幽閉娘の流刑島暮らし〜不本意ですが、毒母のスペアに覚醒します〜

haru.

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「だからそれは何だ!」

「ひみつ。ないしょ。……絶対いわない!」

「ちょっとそれ見せてみろ!」

「やだ! さわったら許さないから!」

 私が泣いたせいでせーちゃんの秘密が見られてしまった。
 ガルロはせーちゃんに興味津々で私から奪おうとする。

 なんとか腹に抱え込んで隠しているが、取り上げられるのは時間の問題かと思っていると、自分の意志で拒絶すると言いたげなせーちゃんが勝手に茎を伸ばしてガルロの頬を往復ビンタした。

 ──パンッパンッパンッパンッパンッ……! 

 音は結構軽く聞こえていたのだが、満足してせーちゃんが離れるとガルロの頬には真っ赤に腫れたせーちゃんの葉っぱ模様が残されていた。い、痛そ~。

「いっ~。な、何だそいつは……」

「せーちゃんだよ」

「だから……!」

 私を再び尋問しようとするガルロにせーちゃんが『まだやんのか?』と言いたげに伸びる。威嚇のつもりなのか、ブンブンと葉をスイングさせてる。

 その様子にガルロは深い溜め息を吐いて追求をやめてくれた。…というか面倒くさくなって諦めたともいう。

「っ……はぁ、もういい」

 小さな声で「もしもの時は燃やせばいいか」と呟いていたのを私は聞き逃してない。

 もしもなんて来ないし、せーちゃんを燃やさせたりなんてしない。絶対守ってみせる。……この男、すっごい強いけど…。












 私とガルロを乗せた黒馬は走る。
 広大な草原を駆け抜け、建物が密集する街と天高く聳え立つ巨大な城を避けて狭くて少し暗い脇道に入り、そして迷路のように入り組んだ道を進み、小さな海岸に辿り着いた。

 寂れた波止場と船が一そうあるだけの小さな海岸。
 見た目だけなら砂浜は白く、海はエメラルドグリーンに輝いていて外国のプライベートビーチみたいで美しい。……此処が私を流刑島に送る場所じゃなければ感動できた。今すぐ海に飛び込んで遊びたい。素潜りで魚を突いてみたい。「とったどー!」ってやってみたい。……が、それは無理だ。

 ガルロや他の騎士達が着ている白い隊服とは違い、物々しい黒い衣を着て、顔を黒布で覆っているみるからに怪しげな一団が浜辺で私達を待ち構えていた。

「罪人を船に乗せろ」

 黒服の人間が静かに告げる。

 ガルロが連れていた罪人が毛皮を被ってたり、荷物背負ってたり、腹に植木鉢くくりつけてたり、突っ込みどころが多々あって困惑する声が黒服の一団から聞こえてきたが、ガルロは素知らぬ顔で私を抱き上げて波止場に停められた船に向かう。

 ──キュッ、キュッ。

 ガルロが歩く度、砂浜が音がなる。
 まるで日本のどっかの海岸にあった "鳴き砂なきすな" のようだ。

 せっかくだから私も踏みたい。
 ああ~気になる!

 でも……無理だよね。

 期待に目を輝かせてガルロを見上げてみたが、その表情は硬く、視線の先には目の前の船だけ。私は何処にも映っていなかった。

「此処で大人しく待ってろ。いいな」

 船に私を降ろしたガルロは素っ気なくそう言って、海岸に戻っていく。

 合流した近衛騎士達や黒服の一団と何やら会話をしている。私はその様子から目を離さないよう視界内に留め、背負っていた荷物を甲板に下ろした。

「ふぃ~重かったぁ」

 すっとガルロに捕獲されてたのでほぼほぼ歩いてない。重たいとはいえ背負っていただけだから我慢できた大量の荷物。……今更だけどやっぱこの重さを抱えて森の中を逃亡するのは無謀だったと思う。

 横に広がってる背負い籠。
 大きさはホームセンターとかに売ってる洗濯籠よりも少し大きめ。その中にやたらと重量がある物達がぎゅうぎゅう詰めにされており、およそ20kg近くあったと思う。10kgの米より重かったもの。

 底が抜けなくて本当によかった。
 念の為に頑丈そうな木の皮で籠を作っておいて助かった。

 暫く肩は痛むだろうけど、それは問題ない。

 それに……

「思ってたより立派な船だ。屋根ありで船内も完備って……罪人に甘くない?」

 ボートのような小舟が用意されてると思っていた私はちょっとしたクルーザーのような船に驚いていた。

 これ絶対罪人用じゃない。
 私がまだ六歳だからその辺を考慮された感じ?

 いやいやいや、これから流刑島に送る罪人。それもこの国としては消えてくれればラッキーな厄介者の子供にこんな贅沢品与える? 一度行ったら二度と帰ってこれないんでしょ。……私も、この船も。

 ……ないわぁ~。
 私はありがたい限りだけど、何かおかしい。

 まぁ問題ないからいいけど。

 問題……ないよね? 
 この船、欠陥品で廃船予定だったから流刑島に送るとか……違うよね。私と一緒にゴミ捨てしようって魂胆じゃ……えっ、怖くなってきた。甲板に穴開いてない? 強度は?

 甲板を叩いてみたり、ジャンプして異常ないか確認する。
 
 出航して問題が発覚しては、私にはどうする事も出来ない。そう思って船の状態を確認し続けた。

 甲板の端から端までダッシュしてみたり、壁や柱を蹴り飛ばしたり、タックルしてみる。

 船に異常がみられず安心していると、船内に続く扉から手がニョキッと伸びてきて私を船内に引きずり込んだ。

「今のところ問題はなさ……ぶへぇっ!」

「ちょっ、あんた何やってるの!? 船壊そうとするなんて自殺願望者なの!!?」

 ソファーやテーブルなどが設置された豪華な休憩スペース。
 目の前には黒と白の修道服を着た美しいシスターが怒っていた。

「ていうかその服なに!? えっ、言葉通じてる? ……えっと…あ・ば・れ・る・な! 意味わかる? 船の上では大人しくしてなきゃいけないの。あーっと……す・わ──」

 私の風貌から言葉が通じないと思ったらしく、身振り手振りで私と会話しようとするシスターは側にあったクリーム色のソファーを指さして此処に座れと伝えてくる。

 ……えっ、世間から見た私ってそんな感じ?
 言葉が通じないと思われるほど野生じみてるの?

 逞しく見えてるのは喜ばしいことだけど、元日本人的にはちょっとショックかも。

 少しだけ傷ついた私はシスターの言葉を遮って、食い気味に誤解を解いた。

「しゃべれる。言葉がわかるから普通に話して」

 自分の予想が外れて恥ずかしいのか、シスターは頬をほんのり赤くして「喋れるんならとっとと言いなさいよ!」と小さく怒鳴った。

 そして恥ずかしさを紛らわせるように咳払いをして、話を元に戻したシスターは私が船で暴れていた理由を聞いてきた。

「それであの異常な暴れっぷりはなんだったの?」

「出航前に船の安全確認をしようと思って」

「はぁ?」
 
 子供が何いってんだ…と言いたげなシスターに私は自分が周囲に命を狙われてると前置きしてこの船に対する疑問を伝えた。

 流刑島送りにされる罪人の船がこんな立派なんておかしい。
 訳ありの故障品か、廃船予定のオンボロかも。
 船旅途中に沈没するように細工が施されてる可能性もある。

 海に出てからでは問題が起きても素人にはどうすることもできない。だから出航前に不安要素は潰しておきたかった。

「まぁ私もこの船には疑問を感じてたわ。食料とかもあったし、怪しい点が他にもね。……でも、だからって何で暴れんのよ。もっと普通に調べなさいよ」

 可哀想な子を見るように「馬鹿なの?」と零すシスターに反論を封じられた。グッ……だって船の調べ方なんて知らなかったんだもの。仕方ないじゃん。

 不貞腐れたように頬を膨らませる私にシスターは頬をムギュッと鷲掴みにして、顔を顰める。フードが外れた私の顔を長い間ジッと見つめ、そして甲板へ放り出した。

「あんたの姿が見えないと騒ぎになるんだから今度は大人しくしてんのよ!」




 



 
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