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~第一章~
新しい名前と自分
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「プッ! アハハハハハッ……何だよそれ! 父さんそっくりじゃん!」
泣きそうな顔をしながら笑う青年は私を見つめた後、男性の元へ歩み寄った。
「あの人、自分の人生を諦めないってさ。あれって父さんの口癖だよね! 暮らしていた環境がこんなにも違うのに受け継がれてる物ってあるんだね。……どうするの? 父さん、あれでもあの人は他人?」
私の言った言葉に引っ掛かりを覚えた青年の訴えに父親である男性表情が歪んだ。
そして初めて私へと声をかけてきた。
「…………名前は?」
低くてとても小さな声だった。
「アクリアーナと申します。ですがそれは王女としての名前なので新しく名前は変えようかと……」
第二王女としての名前を名乗るのはもう許されないだろうし、私自身名乗りたくない。
だがそれ以外に名乗る名がなく言葉につまってしまった。
困る私の姿を見て男性は軽く手を差しのべてくれた。
「ではアクア……アクアと名乗るのはどうだ。」
「え? アクア? よろしいのですか? 名前を頂いても……」
「ああ……好きにしてくれ。」
未だ強ばりきった表情でニコリともしない男性のぶっきらぼうで温かな声。
アクア……それが新しい私の名前。
嬉しさを隠しきれず、頬をゆるめて笑って御礼を告げた。
「ぁ、ありがとうございます。」
「ふ~ん、アクアねぇ……。悪くないんじゃない?」
青年は頑固親父に勝ったという妙な達成感に包まれ、ニヤニヤと笑いながら父親を見つめていた。
そんな息子の視線に気恥ずかしそうに顔を背けていた。
少しだけ穏やか時間が流れた。
だがその空気に耐えられなかったのだろう。
「何がアクアよ! 何が妖精の取り替え子よ! ふざけないでちょうだいっ!」
突然泣き叫んだ女性は涙を流しながら憎たらしげに私を睨みつけ家の中へ消えていった。
家の中から聞こえる乱暴な物音。
女性の怒りに立ち尽くして見てる事しかできなかった。
一先ず家の中に案内された私は男性に謝られ、この家の事情を説明された。
「すまなかった。君も突然日常を奪われた被害者だというのに我が家の問題に巻き込んでしまった。……私はオリヴァーこの家の家長だ。さっきのは妻のリエラで、こいつは息子のジェイクだ。」
「恐らくあんたの弟のジェイク15歳、よろしく。」
手を上げて挨拶してきたジェイクはこの家で一番友好的な態度で私に接してくれている。
ジェイクは母親 リエラの様子が気になるのかチラチラと二階に続く階段へ視線を向けながら私達の話を聞いていた。
オリヴァーの説明してくれた話はかなり不可解だった。
この家で生まれたサマンサは生まれた時から容姿が自分達とは違った。平民ではありえない王家の色を持った少女。
近所からは王家の落とし子なんて冗談で口にする者もいたらしい。
国王や王族と関わる機会のないリエラには到底不可能な事で、周囲もそれはわかっていた。
だからその噂はほんの出来心から生まれたありえない噂だった。夫であるオリヴァーも浮気など疑ってはいなかった。
冗談で広まった噂を気にしていたリエラを気遣い「この可愛らしい容姿は天使が舞い降りたからだ」と妻に言い聞かせていたらしい。
二年後には弟のジェイクも生まれ、幸せな家庭になると思っていた。
だがサマンサが物心がつき、言葉が話せるようになると状況は一変した。
「あんたはお母さんじゃない!」
「私のお母さんはもっと美人で素敵な人なの!」
「こんな家、私の本当の居場所じゃない!」
家族や生活、全てを否定する我が子。
自分を何故か親ではないと断言して我が儘放題に振る舞う。家の手伝いは何一つせず、文句だけ口にする始末。
両親や弟想いで優しく親切な少女。
それが周囲からの認識らしい。
だが実際は、外では従順で優しい娘を演じる癖に家に帰ると途端に横暴な振る舞いをする娘だった。
母親や弟を召し使いのように扱う娘を何度叱責したかわからないと苦しそうに告げた。
サマンサはいずれ自分が第二王女として生きるのをわかっていたのだろうか。
だから何をしても許されるそう思っていたのだろうか。
サマンサは置き手紙もなく家から飛び出した。
後日王城から知らせが届き、この事態を知ったらしい。
娘に会いたいと王城へ向かっても、当の本人が面会を望まないと断られたそうだ。
ーーあんた達とはもう関係ない。
たったそれしか書かれていなかった紙切れを手渡され娘に捨てられた彼等の心の傷はどれほどだったのだろう。
娘や姉に愛想が尽きていた二人はともかく、娘に母親だと認められたくて何年も必死に尽くしてきた母親のリエラは誰よりも心の傷が深い。
突然現れた人間を本物の娘だと受け入れるのは不可能だろう。
こいつを代わりにやるから納得しろ。
彼女にとったらそう言われてるも同然だろう。
「妻には時間が必要なんだ。サマンサやアクアを受け入れる時間が……」
無理して私を受け入れる必要なんてない。
私は後一年で成人する。もう子供ではなくなる。
しかも17歳の平民なら独り立ちするのもおかしな話ではない。
だがそれでも、少しだけ此処での生活を受け入れてくれないかと言われた。
娘と認めていないとはいえ、私まで去ったら妻が壊れてしまう。と……
追い込まれているのか、必死な表情で私に頭を下げてくるオリヴァー。
「俺からも頼む。……あんたにとったら、こんな家より外で自由に暮らせた方が楽しいのかもしれない。だけど母さんには多分あんたが必要なんだ。……俺でも父さんでもなくアクアが……。」
苦しそうな声で言葉を吐き出すジェイク。
本当はこんな事言いたくないのかもしれない。
母親の側に15年間もいた息子よりも今日会ったばかりの人間が必要だなんて……
「私としては行く宛もありませんので、住まわせて頂くのはとても助かります。……むしろ皆さんが住んでいいと仰るのなら私は何でも致します。この家の掃除洗濯料理もします。外で仕事もして給金を家に入れると誓います。……どうでしょうか。」
「…………ん?」
私の決意の宣言に首を傾げる二人。
「アクアは第二王女様だったんだよな?」
「はい。」
「侍女とか使用人がつくような立場だったんだよな?」
「はい。そうです。」
「彼処にある城に住んでたんだよな?」
「……はい。そうですけど……どうかされました?」
凄い勢いで質問してくる二人に戸惑いを隠せない。
「王女様として生きてきたのに何で家事や仕事に抵抗がないんだよ! おかしいだろう!」
「それに俺達の事情なんてあんたには関係ないだろう! 何でそんなに簡単に受け入れてんだ!」
おかしい、おかしい、と口々に問い詰めてくる。
いや、困ってるのはお互い様だ。
それに状況や立場は違えど、リエラさんの苦しみが他人事には思えないし……
それに家事に関してはちょっと訳有りだから。
どう説明すれば納得して貰えるのか頭を悩ませた。
泣きそうな顔をしながら笑う青年は私を見つめた後、男性の元へ歩み寄った。
「あの人、自分の人生を諦めないってさ。あれって父さんの口癖だよね! 暮らしていた環境がこんなにも違うのに受け継がれてる物ってあるんだね。……どうするの? 父さん、あれでもあの人は他人?」
私の言った言葉に引っ掛かりを覚えた青年の訴えに父親である男性表情が歪んだ。
そして初めて私へと声をかけてきた。
「…………名前は?」
低くてとても小さな声だった。
「アクリアーナと申します。ですがそれは王女としての名前なので新しく名前は変えようかと……」
第二王女としての名前を名乗るのはもう許されないだろうし、私自身名乗りたくない。
だがそれ以外に名乗る名がなく言葉につまってしまった。
困る私の姿を見て男性は軽く手を差しのべてくれた。
「ではアクア……アクアと名乗るのはどうだ。」
「え? アクア? よろしいのですか? 名前を頂いても……」
「ああ……好きにしてくれ。」
未だ強ばりきった表情でニコリともしない男性のぶっきらぼうで温かな声。
アクア……それが新しい私の名前。
嬉しさを隠しきれず、頬をゆるめて笑って御礼を告げた。
「ぁ、ありがとうございます。」
「ふ~ん、アクアねぇ……。悪くないんじゃない?」
青年は頑固親父に勝ったという妙な達成感に包まれ、ニヤニヤと笑いながら父親を見つめていた。
そんな息子の視線に気恥ずかしそうに顔を背けていた。
少しだけ穏やか時間が流れた。
だがその空気に耐えられなかったのだろう。
「何がアクアよ! 何が妖精の取り替え子よ! ふざけないでちょうだいっ!」
突然泣き叫んだ女性は涙を流しながら憎たらしげに私を睨みつけ家の中へ消えていった。
家の中から聞こえる乱暴な物音。
女性の怒りに立ち尽くして見てる事しかできなかった。
一先ず家の中に案内された私は男性に謝られ、この家の事情を説明された。
「すまなかった。君も突然日常を奪われた被害者だというのに我が家の問題に巻き込んでしまった。……私はオリヴァーこの家の家長だ。さっきのは妻のリエラで、こいつは息子のジェイクだ。」
「恐らくあんたの弟のジェイク15歳、よろしく。」
手を上げて挨拶してきたジェイクはこの家で一番友好的な態度で私に接してくれている。
ジェイクは母親 リエラの様子が気になるのかチラチラと二階に続く階段へ視線を向けながら私達の話を聞いていた。
オリヴァーの説明してくれた話はかなり不可解だった。
この家で生まれたサマンサは生まれた時から容姿が自分達とは違った。平民ではありえない王家の色を持った少女。
近所からは王家の落とし子なんて冗談で口にする者もいたらしい。
国王や王族と関わる機会のないリエラには到底不可能な事で、周囲もそれはわかっていた。
だからその噂はほんの出来心から生まれたありえない噂だった。夫であるオリヴァーも浮気など疑ってはいなかった。
冗談で広まった噂を気にしていたリエラを気遣い「この可愛らしい容姿は天使が舞い降りたからだ」と妻に言い聞かせていたらしい。
二年後には弟のジェイクも生まれ、幸せな家庭になると思っていた。
だがサマンサが物心がつき、言葉が話せるようになると状況は一変した。
「あんたはお母さんじゃない!」
「私のお母さんはもっと美人で素敵な人なの!」
「こんな家、私の本当の居場所じゃない!」
家族や生活、全てを否定する我が子。
自分を何故か親ではないと断言して我が儘放題に振る舞う。家の手伝いは何一つせず、文句だけ口にする始末。
両親や弟想いで優しく親切な少女。
それが周囲からの認識らしい。
だが実際は、外では従順で優しい娘を演じる癖に家に帰ると途端に横暴な振る舞いをする娘だった。
母親や弟を召し使いのように扱う娘を何度叱責したかわからないと苦しそうに告げた。
サマンサはいずれ自分が第二王女として生きるのをわかっていたのだろうか。
だから何をしても許されるそう思っていたのだろうか。
サマンサは置き手紙もなく家から飛び出した。
後日王城から知らせが届き、この事態を知ったらしい。
娘に会いたいと王城へ向かっても、当の本人が面会を望まないと断られたそうだ。
ーーあんた達とはもう関係ない。
たったそれしか書かれていなかった紙切れを手渡され娘に捨てられた彼等の心の傷はどれほどだったのだろう。
娘や姉に愛想が尽きていた二人はともかく、娘に母親だと認められたくて何年も必死に尽くしてきた母親のリエラは誰よりも心の傷が深い。
突然現れた人間を本物の娘だと受け入れるのは不可能だろう。
こいつを代わりにやるから納得しろ。
彼女にとったらそう言われてるも同然だろう。
「妻には時間が必要なんだ。サマンサやアクアを受け入れる時間が……」
無理して私を受け入れる必要なんてない。
私は後一年で成人する。もう子供ではなくなる。
しかも17歳の平民なら独り立ちするのもおかしな話ではない。
だがそれでも、少しだけ此処での生活を受け入れてくれないかと言われた。
娘と認めていないとはいえ、私まで去ったら妻が壊れてしまう。と……
追い込まれているのか、必死な表情で私に頭を下げてくるオリヴァー。
「俺からも頼む。……あんたにとったら、こんな家より外で自由に暮らせた方が楽しいのかもしれない。だけど母さんには多分あんたが必要なんだ。……俺でも父さんでもなくアクアが……。」
苦しそうな声で言葉を吐き出すジェイク。
本当はこんな事言いたくないのかもしれない。
母親の側に15年間もいた息子よりも今日会ったばかりの人間が必要だなんて……
「私としては行く宛もありませんので、住まわせて頂くのはとても助かります。……むしろ皆さんが住んでいいと仰るのなら私は何でも致します。この家の掃除洗濯料理もします。外で仕事もして給金を家に入れると誓います。……どうでしょうか。」
「…………ん?」
私の決意の宣言に首を傾げる二人。
「アクアは第二王女様だったんだよな?」
「はい。」
「侍女とか使用人がつくような立場だったんだよな?」
「はい。そうです。」
「彼処にある城に住んでたんだよな?」
「……はい。そうですけど……どうかされました?」
凄い勢いで質問してくる二人に戸惑いを隠せない。
「王女様として生きてきたのに何で家事や仕事に抵抗がないんだよ! おかしいだろう!」
「それに俺達の事情なんてあんたには関係ないだろう! 何でそんなに簡単に受け入れてんだ!」
おかしい、おかしい、と口々に問い詰めてくる。
いや、困ってるのはお互い様だ。
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