14 / 25
安らぎを求めて
しおりを挟む
「……疲れたわ」
お母様を自分の意思で屋敷から追い出した私は、自分の中にある力が何処かへいってしまい、無気力な状態へ陥っていた。
「まだあの男の件も片付いていないのに……しっかりしなきゃいけないのに……」
手の中にある書類に意識が集中できない。
文字を読もうとしているのに、内容が頭の中へ入ってこないのだ。
机の上へ山積みになっている書類の山を見て溜め息をつく。
今、あの男を叩き潰す為の準備を進めている所だから表立って私がやれる事は何もない。私に出来る事はお母様が屋敷から出ていった事をあの男に悟られないようにする事だけ。私が動いていると気づかれないように普段通りに過ごす事だけ。
わかってる。普段通り仕事をして過ごせばいいとわかってるんだけど気分が乗らない。執事や使用人達が様子の可笑しい私を心配してくれている。こまめにお茶を用意してくれたり、リラックス効果のあるアロマを焚いてくれたりした。
「気分転換に本でも読もうかしら」
仕事に必要な資料の本を手に取る。
小さな文字の羅列が目に入り頭がグラグラする。
「駄目ね。今日は本当に駄目。仕事にならないわ」
無理矢理こういう日に仕事をするととんでもないミスをする。集中出来ないのなら仕事は止めにしよう。
そう決めた私は外出すると執事に告げた。
「その方がよろしいかと存じます。ジュリエッタ様はこの五年間休みなく動かれていました。今日一日ぐらいは全ての事を忘れてゆっくりと過ごされても誰も貴女様を責めたりはしません。……最近はお疲れになる事も沢山ございましたから、どうぞ気分転換でもされてきて下さいませ」
最初は少し驚いていた執事だったが、すぐに穏やかで暖かい表情になり、私の五年間の苦労を労ってくれた。
「外は日差しが強いですから此方を」
侍女がつばの広い白の帽子を差し出してくれた。
「ありがとう」
「「「「「いってらっしゃいませ」」」」」
使用人達に見送られ、私は護衛達と共に出掛けた。
とりあえず静かな所へ行きたかった私は馬車に揺られながら植物園へ向かう事にした。花や木々が溢れる植物園には沢山の自然ある。其処でこの疲れてしまった心を癒そうと思ったのだ。
* * *
「本当に見事ね」
自然が溢れる植物園の入り口には花の優しい香りが風と共に現れる薔薇のアーチがあった。白と黄色の薔薇が絡み合うように咲いており、色のグラデーションがとても美しかった。
アーチを潜り抜け、植物園の奥へ進むと自然の中で感じられる澄んだ空気が其処にはあった。道は二通りあり、一方はデートに最適な庭園があり、もう一方は緑が溢れる植物好きの為にある森林があった。
「折角だから此方にしようかしら」
カップル達が庭園のある道へ進む姿を見て少し居たたまれなくなった私は人混みのない森林の道を進むことにした。
素人には険しそうな道に護衛達は少し難しい顔をしていたが、私はなんだかちょっとした冒険でもしている気分になっており思いの外、軽い足取りで道の奥へ進んでいった。
森林の道は木々が周囲を取り囲み、進むべき通路を作っていた。木の根っこや石で平坦ではない道は少し歩きづらく疲労が足に溜まっていくのがわかった。
だけど疲労とは反対に私の心は好奇心に溢れ、久しぶりにとても楽しい気持ちになっていた。
「まぁっ! なんて綺麗なの!」
木々の道を通り抜けた先に待っていたのは、一面シロツメクサが広がっている花畑だった。白くて小さな花が地面を覆い隠していて、まるで白い絨毯が敷き詰められているようだった。
思わず駆け出してしまった私はその勢いのまま地面へ座り込んだ。
「あ、ジュリエッタ様!」
背後から一瞬私を引き止める護衛の声が聞こえてきたが、私の行動を咎める様子はなかったので放っておいた。
「止めておけ。折角の休日だ。幸い人の姿はないのだから我々もジュリエッタ様の行動に口を出すのは止めておこう」
「そうだな。ジュリエッタ様のあんな楽しそうな表情は久しぶりに見た」
「ああ、カイル様と遊ばれていた頃を思い出すな」
「昔はよくあの暴れん坊達のお伴にさせられてたからな。ピクニックすると逝って森へ行ったり、絵本に載っていた兎を見てみたいと言い出して野うさぎを一日中探した事もあったな」
「お前は途中で蜂の巣を見つけて大騒ぎしてたよな」
「そりゃお嬢様方を連れてたんだから騒ぎもするさ。怪我一つでもさせてたら旦那様にこっぴどく叱られるんだからな」
「くくく、そうだな。旦那様はジュリエッタ様をとても愛されていたからな」
「旦那様だけじゃない。執事長や侍女長、使用人達全てを敵に回すっつーの」
「当然だろ。あの方は俺達の大切な主なんだから」
「そうだな。あの方は絶対に守らなくてはならない、俺達の愛すべき主様だ。」
童心に帰ってシロツメクサの花冠を黙々と作り続けていた私は護衛達の暖かい視線に全く気づかなかった。
お母様を自分の意思で屋敷から追い出した私は、自分の中にある力が何処かへいってしまい、無気力な状態へ陥っていた。
「まだあの男の件も片付いていないのに……しっかりしなきゃいけないのに……」
手の中にある書類に意識が集中できない。
文字を読もうとしているのに、内容が頭の中へ入ってこないのだ。
机の上へ山積みになっている書類の山を見て溜め息をつく。
今、あの男を叩き潰す為の準備を進めている所だから表立って私がやれる事は何もない。私に出来る事はお母様が屋敷から出ていった事をあの男に悟られないようにする事だけ。私が動いていると気づかれないように普段通りに過ごす事だけ。
わかってる。普段通り仕事をして過ごせばいいとわかってるんだけど気分が乗らない。執事や使用人達が様子の可笑しい私を心配してくれている。こまめにお茶を用意してくれたり、リラックス効果のあるアロマを焚いてくれたりした。
「気分転換に本でも読もうかしら」
仕事に必要な資料の本を手に取る。
小さな文字の羅列が目に入り頭がグラグラする。
「駄目ね。今日は本当に駄目。仕事にならないわ」
無理矢理こういう日に仕事をするととんでもないミスをする。集中出来ないのなら仕事は止めにしよう。
そう決めた私は外出すると執事に告げた。
「その方がよろしいかと存じます。ジュリエッタ様はこの五年間休みなく動かれていました。今日一日ぐらいは全ての事を忘れてゆっくりと過ごされても誰も貴女様を責めたりはしません。……最近はお疲れになる事も沢山ございましたから、どうぞ気分転換でもされてきて下さいませ」
最初は少し驚いていた執事だったが、すぐに穏やかで暖かい表情になり、私の五年間の苦労を労ってくれた。
「外は日差しが強いですから此方を」
侍女がつばの広い白の帽子を差し出してくれた。
「ありがとう」
「「「「「いってらっしゃいませ」」」」」
使用人達に見送られ、私は護衛達と共に出掛けた。
とりあえず静かな所へ行きたかった私は馬車に揺られながら植物園へ向かう事にした。花や木々が溢れる植物園には沢山の自然ある。其処でこの疲れてしまった心を癒そうと思ったのだ。
* * *
「本当に見事ね」
自然が溢れる植物園の入り口には花の優しい香りが風と共に現れる薔薇のアーチがあった。白と黄色の薔薇が絡み合うように咲いており、色のグラデーションがとても美しかった。
アーチを潜り抜け、植物園の奥へ進むと自然の中で感じられる澄んだ空気が其処にはあった。道は二通りあり、一方はデートに最適な庭園があり、もう一方は緑が溢れる植物好きの為にある森林があった。
「折角だから此方にしようかしら」
カップル達が庭園のある道へ進む姿を見て少し居たたまれなくなった私は人混みのない森林の道を進むことにした。
素人には険しそうな道に護衛達は少し難しい顔をしていたが、私はなんだかちょっとした冒険でもしている気分になっており思いの外、軽い足取りで道の奥へ進んでいった。
森林の道は木々が周囲を取り囲み、進むべき通路を作っていた。木の根っこや石で平坦ではない道は少し歩きづらく疲労が足に溜まっていくのがわかった。
だけど疲労とは反対に私の心は好奇心に溢れ、久しぶりにとても楽しい気持ちになっていた。
「まぁっ! なんて綺麗なの!」
木々の道を通り抜けた先に待っていたのは、一面シロツメクサが広がっている花畑だった。白くて小さな花が地面を覆い隠していて、まるで白い絨毯が敷き詰められているようだった。
思わず駆け出してしまった私はその勢いのまま地面へ座り込んだ。
「あ、ジュリエッタ様!」
背後から一瞬私を引き止める護衛の声が聞こえてきたが、私の行動を咎める様子はなかったので放っておいた。
「止めておけ。折角の休日だ。幸い人の姿はないのだから我々もジュリエッタ様の行動に口を出すのは止めておこう」
「そうだな。ジュリエッタ様のあんな楽しそうな表情は久しぶりに見た」
「ああ、カイル様と遊ばれていた頃を思い出すな」
「昔はよくあの暴れん坊達のお伴にさせられてたからな。ピクニックすると逝って森へ行ったり、絵本に載っていた兎を見てみたいと言い出して野うさぎを一日中探した事もあったな」
「お前は途中で蜂の巣を見つけて大騒ぎしてたよな」
「そりゃお嬢様方を連れてたんだから騒ぎもするさ。怪我一つでもさせてたら旦那様にこっぴどく叱られるんだからな」
「くくく、そうだな。旦那様はジュリエッタ様をとても愛されていたからな」
「旦那様だけじゃない。執事長や侍女長、使用人達全てを敵に回すっつーの」
「当然だろ。あの方は俺達の大切な主なんだから」
「そうだな。あの方は絶対に守らなくてはならない、俺達の愛すべき主様だ。」
童心に帰ってシロツメクサの花冠を黙々と作り続けていた私は護衛達の暖かい視線に全く気づかなかった。
126
あなたにおすすめの小説
元夫をはじめ私から色々なものを奪う妹が牢獄に行ってから一年が経ちましたので、私が今幸せになっている手紙でも送ろうかしら
つちのこうや
恋愛
牢獄の妹に向けた手紙を書いてみる話です。
すきま時間でお読みいただける長さです!
その支払い、どこから出ていると思ってまして?
ばぅ
恋愛
「真実の愛を見つけた!婚約破棄だ!」と騒ぐ王太子。
でもその真実の愛の相手に贈ったドレスも宝石も、出所は全部うちの金なんですけど!?
国の財政の半分を支える公爵家の娘であるセレスティアに見限られた途端、
王家に課せられた融資は 即時全額返済へと切り替わる。
「愛で国は救えませんわ。
救えるのは――責任と実務能力です。」
金の力で国を支える公爵令嬢の、
爽快ザマァ逆転ストーリー!
⚫︎カクヨム、なろうにも投稿中
【完結】私が愛されるのを見ていなさい
芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定)
公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。
絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。
ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。
完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。
立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。
心を病んでいるという嘘をつかれ追放された私、調香の才能で見返したら調香が社交界追放されました
er
恋愛
心を病んだと濡れ衣を着せられ、夫アンドレに離縁されたセリーヌ。愛人と結婚したかった夫の陰謀だったが、誰も信じてくれない。失意の中、亡き母から受け継いだ調香の才能に目覚めた彼女は、東の別邸で香水作りに没頭する。やがて「春風の工房」として王都で評判になり、冷酷な北方公爵マグナスの目に留まる。マグナスの支援で宮廷調香師に推薦された矢先、元夫が妨害工作を仕掛けてきたのだが?
義妹が聖女を引き継ぎましたが無理だと思います
成行任世
恋愛
稀少な聖属性を持つ義妹が聖女の役も婚約者も引き継ぐ(奪う)というので聖女の祈りを義妹に託したら王都が壊滅の危機だそうですが、私はもう聖女ではないので知りません。
公爵令嬢の苦難
桜木弥生
恋愛
公然の場で王太子ジオルドに婚約破棄をされた公爵令嬢ロベリア。
「わたくしと婚約破棄をしたら、後ろ楯が無くなる事はご承知?わたくしに言うことがあるのではございませんこと?」
(王太子の座から下ろされちゃうから、私に言ってくれれば国王陛下に私から頼んだことにするわ。そうすれば、王太子のままでいられるかも…!)
「だから!お嬢様はちゃんと言わないと周りはわからないんですって!」
緊張すると悪役っぽくなってしまう令嬢と、その令嬢を叱る侍女のお話。
そして、国王である父から叱られる王子様のお話。
犠牲になるのは、妹である私
木山楽斗
恋愛
男爵家の令嬢であるソフィーナは、父親から冷遇されていた。彼女は溺愛されている双子の姉の陰とみなされており、個人として認められていなかったのだ。
ソフィーナはある時、姉に代わって悪名高きボルガン公爵の元に嫁ぐことになった。
好色家として有名な彼は、離婚を繰り返しており隠し子もいる。そんな彼の元に嫁げば幸せなどないとわかっていつつも、彼女は家のために犠牲になると決めたのだった。
婚約者となってボルガン公爵家の屋敷に赴いたソフィーナだったが、彼女はそこでとある騒ぎに巻き込まれることになった。
ボルガン公爵の子供達は、彼の横暴な振る舞いに耐えかねて、公爵家の改革に取り掛かっていたのである。
結果として、ボルガン公爵はその力を失った。ソフィーナは彼に弄ばれることなく、彼の子供達と良好な関係を築くことに成功したのである。
さらにソフィーナの実家でも、同じように改革が起こっていた。彼女を冷遇する父親が、その力を失っていたのである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる