駆け落ちした愚兄の来訪~厚顔無恥のクズを叩き潰します~

haru.

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予想外の展開

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  あれから何時間経っただろうか。
  シロツメクサの花畑で花冠を作ったり、ただひたすらボーッと過ごしてみたりした。

  ゆっくりと穏やかな風が流れる中で、私は自分の心が少しずつ癒されていくのを感じていた。

  がむしゃらに頑張り続けてきた五年間を労るような、ほんの僅かな休息の時間。

「頑張るだけじゃなくて、息抜きの仕方もきちんと覚えなきゃな」

  今回みたいに心が疲弊する瞬間はきっとまた訪れる。当主を続けていく限り、辛い決断は沢山ある筈だ。その時の為にも自分の心をコントロール出来るようにしとかなければならない。
  
「皆に心配かけてるようじゃ一人前の当主とは言えないわね」

  気持ちがリフレッシュ出来た私は屋敷へ帰る事にした。護衛達と共に出口へと向かい、馬車へ乗り込んだ。

「せっかく出掛けたのだから皆へお土産でも買っていきましょうか」

  心配かけたお詫びに街で美味しい物でも買って帰ろうと思ったのだ。

  最近話題のパイ専門店でレモンパイとアプリコットパイを買い、精肉店で特上肉の塊を購入した。

  ちょっと高い出費にはなったが、たまの贅沢だと思って財布の紐を緩めた。

  興味がある店を眺めながら街中をぶらりと歩き、そして昼過ぎに屋敷へ戻ることにした。

「ん? 何かあったのかしら?」

  するとそろそろ屋敷に着く頃だと思っていたら突然馬車が停車して、外からは護衛の咎めるような荒々しい声が聞こえてきた。

「二度と屋敷へ来ないように警告した筈だぞ!」

「何故此処にいるんだ!」

「ロブゾ家の前を彷徨くなっ!」

「うるさいぞ! 貴様等、誰に向かって口をきいているんだ! 立場を弁えろ!」

「弁えるのはお前の方だ!」

「平民のお前が伯爵家の護衛に楯突いていいとでも思っているのか!」

「何度来ても意味はないぞ! ロブゾ家当主様よりお前は二度と屋敷に入れるなとお達しがあったのだ! 諦めて立ち去れっ!」

  会話の内容に身に覚えがあった私は馬車の窓から外を覗き込んだ。
  
  すると此処はもう既にロブゾ家の屋敷前だったらしく、門より少し手前の位置で馬車は停車していた。そしてロブゾ家の門前で門番と護衛相手にあの男が屋敷の中に入れろと暴れていた。

「ジュリエッタっ! 聞いているんだろ、ジュリエッタっ! お兄様にこんな仕打ちしてもいいと思ってるのか! さっさと出てこい!」

「アルバート・ロブゾの名を語る不届き者め! 平民の身で伯爵家当主様を呼び捨てにするとは死にたいのか!」

「黙れっ! 私の顔を見てみろ! どこからどう見てもアルバート・ロブゾだろうが!」

「知らんっ! 伯爵家を捨てた人間の顔など忘れた!」

「ジュリエッタ様達を苦しめた男など我等の主ではない!」

「アルバート・ロブゾは伯爵家の疫病神だ! そんな者の名を語った所で何の役にもたたんぞ!」

「な、なんだとぉおお!」

  自分より下だった人間にあしらわれるのが許せないのだろう。あの男の顔には怒りの色が浮かび、徐々に抑えきれなくなってきていた。

  だが門番や護衛とて同じことだった。
  長年ロブゾ家に仕えてきた者達にとってあの男は許しがたい人間なのだ。

  一発触発。その場の空気はまさにそんな感じだった。
  私はどうするのが正解なのか頭を抱えた。

  馬車から降りて自ら対応する?
  だがあの男が武力行使に出た場合あきらかに足手纏いとなってしまう。

  二の足を踏んでいると、私の護衛として残った男が窓に近づき「ジュリエッタ様はこのまま馬車の中で待機していてください。あの男は此方で追い返しますので」と言ってくれた。

「でも……」

「彼処から馬車は見えませんので此処で待機してくださればジュリエッタ様に被害はありません」

「そう。……ねぇ、あの男はいつもあんな感じなの?」

  報告だけで見ることのなかったあの男の無様な様子を思い返した。

  護衛に羽交い締めにされて無理矢理追い返されそうになっている姿。その表情には怒りや殺気があり、一歩間違えれば犯罪者になりそうだと思った。

  いや、既にあの男は犯罪者のようなものか。

「これ以上騒ぐようなら騎士団に差し出しても構わないわ。貴方達に怪我があったら堪らないもの。」

  ケルヴィン叔父様達と立てた計画はあるものの、ロブゾ家の者達へ危害を加えるのなら今すぐにでも排除する。

  だが私達がどう扱おうと結局あの男はアルバート・ロブゾ。身内の者とのいざこざでは騎士団に付き出す罪状としては弱いし、あの男の帰還はすぐさま社交界へ知られてしまうだろう。

  だが、それでもこれまでロブゾ家を見捨てずに仕えてくれた者達の身に比べれば安いものだ。

  一度受けた醜聞に少し色が足されるだけ。
  大丈夫。ロブゾ家はそんな事では揺るがない。
  私が抑えきってみせる。

  お父様だってきっとそうするはず。
  ロブゾ家が大事とはいえ、受けた恩を決して無下にはしないだろうし、彼等も私達の守るべき大切な領民だ。

  私の揺るがない言葉に護衛はぐっと何かを堪えながら「承知しました」と言い頭を下げた。

  そして終わることのない外の騒ぎを見守っていると一台の馬車が屋敷前にやって来た。

「なんだこれは。凄い騒ぎじゃないか……」

 呆れたように馬車から下りてきたのはなんとカイルだった。

  約束もしてないのに何故カイルが屋敷に?
  そもそも騒ぎが起きてるとわかってるのにどうして馬車から下りたの?

  疑問が尽きずにいると、あの男は昔馴染みのカイルの姿に希望を見出だしたのか、眼を輝かせた。

「おお! カイルか! 久しぶりじゃないか!」

  みっともなく拘束されながら笑顔で話しかけてくる男の姿にカイルは一瞬顔を歪めたが、そのまま無視をして門番へと声をかけた。

「すまない。約束はしていないのだが、先日街でジュリエッタ嬢を見かけた際に渡しそびれた物があってな……もし在宅中なら面会可能か確認を取ってもらえないだろうか」

「おい、おいっ! カイル! わからないのか!? 俺だ! ジュリエッタの兄のアルバートだ! わかるだろ? お前を可愛がってたアルバート兄様だぞ!」

「もし出かけているのなら手紙だけでも受け取ってもらえたら助かる」

「承知致しました。当主様は現在外出中ですので此方だけお預かりさせて頂きます」

  カイルと門番は男の声を無視して淡々と会話していく。

  五年前にはなかったカイルの貴族としての仮面に私は少し驚いた。

  私の知っているカイルは頼りになる少し意地悪で優しい男の子だった。
  だけどそれはもう違う。それを今思い知った。私の中にいるカイル・メゾットは大人男性へと成長していると。

  あんな平然とした顔で人を交わしたりする姿は見たことがなかった。門番と交渉する姿だって新鮮だった。

  あんな真剣で凛々しい姿をするなんて知らなかった。

  昔とは違う魅力に惹かれているのか、私はカイルの姿から目が離せなかった。

  
  
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