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校舎内へ~自称ヒロイン登場~VS風紀編
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──さあ、皆様お待たせしました! 我々はついに! つ・い・に!! あのパドミア学園の校舎前までやって参りました!
なんとも無駄に豪華…ではなく、素晴らしい造りの校舎の内部は、なんと今回がTV初披露だそうです! 今まで数多の有名TV局が撮影交渉を試みましたが、ことごとくお断りされたそうですよ! 改めて、モンマルティエ家のお力に感謝感謝です!
さて、そう言っている間にも我々は、限られた者しか足を踏み入れることを許されない、まさに秘境とも呼ぶべき未知の領域に足を踏み入れようとしています! ああ、誰も成しえなかった偉業を我々アルファTVが達成するとは、テレビ〇日も日〇テレビも思いもしなかったことでしょう我々を弱小テレビ局と馬鹿にしていた連中が今頃悔しがっていると思うと痛快でなりまs「何をブツブツと言っているのです! 早く来ないと置いていきますわよ!」わわっ、待ってくださーい! …ふぅ。さっきなんだか一瞬意識が黒く染まったような気がしたんですが、なんだったんでしょうか。…え。ブラックリポーターが降臨していた? ははは、カメラさんおかしなこと言わないでくださいよ!
《校舎内に入る》
──ふわぁ…。なんということでしょう。校舎の入口から1歩入ってみれば、まるで高級ホテルに迷い込んだのかと思うようなラグジュアリー感溢れる造りになっています! エントランスは開放感あふれる吹き抜けのホールになっており、正面奥にはシンデレラがガラスの靴を落としていきそうな大きなメイン階段があります! そして右手にある受付はまるでホテルのフロントのようです! え? 受付じゃなくてコンシェルジュ? 学校にコンシェルジュ? もはや意味が分かりません! ここは本当に学校なんでしょうか!?
あ! あれを見てください! なぜ廊下のライトがシャンデリアになっているのでしょうか? 庶民代表のリポーターには理解出来ません!
「庶民の学校は違うんですの?」
──違いますよ! 普通の学校は蛍光灯です!
「あら、そうなんですの。でもこれ、普通のシャンデリアではなくて、最近流行りの魔導えーでぃーいー? とかいうので出来ているらしいですわよ」
「LEDですわ、ルクレツィア様。なんでも第一王子イヴァリス殿下がロウソクや従来の電球に代わる光源を発明するようモンマルティエ領の魔導具職人に依頼したそうですわ。従来の電球は消費魔力が多くてコストパフォーマンスが悪いですし、ロウソクは火事の原因になりますからね」
「あら、そうだったんですの。そういえば、我が家のシャンデリアもそのえるいーでぃー? になってたわ」
「我が家もです。ロウソクよりも長持ちしますし、なによりロウソクより明るくていいですわ。それにこの間、我が家ではシャンデリアだけではなく全ての照明をLEDに変えたんですよ。消費魔力も少なくて、コストパフォーマンスも良いと大好評なんです。さすがルクレツィア様のご生家です。先を読む慧眼の持ち主のイヴァリス殿下も素晴らしいですが、それはその依頼を完璧にこなす職人をお持ちのモンマルティエ家があってこそですもの!」
──な、なんと! 貴族の世界にもコスパと省エネの波が来ていたとは!
「あなた達、遅れてますわよ。今の時代、貴族だろうとコスト削減と省エネは常識です。上に立つ者ほど無駄を省き、生活の質を高め、環境に配慮する。これこそ今の時代のノブレス・オブリージュですわ!」
──…これは我々の勉強不足でしたね。貴族の意識がここまで変化しているとは思いませんでした。アミュリカさんのドヤ顔は若干イラッとしましたが、これは素直に賞賛しましょう。
「…ちょっとあなた達、わたくしを置いてけぼりにしないでちょうだ──《ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ──》…はぁ、来ましたわね…」
《──ダダダダダダダダズデンッ》「きゃあん☆」
──…え? なんですか今の? 機関銃乱射のような轟音と、まったく不釣り合いな悲鳴(?)が聞こえましたが…。あ、あそこに女生徒が倒れています!どうやら彼女が走って転んだようですね。大丈夫ですk「あーん。いたぁい。ひどいルクレツィアさまぁ」……え?
「はぁ。わたくしが何をしたというの、ユピーナ・サルマン」
「ユピーナが可愛いからって意地悪して足を引っ掛けるなんてひどぉい」
「あなたが勝手に転んだんでしょう!」
「きゃあ! こわーいルクレツィアさまぁ。怒んないでぇ!」
「こわ…っ!? 失礼ね! 本当のことを言っただけでしょう!? それにわたくしはあなたに名前呼びを許していなくてよ!」
「えーケチぃ。いいじゃないですかぁ名前くらいー」
「け、けち? わたくしが、けち?」
──い、一体、何が起きているのでしょうか? 嵐のように現れ、ルクレツィアさんを翻弄しているあの女生徒は誰なんでしょうか!?
「ユピーナ・サルマン! あなた子爵令嬢の分際で、ルクレツィア様に対するなんたる無礼。目に余りますわよ!」
「やだぁ、アミュリカさまってば、この学園は平等をうたってるんですよぅ。公爵令嬢だろうと、子爵令嬢だろうと、この学園にいる間は身分は関係ないんですぅ。そんなことも忘れちゃったんですかぁ? 見た目と同じく頭も老けてるんですねぇ」
「な、なんですって!? この、学園に男漁りに来ているドグサレビッチが!!」
「やだぁ。アミュリカさまってば、下品~w」
──今度は謎の女生徒とアミュリカさんの間で、バチバチと火花が散っています! 犬猿の仲、いえ、ハブとマングースでしょうか? ルクレツィアさん。彼女は一体…?
「彼女はユピーナ・サルマン。サルマン子爵家の一人娘ですわ」
──サルマン子爵令嬢でしたか。たしかサルマン子爵家といえば、当代の子爵の曽祖父が、戦で戦果を挙げて叙爵された、所謂新興貴族でしたよね。
「あら、サルマン子爵家まで知ってるなんて、随分勉強されてますのね」
──もちろんですよ! この撮影の為に、貴族名鑑が擦り切れるほど読み込みましたからね! この撮影には、リポーターだけじゃなく、アルファTVの命運がかかっているんです!
「そ、そうなの(やや引き)」
──それはそうと、サルマン子爵令嬢ユピーナさんですが、彼女も美少女ですね! 大きな琥珀色の瞳に、ピンク色の頬、赤く熟れた果実のような艶々の唇と、ルクレツィアさんの美しさとは種類の違う、可愛らしいという表現が似合う美少女です。 例えるなら、ルクレツィアさんが青薔薇のような高貴な美しさなら、ユピーナさんは野に咲く菫のような素朴な可愛らしさといった感じでしょうか。
そしてなんと言っても一番目立つのは、あのピンクの髪ですねぇ。ストロベリーブロンドとも違う、あの鮮やかなピンクの髪は見たことがありません。…あれ、でも、まつ毛は茶色いですね。銀髪のルクレツィアさんはまつ毛も銀色なんですが…。
「あれは染めてるんですわ。本人は地毛だと言い張ってますけれど、髪の根元をよく見れば分かりますわ。わざわざあんな奇抜な色に染めるだなんて理解出来ませんわね」
「そこ! コソコソ話しても聞こえてるんだから! ユピーナの髪は元からピンクなの! ヒロインなんだから!」
──別にコソコソと話してるつもりはなかったんですが…。ところで、ヒロインと言いました?
「そうよ! ユピーナはヒロインなの! この世界はユピーナの為にあるんだから!」
──で、出ました! 悪役令嬢と双璧を成す悪役、その名も自称ヒロイン! 悪役令嬢がいるなら彼女もいるかもしれないと思っていましたが、こんなにもあっさりと出会えるとは! なんとラッキー!
「なんなの、失礼ね! ユピーナは自称じゃなくて本物のヒロインなんだから! そもそもあんた達誰なの…あれ、それってもしかして、カメラ?」
──あ、はい。我々、アルファTV撮影隊です。今日はルクレツィアさんの一日に密着s「もしかして、ユピーナを撮りにきたのぉ? きゃあ☆ ユピーナついにテレビデビュー?」……え?
「も~。それならそうと早く言ってよぉ。やだ、髪の毛ぐちゃぐちゃ! メイクも直さなくっちゃだしぃ」
──いや、違くてですね? 我々はルクレツィアさんを…「も~一旦カメラ止めて!」 ああ! カメラさんが襲われて…! や、やめてください! カメラさんから離れて!」
「……ユピーナ・サルマン。あなた、そんなに大声を上げていいの? こんなに騒がしくすると、あなたの行動を常に監視している殿方が来てしまうわよ?」
──…え。あんなに令嬢とは思えぬ力でカメラさんに掴みかかっていたユピーナさんが、ピタリと止まりました! 一体、何が……?
「ユピーナ・サルマン。貴様、何を騒いでいる」
「げ」
──おおっと! ここでまたまた新キャラの登場です! なんという怒涛の展開! 艶のある黒髪を七三に分け、黒縁眼鏡を掛けた野暮ったい姿をしていますが、その奧から覗く切れ長の黒い瞳や、すっと通った鼻筋、薄い唇など、その顔はクールという言葉が似合いそうな整った容姿をしています! さらに長身で、制服の上からでも鍛え上げられた身体をしていることが伺えます!
彼は一体何者なのでしょうか!?
「彼はアーノルド・ヴァーミリオン。ヴァーミリオン伯爵家の長男ですわ。そして、我がパドミア学園の風紀委員長ですの」
──な、なんと! ヴァーミリオン伯爵令息ですか! ヴァーミリオン伯爵家といえば、代々優秀な騎士を排出していることで有名で、特に当代のヴァーミリオン伯爵は、王国の治安を守る王国守護の要、王国第三騎士団の団長を務めている、騎士のトップの一人! 王国民の憧れですよ! そのご子息が目の前にいるとは! これは視聴率うなぎ登りです! しかも、風紀委員長とは! まさに騎士団長のご子息に相応しい役職でしょう!」
「貴様、学園で問題を起こすなといつも言っているだろう」
「も~またあんたなの? いい加減にしてよね~。もしかしてあんた、ユピーナのストーカー?」
「馬鹿か。そんな訳ないだろう。貴様にはほとほと迷惑をかけられているんだ。いい加減にして欲しいのはこちらの方だ」
「ユピーナが何したっていうのよ!」
「…ほぅ。数々の校則違反を犯しておいて、気づいてすらいないと? なら教えてやろう。その空っぽの頭に叩き込め。まず、その馬鹿みたいな色の髪。染めるのは校則第23条、『生徒の染髪を禁ずる』に違反している。それからそのスカート丈。短すぎる。校則第11条に違反だ。女子のスカート丈は膝下10センチと決まっている。それから制服を改造するのも違反だ。アクセサリーの着用で許されているのはネックレスのみだ。ピアスだのブレスレットだのは即刻外せ。でなければ没収だ。それから廊下を走る行為もうんたらかんたら──……」
──おおぅ…。す、すごい…。あの長文を噛むことなくスラスラと…。なんでしょうか、この湧き上がるマグマのような感情は…。っは、これは嫉妬!? あのアナウンサー顔負けの発音の良さに、リポーター、ちょっぴりプライドを刺激されてしまいました!
「も~やめて! なんなのあんた! ユピーナが可愛いからってみんなしていじめるなんて、サイテーよ!」
《ダダダダダダ──「サルマン! 廊下は走るなと言っているだろうが!!」「うるさいハゲ!!」──ダダダダダダダダダダダダダダダダダダ──………》
──ユピーナさんが轟音をあげながら走っていってしまいました。あのユピーナさんをあっという間に言いくるめて追い払うとは…。
「ルクレツィア・モンマルティエ。お前もだ。騒ぎは起こすなと言っているはずだが?」
「わたくしは何もしておりませんわ。ユピーナ・サルマンから絡んでくるんですの。わたくしも迷惑してますのよ」
「そうですわ! あのビッチが身の程知らずにもルクレツィア様を目の敵にしてるんです! 風紀は何をしてるんですか!? ルクレツィア様に無駄な因縁をつける前に、早くあの女をなんとかなさい!!」
「アミュリカ・シンディ。我々風紀の仕事は学園の風紀と秩序を守ることだ。個人の人間関係に口出しはしない」
「まぁ!? なんて役に立たないの!」
「なんとでも言うがいい。ところで、そこのお前達」
──は、はいぃ! 我々をお呼びでしょうか!?
「お前達がテレビ局の撮影スタッフだな。話はきいている。学園長が許可を出したのなら俺に否やはないが、学園で騒ぎを起こし、風紀や秩序を乱したら、その時は容赦はしない。肝に銘じておくがいい(威圧)」
──はひィィ!! 肝に銘じるでありますぅ!!
「では、俺は行く。お互い、もう会うことがないよう願うとしよう」
──はいィ!! お勤めご苦労様であります!!(90度)
……ふぅぅぅ。言ってしまいました。なんという威圧感。なんだかデジャブを感じますね。ですが、あの颯爽とした姿。か、かっこいい…♡ まるで極東の島国、ジャポネーのサムラーイのようです! リポーター、ジャポネー贔屓でして、サムラーイの大ファンなんです!! …え。カメラさんもジャポネー贔屓? ゲイーシャが大好き? なんと、こんな近くに同志がいたとは! カメラさん、今度ジャポネー話で飲み明かしましょう!
「ちょっとあなた達! ……私もまぜなさい!!」
──え…。ま、まさか…アミュリカさんも…?
「私、ジャポネーのニンジャーが好きでして、『NA〇UTO』全72巻、プラス外伝一冊、全て揃えていましてよ」
──なっ……!? あの、一冊でもプレミアがついて一般人には手が出せない、幻のコミックスを、それもコンプリートだとぉ!! うう羨ましい! これが貴族と庶民の壁なのか!! も、もしや『るろうに〇心』も…?
「もちろん、コミックス全28巻持ってますわ。私も参加させてくれるのなら、お貸ししてあげてもよろしくてよ」
──なんですと!? ぜ、是非とも!! アミュリカさんは未成年ですから飲みにはいけませんが、お茶を飲みながら語らうというのもお洒落でいいですね! カメラさんもオッケー? なら、日取りを決めなくてはいけませんね!
「…あなた達、すぐにわたくしを置いてけぼりにするのはやめなさいーーー!!」
なんとも無駄に豪華…ではなく、素晴らしい造りの校舎の内部は、なんと今回がTV初披露だそうです! 今まで数多の有名TV局が撮影交渉を試みましたが、ことごとくお断りされたそうですよ! 改めて、モンマルティエ家のお力に感謝感謝です!
さて、そう言っている間にも我々は、限られた者しか足を踏み入れることを許されない、まさに秘境とも呼ぶべき未知の領域に足を踏み入れようとしています! ああ、誰も成しえなかった偉業を我々アルファTVが達成するとは、テレビ〇日も日〇テレビも思いもしなかったことでしょう我々を弱小テレビ局と馬鹿にしていた連中が今頃悔しがっていると思うと痛快でなりまs「何をブツブツと言っているのです! 早く来ないと置いていきますわよ!」わわっ、待ってくださーい! …ふぅ。さっきなんだか一瞬意識が黒く染まったような気がしたんですが、なんだったんでしょうか。…え。ブラックリポーターが降臨していた? ははは、カメラさんおかしなこと言わないでくださいよ!
《校舎内に入る》
──ふわぁ…。なんということでしょう。校舎の入口から1歩入ってみれば、まるで高級ホテルに迷い込んだのかと思うようなラグジュアリー感溢れる造りになっています! エントランスは開放感あふれる吹き抜けのホールになっており、正面奥にはシンデレラがガラスの靴を落としていきそうな大きなメイン階段があります! そして右手にある受付はまるでホテルのフロントのようです! え? 受付じゃなくてコンシェルジュ? 学校にコンシェルジュ? もはや意味が分かりません! ここは本当に学校なんでしょうか!?
あ! あれを見てください! なぜ廊下のライトがシャンデリアになっているのでしょうか? 庶民代表のリポーターには理解出来ません!
「庶民の学校は違うんですの?」
──違いますよ! 普通の学校は蛍光灯です!
「あら、そうなんですの。でもこれ、普通のシャンデリアではなくて、最近流行りの魔導えーでぃーいー? とかいうので出来ているらしいですわよ」
「LEDですわ、ルクレツィア様。なんでも第一王子イヴァリス殿下がロウソクや従来の電球に代わる光源を発明するようモンマルティエ領の魔導具職人に依頼したそうですわ。従来の電球は消費魔力が多くてコストパフォーマンスが悪いですし、ロウソクは火事の原因になりますからね」
「あら、そうだったんですの。そういえば、我が家のシャンデリアもそのえるいーでぃー? になってたわ」
「我が家もです。ロウソクよりも長持ちしますし、なによりロウソクより明るくていいですわ。それにこの間、我が家ではシャンデリアだけではなく全ての照明をLEDに変えたんですよ。消費魔力も少なくて、コストパフォーマンスも良いと大好評なんです。さすがルクレツィア様のご生家です。先を読む慧眼の持ち主のイヴァリス殿下も素晴らしいですが、それはその依頼を完璧にこなす職人をお持ちのモンマルティエ家があってこそですもの!」
──な、なんと! 貴族の世界にもコスパと省エネの波が来ていたとは!
「あなた達、遅れてますわよ。今の時代、貴族だろうとコスト削減と省エネは常識です。上に立つ者ほど無駄を省き、生活の質を高め、環境に配慮する。これこそ今の時代のノブレス・オブリージュですわ!」
──…これは我々の勉強不足でしたね。貴族の意識がここまで変化しているとは思いませんでした。アミュリカさんのドヤ顔は若干イラッとしましたが、これは素直に賞賛しましょう。
「…ちょっとあなた達、わたくしを置いてけぼりにしないでちょうだ──《ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ──》…はぁ、来ましたわね…」
《──ダダダダダダダダズデンッ》「きゃあん☆」
──…え? なんですか今の? 機関銃乱射のような轟音と、まったく不釣り合いな悲鳴(?)が聞こえましたが…。あ、あそこに女生徒が倒れています!どうやら彼女が走って転んだようですね。大丈夫ですk「あーん。いたぁい。ひどいルクレツィアさまぁ」……え?
「はぁ。わたくしが何をしたというの、ユピーナ・サルマン」
「ユピーナが可愛いからって意地悪して足を引っ掛けるなんてひどぉい」
「あなたが勝手に転んだんでしょう!」
「きゃあ! こわーいルクレツィアさまぁ。怒んないでぇ!」
「こわ…っ!? 失礼ね! 本当のことを言っただけでしょう!? それにわたくしはあなたに名前呼びを許していなくてよ!」
「えーケチぃ。いいじゃないですかぁ名前くらいー」
「け、けち? わたくしが、けち?」
──い、一体、何が起きているのでしょうか? 嵐のように現れ、ルクレツィアさんを翻弄しているあの女生徒は誰なんでしょうか!?
「ユピーナ・サルマン! あなた子爵令嬢の分際で、ルクレツィア様に対するなんたる無礼。目に余りますわよ!」
「やだぁ、アミュリカさまってば、この学園は平等をうたってるんですよぅ。公爵令嬢だろうと、子爵令嬢だろうと、この学園にいる間は身分は関係ないんですぅ。そんなことも忘れちゃったんですかぁ? 見た目と同じく頭も老けてるんですねぇ」
「な、なんですって!? この、学園に男漁りに来ているドグサレビッチが!!」
「やだぁ。アミュリカさまってば、下品~w」
──今度は謎の女生徒とアミュリカさんの間で、バチバチと火花が散っています! 犬猿の仲、いえ、ハブとマングースでしょうか? ルクレツィアさん。彼女は一体…?
「彼女はユピーナ・サルマン。サルマン子爵家の一人娘ですわ」
──サルマン子爵令嬢でしたか。たしかサルマン子爵家といえば、当代の子爵の曽祖父が、戦で戦果を挙げて叙爵された、所謂新興貴族でしたよね。
「あら、サルマン子爵家まで知ってるなんて、随分勉強されてますのね」
──もちろんですよ! この撮影の為に、貴族名鑑が擦り切れるほど読み込みましたからね! この撮影には、リポーターだけじゃなく、アルファTVの命運がかかっているんです!
「そ、そうなの(やや引き)」
──それはそうと、サルマン子爵令嬢ユピーナさんですが、彼女も美少女ですね! 大きな琥珀色の瞳に、ピンク色の頬、赤く熟れた果実のような艶々の唇と、ルクレツィアさんの美しさとは種類の違う、可愛らしいという表現が似合う美少女です。 例えるなら、ルクレツィアさんが青薔薇のような高貴な美しさなら、ユピーナさんは野に咲く菫のような素朴な可愛らしさといった感じでしょうか。
そしてなんと言っても一番目立つのは、あのピンクの髪ですねぇ。ストロベリーブロンドとも違う、あの鮮やかなピンクの髪は見たことがありません。…あれ、でも、まつ毛は茶色いですね。銀髪のルクレツィアさんはまつ毛も銀色なんですが…。
「あれは染めてるんですわ。本人は地毛だと言い張ってますけれど、髪の根元をよく見れば分かりますわ。わざわざあんな奇抜な色に染めるだなんて理解出来ませんわね」
「そこ! コソコソ話しても聞こえてるんだから! ユピーナの髪は元からピンクなの! ヒロインなんだから!」
──別にコソコソと話してるつもりはなかったんですが…。ところで、ヒロインと言いました?
「そうよ! ユピーナはヒロインなの! この世界はユピーナの為にあるんだから!」
──で、出ました! 悪役令嬢と双璧を成す悪役、その名も自称ヒロイン! 悪役令嬢がいるなら彼女もいるかもしれないと思っていましたが、こんなにもあっさりと出会えるとは! なんとラッキー!
「なんなの、失礼ね! ユピーナは自称じゃなくて本物のヒロインなんだから! そもそもあんた達誰なの…あれ、それってもしかして、カメラ?」
──あ、はい。我々、アルファTV撮影隊です。今日はルクレツィアさんの一日に密着s「もしかして、ユピーナを撮りにきたのぉ? きゃあ☆ ユピーナついにテレビデビュー?」……え?
「も~。それならそうと早く言ってよぉ。やだ、髪の毛ぐちゃぐちゃ! メイクも直さなくっちゃだしぃ」
──いや、違くてですね? 我々はルクレツィアさんを…「も~一旦カメラ止めて!」 ああ! カメラさんが襲われて…! や、やめてください! カメラさんから離れて!」
「……ユピーナ・サルマン。あなた、そんなに大声を上げていいの? こんなに騒がしくすると、あなたの行動を常に監視している殿方が来てしまうわよ?」
──…え。あんなに令嬢とは思えぬ力でカメラさんに掴みかかっていたユピーナさんが、ピタリと止まりました! 一体、何が……?
「ユピーナ・サルマン。貴様、何を騒いでいる」
「げ」
──おおっと! ここでまたまた新キャラの登場です! なんという怒涛の展開! 艶のある黒髪を七三に分け、黒縁眼鏡を掛けた野暮ったい姿をしていますが、その奧から覗く切れ長の黒い瞳や、すっと通った鼻筋、薄い唇など、その顔はクールという言葉が似合いそうな整った容姿をしています! さらに長身で、制服の上からでも鍛え上げられた身体をしていることが伺えます!
彼は一体何者なのでしょうか!?
「彼はアーノルド・ヴァーミリオン。ヴァーミリオン伯爵家の長男ですわ。そして、我がパドミア学園の風紀委員長ですの」
──な、なんと! ヴァーミリオン伯爵令息ですか! ヴァーミリオン伯爵家といえば、代々優秀な騎士を排出していることで有名で、特に当代のヴァーミリオン伯爵は、王国の治安を守る王国守護の要、王国第三騎士団の団長を務めている、騎士のトップの一人! 王国民の憧れですよ! そのご子息が目の前にいるとは! これは視聴率うなぎ登りです! しかも、風紀委員長とは! まさに騎士団長のご子息に相応しい役職でしょう!」
「貴様、学園で問題を起こすなといつも言っているだろう」
「も~またあんたなの? いい加減にしてよね~。もしかしてあんた、ユピーナのストーカー?」
「馬鹿か。そんな訳ないだろう。貴様にはほとほと迷惑をかけられているんだ。いい加減にして欲しいのはこちらの方だ」
「ユピーナが何したっていうのよ!」
「…ほぅ。数々の校則違反を犯しておいて、気づいてすらいないと? なら教えてやろう。その空っぽの頭に叩き込め。まず、その馬鹿みたいな色の髪。染めるのは校則第23条、『生徒の染髪を禁ずる』に違反している。それからそのスカート丈。短すぎる。校則第11条に違反だ。女子のスカート丈は膝下10センチと決まっている。それから制服を改造するのも違反だ。アクセサリーの着用で許されているのはネックレスのみだ。ピアスだのブレスレットだのは即刻外せ。でなければ没収だ。それから廊下を走る行為もうんたらかんたら──……」
──おおぅ…。す、すごい…。あの長文を噛むことなくスラスラと…。なんでしょうか、この湧き上がるマグマのような感情は…。っは、これは嫉妬!? あのアナウンサー顔負けの発音の良さに、リポーター、ちょっぴりプライドを刺激されてしまいました!
「も~やめて! なんなのあんた! ユピーナが可愛いからってみんなしていじめるなんて、サイテーよ!」
《ダダダダダダ──「サルマン! 廊下は走るなと言っているだろうが!!」「うるさいハゲ!!」──ダダダダダダダダダダダダダダダダダダ──………》
──ユピーナさんが轟音をあげながら走っていってしまいました。あのユピーナさんをあっという間に言いくるめて追い払うとは…。
「ルクレツィア・モンマルティエ。お前もだ。騒ぎは起こすなと言っているはずだが?」
「わたくしは何もしておりませんわ。ユピーナ・サルマンから絡んでくるんですの。わたくしも迷惑してますのよ」
「そうですわ! あのビッチが身の程知らずにもルクレツィア様を目の敵にしてるんです! 風紀は何をしてるんですか!? ルクレツィア様に無駄な因縁をつける前に、早くあの女をなんとかなさい!!」
「アミュリカ・シンディ。我々風紀の仕事は学園の風紀と秩序を守ることだ。個人の人間関係に口出しはしない」
「まぁ!? なんて役に立たないの!」
「なんとでも言うがいい。ところで、そこのお前達」
──は、はいぃ! 我々をお呼びでしょうか!?
「お前達がテレビ局の撮影スタッフだな。話はきいている。学園長が許可を出したのなら俺に否やはないが、学園で騒ぎを起こし、風紀や秩序を乱したら、その時は容赦はしない。肝に銘じておくがいい(威圧)」
──はひィィ!! 肝に銘じるでありますぅ!!
「では、俺は行く。お互い、もう会うことがないよう願うとしよう」
──はいィ!! お勤めご苦労様であります!!(90度)
……ふぅぅぅ。言ってしまいました。なんという威圧感。なんだかデジャブを感じますね。ですが、あの颯爽とした姿。か、かっこいい…♡ まるで極東の島国、ジャポネーのサムラーイのようです! リポーター、ジャポネー贔屓でして、サムラーイの大ファンなんです!! …え。カメラさんもジャポネー贔屓? ゲイーシャが大好き? なんと、こんな近くに同志がいたとは! カメラさん、今度ジャポネー話で飲み明かしましょう!
「ちょっとあなた達! ……私もまぜなさい!!」
──え…。ま、まさか…アミュリカさんも…?
「私、ジャポネーのニンジャーが好きでして、『NA〇UTO』全72巻、プラス外伝一冊、全て揃えていましてよ」
──なっ……!? あの、一冊でもプレミアがついて一般人には手が出せない、幻のコミックスを、それもコンプリートだとぉ!! うう羨ましい! これが貴族と庶民の壁なのか!! も、もしや『るろうに〇心』も…?
「もちろん、コミックス全28巻持ってますわ。私も参加させてくれるのなら、お貸ししてあげてもよろしくてよ」
──なんですと!? ぜ、是非とも!! アミュリカさんは未成年ですから飲みにはいけませんが、お茶を飲みながら語らうというのもお洒落でいいですね! カメラさんもオッケー? なら、日取りを決めなくてはいけませんね!
「…あなた達、すぐにわたくしを置いてけぼりにするのはやめなさいーーー!!」
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