2 / 3
登校~王子初エンカウント編
しおりを挟む
──お茶の間の皆様、お待たせ致しました。撮影再開です! 只今我々は、ルクレツィアさんが通われている学園への登校に同行しています。ルクレツィアさんは毎朝公爵家の馬車で登校なさっているそうですが、定員人数の関係で同じ馬車には乗れなかったので、我々は違う馬車で後ろを追走しているところです。
我々が乗っている馬車も公爵家からお借りした物なんですが、さすが公爵家の馬車! 街の乗合馬車とはレベルが違い過ぎます。触り心地の良いふかふかのシートや精巧な装飾も見事なんですが、一番の違いはなんと言ってもサスペンションでしょう! 路面からの衝撃や振動を見事に吸収し、車体の揺れは極わずか。これなら長時間乗っていてもお尻や腰が痛くならないでしょう! 是非とも乗合馬車にもその技術を分けて欲しいものです。
お、そうこうしているうちに学園に到着したようですね。ルクレツィアさんが通っていらっしゃる学園は、我が国最高峰のパドミア学園です。貴族の子息子女が多く通うこのパドミア学園は、現在第二王子のナジェク殿下が在籍している事でも有名ですね! ルクレツィアさんはナジェク殿下の婚約者ですし、今回の密着取材では、知られざるナジェク殿下のプライベートにも触れる機会があるやもしれません。その辺りもこれから楽しみなところですね!
(馬車から下車)
──さすがパドミア学園。敷地面積が半端なく広いです! 学園は校舎の他に、試合などが行われるコロシアム、クラブ活動の為のグラウンドや研究棟、自宅から通えない生徒の為の寮など、沢山の施設があります。もちろん学園で働く人々の為の施設も充実しており、さすが我が国最高峰の名は伊達ではありませんね。
今我々がいるのは学園の正門の馬車止めです。他の生徒達が乗った馬車も続々と集まってきています。遥か先にまるで豪邸のような校舎が見えますが、馬車が入れるのはここまでのようです。ここからは徒歩で向かわなくてはならないようですね。
「おはようございます。モンマルティエ様」
「ごきげんよう。モンマルティエ様」
「皆様、ごきげんよう」
──おお、さすがは公爵令嬢のルクレツィアさんです。馬車から降りるなり、あちらこちらから朝の挨拶が掛かりますね。しかし、やはり悪役令嬢ゆえか。畏怖の目でルクレツィアさんを見る生徒さんも多いです。
「ふんっ、貴族たるもの、どんな相手であろうともにこやかに挨拶くらい交わせなくては社交界では生きていけませんわ。それが分からない者達など、所詮小物。どうでも良いですわ」
──なるほど。その辺りは貴族でなくとも通ずるものがありますね。しかし、学生のうちからそういう事を意識しないといけないものなのですか?
「当たり前ですわ。学園は社交界の縮図ですの。ここで築いた関係が卒業後も社交界で影響を与えるのですわ。それでなくとも、自分の言動が思わぬ所で誰かに足元をすくわれる原因になるかもしれませんのよ。そういう自覚のないものは、自然と淘汰されて、社交界から消えていくものですわ」
──たしかに貴族の世界は足の引っ張り合いといいますからね。我々の想像以上に厳しい世界なんですねぇ。…おや、赤髪の女生徒が一人、ルクレツィアさんに近づいてきましたね。
「ごきげんよう、ルクレツィア様。…あの、そちらの方々は…?」
「ごきげんよう、アミュリカ様。この者達はあるふぁてぃーびーとかいう撮影隊ですわ。なんでもわたくしの一日を密着取材したいというので、協力して差し上げていますの」
「密着、取材…ですか?」
──我々は、アルファTV撮影隊です。今日は一日ルクレツィアさんと行動を共にしますので、どうぞよろしくお願いします!
「まあ、そうなんですか。私はアミュリカ・シンディ。シンディ侯爵家の娘ですわ。ルクレツィア様とは懇意にさせて頂いています。学園ではルクレツィア様と一緒にいることが多いので、よろしくお願いします」
──アミュリカ・シンディさんですか。シンディ侯爵家と言えば、製糸業や紡績業などの繊維工業が盛んで有名なシンディ領を治める大貴族です! シンディ産のシルク製品やレースは貴族のご婦人方に絶大な人気を誇る事でも有名ですね! さすがモンマルティエ公爵令嬢ルクレツィアさんです。ご友人も半端ないです。そして美少女です! 波打つ赤毛に口元の黒子がまだ15歳という年齢にも関わらず、なんとも言えない色気を感じさせます。
では、アミュリカさんにとってルクレツィアさんとはどういう人なのかを聞いてみましょう。
「ルクレツィア様のことがお知りになりたいの? 私にとってのルクレツィア様は、そうですわね…。野に咲く孤高の青薔薇、かしら。私達の様な有象無象とは一線を画す美しさをお持ちであり、それはまさに高貴なる薔薇の如しですわ! ですが、美しい薔薇には棘があると言いますでしょう? それはまさにルクレツィア様を言い表した言葉です。その美しさに惹かれ、無闇に触れようとする無法者はその身に隠された棘で返り討ちにあうことでしょう!! クフフフフ…」
──そ、そうですか。ありがとうございました。……なんだか“崇拝”という言葉がリポーターの脳裏を過ぎったんですが、気のせいでしょう。
「あなた達! 何をコソコソと話していますの!?」
──あ、ルクレツィアさんに気付かれてしまいました。アミュリカさんと内緒話をしていたのが気に食わなかったようですね。アルベルトさんからのマル秘情報では、ルクレツィアさんは寂しがり屋だそうです。目の前で内緒話をされて、除け者にされたように感じたんでしょう。ルクレツィアさんの可愛らしい一面が垣間見えましたね!
「わたくしが寂しがり屋!? あのバカ兄、なんて事を言いますの!? 別にわたくしは目の前でコソコソ話すのは礼儀に反するのではないかと思ったに過ぎませんわ! 勘違いしないでちょうだい!」
──ふふふ。失礼しました。
「ル、ルクレツィア様が寂しがり屋…!? そんな、孤高の青薔薇が…。…で、でも、悪くはありませんわね……いえ、寧ろ良いですわ…。はぁはぁ、これがギャップ萌えというものなんですわね…」
──ア、アミュリカさんが、新たな境地を開拓したようですね。まあ、ストライクゾーンが広がる事は良い事です。
「ア、アミュリカ様? そろそろ校舎へ行きm「「「キャーーーー!!!!」」」
──な、なんですか!? このアイドルのコンサート会場のような黄色い悲鳴は!?
「はぁ…。ナジェク殿下がいらしたんですわ。まったく、朝から大声で叫ぶなど、品性の欠片もありませんわ。周りの迷惑も考えて欲しいものですわね」
──なんと、さっそく第二王子ナジェク殿下とエンカウントのチャンス到来です! きっとあの人集りの中心にいらっしゃるのがナジェク殿下でしょう。女生徒の人垣の向こうで頭二つ分ほど長身の人物が見えます。さすが女性人気が抜群のナジェク殿下です。しかし、あの中に突撃するのは難しそうですね…。
「おまえ達、殿下にお会いしたいんですの?」
──勿論です! 王子殿下にお会いできる機会なんてそうそう無いですからね!
「そうなの。わかりましたわ。…おまえ達! 邪魔ですわよ! そこをお退きなさい!!」
──ええぇぇぇ!? ル、ルクレツィアさんー!?
「道を開けなさい! わたくしの言うことが聞こえないの!!」
──な、なんとあっという間に人垣が割れて、ナジェク殿下まで一直線の道が開いてしまいました! なんとも強引な力技です! 周りの生徒達からは、不快、恐怖、嫉妬、羨望、好奇等、様々な視線がルクレツィアさんに集中しています! しかし、さすが公爵令嬢と言うべきか、ルクレツィアさんはそんな視線をものともしていません!! ちなみに、隣にいるリポーターの心臓はバクバクです!
「ほら、何を惚けてますの。さっさと行きますわよ。」
──い、行くって、どこにでしょう…? まさか…。
「何言ってますの? 殿下へ挨拶をしに行くんですわ。おまえ達が行きたいと言ったんじゃないの」
──や、やっぱりかーーー!!!! どうやらこの横暴は、我々の為に行われたようです…。息をするように自然に尊大な態度をとってしまうとは、悪役令嬢恐るべし。何故ルクレツィアさんが悪役令嬢として悪名を轟かせるに至ったか、その理由の一端が垣間見えた気がします。
「早くしなさい!!」
──は、はいぃぃぃ!! こうなったら、体当たりあるのみです! カメラさん、行きますよ!!
「ごきげんよう、殿下」
「…おはよう、ルクレツィア。君が朝から声を掛けてくるなんて珍しいな」
──わわっ、お茶の間の皆様! 我がアルファTV始まって以来の大事件です! 我が国の第二王子、ナジェク・クロード・ファーガロッド殿下が目の前に!!
太陽の如く輝くブロンドに、切れ長の目から覗く瞳は鮮やかなエメラルドグリーン。スっと通った鼻筋に形の良い唇。加えて手足の長い均整のとれた長身とは…! 彼はまさに神が創りたもうた奇跡でしょう!!
「そうですわね。いつも殿下の周りにはよく囀る小鳥達が飛び交っていますもの。わたくし、騒がしいのは苦手ですの」
「…なら何故今日は哀れな小鳥達を追い払ってまで声を掛けた」
「今日は殿下にお目にかけたい者達がいますの」
「ふーん。それはそこの者達の事か?」
「そうですわ。ほらおまえ達。自己紹介は自分達でなさいな」
──は、はいっ!! 只今ご紹介にあずかりました、我々アルファTVと申します! お目にかかれて光栄です! 今日はルクレツィアさんの一日をお茶の間の皆様にお届けするべく、密着取材をさせて頂くことになりました! どうぞよろしくお願いします!
「と、いうことですの。少々お騒がせするかもしれませんから、殿下には初めにお知らせしておこうかと思いまして」
「………」
「殿下?」
──な、何故でしょう? 温厚で人当たりが良いともっぱらの噂のナジェク殿下が我々を睨んでいるような気がしてならないのですが…。なにかやらかしてしまったんでしょうか?
「…ルクレツィアに…密着…」
──ヒェっ!? な、なんでしょうか? 急に悪寒が…。…え、カメラさん、手の震えが止まらない? だ、駄目ですよ! 気合いとカメラマン根性でなんとかしてください!
「…おまえ達、ルクレツィアに迷惑をかけるなよ(小声)」
──ヒィっ!? は、は、はいィィィ!! 肝に銘じますぅ!!
「キャ!? 急に叫んでなんなんですの? びっくりするじゃない!」
「ルクレツィア」
「あ、はい、なんですの、殿下?」
「…いや、なんでもない。話が終わりなら、俺はもう行く」
「…そうですの。お引き留めして申し訳ございませんでしたわ」
──き、貴重なお時間を割いて頂き、ありがとうございましたァァァ!!(90度)
……ふぅぅぅ。行きましたね…。我々、生きた心地がしませんでした。なんですかさっきの地を這う様な声は!? リポーターは、正直チビりそうになりました。…え、カメラさんチビった? …うん。学園の購買でパンツ売ってるといいですね…。あ、失礼しました。カメラさんのパンツ事情は置いておいて、ナジェク殿下、御歳16歳にして、なんという威圧感。これが王子の風格か!? お茶の間の皆様にもカメラを通して伝わったでしょうか? 何故我々が威圧されたのかは謎ですが、よく考えれば、これも貴重な体験でしたね! 温厚で知られるナジェク殿下の意外な素顔といったところでしょうか!!
「……行ってしまいましたわ…」
──あ、ルクレツィアさん。なんだか切なそうな顔をしています。殿下が行ってしまって寂しいんですね。殿下と話している間は終始すました口調でしたが、実は話せて嬉しかったんですね。さすがツンデレです。
「な、ななな、なにを言っていますの!? わたくしは別に、殿下の事なんてなんとも思っていませんわ!」
──顔を真っ赤にして言っても説得力がありませんねぇ(ニヤニヤ)。
「そうですわ! 寂しがるルクレツィア様はとても可愛らしいですが、ルクレツィア様は孤高の青薔薇なんです! 誰かのものになるなど、あってはならない事ですわ!」
──あ、アミュリカさん、いたんですね。いやすでにルクレツィアさんは殿下の婚約者なんですが…。
「婚約者だからなんだと言うんですか! いくら結婚という鎖で縛ろうと、ルクレツィアさまの崇高な魂までは縛り付けることなど出来ないと知りなさい!」
──うん。アミュリカさんはちょっと発言を控えましょうか。
「け、結婚…わたくしが殿下のものに…キャア! 何を言ってますのわたくしったら! わたくしとしたことが、みっともない姿をみせてしまうなんて…。おまえ達のせいですわよ!」
──ええー!! 我々が何をしたというのでしょうか。理不尽な言い掛かりをつけられてしまいました。
「ふんっ、おまえ達に構っていたら遅刻してしまいますわ。アミュリカ様、行きましょう」
「ええ、ルクレツィア様」
──ああ! 待ってくださいルクレツィアさん! って、はやっ!? 走っていないのにもうあんな所に! 早く追いかけなければ見失ってしまいます! もちろん、学園の方にはモンマルティエ家の力で撮影許可を頂いていますから、校舎内もバンバン撮影していきますよ! さあカメラさん、いざパドミア学園へ突撃です!
我々が乗っている馬車も公爵家からお借りした物なんですが、さすが公爵家の馬車! 街の乗合馬車とはレベルが違い過ぎます。触り心地の良いふかふかのシートや精巧な装飾も見事なんですが、一番の違いはなんと言ってもサスペンションでしょう! 路面からの衝撃や振動を見事に吸収し、車体の揺れは極わずか。これなら長時間乗っていてもお尻や腰が痛くならないでしょう! 是非とも乗合馬車にもその技術を分けて欲しいものです。
お、そうこうしているうちに学園に到着したようですね。ルクレツィアさんが通っていらっしゃる学園は、我が国最高峰のパドミア学園です。貴族の子息子女が多く通うこのパドミア学園は、現在第二王子のナジェク殿下が在籍している事でも有名ですね! ルクレツィアさんはナジェク殿下の婚約者ですし、今回の密着取材では、知られざるナジェク殿下のプライベートにも触れる機会があるやもしれません。その辺りもこれから楽しみなところですね!
(馬車から下車)
──さすがパドミア学園。敷地面積が半端なく広いです! 学園は校舎の他に、試合などが行われるコロシアム、クラブ活動の為のグラウンドや研究棟、自宅から通えない生徒の為の寮など、沢山の施設があります。もちろん学園で働く人々の為の施設も充実しており、さすが我が国最高峰の名は伊達ではありませんね。
今我々がいるのは学園の正門の馬車止めです。他の生徒達が乗った馬車も続々と集まってきています。遥か先にまるで豪邸のような校舎が見えますが、馬車が入れるのはここまでのようです。ここからは徒歩で向かわなくてはならないようですね。
「おはようございます。モンマルティエ様」
「ごきげんよう。モンマルティエ様」
「皆様、ごきげんよう」
──おお、さすがは公爵令嬢のルクレツィアさんです。馬車から降りるなり、あちらこちらから朝の挨拶が掛かりますね。しかし、やはり悪役令嬢ゆえか。畏怖の目でルクレツィアさんを見る生徒さんも多いです。
「ふんっ、貴族たるもの、どんな相手であろうともにこやかに挨拶くらい交わせなくては社交界では生きていけませんわ。それが分からない者達など、所詮小物。どうでも良いですわ」
──なるほど。その辺りは貴族でなくとも通ずるものがありますね。しかし、学生のうちからそういう事を意識しないといけないものなのですか?
「当たり前ですわ。学園は社交界の縮図ですの。ここで築いた関係が卒業後も社交界で影響を与えるのですわ。それでなくとも、自分の言動が思わぬ所で誰かに足元をすくわれる原因になるかもしれませんのよ。そういう自覚のないものは、自然と淘汰されて、社交界から消えていくものですわ」
──たしかに貴族の世界は足の引っ張り合いといいますからね。我々の想像以上に厳しい世界なんですねぇ。…おや、赤髪の女生徒が一人、ルクレツィアさんに近づいてきましたね。
「ごきげんよう、ルクレツィア様。…あの、そちらの方々は…?」
「ごきげんよう、アミュリカ様。この者達はあるふぁてぃーびーとかいう撮影隊ですわ。なんでもわたくしの一日を密着取材したいというので、協力して差し上げていますの」
「密着、取材…ですか?」
──我々は、アルファTV撮影隊です。今日は一日ルクレツィアさんと行動を共にしますので、どうぞよろしくお願いします!
「まあ、そうなんですか。私はアミュリカ・シンディ。シンディ侯爵家の娘ですわ。ルクレツィア様とは懇意にさせて頂いています。学園ではルクレツィア様と一緒にいることが多いので、よろしくお願いします」
──アミュリカ・シンディさんですか。シンディ侯爵家と言えば、製糸業や紡績業などの繊維工業が盛んで有名なシンディ領を治める大貴族です! シンディ産のシルク製品やレースは貴族のご婦人方に絶大な人気を誇る事でも有名ですね! さすがモンマルティエ公爵令嬢ルクレツィアさんです。ご友人も半端ないです。そして美少女です! 波打つ赤毛に口元の黒子がまだ15歳という年齢にも関わらず、なんとも言えない色気を感じさせます。
では、アミュリカさんにとってルクレツィアさんとはどういう人なのかを聞いてみましょう。
「ルクレツィア様のことがお知りになりたいの? 私にとってのルクレツィア様は、そうですわね…。野に咲く孤高の青薔薇、かしら。私達の様な有象無象とは一線を画す美しさをお持ちであり、それはまさに高貴なる薔薇の如しですわ! ですが、美しい薔薇には棘があると言いますでしょう? それはまさにルクレツィア様を言い表した言葉です。その美しさに惹かれ、無闇に触れようとする無法者はその身に隠された棘で返り討ちにあうことでしょう!! クフフフフ…」
──そ、そうですか。ありがとうございました。……なんだか“崇拝”という言葉がリポーターの脳裏を過ぎったんですが、気のせいでしょう。
「あなた達! 何をコソコソと話していますの!?」
──あ、ルクレツィアさんに気付かれてしまいました。アミュリカさんと内緒話をしていたのが気に食わなかったようですね。アルベルトさんからのマル秘情報では、ルクレツィアさんは寂しがり屋だそうです。目の前で内緒話をされて、除け者にされたように感じたんでしょう。ルクレツィアさんの可愛らしい一面が垣間見えましたね!
「わたくしが寂しがり屋!? あのバカ兄、なんて事を言いますの!? 別にわたくしは目の前でコソコソ話すのは礼儀に反するのではないかと思ったに過ぎませんわ! 勘違いしないでちょうだい!」
──ふふふ。失礼しました。
「ル、ルクレツィア様が寂しがり屋…!? そんな、孤高の青薔薇が…。…で、でも、悪くはありませんわね……いえ、寧ろ良いですわ…。はぁはぁ、これがギャップ萌えというものなんですわね…」
──ア、アミュリカさんが、新たな境地を開拓したようですね。まあ、ストライクゾーンが広がる事は良い事です。
「ア、アミュリカ様? そろそろ校舎へ行きm「「「キャーーーー!!!!」」」
──な、なんですか!? このアイドルのコンサート会場のような黄色い悲鳴は!?
「はぁ…。ナジェク殿下がいらしたんですわ。まったく、朝から大声で叫ぶなど、品性の欠片もありませんわ。周りの迷惑も考えて欲しいものですわね」
──なんと、さっそく第二王子ナジェク殿下とエンカウントのチャンス到来です! きっとあの人集りの中心にいらっしゃるのがナジェク殿下でしょう。女生徒の人垣の向こうで頭二つ分ほど長身の人物が見えます。さすが女性人気が抜群のナジェク殿下です。しかし、あの中に突撃するのは難しそうですね…。
「おまえ達、殿下にお会いしたいんですの?」
──勿論です! 王子殿下にお会いできる機会なんてそうそう無いですからね!
「そうなの。わかりましたわ。…おまえ達! 邪魔ですわよ! そこをお退きなさい!!」
──ええぇぇぇ!? ル、ルクレツィアさんー!?
「道を開けなさい! わたくしの言うことが聞こえないの!!」
──な、なんとあっという間に人垣が割れて、ナジェク殿下まで一直線の道が開いてしまいました! なんとも強引な力技です! 周りの生徒達からは、不快、恐怖、嫉妬、羨望、好奇等、様々な視線がルクレツィアさんに集中しています! しかし、さすが公爵令嬢と言うべきか、ルクレツィアさんはそんな視線をものともしていません!! ちなみに、隣にいるリポーターの心臓はバクバクです!
「ほら、何を惚けてますの。さっさと行きますわよ。」
──い、行くって、どこにでしょう…? まさか…。
「何言ってますの? 殿下へ挨拶をしに行くんですわ。おまえ達が行きたいと言ったんじゃないの」
──や、やっぱりかーーー!!!! どうやらこの横暴は、我々の為に行われたようです…。息をするように自然に尊大な態度をとってしまうとは、悪役令嬢恐るべし。何故ルクレツィアさんが悪役令嬢として悪名を轟かせるに至ったか、その理由の一端が垣間見えた気がします。
「早くしなさい!!」
──は、はいぃぃぃ!! こうなったら、体当たりあるのみです! カメラさん、行きますよ!!
「ごきげんよう、殿下」
「…おはよう、ルクレツィア。君が朝から声を掛けてくるなんて珍しいな」
──わわっ、お茶の間の皆様! 我がアルファTV始まって以来の大事件です! 我が国の第二王子、ナジェク・クロード・ファーガロッド殿下が目の前に!!
太陽の如く輝くブロンドに、切れ長の目から覗く瞳は鮮やかなエメラルドグリーン。スっと通った鼻筋に形の良い唇。加えて手足の長い均整のとれた長身とは…! 彼はまさに神が創りたもうた奇跡でしょう!!
「そうですわね。いつも殿下の周りにはよく囀る小鳥達が飛び交っていますもの。わたくし、騒がしいのは苦手ですの」
「…なら何故今日は哀れな小鳥達を追い払ってまで声を掛けた」
「今日は殿下にお目にかけたい者達がいますの」
「ふーん。それはそこの者達の事か?」
「そうですわ。ほらおまえ達。自己紹介は自分達でなさいな」
──は、はいっ!! 只今ご紹介にあずかりました、我々アルファTVと申します! お目にかかれて光栄です! 今日はルクレツィアさんの一日をお茶の間の皆様にお届けするべく、密着取材をさせて頂くことになりました! どうぞよろしくお願いします!
「と、いうことですの。少々お騒がせするかもしれませんから、殿下には初めにお知らせしておこうかと思いまして」
「………」
「殿下?」
──な、何故でしょう? 温厚で人当たりが良いともっぱらの噂のナジェク殿下が我々を睨んでいるような気がしてならないのですが…。なにかやらかしてしまったんでしょうか?
「…ルクレツィアに…密着…」
──ヒェっ!? な、なんでしょうか? 急に悪寒が…。…え、カメラさん、手の震えが止まらない? だ、駄目ですよ! 気合いとカメラマン根性でなんとかしてください!
「…おまえ達、ルクレツィアに迷惑をかけるなよ(小声)」
──ヒィっ!? は、は、はいィィィ!! 肝に銘じますぅ!!
「キャ!? 急に叫んでなんなんですの? びっくりするじゃない!」
「ルクレツィア」
「あ、はい、なんですの、殿下?」
「…いや、なんでもない。話が終わりなら、俺はもう行く」
「…そうですの。お引き留めして申し訳ございませんでしたわ」
──き、貴重なお時間を割いて頂き、ありがとうございましたァァァ!!(90度)
……ふぅぅぅ。行きましたね…。我々、生きた心地がしませんでした。なんですかさっきの地を這う様な声は!? リポーターは、正直チビりそうになりました。…え、カメラさんチビった? …うん。学園の購買でパンツ売ってるといいですね…。あ、失礼しました。カメラさんのパンツ事情は置いておいて、ナジェク殿下、御歳16歳にして、なんという威圧感。これが王子の風格か!? お茶の間の皆様にもカメラを通して伝わったでしょうか? 何故我々が威圧されたのかは謎ですが、よく考えれば、これも貴重な体験でしたね! 温厚で知られるナジェク殿下の意外な素顔といったところでしょうか!!
「……行ってしまいましたわ…」
──あ、ルクレツィアさん。なんだか切なそうな顔をしています。殿下が行ってしまって寂しいんですね。殿下と話している間は終始すました口調でしたが、実は話せて嬉しかったんですね。さすがツンデレです。
「な、ななな、なにを言っていますの!? わたくしは別に、殿下の事なんてなんとも思っていませんわ!」
──顔を真っ赤にして言っても説得力がありませんねぇ(ニヤニヤ)。
「そうですわ! 寂しがるルクレツィア様はとても可愛らしいですが、ルクレツィア様は孤高の青薔薇なんです! 誰かのものになるなど、あってはならない事ですわ!」
──あ、アミュリカさん、いたんですね。いやすでにルクレツィアさんは殿下の婚約者なんですが…。
「婚約者だからなんだと言うんですか! いくら結婚という鎖で縛ろうと、ルクレツィアさまの崇高な魂までは縛り付けることなど出来ないと知りなさい!」
──うん。アミュリカさんはちょっと発言を控えましょうか。
「け、結婚…わたくしが殿下のものに…キャア! 何を言ってますのわたくしったら! わたくしとしたことが、みっともない姿をみせてしまうなんて…。おまえ達のせいですわよ!」
──ええー!! 我々が何をしたというのでしょうか。理不尽な言い掛かりをつけられてしまいました。
「ふんっ、おまえ達に構っていたら遅刻してしまいますわ。アミュリカ様、行きましょう」
「ええ、ルクレツィア様」
──ああ! 待ってくださいルクレツィアさん! って、はやっ!? 走っていないのにもうあんな所に! 早く追いかけなければ見失ってしまいます! もちろん、学園の方にはモンマルティエ家の力で撮影許可を頂いていますから、校舎内もバンバン撮影していきますよ! さあカメラさん、いざパドミア学園へ突撃です!
0
あなたにおすすめの小説
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
悪役令嬢、隠しキャラとこっそり婚約する
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢が隠しキャラに愛されるだけ。
ドゥニーズは違和感を感じていた。やがてその違和感から前世の記憶を取り戻す。思い出してからはフリーダムに生きるようになったドゥニーズ。彼女はその後、ある男の子と婚約をして…。
小説家になろう様でも投稿しています。
モブ転生とはこんなもの
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。
乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。
今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。
いったいどうしたらいいのかしら……。
現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
他サイトでも公開しています。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
ざまぁはハッピーエンドのエンディング後に
ララ
恋愛
私は由緒正しい公爵家に生まれたシルビア。
幼い頃に結ばれた婚約により時期王妃になることが確定している。
だからこそ王妃教育も精一杯受け、王妃にふさわしい振る舞いと能力を身につけた。
特に婚約者である王太子は少し?いやかなり頭が足りないのだ。
余計に私が頑張らなければならない。
王妃となり国を支える。
そんな確定した未来であったはずなのにある日突然破られた。
学園にピンク色の髪を持つ少女が現れたからだ。
なんとその子は自身をヒロイン?だとか言って婚約者のいるしかも王族である王太子に馴れ馴れしく接してきた。
何度かそれを諌めるも聞く耳を持たず挙句の果てには私がいじめてくるだなんだ言って王太子に泣きついた。
なんと王太子は彼女の言葉を全て鵜呑みにして私を悪女に仕立て上げ国外追放をいい渡す。
はぁ〜、一体誰の悪知恵なんだか?
まぁいいわ。
国外追放喜んでお受けいたします。
けれどどうかお忘れにならないでくださいな?
全ての責はあなたにあると言うことを。
後悔しても知りませんわよ。
そう言い残して私は毅然とした態度で、内心ルンルンとこの国を去る。
ふふっ、これからが楽しみだわ。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる