4 / 6
第4話 彼女と会話
しおりを挟む2年B組に、よく朝礼で倒れる女の子がいる。
佐伯知夏(さえき ちなつ)優等生で学年でも有名だが、目立つ子でもなくラナにとって存在しているくらいの同級生だった。
2年の初めの朝礼から、体育館に響き渡るバーンという音がして最初はみんな貧血だと思って気にもとめていない。
体育の授業で怪我をした子が出て、手のあいていたラナが保健室に絆創膏と消毒液を借りに行ったら、保健室の先生は、他のクラスに体調の悪い子が出て、呼び出されていた。
あまり保健室に来ないラナは、おろおろ保健室をあっちこっち絆創膏と消毒液を探していたら、カーテンのひいたベッドが開き、蒼白の佐伯知夏が顔をのぞかせて、ラナはぎょっとなった。
「絆創膏と消毒液なら、先生のテーブルの横の棚から2番目の応急ボックスにあるよ」
とても小さな弱々しい声だった。
「ありがとう。分からなくて・・・佐伯さん、大丈夫?」
棚から絆創膏と消毒液を出してラナが振り向くと、まだ佐伯さんがこちらを見ている。
間が悪くなり、ラナは思わず話しかけていた。
「いつも朝礼で倒れてるけど、その、貧血とか?」
しどろもどろになったが、佐伯さんは嫌な顔もせずに静かなに微笑んだ。
「違う、私、過換気症候群なの。毎週、うるさくて、ごめんね」
佐伯さんは、寂しそうに笑った。
「か、かんき?しょうこう、ぐん?」
メンタルの病気らしかったが、ラナは疎く分からない。
「過呼吸。過度のストレスで呼吸が出来なくなって、血中のアルカリ性が増えて、呼吸をし過ぎて、呼吸を吐けなくなる症状」
優等生とだけあって、スラスラと説明してくれたが、ラナにはよく分からなかった。
「何か、辛そうだね。呼吸なんて意識した事ないから・・・」
ラナがまごついて言うと、佐伯さんが笑った。
「カモメ君の言うとおりに、素直な子なんだね、田中さんて」
突然、カモメ君の話が出たので、ラナは驚いた。
「えっ?」
絆創膏と消毒液を取り落としそうになるラナを見て佐伯さんが少し笑う。
「学校にも友達にも内緒にしているけれど、1年生の頃から私達、付き合ってるの」
思わず、えっ!と保健室中に響く声になった。
「別に最初は、隠してたわけじゃないんだけどね、カモメ君は変わり者呼ばわりされ始めるし、私は朝礼で倒れて有名になるしで、内緒にする事にしたの。周りも親もよく思ってないし」
佐伯さんの「周りも」がラナを含めて、カモメ君を変わり者扱いする人間だと分かり、ラナは後ろめたくなった。
「何だか、話しに付き合わせてごめんね」
佐伯さんは、それだけ言うとラナを見送った。
無意識のうちに、ラナもカモメ君や毎朝朝礼で倒れる佐伯さんを違う目で見ている。
何だか、そんな自分が佐伯さんの消えそうな笑顔の前で嫌になった。
無意識に、人は自分には分からない、理解が出来ない人を排除しようとしている。
それも悪意なく。
0
あなたにおすすめの小説
隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが
akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。
毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。
そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。
数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。
平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、
幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。
笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。
気づけば心を奪われる――
幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり
鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。
でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!
竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」
俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。
彼女の名前は下野ルカ。
幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。
俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。
だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている!
堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる