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第3章:南海の決闘
第146話:キール
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「キールが……巫女……」
そういえばあのガストンというクランケン氏族の若者も言っていた。
― 巫女を連れて行くと ―
「そ、うちは代々巫女の家系でね、神獣が目を覚まさないようにするのが我が家のお役目なんだよ」
「そんなことが……」
ルークには返す言葉がなかった。
神獣と言えば一国をも滅ぼしかねない存在だ。
確かにそんな力を封印しようと思ったら生半な手段では達成できない
しかし……
「あ、勘違いしないでね、別に生贄になるとかそういうのじゃないから」
キールは笑って手を振った。
「それにあたしは巫女であることに不満を持ってるわけじゃないんだ。この島を守る大切な役目だしご先祖様が女神さまに仰せつかった名誉なことだからね。ただ……」
その顔がふっと陰る。
「その力ゆえに権力争いに巻き込まれているんだね」
キールが小さく頷く。
「巫女の家系に加えてあたしの祖父ちゃんはこの島最後の大族長だったんだ。おかげであたしを担ぎ出そうって奴が多くて」
「ひょっとしてエラントとの婚約というのも……」
「そ、参っちゃうよ」
キールは大きくため息をついた。
「親魔族派のリヴァスラ氏族と反対にクランケン氏族は親人族派が多くてさ、エラントはその主力なんだ。ただクランケン氏族には中立派も多いから前大族長の孫娘であるあたしと結婚することで村をまとめようとしてるってわけ」
「そういうことだったんだ」
「あたしの父さんは子供の時に亡くなっちゃって今は母さんと2人暮らしなんだ。だから次の族長候補なんて言われているエラントがあたしと結婚したいと言ったら母さんが喜んじゃってさ。あたしの意見も聞かずに勝手に婚約を決めたんだ」
キールは足元の小石を蹴り飛ばすと彼方に見える海に目をやった。
「エラントも悪い人じゃあないよ。若衆頭で人望もあるし統率力だってある。顔だって別に悪かないよ。島の娘にだって結構人気あるしね。でもさ、島民をまとめるために結婚するというのは何か違うと思うんだ」
ルークにはキールの気持が痛いほどわかった。
自分の意志の介在しないところで自分の人生を決められるくらい苦痛なことはない。
「それに今のあたしとエラントが結婚したって形だけのものにしかならない気がするんだ。どちらかがどちらかに負い目を持って結婚したってそれは本当の夫婦ではないと思う。そんな状態で一緒になったって島民がついていくわけないと思うんだ。夫婦ってのはもっとこう、お互いに信頼しあう関係だと思うんだ、あたしは」
キールがルークとアルマを見た。
「あんたたちみたいにね」
「そ、そうかな……」
「もう、キールったら、口が上手いんだから!」
照れくさそうに眼をそらすルークとは対照的にアルマはニコニコしながらキールの背中をバンバン叩いている。
「そういえばクランケン氏族は人族派ということだけどキールは違うの?話しぶりだと人族派のエラントとは意見が食い違ってるように聞こえたけど」
「あたしは言うなれば独立独歩派だね。この島は今までそうやってきたんだからこれからもそうするべきだと思ってる。クランケン氏族にもリヴァスラ氏族にもあたしと同意見の者はいるんだけど残念ながら少数派でね、影響力はほとんどないんだ」
キールは悔しそうに息を吐いた。
「魔族と人族が争うようになって魔石の需要が上がった、なんて喜んでる者もいるけどそんなの大間違いだよ!戦のせいで魔石は安く買い叩かれるし島への圧力も高まってる。こんな状態でどっちの側についたって待ってるのは大国に食い物にされる未来だけだよ!」
吐き捨てるように言うとキールは大きく深呼吸をし、ルークたちの方を向いた。
その顔にはいつもの笑顔が浮かんでいる。
「ごめんね、当事者でもないあんたたちに愚痴みたいなことを言っちゃって」
「いやそんなことは……これは僕らの国も関係してることだし、僕らにできることがあるなら……」
「いいんだ」
キールはフルフルと首を横に振った。
「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいよ。でもこれは島の問題、あたしたちが解決しなきゃいけない問題なんだ」
そういうと大きく伸びをすると少し先にあるわき道を指さした。
「そうだ、ここから見る海の景色が凄く良いんだよ!2人にも教えてあげる」
そういうとわき道にそれてずんずんと進んでいく。
「ちょ、ちょっとキール、待ってってば」
アルマとルークもその後に続いた。
「ここはあたしの秘密の場所でね、落ち込んだ時はよくここで海を見ていたんだ」
3人は木の枝を払いのけながら獣道のような細い道を進んでいった。
「うわっ本当にすごい景色!」
アルマが驚きの声を上げる。
森を抜けた先はちょっとした崖になっていて眼下にエメラルドグリーンに輝く海が広がっていた。
遥か彼方には南方領土も青くかすんで見える。
「ここからあたしたちの村が一望できるん……」
誇らしげに紹介していたキールの言葉が止まる。
「あそこにいるのは……子供たちじゃないか!そんな……魔獣に襲われている!」
そういえばあのガストンというクランケン氏族の若者も言っていた。
― 巫女を連れて行くと ―
「そ、うちは代々巫女の家系でね、神獣が目を覚まさないようにするのが我が家のお役目なんだよ」
「そんなことが……」
ルークには返す言葉がなかった。
神獣と言えば一国をも滅ぼしかねない存在だ。
確かにそんな力を封印しようと思ったら生半な手段では達成できない
しかし……
「あ、勘違いしないでね、別に生贄になるとかそういうのじゃないから」
キールは笑って手を振った。
「それにあたしは巫女であることに不満を持ってるわけじゃないんだ。この島を守る大切な役目だしご先祖様が女神さまに仰せつかった名誉なことだからね。ただ……」
その顔がふっと陰る。
「その力ゆえに権力争いに巻き込まれているんだね」
キールが小さく頷く。
「巫女の家系に加えてあたしの祖父ちゃんはこの島最後の大族長だったんだ。おかげであたしを担ぎ出そうって奴が多くて」
「ひょっとしてエラントとの婚約というのも……」
「そ、参っちゃうよ」
キールは大きくため息をついた。
「親魔族派のリヴァスラ氏族と反対にクランケン氏族は親人族派が多くてさ、エラントはその主力なんだ。ただクランケン氏族には中立派も多いから前大族長の孫娘であるあたしと結婚することで村をまとめようとしてるってわけ」
「そういうことだったんだ」
「あたしの父さんは子供の時に亡くなっちゃって今は母さんと2人暮らしなんだ。だから次の族長候補なんて言われているエラントがあたしと結婚したいと言ったら母さんが喜んじゃってさ。あたしの意見も聞かずに勝手に婚約を決めたんだ」
キールは足元の小石を蹴り飛ばすと彼方に見える海に目をやった。
「エラントも悪い人じゃあないよ。若衆頭で人望もあるし統率力だってある。顔だって別に悪かないよ。島の娘にだって結構人気あるしね。でもさ、島民をまとめるために結婚するというのは何か違うと思うんだ」
ルークにはキールの気持が痛いほどわかった。
自分の意志の介在しないところで自分の人生を決められるくらい苦痛なことはない。
「それに今のあたしとエラントが結婚したって形だけのものにしかならない気がするんだ。どちらかがどちらかに負い目を持って結婚したってそれは本当の夫婦ではないと思う。そんな状態で一緒になったって島民がついていくわけないと思うんだ。夫婦ってのはもっとこう、お互いに信頼しあう関係だと思うんだ、あたしは」
キールがルークとアルマを見た。
「あんたたちみたいにね」
「そ、そうかな……」
「もう、キールったら、口が上手いんだから!」
照れくさそうに眼をそらすルークとは対照的にアルマはニコニコしながらキールの背中をバンバン叩いている。
「そういえばクランケン氏族は人族派ということだけどキールは違うの?話しぶりだと人族派のエラントとは意見が食い違ってるように聞こえたけど」
「あたしは言うなれば独立独歩派だね。この島は今までそうやってきたんだからこれからもそうするべきだと思ってる。クランケン氏族にもリヴァスラ氏族にもあたしと同意見の者はいるんだけど残念ながら少数派でね、影響力はほとんどないんだ」
キールは悔しそうに息を吐いた。
「魔族と人族が争うようになって魔石の需要が上がった、なんて喜んでる者もいるけどそんなの大間違いだよ!戦のせいで魔石は安く買い叩かれるし島への圧力も高まってる。こんな状態でどっちの側についたって待ってるのは大国に食い物にされる未来だけだよ!」
吐き捨てるように言うとキールは大きく深呼吸をし、ルークたちの方を向いた。
その顔にはいつもの笑顔が浮かんでいる。
「ごめんね、当事者でもないあんたたちに愚痴みたいなことを言っちゃって」
「いやそんなことは……これは僕らの国も関係してることだし、僕らにできることがあるなら……」
「いいんだ」
キールはフルフルと首を横に振った。
「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいよ。でもこれは島の問題、あたしたちが解決しなきゃいけない問題なんだ」
そういうと大きく伸びをすると少し先にあるわき道を指さした。
「そうだ、ここから見る海の景色が凄く良いんだよ!2人にも教えてあげる」
そういうとわき道にそれてずんずんと進んでいく。
「ちょ、ちょっとキール、待ってってば」
アルマとルークもその後に続いた。
「ここはあたしの秘密の場所でね、落ち込んだ時はよくここで海を見ていたんだ」
3人は木の枝を払いのけながら獣道のような細い道を進んでいった。
「うわっ本当にすごい景色!」
アルマが驚きの声を上げる。
森を抜けた先はちょっとした崖になっていて眼下にエメラルドグリーンに輝く海が広がっていた。
遥か彼方には南方領土も青くかすんで見える。
「ここからあたしたちの村が一望できるん……」
誇らしげに紹介していたキールの言葉が止まる。
「あそこにいるのは……子供たちじゃないか!そんな……魔獣に襲われている!」
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