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第3章:南海の決闘
第158話:山賊討伐
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山賊の野営地に追いついたのは日が落ちようとした頃だった。
「オークが3名、ゴブリンが5名、ホブゴブリンが3名、リザードマンが4名、虎人が2名、魚人が2名、コボルトが3名、トロルが1名、それから……」
偵察から帰ってきたルークはそこで微かに言い淀んだ。
「……魔人が2名います」
「魔人だって!?」
ルークの報告に討伐隊の中にどよめきが巻き起こる。
魔族の中において魔人は特別な存在だ。
肉体的にも魔力的にも他の魔族とは比較にならない。
魔人が1人いるだけでその集団の戦闘力は数倍にもなりえる。
しかし何よりも謎なのは魔人が山賊にいるという事実だった。
一般的に魔人は魔界における特権階級であり、他の魔族を支配する立場だからだ。
これはいうなれば山賊に貴族が加わっているようなものだ。
討伐隊の中に動揺が広がるのも無理はなかった。
「どうやらただの山賊ではないようだな」
しかしその報告を受けてなおバルバッサは冷静だった。
「だが我々のやることは変わらぬ。目の前にいる山賊を討伐するだけだ。ルーク、報告を続けるのだ」
「はい、装備や体つきから言ってその魔人は魔法担当のようです。他の魔族はおそらく魔法を使うにしても補助魔法や攻撃魔法がメインになると思います。ただ……」
ルークはそこまで言うといったん口を切り、再び話を続けた。
「彼らの装備は何と言うか、良すぎます。まるで最新鋭の兵装でここにいる皆さんの装備と何ら遜色がありません。僕の見立てでは個々の戦力に差はほとんどないと言っていいと思います。つまり……言いにくいのですが、僕らはかなり不利な状況にあると思います」
ルークの言葉に兵士たちが黙りこくる。
普通であれば山賊の装備などごろつきに毛の生えた程度であり、完全に武装した兵士に太刀打ちできるものではない。
しかし装備が同等となると数が大きく影響することになる。
こちらの人数十数名に対して山賊は二十五名、この差は誰の目にも明らかだ。
静まり返る兵士の中でバルバッサがルークを見つめた。
「それで貴様は何が言いたいのだ。まさかおめおめ逃げ帰るべきだと進言するつもりなのか」
「まさか」
ルークはにやりと笑うと小枝を拾って足元に地図を描き示した。
「人数の不利は作戦で補えます。山賊の見張りは5名、それぞれがこの位置に配置されています」
そう言いながら大きな円の周囲に小さな円を5つ描く。
「この見張りの足元には既に攻撃魔法陣を仕掛けてあります。それを起動させると同時に攻め込みましょう。魔人1人は僕が対処するので閣下はもう1人をお願いします。見張りと魔人を倒したら相手の戦力は18名、このくらいの戦力差ならばなんとかなるはずです」
「そこまでやっていたのか」
流石にバルバッサもこれには驚いたようで微かに目を見開いた。
「閣下の隠密魔法のおかげです。凄いものですね、かなり近づいても魔人にすら気付かれませんでした」
「……貴様のことだ、私の魔法などなくても同じことをやってのけたのではないのか。だがまあいい」
バルバッサはそう言うと頭を振りながら立ち上がった。
「皆の者、先ほどルークの言ったとおりだ。戦力差は確かにあるが我々ならこの程度の差は覆せるものと確信している。今、この場でケリをつけるぞ」
その言葉を合図に兵士たちが一斉に立ち上がる。
「それでは行くぞ、完全非探知」
バルバッサの隠密魔法が部隊全体を包み込んだ。
「山賊は野営地全体を多重探知魔法で包んでいます。おそらくこの隠密魔法でも最深部の探知層は突破できないと思います。そこが作戦開始の基線となるでしょう」
「わかった、では行くぞ」
部隊はバルバッサとルークを先頭にして静かに森の中へ足を踏み入れていった。
◆
焚火の爆ぜる音と山賊の微かな話声が夜の静寂に漂っている。
「ここが探知されない限界のようです」
ルークたちが足を止めたのは山賊から30メートルほど離れた藪の中だった
山賊は食事をしている最中だったが、防具に身を固めて武器もすぐに取れる位置に置いている。
言葉も少なく、酒を飲んでいる様子もない。
2人の魔人は他の山賊たちから少し離れた場所にいた。
時折口に食べ物を運びながらも常に周囲に気を配っている。
おおよそ山賊らしからぬ振る舞いだった。
「確かにあれはただの山賊ではないな、酔っぱらっていればこちらもやりやすかったものを」
バルバッサが顔をしかめて歯噛みをする。
「仕方あるまい、一斉に攻撃して不意をつくぞ」
「待ってください、動きがあったようです」
ルークが指さした先で5名の魔族が立ち上がっていた。
「どうやら見張りの交代のようです。これは好都合ですね」
「どういうことだ?」
ルークの言葉にバルバッサが不思議そうな顔をする。
「これで見張りのそれぞれの場所に2名いることになります。つまりそれだけここが手薄になるということです」
ルークはそういうと小声で詠唱を始めた。
左手の各指先に青い光が灯る。
「僕が魔法陣を発動したタイミングで一斉に攻撃してください」
「よし、皆の者準備をしておけ」
バルバッサは肩にかけていた弓を取り出すと引き絞った。
鏃に魔力の光が灯っている。
討伐部隊が武器を手に身構えた。
「爆雷陣!」
ルークの魔法が発動した。
「オークが3名、ゴブリンが5名、ホブゴブリンが3名、リザードマンが4名、虎人が2名、魚人が2名、コボルトが3名、トロルが1名、それから……」
偵察から帰ってきたルークはそこで微かに言い淀んだ。
「……魔人が2名います」
「魔人だって!?」
ルークの報告に討伐隊の中にどよめきが巻き起こる。
魔族の中において魔人は特別な存在だ。
肉体的にも魔力的にも他の魔族とは比較にならない。
魔人が1人いるだけでその集団の戦闘力は数倍にもなりえる。
しかし何よりも謎なのは魔人が山賊にいるという事実だった。
一般的に魔人は魔界における特権階級であり、他の魔族を支配する立場だからだ。
これはいうなれば山賊に貴族が加わっているようなものだ。
討伐隊の中に動揺が広がるのも無理はなかった。
「どうやらただの山賊ではないようだな」
しかしその報告を受けてなおバルバッサは冷静だった。
「だが我々のやることは変わらぬ。目の前にいる山賊を討伐するだけだ。ルーク、報告を続けるのだ」
「はい、装備や体つきから言ってその魔人は魔法担当のようです。他の魔族はおそらく魔法を使うにしても補助魔法や攻撃魔法がメインになると思います。ただ……」
ルークはそこまで言うといったん口を切り、再び話を続けた。
「彼らの装備は何と言うか、良すぎます。まるで最新鋭の兵装でここにいる皆さんの装備と何ら遜色がありません。僕の見立てでは個々の戦力に差はほとんどないと言っていいと思います。つまり……言いにくいのですが、僕らはかなり不利な状況にあると思います」
ルークの言葉に兵士たちが黙りこくる。
普通であれば山賊の装備などごろつきに毛の生えた程度であり、完全に武装した兵士に太刀打ちできるものではない。
しかし装備が同等となると数が大きく影響することになる。
こちらの人数十数名に対して山賊は二十五名、この差は誰の目にも明らかだ。
静まり返る兵士の中でバルバッサがルークを見つめた。
「それで貴様は何が言いたいのだ。まさかおめおめ逃げ帰るべきだと進言するつもりなのか」
「まさか」
ルークはにやりと笑うと小枝を拾って足元に地図を描き示した。
「人数の不利は作戦で補えます。山賊の見張りは5名、それぞれがこの位置に配置されています」
そう言いながら大きな円の周囲に小さな円を5つ描く。
「この見張りの足元には既に攻撃魔法陣を仕掛けてあります。それを起動させると同時に攻め込みましょう。魔人1人は僕が対処するので閣下はもう1人をお願いします。見張りと魔人を倒したら相手の戦力は18名、このくらいの戦力差ならばなんとかなるはずです」
「そこまでやっていたのか」
流石にバルバッサもこれには驚いたようで微かに目を見開いた。
「閣下の隠密魔法のおかげです。凄いものですね、かなり近づいても魔人にすら気付かれませんでした」
「……貴様のことだ、私の魔法などなくても同じことをやってのけたのではないのか。だがまあいい」
バルバッサはそう言うと頭を振りながら立ち上がった。
「皆の者、先ほどルークの言ったとおりだ。戦力差は確かにあるが我々ならこの程度の差は覆せるものと確信している。今、この場でケリをつけるぞ」
その言葉を合図に兵士たちが一斉に立ち上がる。
「それでは行くぞ、完全非探知」
バルバッサの隠密魔法が部隊全体を包み込んだ。
「山賊は野営地全体を多重探知魔法で包んでいます。おそらくこの隠密魔法でも最深部の探知層は突破できないと思います。そこが作戦開始の基線となるでしょう」
「わかった、では行くぞ」
部隊はバルバッサとルークを先頭にして静かに森の中へ足を踏み入れていった。
◆
焚火の爆ぜる音と山賊の微かな話声が夜の静寂に漂っている。
「ここが探知されない限界のようです」
ルークたちが足を止めたのは山賊から30メートルほど離れた藪の中だった
山賊は食事をしている最中だったが、防具に身を固めて武器もすぐに取れる位置に置いている。
言葉も少なく、酒を飲んでいる様子もない。
2人の魔人は他の山賊たちから少し離れた場所にいた。
時折口に食べ物を運びながらも常に周囲に気を配っている。
おおよそ山賊らしからぬ振る舞いだった。
「確かにあれはただの山賊ではないな、酔っぱらっていればこちらもやりやすかったものを」
バルバッサが顔をしかめて歯噛みをする。
「仕方あるまい、一斉に攻撃して不意をつくぞ」
「待ってください、動きがあったようです」
ルークが指さした先で5名の魔族が立ち上がっていた。
「どうやら見張りの交代のようです。これは好都合ですね」
「どういうことだ?」
ルークの言葉にバルバッサが不思議そうな顔をする。
「これで見張りのそれぞれの場所に2名いることになります。つまりそれだけここが手薄になるということです」
ルークはそういうと小声で詠唱を始めた。
左手の各指先に青い光が灯る。
「僕が魔法陣を発動したタイミングで一斉に攻撃してください」
「よし、皆の者準備をしておけ」
バルバッサは肩にかけていた弓を取り出すと引き絞った。
鏃に魔力の光が灯っている。
討伐部隊が武器を手に身構えた。
「爆雷陣!」
ルークの魔法が発動した。
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