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第3章:南海の決闘

第159話:山賊討伐2

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 森の中から伸びた青白い光が空を貫く。

「!?」

 山賊が驚いて四方を向いた瞬間、バルバッサが矢を放った。

影矢シャドウアロー!」

 同時にルークの左手から黒い魔力の矢が放たれた。

 魔力を込めた矢と魔力の矢は2人の魔人に向かっていったが直前で見えない壁に弾かれた。

自動防壁オートディフェンスか!!」

 舌打ちをしながらバルバッサが飛び出す。

 ルークも飛び出した。

「かかれっ!」

 バルバッサの号令と共に討伐隊が藪から飛び出す。

纏わりつく夜霧スライムミスト

 バルバッサの言葉と共に山賊たちの周囲が霧に包まれた。

「な、なんだ!?」

「何も見えねえ!」

 突然の襲撃に慌てている間に討伐隊が距離を縮めていく。

「アルマ!」

「オーケー!」

 両手を腰の前に構えたアルマに向かってルークが大きく踏み出した。

 アルマがルークを大きく宙に投げ上げる。

凪払う風カームブレイカー!」

 突風が山賊たちにまとわりついていた霧を吹き飛ばす。

 その中心にいるのは2名の魔人だ。

 上空から落下しながらルークは左手の義手を剣に変えた。

 ルークの左目には魔人を包んでいる自動防壁が映っている。

 魔法攻撃はおろか物理攻撃すら弾く高度な魔法だ。


「でも……複数の攻撃には対応できないはず。火炎連弾ファイヤーブリッツ!」

 大きく払った左腕の軌跡に十数個の火球が生まれ、異なる軌道を描きながら魔人に向かって放たれた。

 その全てが自動防壁に防がれる。

 しかしいかな魔法防壁と言えども全ての方向を等しく守るのは困難だ。

 自動で起動する魔法なら尚のことで、攻撃を防ぐために現在攻撃されている方向へ処理を集中させることになる。


 そしてルークの目はその微かなほころびを解析し終わっていた。


「そこだ!」

 魔人の頭上に空いた小さな防壁の隙間、ルークはそこへアダマンスライムの剣を突き立てた。

 落下速度も加わって防壁が一瞬で切り裂かれる。

「な!?」

 驚いて見上げた時にはもう遅く、魔人は一刀のもとに両断されていた。

「もう1体は?」

 絶命したのを確認する間も惜しんで振り返ったルークの目の前にもう1体の魔人が立っていた。

 魔人がゆらりとルークの前に歩み出る。

「くっ!」

 とっさに剣を構えるルークだったが、その魔人はそのままぐらりと体を傾け、地面に倒れ伏した。

「そちらも片付いたようだな」

 その背後にバルバッサが立っていた。

 手にした剣に魔人特有の青い血がべっとりと付いている。

「流石ですね」

「そちらもな。それよりもまだ終わってはいないぞ。油断するな」

 お互いの背中を預けながら周囲をうかがう。

 山賊の野営地は既に戦場と化していた。

「グルオオオオオッ!」

 身長5メートルはあろうかというトロルが立ち木を引き抜いて振り回している。

「みんな下がれ!巻き込まれるぞ!」

「陣形を整えろ!3人1組で取り囲め!」

 討伐隊の指揮は乱れていないが暴風のようなトロルの攻撃には手が出ない様子だ。

「うりゃあああっ!」

 そんな中、アルマが崖に足をかけて飛び上がった。

 手にした大盾ごとトロルに突っ込んでいく。

 トロルの手にした立ち木を真っ二つにへし折って体ごと岩のような顎に体当たりした。

 頭をくらくらさせながらトロルが尻持ちをつく。

 そこへ討伐隊が殺到していった。

「今だ!みんなかかれ!」

 森の中にトロルの絶叫が響き渡った。

 戦況は既に決着しようとしていた。

 戦場となった野営地には山賊の骸が累々と横たわっている。

凍てつく息吹フリーズブレス

 バルバッサの言葉と共に野営地の横を流れていた川が一瞬で凍り付いた。

 川底に潜んでいた魚人は逃げる間もなく氷漬けとなった。

「どうやら全て片付いたようだな」

「危ない!」

 動かなくなった山賊を見渡したバルバッサが警戒を解いた瞬間、ルークがその前に飛び出した。

「なにっ!?」

 振り向いたバルバッサの目に飛び込んできたのは巨大な魔力の塊と、己を守るためにその前に身を晒したルークの姿だった。

「くううううううぅっ!!!」

 左手を前に突き出し、人の数倍はあろうかという魔力の塊を必死で抑え込む。

「うあああああっ!!!!」

 叫び声と共に魔力の塊を弾き飛ばす。

 それは巨木をなぎ倒しながら森の奥に消えていった。

「ク……クソ……あと一歩のところで……」

 バルバッサが倒したはずの魔人が地に倒れ伏しながら悔しさに顔をゆがめている。

 最期の力を振り絞ったのだろう、その魔人はそのまま顔を垂れると動かなくなった。


「……どうやら貴様に助けられたようだな」

「いえ、無事で何よりです」

 ルークに助け起こされたバルバッサは言葉少なに礼を述べると改めて辺りを確認した。

 もう動く山賊は1人もいない。

「今度こそ終わりのようだな」

「ええ、山賊は全滅したようです。息のある者は誰もいません」

 ルークの言葉に頷くとバルバッサは討伐隊に振り向いた。

「山賊は滅びた!我らの勝利だ!」

 討伐隊の勝鬨が森の中に響き渡った。

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