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第一章:レト・サアレ
【01:サアレ家の人々(1)】
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瞳を開けると見知らぬ天井が広がっていた、とか。
見知らぬ場所だった、だとか。
正直29年も生きていれば何度かあるわけで、そう驚く出来事でもない。
けれど、その部屋が…部屋が、推しBLゲームの主人公の部屋だったら?どうだろうか。
「…(マジか)」
盛大に飛び起きる、と言う選択肢一択だと俺は思う。
飛び起きて周囲を確認するなり、感動に浸るなり、後は十人十色だろう。
けれど、現状俺は寝かされているベットの上で体を動かせないでいた。
勿論、声も出せない。
感覚が完全にないわけではなく、機械に例えると同期中、又はプログラム更新中と言ったところだろう。
じわじわと、何かが浸透する様にゆっくりと馴染んでいくのを待っている。
「…(臨死体験した同僚も似た様な事を言っていた気がする)」
もしかしたら雷が直撃して意識不明のまま数年が経過しているのかもしれない。
俺が目覚めるかもと、姉ちゃんが推しBLゲームの主人公の部屋を再現したのかもしれない。
「いや…むにぃたろ」
(否…無理だろ)
妙に高い声が出た、と思った次には乾いていたのか喉が引き攣ってケホッケホッと咳き込む。
咳の反動で体も幾分動く様になっている事が確認できると、鳥の声が聞こえ始め、風に吹かれて緑の香りが室内に入ってきた。
上体を起こそうと腹筋に力を入れるが入らない。
固まっていたからなのか、やけに重たく動きにくい体を横たえ両腕で支えようとした、時だ。
視界に写った自分の手に違和感を覚えた。
小さい。
小さすぎる。
慌てて身体中をペタペタと触ってみたり、見える範囲で身体中を凝視した。
このサイズ感。
この柔らかさ…間違いない、幼児体型だ。
職業柄、不思議な出来事や不可解な事象には多少耐性がある。
中途組とは言え、伊達に五年間警察官をしているわけではない。
しかし、これは…。
流石に…。
願望が凄すぎないか?
「おちびーえふけえむにてんしぇいしまちたて?おりぇが?」
(推しBLゲームに転生しましたって?俺が?)
ベッドから降りる事は一先ず諦め、小さすぎる手でグーパーを繰り返しながら、俺は窓の外を眺めた。
近くの木に止まった黄色い鳥がチュンチュんと雀の様に鳴いている。
ファンタジーによく出てくる単調な黄色い鳥に、遠くに見えるヨーロッパ風の街並み。
そして何より、ゲームスチルで何度も見た主人公の部屋。
小物類は多少違うけれど、家具も内装も相違ない。
間違いなく俺は今、推し18禁BLゲーム『結んで開いて手折れるまで』の世界に存在している。
「まひか。こうなっちゃらおひかふをしゃいそくでひあわせにしゅる!」
(マジか。こうなったら推しCPを最速で幸せにする!)
目標が決まれば後は進むだけだ。
まず始めに主人公と知り合う方法を探し、て………。
いやいやいやいやいや。
え?俺、今…主人公の部屋にいるの?え!?は!?
無理無理無理無理。
え!?ちょっと待って、待って、鏡は!?鏡…ないいいいいい!!
俺は腐男子ってあって、自分の性的趣向はノーマルなんだって。
酔っ払って先輩に連れて行かれた風俗でアナルデビューしたけど、お店のお姉さん相手だからセーフなんだって。
先輩なんかアナル開発されまくりでお店のお姉さん相手にヒーヒー言ってるけど彼女いるんだからな!
「ひゃっ、ためた。けんひつをみりぉ、おりぇ」
(はっ、駄目だ。現実を見ろ、俺)
そんな先輩が出張先でホテル手配されてなくて他署の警部補(独身)の自宅に居候した話で妄想しまくった事を思い出すのは今じゃない。
煩悩を振り払え。
頭を無にするんだ。
真っ白に、真っ白に………姉ちゃんにだけは知られてはいけない。
そんな事を考えているとキィーっと言う独特の木製音が響いた。
「レト、ようやくお目覚めかい?レトが寝ている間に、可愛い弟が生まれたよ!」
無遠慮に室内へと入ってきたのは、赤茶色の髪に緑の瞳の優男だった。
これまた無遠慮に俺を抱き上げるとスリスリと頬擦りをしながらベッドへ腰を下ろす。
何処かで見た事がある様な気がしつつ、見かけによらずしっかりと筋肉がついた腕の中は気持ちが良く瞼が下がりそうになった。
「………」
「まだ寝ぼけてるのか?レト」
緑色の瞳が覗き込んでくる。
何度も『レト』と呼ばれている事から、どうやらこの体の名前は『レト』と言う様だ。
レト、レト………?
俺は優男の顔を見上げた。
「………」
「弟が生まれる日を楽しみにしていたのに。さて、弟の名前は呼べるかな?」
そうだ。
この顔は、ストーリーが進むごとに光の反射が消えていく主人公の両親の写真スチルで見た、父親の方だ!
そして『レト』は、主人公の3歳年上の兄。
「………」
「レト?あんなにいっぱい練習しただろう?呼んでごらん」
主人公の名前は、ロレール。
ロレール・サアレ。
精霊王と先代教皇との混血。
レト・サアレの弟。
「………ロレール」
「そうだよ!その調子だ。それじゃ挨拶に行こうか。僕に似て可愛いぞ」
勢いよく立ち上がった優男の正体は、神殿最高権力者であり類い稀ない神聖力の持ち主であった先代教皇。
そして、これから連れられて行く部屋には母親である精霊王と、生まれたばかりの主人公…ロレールが待っている。
見知らぬ場所だった、だとか。
正直29年も生きていれば何度かあるわけで、そう驚く出来事でもない。
けれど、その部屋が…部屋が、推しBLゲームの主人公の部屋だったら?どうだろうか。
「…(マジか)」
盛大に飛び起きる、と言う選択肢一択だと俺は思う。
飛び起きて周囲を確認するなり、感動に浸るなり、後は十人十色だろう。
けれど、現状俺は寝かされているベットの上で体を動かせないでいた。
勿論、声も出せない。
感覚が完全にないわけではなく、機械に例えると同期中、又はプログラム更新中と言ったところだろう。
じわじわと、何かが浸透する様にゆっくりと馴染んでいくのを待っている。
「…(臨死体験した同僚も似た様な事を言っていた気がする)」
もしかしたら雷が直撃して意識不明のまま数年が経過しているのかもしれない。
俺が目覚めるかもと、姉ちゃんが推しBLゲームの主人公の部屋を再現したのかもしれない。
「いや…むにぃたろ」
(否…無理だろ)
妙に高い声が出た、と思った次には乾いていたのか喉が引き攣ってケホッケホッと咳き込む。
咳の反動で体も幾分動く様になっている事が確認できると、鳥の声が聞こえ始め、風に吹かれて緑の香りが室内に入ってきた。
上体を起こそうと腹筋に力を入れるが入らない。
固まっていたからなのか、やけに重たく動きにくい体を横たえ両腕で支えようとした、時だ。
視界に写った自分の手に違和感を覚えた。
小さい。
小さすぎる。
慌てて身体中をペタペタと触ってみたり、見える範囲で身体中を凝視した。
このサイズ感。
この柔らかさ…間違いない、幼児体型だ。
職業柄、不思議な出来事や不可解な事象には多少耐性がある。
中途組とは言え、伊達に五年間警察官をしているわけではない。
しかし、これは…。
流石に…。
願望が凄すぎないか?
「おちびーえふけえむにてんしぇいしまちたて?おりぇが?」
(推しBLゲームに転生しましたって?俺が?)
ベッドから降りる事は一先ず諦め、小さすぎる手でグーパーを繰り返しながら、俺は窓の外を眺めた。
近くの木に止まった黄色い鳥がチュンチュんと雀の様に鳴いている。
ファンタジーによく出てくる単調な黄色い鳥に、遠くに見えるヨーロッパ風の街並み。
そして何より、ゲームスチルで何度も見た主人公の部屋。
小物類は多少違うけれど、家具も内装も相違ない。
間違いなく俺は今、推し18禁BLゲーム『結んで開いて手折れるまで』の世界に存在している。
「まひか。こうなっちゃらおひかふをしゃいそくでひあわせにしゅる!」
(マジか。こうなったら推しCPを最速で幸せにする!)
目標が決まれば後は進むだけだ。
まず始めに主人公と知り合う方法を探し、て………。
いやいやいやいやいや。
え?俺、今…主人公の部屋にいるの?え!?は!?
無理無理無理無理。
え!?ちょっと待って、待って、鏡は!?鏡…ないいいいいい!!
俺は腐男子ってあって、自分の性的趣向はノーマルなんだって。
酔っ払って先輩に連れて行かれた風俗でアナルデビューしたけど、お店のお姉さん相手だからセーフなんだって。
先輩なんかアナル開発されまくりでお店のお姉さん相手にヒーヒー言ってるけど彼女いるんだからな!
「ひゃっ、ためた。けんひつをみりぉ、おりぇ」
(はっ、駄目だ。現実を見ろ、俺)
そんな先輩が出張先でホテル手配されてなくて他署の警部補(独身)の自宅に居候した話で妄想しまくった事を思い出すのは今じゃない。
煩悩を振り払え。
頭を無にするんだ。
真っ白に、真っ白に………姉ちゃんにだけは知られてはいけない。
そんな事を考えているとキィーっと言う独特の木製音が響いた。
「レト、ようやくお目覚めかい?レトが寝ている間に、可愛い弟が生まれたよ!」
無遠慮に室内へと入ってきたのは、赤茶色の髪に緑の瞳の優男だった。
これまた無遠慮に俺を抱き上げるとスリスリと頬擦りをしながらベッドへ腰を下ろす。
何処かで見た事がある様な気がしつつ、見かけによらずしっかりと筋肉がついた腕の中は気持ちが良く瞼が下がりそうになった。
「………」
「まだ寝ぼけてるのか?レト」
緑色の瞳が覗き込んでくる。
何度も『レト』と呼ばれている事から、どうやらこの体の名前は『レト』と言う様だ。
レト、レト………?
俺は優男の顔を見上げた。
「………」
「弟が生まれる日を楽しみにしていたのに。さて、弟の名前は呼べるかな?」
そうだ。
この顔は、ストーリーが進むごとに光の反射が消えていく主人公の両親の写真スチルで見た、父親の方だ!
そして『レト』は、主人公の3歳年上の兄。
「………」
「レト?あんなにいっぱい練習しただろう?呼んでごらん」
主人公の名前は、ロレール。
ロレール・サアレ。
精霊王と先代教皇との混血。
レト・サアレの弟。
「………ロレール」
「そうだよ!その調子だ。それじゃ挨拶に行こうか。僕に似て可愛いぞ」
勢いよく立ち上がった優男の正体は、神殿最高権力者であり類い稀ない神聖力の持ち主であった先代教皇。
そして、これから連れられて行く部屋には母親である精霊王と、生まれたばかりの主人公…ロレールが待っている。
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