全て切り捨てて自分の幸せを掴みます~都合良い駒として生きるのはやめてやる~

かずきりり

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 え? えぇ?? ……え……?
 頭が追い付かず疑問符だけが駆け巡っている中、隼人はブティックの方へと足を向けたが、私が微動だにしなかった為か振り返って首を傾げてきた。

「入らないの?」
「だってここ……高い!」

 誓って言う。
 資産はあれど、私は一般的な家庭と同じような金銭感覚で暮らしてきているのだ。
 お金がないという事はなかったけれど、慎ましくしていたし、服だって安いものでしかない。
 食品だってスーパーで買ってきていたし、ブランド物だって持っていないのに、いきなりこんな所へ連れてこられても、身の丈に合っていない。
 というか、敷居が高い!
 身の程知らずに思える!!

「プレゼントしたかったんだけど……」
「庶民的な店でお願いします!」

 罰の悪そうに言う隼人だが、そこはハッキリとお願いをした。
 もはや、そんな高い服をプレゼントしてもらったとしても、服に着られるだけで、一生クローゼットの奥深くで飾られたままになるのが目に見える。
 使い道がないものの金だけはかかっている重いプレゼントなんて、貰っても罪悪感が募るだけ。
 否、迷惑でしかないかもしれない。
 そんなもの、貰った事がないから分からないけれど。

「ごめんなさい」
「いや、梨花が謝る事はないよ。良いとこ見せたくて、梨花の気持ちも考えず背伸びしすぎたかな……」

 笑って私の方へと近づき、そっと頭を撫でてくれる隼人。
 これが大地なら、私の意見よりも自分の意見だと、適当に言いくるめるなりして連れて行かれていただろう。いや、その前にこんなところへ来たとしても、自分の物しか買わないだろうけれど。
 ふと笑いが込み上げる。
 こんなちょっとした事でも差があるというのに、以前の私はどこまで気が付けなかったのかと。節穴の目にも程がある。

「梨花は普段、どこで服を買って……あ」

 優しい気遣い。
 私に寄り添ってくれようとする隼人だったが、何かに気が付いたようで、視線が私の胸元に向けられた。
 そういえば、私は見事にコーヒーのシミをつけていたのだ。
 今更ながらシミ抜きは間に合わないだろう。

「そのままというのは……ちょっと待ってて」

 隼人は足早にブティックへと入って行ったかと思えば、すぐにストールを持って戻ってきた。

「これだけごめん」

 そう言って、隼人はコーヒーのシミを隠すようにストールをかけた。
 高いプレゼントだけれど、嫌ではない。
 今、必要なもので、とっても親切な心遣い。私を思っての事だというのが、しっかりと伝わってくるからだ。
 私は値段の事など忘れて、離したくないと言わんばかりにストールを強く握りしめた。
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