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思えば、大地と美和は私の事などお構いなしだった。
大地と二人だったとしても、大地は自分の意見のみで、私の意見を聞いてくれる事なんてない。
私が「疲れた」とでも言おうものなら「まだ我慢できるでしょ」と返してくるのだ。
挙句の果てには「俺の為」と言って何でも押し通してくる。
それを「大地の為なら」と喜んで聞いていたのは他ならぬ私なのだが、あの頃はそれで幸せだと思っていたけれど、こうして他を知るとそうではなかったと痛感する。
自己犠牲なんて、ただの自己満足だというのは分かるが、イコールとして幸福というわけではない。
それはそれで幸せだと感じる人も居るだろうし、昔の私がそう思っていたかもしれないが、今は全くもって思わないのだ。
「どうかした?」
「ううん! なんでもない!」
所作も綺麗で、店員に対しても礼儀正しく、一見落ち着いた雰囲気を纏っている隼人をボーっと見ていた事に気が付かれ、私は顔を赤くして俯く。
いけない事だと分かっていても、大地と隼人を比べてしまう。
そして、比べれば比べる程に違うという事が分かってしまうのだ。
大地は店員にも横柄な所があったし、所作も汚い。
ちゃんと躾られたのかと思ってしまう程で、今更ながら、どこを好きになったのか。どうして好きだと勘違いしてしまったのか自分を疑う程でしかない。
(あんな最後を迎えて、こうしてやり直せられているから思う事か)
そして私は、自身の中で芽生えた感情に戸惑う。
「そろそろ送ろうか?」
「あ、うん」
残念な気持ちが芽生えるけれど、買い物と食事を終え、暗くなる前に送ってくれるというのは親切だ。
最初が最初だったから今更かもしれないけれど、私は明日も大学があるのだ。
(……親が決めた相手……)
隼人の気持ちはどうなのだろうと、政略的な意味を考えると胸がチクリと痛む。
もはや無視できない程に揺れ動いている気持ちに対し、寂しさを覚える程だった。
翌朝、隼人の車で大学まで着いた私に、照れた顔をして隼人は口を開く。
「似合うよ」
「うん、いってきます!」
昨日、最初に隼人が選んでくれた服を着て、私は元気に声を出した。
隼人が選んで買ってくれた服というだけで、何故だか隼人に守られて、元気を分けてもらっていると思える程なのだ。
恋心とは本当に単純だ。否、私が単純なだけかもしれない。
私は浮足立って中庭を通り教室へと向かう途中で、いきなり頭から衝撃が走る。
「……え?」
気が付けばびっしょりと濡れていて、クスクスと笑う声が頭上から聞こえてきた。
大地と二人だったとしても、大地は自分の意見のみで、私の意見を聞いてくれる事なんてない。
私が「疲れた」とでも言おうものなら「まだ我慢できるでしょ」と返してくるのだ。
挙句の果てには「俺の為」と言って何でも押し通してくる。
それを「大地の為なら」と喜んで聞いていたのは他ならぬ私なのだが、あの頃はそれで幸せだと思っていたけれど、こうして他を知るとそうではなかったと痛感する。
自己犠牲なんて、ただの自己満足だというのは分かるが、イコールとして幸福というわけではない。
それはそれで幸せだと感じる人も居るだろうし、昔の私がそう思っていたかもしれないが、今は全くもって思わないのだ。
「どうかした?」
「ううん! なんでもない!」
所作も綺麗で、店員に対しても礼儀正しく、一見落ち着いた雰囲気を纏っている隼人をボーっと見ていた事に気が付かれ、私は顔を赤くして俯く。
いけない事だと分かっていても、大地と隼人を比べてしまう。
そして、比べれば比べる程に違うという事が分かってしまうのだ。
大地は店員にも横柄な所があったし、所作も汚い。
ちゃんと躾られたのかと思ってしまう程で、今更ながら、どこを好きになったのか。どうして好きだと勘違いしてしまったのか自分を疑う程でしかない。
(あんな最後を迎えて、こうしてやり直せられているから思う事か)
そして私は、自身の中で芽生えた感情に戸惑う。
「そろそろ送ろうか?」
「あ、うん」
残念な気持ちが芽生えるけれど、買い物と食事を終え、暗くなる前に送ってくれるというのは親切だ。
最初が最初だったから今更かもしれないけれど、私は明日も大学があるのだ。
(……親が決めた相手……)
隼人の気持ちはどうなのだろうと、政略的な意味を考えると胸がチクリと痛む。
もはや無視できない程に揺れ動いている気持ちに対し、寂しさを覚える程だった。
翌朝、隼人の車で大学まで着いた私に、照れた顔をして隼人は口を開く。
「似合うよ」
「うん、いってきます!」
昨日、最初に隼人が選んでくれた服を着て、私は元気に声を出した。
隼人が選んで買ってくれた服というだけで、何故だか隼人に守られて、元気を分けてもらっていると思える程なのだ。
恋心とは本当に単純だ。否、私が単純なだけかもしれない。
私は浮足立って中庭を通り教室へと向かう途中で、いきなり頭から衝撃が走る。
「……え?」
気が付けばびっしょりと濡れていて、クスクスと笑う声が頭上から聞こえてきた。
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