【完結】王妃を廃した、その後は……

かずきりり

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「お姉さま……いくら私が憎いからと言っても、ホセ様まで惑わすのはいけません! お願い! 私達の愛を返して下さい!」
「パウロを害するのは止めろ! 父上が死んで……ナバーロ侯爵も死んで……やっとお前を追い出せるんだ。親が決めた政略結婚のせいで、どれだけ俺達が苦しんできた事か!」

 私の視線を受けて、二人がかりで責め立てる。
 一ヵ月前に国王陛下が不慮の事故で亡くなり、ホセ様が国王となられたけれど……前国王陛下の言葉をなかった事にするなど横暴だ。
 言い換えれば、死ぬことを望んでいたようにも捉えられかねないのに。

「……国王陛下とお父様が決めた事……。亡くなったからと言って、反故にするなど……」
「うるさい! パウラはお前と違って、私の子を宿したのだ! お前のような役立たずで悪辣な女は、とっとと出て行け!」

 その言葉を聞いて目を見開いた私を、ホセ様は馬鹿にしたような表情で見下ろしてきた。

「パウラのお腹の中には私の子が宿っている。」
「嘘……ホセ様……嘘でしょう!?」

 ホセ様は足元に縋る私の手を踏みつけ、親の仇を見るような冷たい瞳で睨みつけてきた。
 淑女たるもの感情を表に出してはいけないと言われているけれど、私の瞳からは次から次へと涙が零れ落ちてくる。
 もはやそれは、心が痛むのか、それとも手の痛みなのか分からない程だ。

「私達の愛を邪魔したお前など、身一つで出ていけ」

 ホセ様の冷たい言葉が脳内に響く。
 子どもが出来た……ホセ様の子どもが……パウラのお腹に……。
 次から次へと溢れ出る涙など関係なく、ホセ様は私の腕を引っ張って無理矢理引きずるように部屋から連れ出すと、そのまま城外へと放り出したのだ。
 もうすぐ春が来るとはいえ、まだ肌寒い夜に上着一枚与える事なく、言葉通り身一つで追い出されたのだ。
 涙は枯れる事なく、次から次へと頬を流れる。
 愛されたかった……けれど私は、その愛をパウラから勝ち取る事が出来なかった。

「私は……少しも愛してもらえなかったのかしら……」

 力なく呟くけれど、その答えは歴然だ。
 婚姻式の時、既に宣言されていたのだから。
 形だけの王太子妃。
 愛されない王太子妃。
 それでも……貴方の為だけに尽力していた。
 王太子妃として……国の為にと……。

「っ!」

 フラリと立ち上がれば、足首に痛みが走る。
 きっと突き飛ばされた時に捻ったのだろう。

(もう……疲れた……)

 私は痛む足を引きずりながら、ホセ様との思い出が宿る海へと向かった。
 ……私にはもう、行く場所なんて何処にもないのだから……ならばせめて、最後は……貴方と出会った場所へと……。
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