【完結】王妃を廃した、その後は……

かずきりり

文字の大きさ
22 / 40

22

しおりを挟む
「あぁ、分かっている。帰ってくるまで、ここで待たせてくれ」

 王太子殿下にそう言われて、どこの執事が否と言えるのか。
 侯爵が不在な事も全て知っていて、帰ってきて会うまで帰らないという事だと理解した執事は、慌てて応接室へと案内すると、侯爵夫人へすぐに報告をした。
 侯爵が不在な今、侯爵夫人がこの家を取り仕切らねばならぬのだ。

「ようこそお越し下さいました。ホセ王太子殿下」
「先ぶれも出さずにすまなかったな、ナバーロ侯爵夫人」

 侯爵夫人は丁寧に頭を下げ、応接室で待つホセへと挨拶をする。
 ホセは先ぶれなんて出す気もなかったが、対外的に謝罪の言葉を口にした。
 大体、先ぶれなんて出してしまえば、王城を抜け出す事なんて出来るわけがない。これは突発的にホセが行動して抜け出したに過ぎないのだ。

「……そちらは?」
「ラウラの妹なのです。暇つぶしの話し相手にどうかと思いまして……ラウラ共々、パウラもどうかよろしくお願いします」

 侯爵夫人の隣に居る女の子を見つけて、ホセが訊ねた。
 そうだった、確か妹が一人居たなとラウラに関する報告書を思い出す。
 侯爵が何時帰ってくるかも分からないからこそ、侯爵夫人なりの気遣いだろうか。侯爵夫人はパウラの背を押し、ホセに対しての挨拶を促していた。

「パウラ・ナバーロと申します。ホセ王太子殿下にお会い出来て光栄ですわ」

 パウラは満面の笑みで、少々拙いお辞儀をした。
 婚約者の妹相手にあまり無碍な事は出来ないなと思い、挨拶を返そうとしたホセは、優しそうに見える笑顔を見せ……そして固まった。

「それ……そのペンダントは!?」

 ラウラの胸元で光るペンダント。
 見間違えるわけがない。それはとても大切なペンダントで、ホセが初恋の子に渡したものだ。
 そう、大事な婚約者に。将来の王太子妃、つまり自分の妻となるべき相手に渡したもの。

「どうして、それを君が……?」
「あ……」
「これは……その……」

 パウラは急いでペンダントを隠すように握りしめ、侯爵夫人はパウラを自分の背に隠すよう移動した。

「……どういう事だ……?」
「……」

 俯き、言葉を濁す侯爵夫人は、視線を泳がせている。
 侯爵夫人とは思えない程、やましい事がありますと言った、態度や表情を出している。

「……これ……は……その……」

 パウラもペンダントを隠して、侯爵夫人の後ろに隠れながら言葉を濁す。
 けれど、顔だけはホセに向けて覗かせていた。
 涙で潤ませた瞳は熱を持ち、何かを訴えるようにホセへと向けられている。

 ――まさか……?

 ペンダントは再会の証。
 初恋の相手が、すぐにわかるように……。
 それが今、ここにある。
 つまり、それが意味するのは……?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虐げられたアンネマリーは逆転勝利する ~ 罪には罰を

柚屋志宇
恋愛
侯爵令嬢だったアンネマリーは、母の死後、後妻の命令で屋根裏部屋に押し込められ使用人より酷い生活をすることになった。 みすぼらしくなったアンネマリーは頼りにしていた婚約者クリストフに婚約破棄を宣言され、義妹イルザに婚約者までも奪われて絶望する。 虐げられ何もかも奪われたアンネマリーだが屋敷を脱出して立場を逆転させる。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

[完結]だってあなたが望んだことでしょう?

青空一夏
恋愛
マールバラ王国には王家の血をひくオルグレーン公爵家の二人の姉妹がいる。幼いころから、妹マデリーンは姉アンジェリーナのドレスにわざとジュースをこぼして汚したり、意地悪をされたと嘘をついて両親に小言を言わせて楽しんでいた。 アンジェリーナの生真面目な性格をけなし、勤勉で努力家な姉を本の虫とからかう。妹は金髪碧眼の愛らしい容姿。天使のような無邪気な微笑みで親を味方につけるのが得意だった。姉は栗色の髪と緑の瞳で一見すると妹よりは派手ではないが清楚で繊細な美しさをもち、知性あふれる美貌だ。 やがて、マールバラ王国の王太子妃に二人が候補にあがり、天使のような愛らしい自分がふさわしいと、妹は自分がなると主張。しかし、膨大な王太子妃教育に我慢ができず、姉に代わってと頼むのだがーー

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

殿下、それは私の妹です~間違えたと言われても困ります~

由良
恋愛
「じゃあ、右で」 その一言で、オリヴィアは第一王子アルベルトの婚約者に決まった。 おざなりな決め方とは裏腹に、アルベルトはよき婚約者として振舞っていた。 彼女の双子の妹とベッドを共にしているのを目撃されるまでは。

とある令嬢の優雅な別れ方 〜婚約破棄されたので、笑顔で地獄へお送りいたします〜

入多麗夜
恋愛
【完結まで執筆済!】 社交界を賑わせた婚約披露の茶会。 令嬢セリーヌ・リュミエールは、婚約者から突きつけられる。 「真実の愛を見つけたんだ」 それは、信じた誠実も、築いてきた未来も踏みにじる裏切りだった。だが、彼女は微笑んだ。 愛よりも冷たく、そして美しく。 笑顔で地獄へお送りいたします――

好きでした、婚約破棄を受け入れます

たぬきち25番
恋愛
シャルロッテ子爵令嬢には、幼い頃から愛し合っている婚約者がいた。優しくて自分を大切にしてくれる婚約者のハンス。彼と結婚できる幸せな未来を、心待ちにして努力していた。ところがそんな未来に暗雲が立ち込める。永遠の愛を信じて、傷つき、涙するシャルロッテの運命はいかに……? ※十章を改稿しました。エンディングが変わりました。

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

処理中です...