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「戻りました!」
急ぎ戻って、王太子殿下の寝室へと駆け込むと同時に、師匠は声を上げた。
私はお決まりの猫姿だ。流石に王太子殿下の寝室に、賢者と一緒に研究していただけだと思われる女性が入る事は出来ない。
猫のイルは、もう完全に顔パスだ。
「そんな……」
賢者の声に側近や従者は顔を青くして、回復魔法をかけ続けていた人達は膝から崩れ落ちた。
皆の様子を見て、嫌な予感しかしない。
師匠の腕から下り、ベッドへ上がると、ゆっくりと王太子殿下へ近づいた。その顔を見れば……まだ、呪いが解けていない事が分かる。
「くそっ」
師匠が悔しそうな声で吐き捨てる。
……どうして……どうして!?
「どうして!?」
私は叫んで、王太子殿下の胸へと飛び乗り、全力で回復魔法を送る。
「イル!?」
師匠は驚きの声をあげて私の名前を呼んでいるのが、どこか遠くのように思える。
皆が驚愕の表情をし、言葉を無くしているのも、ただの風景にしか見えず、私はただ必死に王太子殿下へ魔法を送るだけだ。
猫馬鹿で、とてつもなく甘く、優しい。
全てを従者に任せても良いのに、それでも自分の手でやろうとする。
触れる手はいつも優しくて、殴る事や怒鳴る事もない。壊れ物を扱うかのように丁寧で……。
――王太子殿下は、誰の見ていない所でも優しい、裏のない人間だ。
仕事だって手を抜かない。私を撫でながらでも、真剣に書類と向き合い、指示を出す。
厳しい事を言う時もあるけれど、それは相手の為になる事だと分かる。
笑顔を崩さず、丁寧な姿勢で相手と接し、人を傷つけないようにしているし、権力で陥れる事もない。
――私は、この人を無くしたくはない。
必死に回復魔法をかけ続けていれば、力がごっそりと無くなり、尽きるような感覚がする……けれど、まだ!
……例え、私の命と引き換えにしてでも……!
「イル! やめろ!」
師匠の声がうっすらと聞こえた……けれど、止めない。
力の全てを王太子殿下へと注ごうとすれば、他にかかっていた魔力配給までもが奪われていく感覚がした。
意識が……うっすらとしてくる。脳がボーッとする。目を開けてもいられない。
けれど、止めない。
「イル!!」
「……っ!――――っ!!」
意識が途切れる瞬間、師匠の声と、誰か他の声も聞こえた気がする。
倒れる瞬間、私の身体は温かいものに包まれたような感覚で……それはとても安心できるものだと本能で理解していた。
何とか薄っすら瞳を開ければ、そこにあったのはサファイアのような青で……私の意識は、そこで途切れた。
急ぎ戻って、王太子殿下の寝室へと駆け込むと同時に、師匠は声を上げた。
私はお決まりの猫姿だ。流石に王太子殿下の寝室に、賢者と一緒に研究していただけだと思われる女性が入る事は出来ない。
猫のイルは、もう完全に顔パスだ。
「そんな……」
賢者の声に側近や従者は顔を青くして、回復魔法をかけ続けていた人達は膝から崩れ落ちた。
皆の様子を見て、嫌な予感しかしない。
師匠の腕から下り、ベッドへ上がると、ゆっくりと王太子殿下へ近づいた。その顔を見れば……まだ、呪いが解けていない事が分かる。
「くそっ」
師匠が悔しそうな声で吐き捨てる。
……どうして……どうして!?
「どうして!?」
私は叫んで、王太子殿下の胸へと飛び乗り、全力で回復魔法を送る。
「イル!?」
師匠は驚きの声をあげて私の名前を呼んでいるのが、どこか遠くのように思える。
皆が驚愕の表情をし、言葉を無くしているのも、ただの風景にしか見えず、私はただ必死に王太子殿下へ魔法を送るだけだ。
猫馬鹿で、とてつもなく甘く、優しい。
全てを従者に任せても良いのに、それでも自分の手でやろうとする。
触れる手はいつも優しくて、殴る事や怒鳴る事もない。壊れ物を扱うかのように丁寧で……。
――王太子殿下は、誰の見ていない所でも優しい、裏のない人間だ。
仕事だって手を抜かない。私を撫でながらでも、真剣に書類と向き合い、指示を出す。
厳しい事を言う時もあるけれど、それは相手の為になる事だと分かる。
笑顔を崩さず、丁寧な姿勢で相手と接し、人を傷つけないようにしているし、権力で陥れる事もない。
――私は、この人を無くしたくはない。
必死に回復魔法をかけ続けていれば、力がごっそりと無くなり、尽きるような感覚がする……けれど、まだ!
……例え、私の命と引き換えにしてでも……!
「イル! やめろ!」
師匠の声がうっすらと聞こえた……けれど、止めない。
力の全てを王太子殿下へと注ごうとすれば、他にかかっていた魔力配給までもが奪われていく感覚がした。
意識が……うっすらとしてくる。脳がボーッとする。目を開けてもいられない。
けれど、止めない。
「イル!!」
「……っ!――――っ!!」
意識が途切れる瞬間、師匠の声と、誰か他の声も聞こえた気がする。
倒れる瞬間、私の身体は温かいものに包まれたような感覚で……それはとても安心できるものだと本能で理解していた。
何とか薄っすら瞳を開ければ、そこにあったのはサファイアのような青で……私の意識は、そこで途切れた。
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